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1話

「お前。大丈夫か?」

 他の訓練生と比べて周回遅れでグラウンドを走っているテリム。並走する教官は走る彼の隣を歩いて声をかけた。

 教官から心配されて声をかけられた。これはこの場所では叱咤をされるよりも厳しい恥だ。

 ここは戦争で両親を失った者のあつまる訓練場。

 孤児を引き取り、一般の教育を受けさせて救済をする……

 などという建前で集められた戦争孤児達を兵士へと教育する場所だ。

 両親を失ってから十年後。現在十五歳のテリムはここでの訓練についていけない虚弱な体だった。

 他の者が遅れれば檄が飛ぶのに、テリムに対しては教官はこの態度。

 座学だって優秀とは言えない。

 一般人として考えたら十分に体力はあるのだ。国の経営する農園に送られそうになった事も何度もあった。

 だが、そのたびにこの教官に助けてもらい、ここに在籍をし続ける事ができたのだ。

 今は戦時中。農園で朝から夜まで働く事になると、この虚弱な体ではついていけないのではないかと言われての事だ。

 ここでは十分な食事を与えられ、一日六時間の睡眠の確保ができる。配給でもらえる少ない食事を食べながら朝から晩まで働くの農園の生活には、テリムは耐えられそうにない。

「訓練用の対戦シミュレーターの成績はいいんだ。こんなところで負けるな」

 教官がテリムに目をかけるのも、それが理由らしい。

 シミュレーターはシミュレーターだよ……

 何度もその言葉が喉から出かかっているテリム。ここに残るのが自分にとっては幸せか? 無理してでもかじりつくべきか? テリム自身も決めかねていて、答えは出ていなかった。

 ズルズルと訓練を続け、毎日辛い思いをする。食事だけが唯一の楽しみで、それ以外はキツいだけ。

「でも戦争中。誰だってキツいはずだ……」

 自分の居場所は、この過酷な世界では見つけられない。なら。訓練をなんとしてでも越え、敵と戦って散り、それで最後になるのもいいと思っていた。

「今は走らなきゃ」

 苦しい胸に自ら鞭を打って、テリムは残りのノルマをこなした。


 テリムは休める時間は休む事にしている。訓練の後の休み時間は壁に座り込んで天井を見上げる。天上は疲労回復の効果があるという、白い光を放つ新型の蛍光灯だ。

 壁は清潔感のある白い壁である。感染症などの心配がないよう、掃除の役目を持った者が綺麗に保っている。

 訓練生達の制服は女子も男子もこの学校の詰襟を着ている。

「テリム君。今日も大丈夫だった?」

「うん……」

 テリムに声をかけてきたのはよくいるおせっかいな女子だ。毎日テリムに声をかけてくる。

 ルリという少女だ。三つ編みを片方たらした女の子。

 彼女は体力はないが、状況判断や社交性に優れている。艦長向きというのが施設の判断である。

 確かにテリムも彼女は艦長向きだと思う。成績が悪く、お荷物の自分にも、よく声をかけて気遣ってくる。

 休み時間は一秒でも長く体を休めたいと思うテリムだが、彼女に声をかけられて無視できる人間ではない。

「気遣ってくれてありがとう。この後のために休まないと」

「そう。休んでいるところに邪魔してごめんね」

 面倒がっていそうな言葉を言うと、ルリは引き下がってくれる。こういうところも艦長の器なんだろうとぼんやり考えるテリム。

「最近、操縦者のいる敵ロボットがでてくるんだってよ」

 ぼんやりしていると、そう話しているのが聞こえてきた。

「敵の戦力は無人機や怪物ばかりだろう?」

 その生徒の言葉通り、敵の異星人達の戦力は無人の機械と巨大な怪物達だ。

 有人機は無人機や怪物を放ってくる母艦だけだ。

 無人機を送り込み、自分らは高見の見物をする。命を賭けて戦う人間側としては悔しい話だ。

 だが、敵は有人機を送ってきたという。

 無人機では苦しくなってきた証拠だろうか? それとも、エリートパイロットの養成に成功したのか?

 そう話し合っているのを聞くテリム。

 無人機では苦しくなってきた。そういった理由で敵が有人機を使ってきたのなら、喜ばしい事だ。

 この戦争で、敵の幹部を何人か捕縛している。

 捕虜たちから聞いた敵の概要。

 人間よりも千年以上先の技術力を有している。厳格な身分制度があり、艦長クラスは貴族がしているという。

 捕まるときに、科学技術の知識を持つメカニックなどの工兵は全員自決させ、技術の流出を防いでいた。生きたまま捕縛をした貴族たちは、何度も救出部隊が組織され、それが送られてきた。何度移監をしても場所を突き止められ、最後には取り返されてしまうのだ。

 その捕虜達は、尋問のたびに人間を下等で低質であると発言していた。そして自分達の生きる国のすばらしさを恍惚の表情で語っていたという。

 皆、踊りを舞い、詩を作りながら暮らし、労働は下等生物の奴隷を使って行っている。

 他惑星に赴くのは探検のためであったり、レジャーのためであったりする。

 原住民を殺し、土地を手に入れた後満足をしたら帰る。その程度のものだという。

 人間と接触をした時も、いつもの山の中にしか逃げる場所のない下等生物だと思っていたという。

 襲った時、宇宙に逃げ出したのを見たとき、始めて恍惚したのだという。

 久々に張り合いのある狩りができる。そう思ったし、そうとしか思わなかったというのだ。

 人間が迎撃用の宇宙船を用意して反撃してきたのは、彼らにとって喜ばしい事だった。

 久々にスリルのある戦いができると思ったのだという。

「捕まるのも一興。帰ったら貴重な体感ができたと、皆に自慢できる」

 高笑いをしてそう言い放ったという。実際そう言い放った後二日に彼は救出部隊に救出された。

 敵から鹵獲をした宇宙船と戦闘機は、人間達を驚愕させるものだった。

 技術者は、いくら分解しても構造を理解できない。一度解体してしまったら、元の形に戻す事はできなくなってしまうものもあった。

「我々の知らない理論が、いくつも使われています」

 技術者の中の一人のこの言葉が、その技術力の差を物語っていた。

 古代の人間がコンピューターをいくら解体しても理解できないように、使われている部品が何を意味するものなのか? どんな効果があるものなのかが分からない。

 一部理解のできるものはあったが、解析に一か月がかかった。

 燃料も、人間の使う化石燃料ではなく、光を放つ特殊な石を使われていた。それが、太陽の光を当てる事でエネルギーを得る特殊な鉱石であると分かるまで、一週間の時間が必要だったという。

 この石は敵の機体を鹵獲する以外に手に入れる方法はない。

 手に入った石は太陽からの距離が五千八百万キロの位置に設置される。太陽系でいう太陽と水星の距離だ。一日で光り輝くようになり、機体に取り付けられるようになる。

 現在人間の持っているその石。プラリネタルと名付けられた石は二百四十存在する。

 それ以上の数の兵器は、人間に用意することはできない。

 散発的に人間のいる惑星に攻撃を仕掛けてくる敵。敵の送ってきた機体を倒し、プラリネタルを抜き取って少しずつ数を増やしているのが現状だ。

 彼らは自分の事をオルカと呼んでいる。

 そのオルカは人間と似た背格好をしており、髪は銀髪で目が金色に輝く。

 服装は古代のローマの服装に似ている。

 ただ、金をあしらった豪華に輝く刺繍が施されていた。

 そのような正体不明の敵と戦うのだ。この兵舎の子供たちは、戦場に配置されると、一月で半数に減り、半年で全員が戦死をする。

 その中でも、少しでも生存率を上げるため、ここで必死になって訓練をしているのだ。


 昼からは座学。

 敵の技術を吸収して作られた人型ロボット。セレフィの説明だ。

「戦うのに一番重要なのは、レーザー拡散粒子だ」

 教官は続ける。

 敵はレーザー銃を使って攻撃をしてくる。この粒子は、撃たれたレーザーの光をプリズムのように拡散させて威力をダメージをうけなくなるまで減退させる効果がある。

「常に敵との間にレーザー拡散粒子を張っておくくらいでないと、すぐに倒されるぞ」

 この粒子が戦闘中には命綱になる。

「我々の武器はこのレールガンだ。実体弾ならレーザー拡散粒子の効果を受けない」

 だが、レールガンの弾は敵に感知されてしまい、当てるのは難しい。敵は人工知能で人間離れした速度で、レールガンを回避してくる。

「距離を少しでも詰めて戦う必要がある。だが近づきすぎるとレーザーソードを使った挌闘戦になる。敵の動きは早く正確だ。接近戦ではまず勝てないと思った方がいい」

 ただし、テリムはシミュレーションとはいえ素早く動く敵を何度も切り伏せている。

「テリム君が皆の護衛をしてくれるようになれば、ある程度危険を冒して近づけるのだが……」

 教官はチラリとテリムを見た。

 テリムはそれで顔を伏せる。周囲からクスクスと笑う声が聞こえる。

「こいつがセレフィに乗ったら、すぐに目を回しますよ」

 このクラスでトップの少年が言う。

 彼はノート。座学、体力テスト、格闘戦技ではトップをとっている。ただ、シミュレーターを使った模擬戦ではテリムに遅れをとっていた。

「いくらシミュレーターの成績が良くても、乗ったらゲロを吐きそうな……」

「ノート君。座りたまえ。仲間の悪口も厳禁だ。規律を守りたまえ」

 教官はノートをそう言って座らせる。

 ルリはそれを見て、テリムの様子を心配した。

 さらにノートは、ルリがテリムの様子を見るのを忌々しいという顔をして見つめる。

 ノートがルリの事を好きなのは、このクラス周知の事実だ。研修が終わったら、戦場に駆り出され、明日も知れない命となる。

 恐怖を前にすると人は恋をする確率が上がるという吊り橋効果というものがある。

 その効果かどうかは分からないが、この訓練所では恋人達が多くできる。

 ノートとルリの恋路は、この学校のエリート同士の恋路として皆の注目を集めていた。

「皆さん授業に集中しなさい」

 教官も、ルリとノートの恋路に皆興味津々なのは知っている。訓練ばかりで娯楽に飢えている練習生達にとっては、いい話題の種だ。

「ルリ君はテリム君に期待をしているだけだ。私のようにね」

 言葉にはしないが、ルリがテリムに恋愛感情を抱いているわけではないとノートに暗に伝えようとする教官。

 ルリがテリムの事をよく気にかけている事も周知の事実。それに気づいていないのはテリムだけだ。

 テリムはルリは誰にでも優しいだけだと思っている。

 それがさらにノートの勘に触っているし、皆が面白がっている理由の一つでもある。

 不満たらたらの様子のノート。

 ルリは俯いて顔を伏せていた。


 授業が終わると、テリムはグラウンドの椅子に座って時間が経つのを待つ。

「今日もみんなが騒がしいの?」

 ルリはそのテリムの隣に座った。

 過酷な訓練といえど、まだ体力が残っている者達もいる。グラウンドで肩慣らしに百メートル走で勝負などしていた。

「うん。ボクはあの中に入れなくて……」

 テリム達は六人部屋で寝泊まりしている。

 テリムはルリとの関係を疑われたりしてそれの質問をされる事も多いし、寝て隙を見せようものなら顔に落書きだってされる。

 部屋に戻っても全然休まらないのだ。

「君にはがんばってほしい。なんでも、お父さん達をオルカ達に……」

「それは、この訓練所の人間全員でしょう?」

 ルリがテリムに向けて言った事は、ここの訓練生では当たり前。

「でも、他に理由があるんじゃないの?」

「またその話?」

 ルリはテリムに何度もその質問をしていた。

「コッダ君とネマちゃんって言ってたよね」

 テリムは自分から話した記憶はない。どこかでうわ言を言ったのを聞いてでもいたようである。

「答えたらあっち行ってくれる?」

 テリムとしてはルリに心配をされるのはいいが、それで、よくからかわれる。

 ルリの事を好きな男子が絡んでくるのであるが、テリムはその理由が分かっていないため、それくらいの認識なのだ。

「幼馴染なんだ。同じ惑星で生まれて一緒に育った……」

 三人は、オルカ達に狙われた。逃げる前に一矢報いようと考えたのがいけなかったのだ。

 テリムが敵に気を引いて、コッダがオルカの背後から忍び寄り、顔に硫酸をかけたのだ。

 その後、ポッドで逃げ出したが、オルカ達はテリム達を追ってきた。

「逃げる先の惑星に問い合わせてもコッダもネマも到着していなかった。多分……」

 敵に殺された。もしくは捕まった。

 一矢報いようなどと考えずそのまま逃げていれば、あいつらがしつこく追ってくる事もなかったのではないかと今では後悔している。

「この学校に入るまでは、あいつらに復讐をしようって考えていたさ……」

 だが、訓練は過酷で実践では敵を倒すより倒される事の方が多い。人間はオルカ達に勝てないと聞いて、その気も薄れていったのだ。

「話したんだ。もうボクに構うのはやめてくれ。またからかわれる」

 そう言い、テリムは顔を伏せた。

 そこにサイレンが鳴った。

「これは敵襲のサイレン」

 ここは前線から遠く離れた内地だ。だが、そんな事は関係なく、オルカ達はワープをつかってどんな所にも現れる。

 空を見上げると、小さく見えるオルカ達のロボットが見えた。

「青い機体……」

 オルカ達の最新式の機体の色だ。

「テリム。ノート。サラン。格納庫に集合。第一種戦闘配備!」

 シミュレーションの結果のいい三人が、呼び出された。

 おそらくあの上空にいる青い機体に対抗するためだろう。

「あの高さなら自由落下で三十四秒で地上に降り立つよ。早くしないと」

 ルリの正確な計算。テリムはそう言われて、急いで格納庫に向かっていった。


「テリムは一番へ!」

「納得できません!」

 テリムが格納庫に到着すると、すぐにそう指示をされた。それに異を唱えたのがノートだった。

 三機ある訓練機。それにそれぞれが搭乗して戦おうというのだ。

 一番は最新機である。シミュレーターの成績が一番高いテリムの乗るのが、普通に考えると順当である。

「命令だ! 異論は認めん!」

 教官がそう言うが、ノートは迷わずに一番機に乗り込んでいった。

「命令無視は分かっています。絶対に失敗はしません」

 ノートは言い、機体を起動させた。サランもそれに合わせて二番機に乗っていく。

「貴様までか! 失敗したらただじゃおかんぞ!」

 教官は言うが、サランは何も言わずに二番機を起動させる。

 テリムは無言で三番機に乗っていった。

「みんな命令無視ばかりしおって」

 テリムが乗り込み、機体を起動させるのと、グラウンドに敵機の降り立つジェット音が聞こえるのは同時だった。


 ノートの乗る一番機は赤。サランの乗る二番機も赤。一世代旧式のテリムの乗る三番機は黄色をしている。

 その三機が格納庫から出てくるのを待っていた敵の青い機体から通信が送られてきた。

「私はコッダ・レインダ。オルカ様方の忠実なしもべだ」

 顔の半分が薬品で焼かれたような跡で覆われている少年の顔が通信映像に現れた。

「コッダだって!」

 テリムはその映像を見て言う。

「コッダ。僕だよ! テリム! 生きていたんだ!」

「テリム……」

 コッダは驚いた表情をしていた。だがすぐに顔を引き締めた。

「貴様らに我々オルカとの差を見せつけるために降り立った。降伏すれば命は助けてやる。オルカ様方に奉仕をする、喜びに満ちた生き方を教えてやる」

「三対一で何言ってんだ!」

 サランは言って銃を構えた。銃を構えたサランに反応して、コッダは正確にコックピットをレーザー銃で打ち抜いた。

「これで二体一になったな」

 コックピットのサランが死んで、直立する訓練機。コンピューター制御でバランスは保たれるため機体が倒れることはないが、これでは立ったままの死体である。

「おい……俺達はこんな奴らと戦うのか……」

 一瞬でサランが倒されたのを見てノートは言う。

「勝てるわけないじゃないか……」

 恐怖で動けなくなったノート。ノートが震えている姿が、通信を通して、コッダに伝わったようだ。

「戦意を失った兵士に生きる価値はない」

 そう言い、コッダはレーザー銃を撃った。

 すぐ隣から、テリムがノートを突き飛ばした。

 光線はテリム達の後ろを通り、ビルに命中して穴を開けた。

 ビルのガラスは高熱で赤熱し、鉄骨も溶けてドロリとした液状の鉄が穴から流れ出していた。

「テリム。昔のよしみだ。俺と同じ上級奴隷としての対応を打診してやる」

「昔のよしみなんて、今更ない……」

 通信でそう語り合うテリムとコッダ。

 テリムがコッダの青い機体に向けて銃を構えた。それに反応して光線銃を放つコッダだが、テリムはそれを転がって避けた。

「君はボクの敵だ!」

 転がった態勢から銃を放つテリム。

「血迷ったか!」

「血迷っているのは君だ! なんで敵の味方をする!」

 コッダとテリムはそう言い合った。

 起き上がったテリムはコッダの銃を避けながら弾を放っていった。

「格闘戦ならどうか!」

 コッダは銃を捨て、腰にある棒を取り出した。その棒の先から光が伸び、レーザーサーベルの形を作る。

 テリムは超分子カッターを取り出す。

 コッダのサーベルより短いものだが、これは最強の金属であるタングステンも一気に融解させて切る事の出来るものだ。

 コッダはサーベルをテリムに向けて突き刺した。

 テリムはヒラリと体を翻す。大きく振りかぶったテリムはコッダの機体の腕を叩ききった。

「テリム……その人間離れした動き……」

 コッダはテリムの反応に驚いていたが、みるみる顔色が悪くなっていった。

「コッダ。戻りなさい」

「しかし……彼は……」

「私に楯突くのですか? 今日はクスリの調子が悪いようです」

 敵は何も隠さず、テリムの機体でも拾えるように通信を送ってきた。

 銀の髪に金色の瞳である。オルカの一人がコッダの事を操っているのだ。

 そして、そのオルカは顔の半分が硫酸をかけられたように焼けただれていた。

「お前……あの時の……」

「ああ……あの時は三人だったな」

 テリムの姿も相手には見えている。テリムが自分の顔に硫酸をかけた少年たちの一人であると、気づいたようだ。

「感動の再開か……趣があって結構。あと一人のメスのカンニヒェンとも再会したいだろうな」

「ネマ! ネマも無事なのか!」

「ふふふ……不敬極まりない言葉遣いだ。だが答えよう。あのメスのカンニヒェンも無事だ」

 そうオルカが言うと画像が送られてきた。

「何でこんなひどい事を……」

 その画像は、おそらく成長をしたネマの画像。足と腕が鎖でつながれ、グッタリと体を横たえている姿だった。

「コッダがミスをすると、このメスに電流が流れる。たまに松明を押し付けたりもするがな」

 クスクスと笑いながら話すオルカ。

「コッダは私に従順になったよ。もうこの娘が無しでも私の命令に従うだろうな」

「それは……どういう意味で……」

 コッダは言う。話を遮られたのに気分を害したオルカはネマに電流を流した。

 悲鳴があがった。痛々しい悲鳴が画像から流れてくる。苦しんでジタバタともがくネマの姿が、コッダとテリムに見せつけられていた。

「別にこのメスを処分するという意味ではない。余計な口を挟むな」

 オルカが言うと、コッダは黙る。

 それは怒りや憎しみを押し殺しているという様子ではなかった。

 すべてを諦め、従順にオルカに従う、気力を無くした奴隷の表情に、テリムの目には映った。

「コッダ。戻れと言ったはずだ。これ以上電流を流すと、このメスは死ぬかもしれんぞ」

 コッダはそれを聞くと、ジェットを吹かして空に飛んでいった。

 そして、オルカからの通信も切られる。

 テリムの機体もサランの機体のように力を失い、直立して立つ姿になった。

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