32 発動
・・・・・。
(・・こ、こは・・・・?・・・・・・・・痛っ!)
激しい痛みに思わず蹲る。
ゆっくりと意識が覚醒していく、身体中に響く激痛に呻きながら、崖から落ちた事を思い出す。
(そうか、この上から落ちたんだ・・・)
周りは先程より暗く、全くと言っていいほど何も見えない。
(早く町に戻らなくちゃ・・・)
腕だけじゃなく全身にも痛みがあり、特に右の足首が酷い。
(・・・まさか、折れてる?)
腕に刺さったと思っていた矢はどうも深く掠めた程度で済んでいたようだが、その傷は深く結構な量の血が流れていた。
視線だけを巡らせて辺りを見回すと、ホゥホゥ、ギーギーと暗闇の中から生き物の声だけが聞こえて来る。
時間はどのくらいたったのか、ここは一体どの辺りなのか。
何の情報もない暗やみの中に一人、しかも満足に動くこともできないと考えてしまうと、途端に得体の知れない不安が押し寄せてきた。
ドロドロとした気配が身体中に纏わり付き、『死』という恐怖に動けなくなる。
ガサ。
「ヒッ!」
草陰から聞こえて来る物音にも過剰に反応し、上手く後ずさることも出来ないまま暗闇を怯えながら凝視する。
(・・・・いやだ、いやだいやだいやだっ!死にたくない!死にたくないよ!!)
足首を押さえ、腕を押さえ縮こまる。
いっそのこと目が覚めずに力尽きていれば良かった。
そうしたらこんなに怖い思いもしなくて済んだのに。
しかしそんな死の恐怖の中で、エリオットはふとカトレアさんの顔を思い出した。
『エリオット様なら、大丈夫、絶対に大丈夫ですから』
そうだ・・・カトレアだ。
僕を信じて送り出してくれたカトレアさん。
彼女の方は無事なのだろうか?
僕がドジしたから、きっと先に酒場についてしまって、心配しているかもしれない。
(ちゃんと逃げられたのかな、死んでしまったりはしていないよね?)
自分の事もそうだけど、カトレアさんの事を気にし出したら、再び身体中がゾクッとした。
そうだ、僕はいつも守られていた。
不安な時、困った時、戦いの前に恐怖した時・・・そして今回も。
考えれば考えるほど自分では何もしてこなかった事を思い知る。
ついさっきだってカトレアさん助けにきてくれる事を心のどこかで期待していた。
しかし今、不可避であるかのような死を目の前にして、ようやっとエリオットは後悔をする事になる。
自分を守る為に彼女まで危険に巻き込んでおきながら、自分は先に諦めようとしていた。
僕がこのまま力尽きてしまえばカトレアさんは絶対に自分を責めるだろう。自惚れかも知れないけれど、それだけ大事にしてもらっている自覚はあるのだ。
(このままでは終われない・・・)
これはきっと僕の未練だ。
こんな終わり方で納得できる訳はないし、何より一度カトレアさんの事が気になり出したら、何が何でも無事な姿を確認するまでは死んでなんかやらない。
(必ず生きて帰ってやる・・・)
“心の奥深く、精神、いや魂とも呼べるモノに意思が灯る。”
それは本質であり、概念であり、力だった。
ことこの世界においてその概念は存在しなかった。
しかし、それを具現化する免罪符を得た今であるならば、“それ”は確かな能力となって発動する。
(今すぐにでも会いに行きたい・・・)
身体の奥底からジワリと染み出すその力は、容易く現実をも侵食し始める。
(困っているなら助けに行きたい・・・)
力が漲ってくるのを実感し、それは生きる気力となって体を駆け巡る。
(泣いているのなら姿を見せて安心させたい・・・)
そう願い、望み、両脚に力をグッと込めて立ち上がったところで気がついた。
(あれ?・・・・痛みがない?)
不思議に思い負傷した左腕を見てみると、エリオットの手には淡い光が灯っていた。
(なんだろう、すごく優しくて暖かい光。まるでカトレアさんみたいだ)
漠然とそんな感想を抱いているといつの間にか腕の傷が消えていることに気がついた。
(嘘!?・・・な、治ってる!?)
僕は確認のためにそっと立ち上がってみるが足の方も大丈夫そうだった。
理由はわからないけど原因はわかってる。
さっきから淡く光ってるこの光だ。
最初の方は両手のみ光っていたのだが、いまやその光はエリオットの全身へと広がりちょっとした蛍と化していた。
(うーん?とにかく今は町に戻ろう)
考えても答えの出なさそうな事に、拘ってもしょうがない。
僕はこの光が消えてしまわないうちに、どっちとも知れぬ町を目指して真っ暗な夜の森を歩き始めた。
やっと主人公らしくなってきました。
ここまで結構長かったです。
エリオット君は無事に守られキャラのポジションを脱する事が出来るのでしょうか?
これからの活躍に乞うご期待です。




