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恋するメイドさんが不治の病を発動しました。  作者: 染色
第一章 双璧の万華
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9 二人は秘密の関係

ーフルハウス邸執務室


父上の執務室に戻ると、状況報告を求められた。僕たちは敵の情報、見た目や装備、加勢してくれた勢力の事などを報告した。

途中、カトレアさんは彼女から見た意見などを補足をしてくれた。


そして、その勢力のリーダーであるツバキさんと接触し、交渉の機会を得られそうな事などを話した。


「そうか、ご苦労だった。」


思った以上に成果のあった報告に、父上は満足そうに頷いている。

結果的にではあるが、被害は予想よりも少なかった上に、新たな勢力と友好的な関係を築く為の足がかりを得て来る事が出来た。

運が良かっただけだが、悪くない結果だと思う。


「して、そのツバキという御仁はどうした?」

「はい。今日のところは一度戻り、改めて挨拶に来るといっておりました。森の方へ向かわれたようでした。」

「ふむ。森か、おかしな話だな。それにホウジョウというのも聞かぬ名だ。この辺りのものではないな。」


そういうと父上は黙って考え込んでしまった。


コンコンッ


丁度その時、部屋がノックされた。


「失礼します。父上。」


入って来たのはエミール兄上だった。


「町を調査して参りましたので、報告に上がりました。」


聞いた話によると、僕を見送ったアイリはすぐにエミールの所へ戻り、「何か役に立て!」と部屋から追い出したらしい。

アイリにだけは甘い兄上は、断り切れずに町を調査する事にしたそうだ。


「そうか。どうであった?」

「結論から申しますと、町が変わってしまった原因は不明でした。ただ、その家屋の中には住人もおり、そのだれもがこの土地のものではありませんでした。」


報告の内容は要領を得ないものだった。

勝手に住み着いておいて、理由が分からないなんてことがあるのだろうか。住み着くにしても家屋ごととは大胆すぎる。


「住人たちに話を聞いた所、『夜に寝て、起きたらここにいた。』とほぼ全員がいっております。我々に怯えており、危害を加えるつもりはない事を伝え、家を出ないようにと注意するに留めました。」

「そうか。とりあえず危険はないのだな?」

「はい。普通の町人でこちらに害意がある訳ではないようです。むしろ、訳が分からずに困っている様に見受けられました。」


それは困るだろう。

朝起きたら見知らぬ土地で、しかも武装した兵に取り囲まれていたのだ。

家があるのがせめてもの救いだが、それだって僕たち次第ではなくなる可能性がある。


「わかった。町中で殺しあう様な事態出なければいい。まずは、相手の出方を待つとしよう。」


父上は頭を抱えてはいたが、事のほか早く安全が確保出来たので、ホッとしている様だ。


「エミール、ご苦労だった。」

「ありがとうございます。」


それにしても、エミール兄上はなかなか手際が良い。結構広いはずの町中を、この短時間で調査して来たからだ。


もともとエミール兄上は、夜になるとよく酒場などに出かけているので、結構顔が広いのだ。きっとそのツテを使って情報をかき集めたのだろう。外出しないエルバート兄上では使えない方法だ。

僕は感心しながらその報告を聞いていた。






〜カトレア視点〜


パタンッ…。

エリオット様とエミール様が退室なさいました。

“わたし”だけは、まだ用があるので残るようにと言われ、部屋には“わたし”とエドガー様の二人きり・・・。

“わたし”はゆっくりとエドガー様へ近づき、ふたりは秘密の逢いびきを・・・という訳ではもちろんありません。


「カトレアもご苦労だった。君の戦いぶりは聞いている。よくエリオを守ってくれた。感謝する。」

「いえ、とんでもございません。私の使命ですので。」


エドガー様からの労いの言葉に、“わたし”は当然のことだとばかりに、お答えしました。


「はっはっはっ。使命と来たか。」


ともすれば、失礼とも取れる“わたし”の言葉に気を悪くした様子もなく、エドガー様は笑われました。


「すまんな。まだ暫くはゴタゴタしそうだ。あれのことをしっかり見てやっくれ。」

「心得ております。」

「うむ、頼む。」


やはり親としてエリオット様が心配なようです。


「・・・。もう7年になるか。」


何の前置きもなく、エドガー様が呟きました。


「はい。もう7年経ちました・・・。」


その言葉に、“わたし”も返事をします。

これはこの館の中で私達だけにわかる言葉。

二人だけの内緒ごと。


「きっと君は、私を恨んでいるのだろうな。」

「そんな筈ございません。あの時のエドガー様のおかげ様で、私は今の自分の居場所を見つける事ができたのです。」


チッ、チッ、チッ、チッ・・・。


沈黙が辺りを支配し、アンティーク風のサイドラックに置かれた時計が時を刻む音が響きます。


「そうか、そう言ってくれるのは嬉しい、だが私ではなくエリオットの、だろう?」

「ふふ、はい。ですが、感謝しているのは本当でございますよ?」

「うむ・・・。」


ゆっくりと流れる時間。

いつかこの秘密をエリオット様にも伝えることが出来るのでしょうか?


(言えるといいな・・・。)


楽しく幸せな未来を想像して、つい頬が緩んでしまいます。


「・・・時にカトレア。話が変わるんだが。」

「はい?」


1人浮かれていた“わたし”を見ながら、エドガー様が仰いました。


「君も年頃だ。いい相手の一人でもいないのかね?」

「いえ、特には。」


予想外の話題に少しだけ驚いてしまいましたが、次の言葉でその理由がわかりました。


「そうか・・・。私は、君の事を娘のように思っている。」

「もったいないお言葉です。」


そんなお言葉を頂けるとは、素直に嬉しいです。なにより、“わたし”の事を心から心配してくださっているのが伝わってきて、きっと“わたし”はとても幸せものなのでしょう。


「よかったら、ウチのエリオを貰ってやってくれないか?」

「げほっ。」


突然、何を言い出すんですかっ貴方は!?

むせてしまったではないですか!!


「な、なっなにを、わ、わた、いえ、あの私なんかではとても、エリオには相応しくないかと!だから、その・・・。」


あまりの不意打ちに、今度は本当に慌ててしまいました。


「あいつもまだまだ子供だからな。私は君みたいな、年上の女性がいいと思うんだ。」

「は、はぁ・・・。」


よし、少し自分を取り戻しましたよ。


「・・・ふむ。どうやら、まだ少し早過ぎたみたいだな。」


エドガー様は、慌てふためく“わたし”を見て、そんな事を仰いました。

本当に!です。エリオット様はまだ成人してらっしゃらないというのに。いや、もうすぐするんですけどね?

しかし、ということはですよ?こ、これが噂に聞く許嫁というやつでしょうか!?


はっ!いけない、いけませんよ、まだ気が動転していたようです。


「まぁ、ゆっくりでいいから考えておいてくれ。」

「はい。ありがたいお言葉、心に留めておきます。前向きに検討させて頂きます。」


なんか偉そうな返事の仕方になってしまいましたが、まったくどこかの政治家ですか“わたし”は?


「いい答えを期待しているよ。」


しかし、エドガー様に気にした様子はありませんでした。

ですがこのまま弄られ続けるのは、ごめんです。今のうちにさっさと部屋から退出しようと思い、“わたし”は即座に行動に移します。


「ああ、それと・・・」

「何でしょうか?」


どうやら一歩遅かったようです。

普段のエドガー様に似合わず、ニヤニヤと笑っているのを見て、ものすごくイヤな予感がしました。


「君の中では、エリオを呼び捨てなんだな。」

「〜〜〜っ!?しっ、失礼します!」


バタンッ!


今度こそ“わたし”は、逃げ出しました。

やってしまいました。やってしまいました!やってしまいました!!


退室の返事も待たず、部屋を飛び出し自室へと急ぎます。

さっきのあれはいつも“わたし”が“エリオ”の反応を楽しむ時に使う手です。

そして逃げながら、猛反省しました。


(エリオット様ごめんなさいっ!今度からは極力自粛します!!・・・でも、偶にならいいですよね?)


私の数少ない趣味・・、もとい癒しはやっぱりやめられそうにはありませんでした。


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