0 暗転/再生
今日は珍しいことに父は現れなかった。
毎日現れては枕元に立ち念仏のように謝るうっとおしいあの男。
代わりに現れたのは見覚えのない、顔の整った人。髪が長いため、男の人にも女の人にも見える。
全身を白いスーツで決めていて、それがとても似合っていた。
白いスーツの人は枕元までやってくる。
起き上がって挨拶の一つでもしたかったのだけど、それはできない。昔はできていたのだけど、ある日を境にできなくなった。
辛うじて動く首を傾け、その人を見る。
本当に綺麗な人。もの凄く羨ましい。今の私はその逆で、物凄く醜いから。本当に羨ましくて妬ましい。
「君が火車の被害者?」
不意に響く声。その声は中性的だったけれど、どこか無邪気さを孕んでいた。
けれど、今はそんなことはどうでもよく白いスーツの人が言った火車という言葉に困惑している。
すると――
「知らないのね。だったら教えてあげる。君がそんなになった原因を」
まるで悪魔のような甘美な声音が耳朶を打つ。
ベッドの上でしか過ごせない私にその誘いを断る術はない――
そして。
白いスーツの人の独白が始まった。