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3-1 連鎖する殺人

 三月三日。土曜日。時刻は八時過ぎ。


 健康的な時間に起きた俺は久しぶりに母と朝食を共にしていた。メニューは白ご飯に味噌汁、スクランブルエッグ。定番だが何故か美味しいのが母の料理の最大の謎である。


 少し冷めた味噌汁を啜りながらいつものようにニュースを見る。今現在のニュースは姫野宮市の七原で発見された遺体と今朝追加で発見された青年の遺体についてだ。

 強面のレポーターが淡々と語っている。


 昨日発見された二人の遺体の身元は割れたらしく男の方は市内の地方銀行に務める伊那弥一(いなやいち)氏。女の方は姫野宮西高校に通う高校二年生、化野珠理(あだしのじゅり)


 伊那氏は私生活でトラブルがあったものの、それ以外目立ったトラブルなく化野珠理に関してはトラブルとは無縁の生活を送っていたらしい。ただ、化野珠理は極度のオカルト好きらしく度々噂を求めて歩き回っていたそうだ。


 そのオカルト好きという言葉に反応して一人の少女の顔が浮かび上がる。

 そういえばあの馬鹿もこの事件について調べてたな……。どうにも素人には手に余りそうなんで後で釘を刺しておこう。


 二人の死亡推定時刻は昨日の午前二時過ぎ。死因は大量出血による失血死。いずれも四肢を強引に引き千切られていたらしいが、どんな凶器を使ったのかはまだわかっていない。

 二人を殺した犯人に関しては手掛かりが少ないらしく、わかっていることと言えば長い鎖のようなものを引き摺っていたと痕跡があるということだけ。

 いずれにせよ犯人逮捕まではまだまだ時間が掛かるそうだ。


 「最近、物騒ねえ。晃成、あんたもあんまり夜フラフラしないでね」


 連日報道される物騒なニュースに怪訝な顔を浮かべて母がぼやく。確かにこの街に住む人なら誰もが抱く負感情だ。自分の住んでいる近所で人が死んだ。それだけで住人が不安がるのは無理はない。


 「うん。そうだね、気をつける」


 「そうして頂戴。あ、そうだ。話は変わるけどずっと空き室だったお隣に人が入ったみたいよ。もし、ご挨拶にいらっしゃったらちゃんと応対してね」


 「そうなんだ。ん、了解」


 確か昨日、大家さんも嬉しそうに言っていたっけ。


 「それじゃあ、母さん出掛けて来るから。後は任せた。晩御飯は悪いけど一人で食べて。それとお醤油切れてるからもし使うんだったら自分で買ってね」


 そう言って母は味噌汁を一気に飲み干し、お気に入りのバッグを持って家を出た。俺はそれを見送ってからリビングへ戻り、再びテレビへ視線を向ける。そこには今朝方遺体で発見された男性が昔務めていたボロボロの鉄工所が映し出されていた。


 …………。

 なんだろう。すこぶる既視感があるのだが、気のせいなのだろうか。


 しかし、その鉄工所。既に潰れているらしく、窓は割れっぱなしのボロボロで火事でもあったのか外壁も黒く変色している。


 昨日、侑李に見せられた映像が過る。鎖を引き摺るような音を響かせながら歩く謎の影が出てきた工場。心なしか今映っている廃工場と似ている気がする……。


 不意に振動するスマホのバイブレーション。


 着信相手は燎里侑李。この野郎。タイミングがいいじゃないか。ついでに動画も件に釘を刺しておこう。知り合いが死ぬのは流石に堪えるし。ちなみに女の子相手にこの野郎というのは果たして正しい使い方なのか疑問である、まる。


 「もしもし。赤塚だけど」


 「あ。先輩。おはようございます。不躾(ぶしつけ)ですけど今日これから時間あります?」


 これは十中八九、面倒くさいことになる。こいつの時間ありますという質問は経験上、ろくなことがない。よし、断ろう。即決断。即実行。だが、その前に鎖怪人(チェーン)の件について釘を刺しておかなければならない。


 「生憎時間はないな。それよりも侑李、お前は肝心な場面でドジ踏むんだから昨日言ってた鎖怪人(チェーン)に関わるのは止めとけ。思ったよりキナ臭いぞ」


 「そうなんですよ!その鎖怪人(チェーン)の件、進展があったんですよ。詳しくはこれから話しますんで!それじゃあ、いつものお昼頃ファミレスで待ってますから!」


 「な、おい――」


 俺の話なんて聞きやしねえで話を纏めるイノシシ女。

 一度走り出すと止まれない呪いにでも掛かっているのか。


 慌てて掛け直すが繋がらない。あの野郎、電源切ってやがる。成長するにつれ段々、他人に話を聞かない子に育っている気がするが……。仕方ない。ずっと待たせておくのもかわいそうなんで醤油を買いに行くついでに顔を出すことにする。


 約束した時間までまだ時間があったので使った食器を洗った後、外行きの私服に着替えていると突然チャイムが鳴った。


 時刻は十時過ぎ。侑李が痺れを切らすには早すぎる。誰だろうと思いインターホンのモニタを見るとそこに映っていたのは私服姿に紙袋を持った碧波だった。うーん、この流れから考えられる結末はアホでもわかる。なんてこった。居留守を使えば良かった……。


 「赤塚君、引っ越しのご挨拶に伺いました」


 「――やっぱそうきたか……」


 「やっぱりって赤塚君。私が引っ越してくるのわかってたんですか」


 「お前の持ってるその菓子折り的な紙袋を見た瞬間な。ちょっと待ってろ、鍵開ける」


 そう言って玄関に向かい扉を開けると碧波が御丁寧にお近づきの印にと言って紙袋を渡してきた。仕方なくご丁寧にどうもと社交辞令で返す。


 「それで、お前が引っ越してきた理由はやっぱり監視が目的か」


 「ええ、そうですね。協会の方が手配しました」


 「そうか……」


 思わずため息を零す。どうやら祓魔協会とやらは本気で俺を手元に置いておきたいらしい。利用するにしろ殺すにしろ手元にあった方が便利だからだろうけど。


 「私としてはこれでもぬるいと思いますけどね。ところで赤塚君。小綺麗な格好をしてますけど、これからお出掛けですか」


 「――まあ、あと一時間もしたらな」


 「そうですか。それじゃあ、私もついていきますから少し待っててください」


 そう行って本当にお隣の玄関を慌ただしく開ける碧波を見て、ああ、やっぱりこうなるのか……と項垂れた。まあ、こそこそとつけ回されるよりかは幾分気が楽だと思うけどね。


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