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4-4 踏切

 全てが終わり碧波と共に外に出ると丁度瀬那さんが後処理のためにかっ飛ばしてきたところだった。暗闇に溶ける暗色の外車がフェンス前に停まる。

 何というか色々遅い。瀬那さんに電話したのはあの鎖怪人(チェーン)を倒して欲しかったからなのに。


 「晃成」


 車から走ってくる。どうやら急いで来てくれたらしい。もう解決してしまった後ではあるが、急いでくれたのはどんな理由であれ嬉しいのだ。

 

 「ども。遅かったですね。もう終わっちゃいましたけど」

 

 「……そのようだな。しかしだ晃成。監察官はともかく……その少女は誰だ。死んではないようだが」


 「あーこいつは俺の後輩ですよ。ちょっと馬鹿なんで危険に飛び込む悪癖のある」


 「……なるほど。わかった。類は友を呼ぶとは言うがまさしくだな。で、例の魔族はどうした。ちゃんと殺したのか」


 「はい。今回は喰い殺しました。今は鎖の生えたベーコンになってます」


 「……そうか。なら後は私に任せて今日の所は帰りなさい。私はこれからその魔族の回収に向かわなくてはならないが、その少女は大丈夫か」


 「気絶してるだけなんで大丈夫だと思います。でも、魔族のこと目撃してたら後で記憶の捜査をお願いするかもしれませんけど。あれは見ない方が絶対にいいんで」


 「そうだな。わかった。なら気をつけて帰れ――おっと。明日、右腕の治療してあげるから事務所に顔を出すこと」

 

 険しい顔のままそんなこという瀬那さん。

 嫌だなあ。なるたけ事務所には顔を出したくないんだけど。しかし、純粋な好意を無下にするのはあまり褒められたものではない。


 「まあ。はい。わかりました。お昼頃伺います」


 「よし。それじゃあ、ご苦労さん」


 そう言って瀬那さん、廃工場に侵入。

 もちろん正面玄関をぶち破っての堂々とした侵略である。相変わらずの脳筋振りに荒んだ気持ちの幾分かが楽になるのを覚え、帰路に就く。


 只今の時刻は十一時前。良い子は補導される時間帯だ。さっさと帰ることにしよう。

 さて、どうして一般人が魔族になったのかなど、色々気になることはあるがとりあえずこの馬鹿を送り届けなくてはならない。


 こうして。

 俺の三月三日は終わりを迎えるのだった。

 

 ◇


 翌日。明けて三月四日。正午。

 俺は瀬那さんに言われた通り二年振りに事務所に顔を出していた。正直、二年も時間が経てば色々変わっていると思っていたのだが、全く変わっておらず瀬那さんのずぼら具合には脱帽するばかり。


 そして。

 右腕のメンテナンスを手際よく終わらせたので、お茶なんぞを仲良く飲んでいるのである。

 俺としてはこの後用事があるのでさっさと帰りたいのだが、何でも瀬那さんから話があるらしい。


 そんな訳で美味しくもない紅茶の入ったカップを持って対面に座っているのが現状である。

 ちなみにではあるが、監視官――碧波由奈は事務所に入ることを許されなかったので外で待機している。

 瀬那さんが協会のことをよく思っていないのは明白なので仕方のないことと言えば仕方ない。


 「――晃成。改めて昨夜はご苦労だった。色々言いたいことはあるが、それはひとまず置いておこう。だいたい予想は尽くしな。だが、訊いておかねばならないこともいくつかある。そうだな……。まずはあの魔族は元人間で間違いないか?」


 あの魔族。葛灘鉋(チェーン)のことを言っているのだろう。


 「百パーセントの確証はないですけどね。でも、あいつは自分のことを葛灘鉋と言いましたから」


 「そうか……。やはり葛灘篤の一人娘か……」


 瀬那さんは何だが知っているらしい口調である。


 「瀬那さん。知ってるんですか」


 「一応な。あの鉄工所が火事になったのは魔族……。確か、火車だったか。そいつが原因だからな。情報としては知っている」


 「あの瀬那さん。聞きたいんですけど。いいですか」


 「なんだ」


 「その葛灘鉋は魔族と人間の混血だったりしないんですか」


 「いや。それはない。葛灘鉋が入院した際、血液データは入手したが、それらしい結果は出ていなかった。葛灘鉋は正真正銘、真っ当な人間であり後天的に魔族になった稀有な例だな。明らかに第三者の手が加わったのは明白なんだが……残念だが見当もつかない。晃成、何か知らないか」


 そんなことを言われてもその手の事情には疎い俺が知ってる訳が――。


 いや、待てよ。そういえば廃工場の地面に刻まれたあの魔法陣。当時はあまり気にしなかったが、葛灘鉋が元人間だというのなら誰が刻んだのだろう。用途は確か……代わりの腕を保存するためだったか。


 「あの瀬那さん。もしかすると筋違いかもしれませんが、廃工場に刻まれた魔法陣。あれを刻んだ奴がその第三者なんじゃないんですか?」


 「魔法陣?ああ。あの加工術式のことか」


 「加工術式?防腐処理じゃないんですか?」


 「ん?ああいや、確かにそういった側面もあるが、あれの本質はパーツを自身に合うように加工することにある。切ったものをそのままくっつけるよりは加工した方が性能がいいのは明白だからな。しかし、あれを刻んだのが第三者か。その可能性もなきしにもあらずだが、現状では何とも言えないな。証拠がなさ過ぎる」


 「そうですか。すいません。力になれず」


 「いや、いいさ。もとより最後のは愚痴のようなものだ。気にするな。さて、訊きたいことはあらかた聞き終えたし、もう行っていいよ」


 「それじゃあ、俺はこの辺で失礼します」


 かくして、俺は瀬那さんの事務所を後にしたのだった。

 天気は曇り。相変わらず寒いし、昨日に増して雪の降りそうな嫌な天気である。


 ◇


 瀬那さんとの歓談が終わった俺はいつものファミレスにいた。

 時刻は午後三時。日曜ではあるが、昼飯時を過ぎたこともあって店内はガラガラに空いている。

 しかし、そんな中で異色を放つフードファイター。

 積み上げられた皿の数はパッと見では数えられないが、軽く十は超えている。もしかすると、こいつのお腹はブラックホールなのやも知れぬ。


 「相変わらず良く食うよな、お前」


 「放っといてください。私は今、猛烈にお腹が空いているんです。もしかすると、今まで成長を放棄していたおっぱいがついに重い腰を上げたのかもしれないんですよ!?これが食わずにいられますか!?」


 くちゃくちゃとハンバーグを頬張りながら喋る侑李さん。

 飲み込んでから喋れ。後、お前のおっぱいはこれ以上成長することはない。悲しいかな。人間、遺伝には勝てないのである。


 「知らねえよ。それよりも、もっかい確認するが、お前昨日何していたか覚えてねえんだな?」


 「何回聞くんですか……。でも、その通りです。クソみたいな番組観てたのは覚えてるんですけど、それ以降の記憶がないんですよね。なんつーか、その時間帯の記憶だけがスプーンで抉られたみたいな」


 「そうか。ならいい。邪魔したな」


 なるほど、どうやら都合よく侑李の記憶は欠落してくれたらしい。全く便利な頭をしている。

 さて。聞くことも聞けたし帰るとしよう。

 乱雑に五千円札を叩き付け、席を立つ。


 「え!?ならいいって、どういうことですか!?てか、この五千円は何ですか。もしかしておごりですか!?嘘!!先輩が優しくなった!地球の終わりは近いのかもしれない……」


 などと本気で騒ぐ馬鹿後輩。

 いつもなら全力で無視するところだが、何。今日の所はもう少しだけ付き合ってもいいのかもしれない。

 そんな不思議な気分になったのだった。

 

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