プロローグ
この惑星はヴェッチ。この惑星を発見した者の名前がこの惑星の名だ。
ここは人が住める環境であった。水もあり、酸素もあって気候も温暖である。
この惑星には金の鉱脈が大量に存在する事がわかり、多くの人がこの惑星を目指した。
緑も自然もあり、牛や豚に代わる家畜用の動物も発見され、自給自足も可能になった。
人は長閑で争いもなく平和な暮らしを続けていたが、そこに謎の集団が現れた。
「この星は我々の惑星である。この宇宙はすべてが皇帝陛下の手中にある」
そう宣言だけをして、村を襲い始めた。
見た事のない光線を放つ銃。その銃を受けた者は全身が丸焦げになって血を流さず凄惨な死体となる。
村で暮らす三人の少年少女たちは、その光景を間近で見ていた。
「逃げろ!」
少年の一人の声により、珍しがって謎の集団の前に集まった村の人間は蜘蛛の子を散らすようにして逃げ惑った。
「狩りの時間だ。兄者もやるか?」
「俺はめぼしいものを探してみる。近いうちに娘も増えるしな」
「そうか。お盛んだな」
「ここのカンニヒェンは金の採掘をしていたらしいぞ。見つければ大金持ちかもな」
弟はそう言った後、スケートボードのような機械に乗り、空に浮かんだ。逃げ惑う村の人達の背中を光線銃で撃っていた。
光線の火は一瞬で体中に燃え広がり、黒コゲになった人がバタリと倒れる。
『現在三匹のカンニヒェンを狩猟しました』
銃からそう機械音声が流れる。
「ここに巣を作ってたカンニヒェンの総数の予測は?」
『百二十匹前後と思われています』
「百は狩るぜ! 心音センサー作動!」
弟は言うと、目の前に立体映像が現れ、レーダーのような映像になった。
「あの巣の後ろか」
彼から隠れて家の後ろに張り付いていた老婆を見つけると、光線を撃つ。すぐに炎に包まれて黒コゲの死体になる。
「ジジイ、ババアはよく燃えるぜ」
その頃になると、家の地下からいくつもの宇宙ロケットが打ちあがった。
この惑星で何か災害が起こった時、すぐに逃げ出せるように作られていた脱出ポッドである。
「あいつら! あんなもん用意していたのか!」
自分の銃で追えるものではない。舌打ちをした後弟はレーダーを見る。
「巣の中に小さな反応がある……子供か?」
家の中に入ったという事はすぐにでも脱出ポッドで逃げられてしまうかもしれない。そう思った弟は、その家に入っていった。
成体であれば値段は高くならないが幼体ならペットとして求める者もいる。
それはたまに、黄金以上に金になる場合もあった。
三つの反応は一つの場所に固まっている。脱出ポッドを使って逃げ出す様子はない。
「ゆっくりだな。怖がらせないように」
弟にとっては、これはウサギ狩りだ。まだ貴重で珍しい、人間を名乗る動物。その子供は、好事家にとっては早く手に入れたい流行の商品なのだ。
怖がられて逃げられるよりも、怖がらせないようにして捕まえておく方がいい。
弟が歩くたびに床が軋んだ音がする。
そして、すぐ近くで小さく家が軋んだ音が聞こえてきた。その足音はこちらに近づいてきている。
「こっちの様子をうかがっているってわけでもなさそうだ」
この足音には敵意を感じる。
鉄が木に当たるコツンという音も聞こえてきた。ここの家にあった何かを武器にして自分に襲い掛かってくるつもりなのは分かり切っている。
弟はこれに乗った。子供がいるだろう部屋のドアを開ける。
「残念だね」
ドアを開けると、椅子が弟に向けて叩きつけられた。
だがそんなものは片手で防ぐ。椅子を取り上げ、壁に叩きつけると、椅子は無残にバラバラになってしまった。
「怖くないから大人しくしようね」
猫なで声でそう言う弟。体をかがめ、怯える子供に視線の高さを合わせる。
そこに後ろから何かの薬品をかけられた。
「ぎゃぁ!」
そう叫んだ弟には床に転がってのたうち回る。
「父さんの仇だ!」
そう子供が言う声が聞こる。
それからバタバタとした三人分の子供の足音は、家の地下に向かっていった。
「あのガキは逃がさねぇ!」
そう言い弟は起き上がり、スケートボードに乗り込んだ。
その瞬間に脱出ポッドが三つ飛び立った。
「あのガキの心音センサーを登録!」
『はい。マスター』
スケートボードに乗って風を切りながら、ホログラムに出てきたレーダーの映像を見て、逃げていく三人の子供の反応を探る。
反応は、みるみる遠くなっていった。
自分の宇宙船に戻ると、二人いる自分の召使に男にこう言った。
「この反応だ。ガキを捕まえろ」
そう言うと、自分も宇宙ポッドに乗り込む。
三つ固まっている反応を追い、ポッドで宇宙にまで追っていった。
「テリム。ネマ。二人とも無事か?」
コッダという少年が言う。
今は脱出ポッドを操縦して、遠くの地に逃げ出そうとしているところだ。
自分の暮らしていた惑星がどんどんと遠ざかっていくのを後ろに見ながら、一番近くにある人の住む惑星に向かっていく。
「コッダどうしよう! 追われてる!」
テリムの声だ。昔から臆病な奴で、コッダはよくからかっていた。
彼は大事な親友だ。捕まえさせるわけにもいかない。
「このままじゃ三人とも捕まっちゃう。全員で別の惑星を目指そう。三手に分かれるんだ」
そう言い、コッダはここから三番目に近い有人惑星に目的地を設定した。
ネマも二番目に近い惑星に進路を変更する。
「嘘だろう! みんなで一緒に逃げようよ! 僕ら離れ離れなんてやだよ!」
テリムは必死にコッダ達と一緒の場所にいようとするが、コッダは首を横に振った。
「みんなで逃げるためだ! こんなの一生の別れじゃない!」
年齢の割に大人びているコッダの言葉。
その言葉を最後に、三人は距離がどんどんと離れていき、通信不能ギリギリまで距離が離れていった。
「絶対だよ! 絶対にまた会うんだからね!」
テリムのその通信は二人に届いたかどうか分からない。通信不能の距離になった通信機の情報ホログラムを見て、テリムは不安と恐怖で胸が張り裂けそうになっていた。