4 僕の騎士様
部屋に戻って一人掛けの椅子に座りながら、先程の話を思い出す。
「・・・。」
カトレアさんは、ホットのハーブティーを入れた後、黙って傍についてくれている。何も言わず、ただ僕から話を切り出すまで待っている。
(静かだ・・・)
これから戦場に行くかもしれないというのが嘘みたいだ。
だんだんと心が落ち着いていくのが分かる。
しばらくの間そうしていると、僕はやっと決心がついて、先程父上から聞いた話を切り出した。カトレアさんはただ頷くだけで、黙って聞いていた。
「そう言うわけで、ぼくはこれから戦いに行かなくちゃいけない。」
「左様でございましたか、よくわかりました。それで・・・エリオット様はどうなさるのですか?」
カトレアさんに聞かれ、少し考えた後正直に答えた。
「・・・わからないんだ。ただ、僕には剣を振るくらいしか出来ない。」
「それはつまり、前線へ行かれる・・という事ですね?」
そうだ。答えは出ているんだ。
でも。
「でも・・・でもっ、怖いんだ!僕はカトレアさんみたいに強くないし、カール君にすら勝てない!!」
僕は自分でもびっくりするくらいの大きな声をだした。
そう、僕は怖いんだ。行かなきゃいけないのはわかっているのに、その一歩が踏み出せない。
情けなくて、恥ずかしくて僕は俯いてしまった。
怖くて、カトレアさんの顔が見れない。
自分の主人がこんなでは、がっかりさせてしまっただろうか?いや、それくらいならまだしも、呆れているかもしれない。
「・・・・・・」
ふわっ。
と、そのまま黙ってしまった僕は、つぎの瞬間には花のような香りにつつまれていた。
(えっ!?僕、今カトレアさんに抱きしめられてる!?)
びっくりして固まってしまった僕に、カトレアさんが語りかけてくる。
「エリオット様・・・。」
ゆっくりと、優しく。小さな子に言い聞かせるように。
「戦場を怖いと思うことは当たり前です。むしろ、怖いと感じなくなってしまう方が、よっぽど怖いと私は思います。」
「・・・うん」
抱擁を解かれ、カトレアさんは僕の瞳を覗き込んでくる。
「しかしながら、あなた様には私がいます。」
綺麗な深紅の瞳。そこには力強い意志の炎が揺らめいていた。
「『アイギスロード』の名を頂いた私が、必ずあなた様をお守り致します。あなた様の剣となり盾となり、行く道を照らし導きましょう。」
「えっ?あの・・・。」
あまりに真摯なその言葉に、僕は思わず赤面してしまった。
「ですから、エリオット様。ご自分の信じた道をお進みください。私は何処まででもついて参ります。」
これでは、まるで口説かれているみたいだ。
座っている僕よりも低い視線で上目遣いに見つめられ、その姿はまさに姫の前に跪く騎士のよう。
これでは、男女逆だっ!?
・・・でも・・凄く、かっこいい。
思わず、「このまま僕を連れて逃げてください!」とか言ってしまいそうだ。
真面目な話をしているのに、僕は不謹慎にもそんなことを考えてしまった。
けれど、覚悟は固まった。
彼女にここまで言わせて、怖いなんて言っていられない!
「ありがとう、カトレアさん。僕、頑張るよ。」
「はい。どこまででもお伴致します。」
そう返事したカトレアさんは、すごく嬉しそうだった。