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恋するメイドさんが不治の病を発動しました。  作者: 染色
第一章 双璧の万華
3/163

3 始まりの異変


「っ…?」

「ーーっ!…やく!」


バタバタ…。


翌日、僕は館内を慌ただしく駆け回る音で目が覚めた。

窓の外はまだ日が昇る前で、周りはほんのりと明るくなり始めている。



コンコン。ガチャッ。


控えめにドアがノックされ、返事を待たずにドアが開かれる。


「おはようございます、エリオット様。失礼します。」


カトレアさんが入ってきた。

今日も彼女は素敵だ。


違う、そうじゃない?

寝起きで頭が回っていないみたいだ。

返事を待たずに開けるなんて、いつもの彼女らしくない。


「おはようございます。外が騒がしいみたいですが、何かあったのですか?」

「はい。少々問題が発生致しました。ご当主様がお呼びですので、身支度をお願いします。詳細は歩きながら説明させて頂きます。」

「わかりました、すぐ用意します。」


彼女はこんな時でも「急げ!」とは言わない。

けれど、どうやら本当になにかあったようだ。僕はすぐに上着を脱ごうとして・・・。


カトレアさんは何故か部屋から出ずに、ジッとこちらを見つめている。


「・・・どうしました?」

「いえ、あの・・・お手伝いしましょうか?」


ズッコケた。


「だ、だ…大丈夫だから!一人で出来るから!」

「そうですか。では外でお待ちしております。」


パタン。

何だか残念そうにそう言って、部屋から出ていった。


(もう、いつまでも子供扱いするんだから。)


朝から調子がくるってしまう。

着替えを手伝ってもらう所を想像して、ドキドキしてしまったのは内緒だ。






「失礼します。エリオットです。」

「入れ。」


ノックをして執務室に入ると、アイリを除く家族全員が揃っていた。

父、エドガー=G=フルハウス、その妻アリーナ。

その他にも執事長、メイド長、兄二人とその横には騎士団の人も何人か来ていた。


「全員揃ったようだな。では緊急会議を始める。」


父上が会議の開始をつげる。

全員簡単な説明は受けていたみたいですぐに本題に入った。

僕も、ここに向かう途中にカトレアさんから聞いていた。


事の顛末はこうだ。


早朝、いつものように庭師のおじさんが手入れを始め、館内では朝食の準備に当番のメイドさんが起き出していた。

まだ日も登るか登らないかという暗さの時間から彼らの仕事は始まる。

そのメイドさんが三階の廊下を通った時の事だ。ふと、窓の外を見ると庭師が仕事をしていた。

しかしその先、町の様子が変だった。


この館は少し小高い所に建っているので、ある程度町が見渡せるようになっているのだけど、そこにあるのはいつもの町並みではなく・・・。


いや、いつもの町並みに見知らぬ建物や店らしきもの、畑といったものが追加されていた。

つまり、たった一晩で町の規模が大きく広がってしまっていたのだ。


それにその家屋は見たことのない形状をしており、明らかにこの辺では見かけない異なる造りをしている。

それだけではない。さらにその先、町の外の高原には武装をした集団らしきものが旗を掲げて陣を敷いていたのである。

それを見た彼女は大慌てでメイド長、執事長に報告。館内は緊張に包まれたのだった。



そんなわけで現在この町は、厳戒態勢に入っている。



「さて、何処から現れたか判らぬ家屋については、警戒をした上で今後調査をしていく。今問題なのは武装した集団の方だ。」


父上が問題を提示すると、騎士団の方から一人の男が前に出てきた。団長補佐官のカルロスさんだ。


(あ、カール君のお父さんだ。)


「調査の結果を報告させて頂きます。まだ確認中ですが、相手の戦力は約300程、その内騎兵が50に歩兵が250といったところだと思われます。また、統率がとれている感じからして、盗賊などではないと推測しますが、所属は不明です。」

「うむ。皆に集まって貰ったのは、こちらとしてどう対応するかという事だ。盗賊ならすぐにでも殲滅しに動けばいいだけなのだが。」

「我々が今すぐ動かせる戦力は騎兵40と歩兵120。戦力としては不利と言わざるをえません。騎兵が同程度なのが唯一の救いです。」


父上の言葉を、カルロスさんが補足しながら会議は続いていく。


「皆の意見が聞きたい。」


父上が全員の顔を見渡す。


「畏れながら。」


エルバート兄上が最初に声を上げた。


「相手の目的はわかりませんが、いきなり兵を向けてくるというのは、いささか無礼であると思います。」

「しかし、他国の使節団であったらどうするのだ。せめて相手に戦う意思があるのかどうかだけでも確認した方がいいのではないか?」


エルバート兄上の意見に対し、エミール兄上がすぐに様子見を提案する。

いきなり意見が分かれた形だ。


「普通は先に挨拶の書状の一つでも届けさせると思うがね。」


エルバートがすぐに返した。

確かにそうだ。これでは戦う意思ありととられても仕方がない。


「普通に考えれば、町に現れた家屋と関係があるに決まっているだろう。」


一方、エミール兄上の意見も尤もだった。

もしそうなら、勝っても負けてもお互いに遺恨が残るだろう。いや、何としても勝たなくてはいけないのだけど・・・。


「私からも一つよろしいか?」


そんな中に割って入るものがいた。

騎士団団長トーマス。老齢ながら屈強な戦士である。

豪快な白髭が迫力を感じさせる。


「もし、戦う意思を確認する場合、騎士団から一人ないし二人を伝令役として出すことになります。私も部下の命を預かる身、決断は慎重にお願いしたい。」


ここで流れが少し変わった。

つまり、兵を無駄に死地へ出したくないので、最初から戦いますよ。と、遠回しにエルバートを支持したのだ。


「どちらにしても敵は町のすぐそこまで来ています。動くなら早い方がいいでしょう。」


カルロスさんが父上に視線を送り、最終決定を仰ぐ。


「うむ。決まったようだな。では直ちに敵を向かい打つ!各自持ち場につけ!解散!」


皆が部屋を飛び出していく。

静かに事の成り行きを見守っていた母上も急ぎ出て行った。おそらくアイリのもとへと向かったのだろう。


「それと、お前たちにはまだ話がある。三人とも残れ。」



そんな中、僕たちは部屋に残り、父上の言葉を待つ。


「さて・・・。私はしばらくここから動く事が出来ない。」


父上はまずはじめに、そう切り出した。

表情は変わらないように見えるが、少し緊張しているようだ。


「よって、お前たちには私の代わりに参戦してもらいたい。どう動くかはそれぞれの判断に任せる。」


ゴクリ。

誰かが唾を飲む音が聞こえた。

当然だ。これは領主としての責務だ。

いつかはこういう日が来るかもしれないと思っていたし、その為に兄弟3人とも多少なりとも訓練を積んでいる。

けれどあんまりに急過ぎる。他の2人は知らないが、僕に至っては覚悟も何もない。


「何か質問はあるか?」


誰も答えるものはいない。


けれど、これは領主として相応しいかどうか、試されているとも言える。

全ては自分次第だ。


「よし、わかったら直ぐに行動しろ。」

「「「はい。失礼します!」」」


父上は沈黙を了解と解釈したのか、僕たちは三人同時に返事をして退室した。



部屋を出ると、三人のメイドさんが待っていた。


エミール兄上の専属、ニーナ=ハミング。

エルバート兄上の専属、リアン=アイリスフィール。

そして、僕の専属、カトレア=アイギスロード。


「おいニーナ、行くぞ!」

「は~~い。」


エミール兄上は、僕たちの事を気にする事もなくニーナさんに声をかけると、さっさと行ってしまった。

ニーナさんはこちらに(というか僕に?)バイバ~イと手を振るとエミール兄上について行った。


「エリオット。」

「はい、兄上。」


エルバート兄上が僕に声をかけた。


「私は今回、後方支援にまわる。運動が苦手な私が戦場に出ても、役に立たないからな。」

「そんなことは・・・」

「余計な気遣いは必要ない。自分の力量くらいちゃんと把握している。」


確かに、部屋に篭っているエルバート兄上が、運動をしているのを見たことがない。


「お前がどうするかは知らないが、気をつけろよ。」

「ありがとうございます。兄上もお気をつけて。」

「ああ。」


そう言うと、エルバート兄上も行ってしまった。

リアンさんは、こちらに軽くお辞儀をすると、間を置かずにエルバートの後に続く。


「エリオット様。大丈夫ですか?」

「え?あ、あぁ、うん。大丈夫だよ。」


一人残されて、ボーッとしていた僕にカトレアさんが声をかけてくれた。


「そうですか。では一度部屋に戻られますか?」

「・・・はい。」


先ほどのエルバート兄上との会話から、ある程度事情を察したのだろう。

カトレアさんは何も聞かずにそう提案してくれた。

僕は、先導するカトレアさんに黙ってついて行った。

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