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恋するメイドさんが不治の病を発動しました。  作者: 染色
第二章 眠れる森の司書と師匠
70/163

70 妄想による予行練習の成果は?

一匹、二匹と倒しながら走り回り、7匹目を倒したところで彼らは撤退していった。


「はぁ、はぁ、な、何とかなりましたか?」

「は、はい。ハァハァ。これ以上は、追ってこないと思います。」


僕とツバキさんは二人とも息切れしてしまい、今は安全な場所を探している最中だ。


「カトレアたちとははぐれてしまいましたが、無事だといいのですが・・・。」

「あのカトレア殿ですよ?無事に決まっています。」


あの混戦の中でだんだんカトレアたちとの距離が開いてしまい、とうとう分断されてしまった。

最後に見たカトレアは、例のブーツで敵の土手っ腹を蹴り上げていた。あの巨体が宙を舞っている光景はなかなかに衝撃的だった。


「確かに・・・。僕たちは自分の心配をするべきですね。」

「はい。」


雨風を凌げそうな岩かげを見つけ、そこで一息つく事にした。

火をおこして暖をとりながら、岩壁を背に並んで座った。

腰を下ろすとドッと疲れが出た。


「ツバキさん。今日は本当にありがとうございました。一番に駆けつけてくれましたよね。」

「いえ、お役に立ててなによりです。何しろ戦うこと以外何もできませんので。」

「そんなことはありませんよ、本当に嬉しかったんです。」


素直な気持ちを伝えると、ツバキさんは少し照れたように俯いてしまった。


「そういえば、何でわかったんですか?」

「何で、とは?」

「いえ、他の誰も動けなかったのに、ツバキさんだけは迷わず駆けつけてくれたのがどうしても不思議で。」


ああ、とツバキさんは納得する。


「別に特別な事ではありません。私が前にいた所では毎日が戦の連続だったので、敵意や殺気というものに対し人よりも敏感なのでしょう。」


ツバキさんの事はあれから色々と話を聞いていた。今までの生活、彼女の立場、お家の再生としきたり。

たくさんの責任に縛られていた彼女は、自分を強く見せ続けなければならなかったのだ。

そして、実際に強くなった。


「それに殆どのことはカトレア殿に及ばないので、今さらになって後悔していることもたくさんあります。」

「でも特技はあるじゃないですか?」

「何か喜んで頂ける事がありましたか?」


最近の彼女はカトレアの影響か、僕に喜んでもらう事を基準に考えがちだ。

ツバキさんは何かあったか考えながら、何を思い出したのか自分の身体を隠した。


「あ、主様?私たちはその、お互いまだ早いのではないかと・・・。いえ、主様がどうしてもというのであれば、私と致しましても・・・」


ごにょごにょと、語尾がだんだんと小さくなっていく。


「ち、違いますよ!?脚です!脚の事ですよ?!」

「あ、脚!?主様はそういうのがお好きですか!?」


勘違いが止まらない。


「そうではなくて、脚の速さの事です!」


これ以上勘違いされてはたまらない。僕は結論を伝える事にした。


「初日にも思いましたが、ツバキさんはとても俊敏です。その速さを武器に戦えば、カトレアが相手でもいい所まで行くんじゃないでしょうか?」

「なんと、主様は私のことをそのように評価してくださっていたのですね。私は幸せ者です。」


決して勝てると言わないところが、僕の優柔不断なところなんだけど、そこはいつものように華麗にスルーだ。

最近このスキルの熟練度が最も上がっているのだ。


しかし何だろう?ツバキさんの顔色が悪い気がする。


「もしかして、怪我してるんですか!?」

「いえ、大した事ありません。」


迂闊だった。

外傷がないからわからなかったけど、7匹も相手したのだから、もっと気をつけてあげなくちゃいけなかったのに。


「いいから、見せてください。」


慌てて傷を確認しようと、ツバキさんのメイド服を掴んだ。


「ふわぁっ!?お、お待ちください。主様!落ち着いて、せめて明かりを落としてください?」

「し、失礼しました。」


落ち着け、僕。

無理やり女性の服を脱がすなんてまるっきり変態さんだ。

僕は一度焚き火を消してから、改めて座り直した。


「このメイド服はワンピースになっているので、少しお待ちください。」


真っ暗で何も見えない中、シュルシュルと衣擦れの音だけが聞こえてくる。


「主様、脱ぎました。・・・よ、よろしくお願いします。」

「はい。では、痛むのはどの辺ですか?」

「左脇腹の辺りです。後は同じく左足首が少々痛みます。」

「わかりました。」


僕は後ろから腰に手を伸ばし、暗闇を手探りでツバキさんに触れると、暖かく柔らかい感触が伝わってくる。


「あの、主様、そこではありません。もう少し下の方です。」

「えっ!?下?こ、ここですか?」


彼は言われた通り下に手を伸ばしていく。


「はい、その辺りです。」

「わかりました。で、では、いきますね。」


最近少し慣れてきた癒しの能力を発動する。

ポワッと光が灯り傷が治り始める。


「な、なんだか光ってますよ、主様?」

「言わないで下さい。僕もいま気づいたんです。」


すっかり忘れていた。これでは何のために火を落としたの分からない。

むしろ光の中にぼんやりと浮かび上がるツバキさんの肢体が余計に色っぽく見えてしまう。

僕たち二人して黙り込んだまま、気恥ずかしい雰囲気の中治癒を続けるのだった。


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