6 圧倒的・・・ではない
遊撃隊は本隊から少し遅れて突撃する。
僕たちは全体を見渡せる位置に着くと、動くタイミングを見計らっていた。
もっとも、相手は見渡しのいい草原の中に布陣しており、伏兵などの心配はないだろうというのがこちらの見解だ。
やはりこういう時は余程の油断がない限り、地の利がある方が有利になる。しかも今回は半分防衛戦だ。
作戦は極めてシンプル。
本隊が正面から当たり、遊撃隊が相手の隊列を乱すように馳けまわる。
数はこちらが明らかに不利なので、囲まれない様に敵を散らすのが遊撃隊の仕事だ。
その為、僕らの働き次第で戦況が変わってしまう重要な役割を担っている。
ガンッ!
ガイ〜ンッ!
キンッ!!
そうこうしている内に本隊同士がぶつかった。あちこちで武器が火花を散らし、馬が、そして人と人とが入り乱れる。
「では我々もいきますっ!!突撃ぃぃぃっ!」
遊撃隊の隊長の掛け声で僕たちも動きだす。
領主の血筋とはいえ、今回はあくまで一隊員だ。雄叫びが響く中、僕らはひと塊りとなって左側から迂回し、そのまま敵の薄い所を狙って横から突っ込む。
「うわぁぁぁっ!」
僕も怖さを吹き飛ばすように、大声を上げてみんなに続いた。
「ハァッ!!」
カトレアさんのハルバードがゴゥッと音を立てながら振り抜かれる。
「ぐぁぁぁっ!」
目の前の敵兵が倒れ・・・。
「フッッ!!」
「ぐふっ・・・」
返す刃でまた一人倒れる。
(うわっ、カトレアさん凄いっ!!)
カトレアさんは一撃一殺で仕留めていく。
ふと周りを見ると僕の周りはカトレアさんを先頭に騎士団の皆さんに囲まれ守られていた。
やっぱり僕は足手まといだ。指揮官ではないけど護衛対象にはなってしまう。
(出来るだけみんなに負担をかけない様にしないと)
カトレアさんが通った後には比喩ではなく道が切り開かれていく。
僕は時折迫る刃を、何とか受け流しながら、必死についていくのがやっとだった。
やがて先が開けたかと思うと同時に混戦の中を抜けた。
騎兵は機動力が命だ。
僕たちは敵の隊の中を走り抜けながら、敵を二分する。そして休む間も無く、弧を描きながら再び横っ腹に突っ込んだ。
騎兵は敵から距離を取りすぎると弓矢の的になってしまう。なので味方を巻き込む可能性のあるところを選びながら移動し、優先的に弓矢隊を潰していく。
あっという間に周り一面に広がる血の匂い。最も僕にそんなことを気にする余裕もなく、戦闘は段々と過熱していく。気付けば遊撃隊は8騎にまで減っていた。
(あ・・っ。)
今更ながらに、これが戦であることを思い出す。少し距離を取り、馬を休めていた僕たちの周りにも疲れが出始めていた。
「大丈夫ですか?」
自分の方がずっと大変な筈なのに、カトレアさんはそんな素振りを少しも見せずに僕の事をを気遣ってくれる。
「大丈夫です。まだ、行けます。」
「そうですか・・。何かあったら、すぐに言ってください。」
「はい、ありがとうございます。」
実際、僕はただ守って貰っているだけだ。
そんな僕が真っ先に弱音を吐くわけにはいかない。
けどカトレアさんの心配する気持ちが、今は素直に嬉しい。僕は少しでも心配をかけまいと、気合いを入れ直す。
僕は戦場に目を向けると素人目にだが、戦況は互角に感じた。地理に明るい分何とか戦えてはいるが、長くは続かないだろう。正直に言うともう少し善戦するだろうと思っていたくらいだ。
「不味いですね、相手の兵の練度が思った以上に高いです。彼らは明らかに戦い慣れています。」
「やはり、そうか・・・。そうなるとこの部隊の責任はかなり高くなってくるな。」
カトレアさんと部隊長さんが戦場を見渡しながら戦況を分析している。
多分、このまま何かしらの決め手を見つけなければ、かなり被害が出てしまうのだろう。
そんなことを考え、再度突撃を仕掛けたようと部隊長さんが指示を出そうとした時だった。
ワァァァァッ‼︎
大きな蹄の音と共に敵軍の騎馬隊がこちらへ向かってきた。
その数は18騎
周りでチョロチョロと動き回るこの隊を一気に潰し、数で押しきろうというのだろう。
「くっ、数が多い。だが今からでは逃げ切れまい・・・、仕方ない、総員!二手に分かれて迎え撃ち、そのまま反対側まで駆け抜けろっ!」
僕たちは直ぐに行動を開始した。
「エリオット様、剣を右手に持って下さい。私たちは左側を駆け抜けます。横を通る際には馬を狙って下さい。」
「わ、わかった!」
両側から全力で駆け抜ける騎馬隊はあっという間にその距離を縮め交差する。しかし、その数十秒間でも勝敗を決するには十分だった。