1 プロローグ 上
こんにちは!
天崎ヒロと申します。ページを開いて頂きありがとうございます。
この作品は私が面白いと思ったものを自分なりのエンタテイメントとして昇華しようとした作品です。
つまり自己満足です!
そんな自己満足作品ですが楽しんでもらえれば幸いでございます!
「何でだよ!どうしてテメェが選ばれる。その人の隣にいるべきなのは俺のはずなんだよ。何で……どうして、どうしてなんだよ!俺はまた捨てられるのか。お前はいらない奴だとそう言うのかよ!」
口から鮮血交じりの唾を飛ばしながら絶叫する赤髪の男。その男の足元には監察官の猪上麗華が腹から血を零しながら地を舐めている。まだ、息はあるが急いで助けなくては命が危ないのは明白だ。
まあでも、男の方をどうにかしないことにはどうにもならない。アレが大人しく救命活動を見逃してくれる訳ないし、隙さえあれば殺そうとしてくるのは請け合いだ。
肩で息をしている満身創痍の赤髪の男。俺とリラの地道な努力と猪上麗華の捨て身の特攻で奴を瀕死にまで追い詰めることが出来たが、まだ倒れる気配はない。あと一歩足りないのだ。
男が羽織っていた黒のコートはボロボロで服の原型を留めておらず辛うじて残っている布の部分は血が滲んでいる。
モデルのような端正な顔も傷だらけで右目は血で完全に潰れてしまっている。しかも右腕に至っては肘から先がない。今もどくどくと凄まじい勢いで血が噴出し赤く染め上げられていく芝生。
誰が見ても痛そうで、重症だ。
普通、立つことはおろか意識があること事体が不思議なくらいの大怪我である。
それでも彼が立ち続ける理由。それは単純に男が人間ではないからに過ぎない。人の尺度なら重傷である傷も他の生物ならそうではない、ただそれだけのことである。
奴らは魔族と呼ばれる。
人間と長きに渡って敵対してきた人ではないもの達。
その中でも赤髪の男は吸血鬼と呼ばれる最高位の魔族だ。吸血鬼はその並外れた生命力と戦闘力の高さから〈魔族の王〉と呼ばれ、人間と魔族の両方から恐れられている。
とはいえ今の赤髪の男は吸血鬼でもこのままいくと死は免れない。だが男は己の命など度外視した血走った目つきで俺を睨みつける。
いったい何がそこまでさせるのか。
どうしてその傷で立てるのか。
それは納得のいかない出来事に対する怒りがあるからだ。胸の裡から込み上がる答えを聞くまでは死ねないという想いが彼を奮い立たせている。
「――どうして……俺の大事な人を奪おうとするのか!答えろよ!赤塚晃成!」
残り僅かの寿命を削って赤髪の男が吠えた。それは意地と呼ばれる意思。
だから。俺はその叫びを真正面から受け止める。こいつは敵だが、応えてやらねば死んでも死にきれないだろう。
「お前じゃこいつの夢――いや、願望は叶えられないからだ」
「……なんだと。願望ってなんだよ!!」
目を見開き驚愕の顔色を浮かべる。
「ほら。知らないだろう。だが、俺は知っているし、その願いも叶えてやることができる。何も知らない縋るだけのお前は捨てられて当然だ」
「ふざ、ふざけるなぁぁぁああああああああ」
咆哮し血を振りまきながら突貫してくる怠惰なる真祖の眷属。
もう潮時だろう。あいつには悪いが、終わりだ。
「いいか、リラ。あいつを、お前の息子を殺すぞ」
背後に佇む金髪の女に向かって口を開く。
金髪の女。
名前をリーラ・リーベ。元真祖で今は俺の使い魔。
背は俺と同じくらいで百七十ちょっと。豊満な胸を強調した血を連想させる赤いドレスを纏っている。
「――ああ。それが妾とお主の契約じゃからな。好きにせい。覚悟ならとうの昔にできておる」
「――そうか」
――残念だ。
俺は肘から先が黒い青竜刀に変形した右腕を構え、一片の躊躇も何もなく真っ直ぐソレを振り下ろした――
§ § §
始まりはいつも突然で。
終わるのもまた唐突。
そのことに気付くのはいつも終わってから。
だから人は後悔をしながら生きていくのだろう。
これは後悔の中で生きていく命の物語。
歪な命の物語――