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2-5 真夜中の会話

 ――自宅。

 

 時刻は午後十一時を少し過ぎた頃。

 俺は碧波と別れ、ようやく帰宅した。家の中は暗く人の気配はない。まだ母さんは帰っていないようだ。


 普段しない魔族退治の副作用のせいか身体が休息を求めている。眠気もひどい。

 そんな訳で風呂に入ってさっさと眠りにつきたかったのだが、帰宅してすぐ姿を現すリラ。その姿は変わらずジャージのままである。


 「お疲れのようじゃの、お前様」


 「まあ、荒事に慣れてる訳でもないしな。身体が限界なんだよ」


 「そうか。お疲れところ悪いのじゃが少し話をしておきたい……構わぬか?」


 古風な言葉遣いでそう尋ねるリラ。

 いったい何の話なのだろう。こっちは猛烈に眠たいのだが……。

 しかし、無視するのも怖いので聞かないという選択肢はない。

 

 「少しだけなら。で、話ってなんだよ」


 「昨夜、お前様を襲った魔族についてじゃ」


 瞬間。眠気が吹き飛ぶのを感じた。

 今日のどたばたですっかり忘れていたのだが、そういえば俺はその魔族に一度殺されているのだ。


 「いいか。お前様。あの魔族、憶測ではあるが――」


 × × ×


 晃成と別れた由奈はそのまま自宅に帰宅した。


 まだ引っ越しから一日も経っていないが、それでも今現在において由奈が安心できる空間であろう。

 なぜなら一歩でも外に出るといつ牙を剥くかわからない晃成の監視が待っているからだ。その緊張感は並々のものではない。それだけでも胃が痛くなるほど大変なのだが、加えて晃成の命を狙う魔族まで現れる始末。


 中でも歴代祓魔師随一の天才と謳われる天崎瀬那との予期せぬ出会いは極め付けだった。そして恐らくではあるが、協会の暗殺部隊を軒並み抹殺したのは彼女であると由奈は確信していた。


 初めて会った時に向けられたあの触れたものを斬り殺すような鋭い瞳。

 あれは間違いなく協会という存在を良く思っていないものの目である。

 いったいどうして天崎家の人間が協会に敵対するのかは由奈にとって全くの謎ではあったが、それでも由奈としては警戒しない訳にはいかなかった。

 生まれてきて初めて経験する生きた心地のしなかった時間。


 これだけのことがあって疲れていない方がおかしいというものだ。 

 

 荷物を乱雑に置き、電気も点けずそのままリビングに置いてあるソファの上に倒れ込む。

 体重によって身体が沈むのを感じながら由奈はそっと目を閉じ、そして自己に埋没する。


 少し前――由奈がまだ小学生だった頃。

 彼女の髪が今ほど白くなく黒と白の斑模様だった頃。

 そして、まだまともに祓魔術の一つも扱えない見習い以下だった頃。


 彼女には憧れる一人の姉弟子がいた。

 彼女より一つ年上の綺麗な黒髪の少女。

 姉弟子の少女はいつも優しく、強く、そして困ったことがあれば助けてくれた。


 それは忘れもしない。

 由奈が師匠である父親から家術である氷晶術を習った時の出来事だ。由奈は生まれつき通常の祓魔師と比べると比べ物にならないほどの膨大な潜在魔力を所有していた。

 そのため通常の祓魔師と同じ感覚で祓魔術を展開すると魔力が流れ過ぎ失敗することが多々あった。

 

 その日もいつもと同じように修行が始まった。

 しかし、氷晶術はその特性として威力は強力だが魔力コントロールを少しでも誤ると暴発するほど繊細であるため、潜在魔力量の多い由奈には不向きな祓魔術である。

 あの時の恐怖は忘れない。


 ――逃げ出したいほど怖かった。


 でも。魔力コントロールが得意であった姉弟子のサポートのお陰で由奈は何とか修行をクリアすることができたのだ。


 あの時の手の温もりと優しさは今もなお心の中に残っている。

 だから、本音を言えば姉弟子を意識不明にした奴を許すことはできない。浮かび上がる痛々しい姉弟子の姿。もしも、本当に晃成がやったのだとすれば、その時は――

 …………。

 

 リリリと音がした。

 ポケットの中で鳴る電子音に由奈の意識は引き戻される。


 「もしもし。お母さん?どうしたの」


 「どうしたのじゃないわよ。あんた大丈夫なの?厄介な任務に駆り出されたのでしょう?」


 「厄介な任務って……。協会幹部の妻がそんなこと言ったらダメじゃん」


 アハハハと笑う。

 相変わらずの母の様子に少し安心する。


 「本当のことだからいいじゃない。それで、由奈ちゃん。本当に大丈夫なの?」


 「大丈夫だよ。お母さん。何とかやっていけているから」


 力強く言い切る。

 そしていつもの変わらない母のド直球な発言に少しばかりの元気を貰い、自らを奮い立たせる。

 きっと大丈夫だとそう信じて――


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