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幕間Ⅰ

 午前一時。場所は姫野宮の中心街である鬼南町の隣に位置する伏流町のとある公園。

 中央にある外灯の無機質な白光が照らし続けるその公園は当然ではあるが人気(ひとけ)は二つしかない。故に獣にとって絶好の狩り日和である。


 獣は茂みに潜み標的を観察する。


 今夜の獲物は一人。こんな夜中に呑気に歩いていた男である。

 視界には今もなお無防備な男。男は今女の身体を触れることに夢中で隙だらけだ。本来なら今すぐに狩りをしてしまうところだが、獣の身体は金縛りにあったかのように動かないでいた。それだけではない。男と女のその行為を目撃した直後から、頭を勝ち割られたような頭痛が襲い続ける。


 視界がチカチカと点滅し、ノイズが奔る。


 それでも獣は得物から視線を逸らすことはしない。それは狩る側の譲ることのできない矜持だからだ。一度狩ると決めた得物から視線を逸らすということは得物に失礼というものだ。狩人は圧倒的スピードを持って後悔をさせることなく、一撃で命を断ち切らなくてはならない。


 だから獣は得物である男を見つめ続け――


 男と女の唇が触れるのを目撃した。


 瞬間。

 映像が切り替わる。世界が急速に色を失っていく。

 そこはカーテンが閉め切られた薄暗い一室。

 もう聞こえないはずの怒声が響く。

 目の前に広がるのは二度と見たくないと願った光景。

 背の高い金髪の男と憔悴しきった女。

 そして。

 幼い私を包み込むように抱く少女。

 男は空の酒瓶を持っている。

 女はロボットのように謝り続ける。

 再び怒声。

 そして。

 男が酒瓶を勢い良く振り上げて――


 意識が現実に戻る。

 突如として沸き上がるどす黒い感情。

 この身を引き裂いてでも殺したいという情動。

 今すぐ血を浴びたいという激情。

 それは魂が揺す振られる熱く、度し難い程の怒りだった。今まで感じたことのない魂の慟哭に獣の理性は一瞬の内に振りきれた。


 理性のない獣は本能の赴くまま茂みから飛び出す。

 視界には何やら会話をしている男と女。

 それだけで獣の内側に燻り続けた黒い感情は爆発し、さらに加速。文字通り一瞬の内に二人の人影は赤い液体を零す人形に成り果てた。


 × × ×


 同時刻。

 獣による狩りが行われた公園の近くの電信柱の上には白いスーツを着た人影がある。

 狩りの全貌を観察したソレは血の海で咆哮する人型の獣を見てくつくつと笑う。余程、楽しいのか口元は三日月のように吊り上がっている。


 「ああ!ああ!ああ!これは予想外。想定外だなぁ!本命はあの親子でこっちはおまけ、暇つぶしだったんだけど、ハハハハハ!

 ここまで上手く馴染むなんて思ってもみなかった!人語を介せるだけで成功だと思っていたけどまさかここまで!やっぱり人間の想いは面白い!

 さあ!手助けをしてあげたんだ!!もっと見せてよ!君の想いの果てを!飽くなき渇望の限界を!」


 哄笑と共に高らかに口を滑らせる。

 その姿は悪魔のような印象を与える不吉なものだった。


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