表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋するメイドさんが不治の病を発動しました。  作者: 染色
第一章 双璧の万華
1/163

1 プロローグ 〜グリモワール〜

皆さん始めまして。今回初投稿となります。

かなりの見切り発車ですが、生暖かい目で見守って下さい。

なにぶん初創作なので不定期更新になりそうな予感がしますが、よろしくお願い致します。

プロローグ



晴天の中、町は賑わいを見せていた。


町中にはたくさんの人が行きかい、その道を歩いているものも家族連れや職人、兵士と様々。

しかし皆が楽しそうに話し、中には笑い声も聞こえてくる。


大通りには出店が並び、それらのどの店にも「お祝い」や「ご婚約」といった文字が躍っていた。地域特産である葡萄酒、記念のお菓子などが売られ、中には硝子細工や装飾品なども並んでいる。


この地域の領主による公式な婚約発表。

これからこの町では3日間祭りが続いた後、お披露目が行われる予定になっている。

今日はその1日目であった。


ムール大陸ジェルミン王国。

その城下町である王都を中心に北、東、南、西と領主が治めている小国で、その周りにはいくつかの隣国に囲まれている。

ここイゼットの町はその東側、通称イーストゲートと呼ばれ東から入国する行商人の管理や周辺の治安維持が主な任務になる交易都市である。

戦になれば最前線となることもある為、ある程度の軍備はあるが、普段はごく普通の田舎町である。


さて、今回の婚約発表。

いつもならここまで大袈裟な婚約発表などしないのだが、今回ここまで大々的にすることになったのには、ある理由があった。


一つ、場合によっては対立、戦になる可能性のあった家同士の婚約であった事。

一つ、ある事件により混乱していた町民を速やかに安心させ、治安を維持する事。

一つ、またその事件の事後処理及び、解決しなくてはいけない案件などがまだ山積みである事。


つまるところ、色々と政治的な意味合いが強い婚姻だった為、このような形で行われることになった。

町民も取り敢えずの平穏を約束されてホッとし、誰もがその婚約を喜んでいた。


しかし、その中に一人ものすごく不機嫌にしている少女がいた。


「ここに、姉上の婚約者とやらがいるのですね。」


少し癖のある黒髪に赤いリボン、小動物のようなクリっとした目に紅い瞳が特徴的なその少女は、両手を腰に当てたポーズで大通りの奥を睨みつけている。

服装や見た目はどうみても女の子なのに、何処となくボーイッシュな感じのする少女だった。


また、どこをどう歩いて来たのだろうか。その履物や服の裾などが汚れてしまってはいるが、それが上質なものであることは誰からみても明らかだった。


「私の尊敬する姉上を政略結婚の道具になどさせません!」


その少女は怒っていた。

勝手に婚約を決めて来た母親に、そしてその事に対し当然のように了承した姉自身に対しても。


「まずは、相手の情報から探らないと・・・」


そういうと、少女は大通りの人混みの中へと消えていった。






突然ではあるが、ここで今回の発端となった事件の話をしよう。



― 約2年前 ―


その夜、とある屋敷で宴が催されていた。

外は秋のひんやりとした風が吹いていたが、屋敷の中からは暖かな明かりが漏れていた。


イゼット地方領主、フルハウス邸

今日はフルハウス家の長女にして4人兄妹の末っ子であるアイリーン=フルハウス10歳の誕生会だ。

一人前として認められる12歳が一般的なお披露目会だが、上が兄3人ということもあって、彼女は特別可愛がられていた。

今回は家族と付き合いある商人や役人といった身内中心の小さなパーティーだ。



〜アイリ視点〜


「アイリおめでとう。」

「もう、本当に大きくなって。」

「ありがとうございます。お父様、お母様。」


父と母にお祝いの言葉をかけられて、私は素直に感謝の気持ちを伝えます。


その様子を見ていた3人の兄達も各々のプレゼントを渡すべく私に声をかけてくださいました。

ちなみに今着ているドレスは両親からプレゼントで新調してもらったものです。


「おめでとうアイリーン。もうすぐ大人になるおまえには俺の直筆『いい男の見分け方』を贈ろう。お前は特に可愛いので、私は変な男に引っかからないか心配だ。」

「あ、ありがとうございます。私にはまだ早いと思いますが、ありがたく頂いておきます。」


長男、エミール=フルハウス。

優男風の顔に、少し頼りない感じがあるこの兄の方こそ、女癖が悪く悪い噂の絶えない人です。でも妹の私に対しては優しく、あれこれと気にかけてくれます。

兄として尊敬できないので、私はこの困った兄が正直苦手です。しかし不思議と憎めないのはきっと裏表のない性格のせいでしょうか。


(いえ、裏が表かしら?)


そんなことを思っていた矢先、次の兄がプレゼントを手渡してくださいました。


「私からは、この間来た行商人から手に入れた、辞典をプレゼントしよう。内容も幅広く紹介されていて、教養を深めるには最適だろう。」

「まあ!高価なものをありがとうございます。エルバート兄様。」




次男、エルバート=フルハウス。

普段から物静かで、あまり会話をすることはありません。

とにかく本が大好きで、ほとんど部屋に籠っています。


「これからはもっと勉学に励みますね。」

「うむ。」


ちょっと大袈裟に喜んでおくことも忘れません。

以前私の女友達が「どことなく物憂げな表情がいい!」と評価していましたが、私にはよくわかりません。


しかし宿題などでもよくお世話になっていますし、いいお相手がいないようでしたら、今度紹介してみましょうか。

きっと喜んでもらえるはずです。


ふふっ・・・、そう!私はできた妹なんです。

あ、ちなみに彼女は私と同い年の10歳で、凄く可愛い子ですよ?




最後に三男、エリオット=フルハウス。

武術も学問も人並みですが、次期当主の兄達の役に立つべく日々努力しています。

最近は、博識なエルバート兄様のようになりたいとかで、普段から伊達メガネをかけています。


「エリオ兄様は何をくださいますの?」


こちらから声をかけて、ハードルを上げてみます。

さて、何を用意して下さったのでしょう。


「ふふふ。よく聞いてくれたね。僕からはこれだ!護身用の短剣!!」


エリオットお兄様は、綺麗な装飾がされた紅色の短剣を手渡してきました。

サイズ的には果物ナイフより大きいくらい。

ダガー?というのでしたか。護身どころか、どうみても実戦用でした。


「ありがとうございます。でもお兄様、女の子に短剣とは如何なものでしょうか?」


まったくです。

この兄は妹を何だと思っているのでしょう。

そう言いつつも綺麗な装飾が大変気に入ったので、こうしてしっかり両手で抱え込んでいるわけですが。


歳が近いこともあって、エリオ兄様とはこうした気安い会話をする事が多いです。そして唯一、私の本性を知っている相手でもあります。


自分で言うのも何ですが、表向きの品行方正でお嬢様な私。そして気が強く好奇心旺盛な本当の私。

あ、決してお転婆と言うわけではありませんよ?はい、お転婆ではありません。


まぁ、そんな感じなのです。


その後は、他の招待客の方々からもいろいろとお祝いの言葉や贈り物をもらい、主賓として両親とともに挨拶をしてまわりました。




パタン。


とてとて、ポフッ。



そして戻ってきました。

私の部屋。


パーティーもお開きになり、ドレスもそのままにベッドへと飛び込みます。


「はぁ~。流石に疲れました。」


・・・・・・、ゴソゴソ。


ふと、思い出して私はパーティーの間ずっと持ち歩いていたプレゼントを取り出します。


「えへへ~。」


思わずニヤけてしまいました。

紅色に輝く鞘が月明かりで浮かび上がり、綺麗な細工がより神秘的に見えています。



ふぅ、正直に言いましょう。


私こと、アイリーン=フルハウスはエリオ兄様に恋をしています。


あ、勘違いしないでほしいのですが、別に「エリオ兄様のお嫁さんになる!」とか思っている訳ではありません。

確かに?昔はちょっと夢見ていた事もありましたけれど?


ただ・・・。

そう、ただちょっとばかりブラコンをこじらせてしまっただけです、・・・その筈です。



そんな私の恋路には、大きな障害がいくつかあります。

さしあたっては、私のエリオ兄様の隣を、さも当然であるかのように占有している、『あの女』が恋敵です。


それはもう甲斐甲斐しくお世話をして、傍から見ると姉さん女房のようで、そんなお似合いの二人。


(くぅぅっ、羨ましい~~っっっ。)


バタバタバタッ


ベッドの上で手足をバタつかせて悔しさをまぎらわせます。

そんな時でした。



ゴゴゴゴゴ・・・。


突然地鳴りがして、妄想に耽っていた私の意識が、現実に戻されました。


「最近多いですわね。」


実はここの所、よく地鳴りがするのです。

実際に地震があるわけではないのですが、なんとなく不吉です。


「こういう時はさっさと寝てしまいましょう。」


私はドレスを脱ぎ捨てるとネグリジェへと着替え(これでも淑女なのだ)、嫌なことを忘れるようにベッドにもぐり込むと夢の中へと旅立ちました。



事の起こりは、そんな私の誕生会が行われた翌日のことでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ