第一話 『骨董屋』より
初投稿になります。
不慣れでありますが何卒、よしなにお願いします。
――東京・下町
都会の喧騒を抜けたその場所に、静かに佇む骨董屋『ろまん』
外観は木造の二階建て、漆喰の壁に瓦屋根。しかし、どこか西洋を真似たような造りに和が混同している和洋折衷建築と言われる建築様式だ。
店内に入ると正面奥にカウンター、内装は食器や小物なアンティークが置いてあり、カウンターの左側にある階段を上ると二階が一階と吹き抜けのL字となっており、正面のスペースには陶器や木彫りの仏像、日本画など少々値の張る古美術品が並んでいる。
最低限の明かりと吹き抜けの天井から伸びる四角い木枠の吊り灯篭が店内をほんのりオレンジ色に照らして、骨董屋『ろまん』はどこか大正ロマンを感じる店構えをみせている。
そんな『ろまん』の一階入口の右手にある倉庫で目つきの鋭い男性、店主の伊吹 志摩はある物を探していた。
(んー、ここら辺にしまったはずだが・・・
こういう必要な時に限って見つからないんだよな)
今探しているのは志摩が美術大学を卒業後に半年間、世界をまわった時にフランスの小さな雑貨屋で見つけたものだ。
在学中に貯めた資金を節約に節約を重ね、世界中の遺跡や芸術品と呼ばれるものを観てきた。その中で買い物も最小限にしていたが、ソレを見たとき無性に欲しくなり非常用の資金に手をつけてまで購入したものだ。
「おっ、やっと見つけた。オレこんな所に置いたっけかな?」
などとひとりごちながら一つの箱を目に止め、中から探していたものを取り出す。
そこには丸みのある八角錐の先に鍵がついたドアノブと鍵が一体になったようなアンティークがあった。
最初にそれを見た時、どこかにこれを差し込む錠前があるのではないかと興味を惹かれた。こういった鍵のアンティークは結構あるが、もう扉がなくなって不要になったものや小物としてデザインされた鍵だけのものがほとんどだ。しかしそれは、なんだか小物としておくには違うように感じた。要するに直感だ。
会話ブックを片手にたどたどしく店主に「これとセットになっているモノはないのか?」と聞いたが、どうやらこのアンティークは金を貸した知人が借金のカタに持ってきたが、結局知人に逃げられた為せめてもと思い置いていたと言う。
つまりあるかもしれないし、ないかもしれない。なんとも曖昧だが一度気になるとどうしても頭から離れなくなり、造形は綺麗だしキズもないため少々高く付いたが購入を決めた。
それから、その店の周囲や旅先で鍵に合う鍵穴を探したが見つけ出すことができず、日本に帰ってからもインターネットや知り合い、恩師を頼ってみたが成果はでなかった。
飾ったりもしたが、なにか欠けている気がして丁寧に包装し倉庫にしまいこんでいた。
それが今朝、いつものように店を開けると裏の家に住む老夫婦が挨拶にやってきた。歳を感じさせない元気な笑顔のご主人と、ハーフという濃い栗茶色、翠眼の奥さんの二人に頭を下げて挨拶をする。
かつてこの辺の地主だった家に暮らす老夫婦は志摩が初めて挨拶に行ったとき、友人知人に『何人かヤっている目』『実は眼力だけで相手を石化できる』などと言われた生まれつき鋭いの目を見て笑顔で挨拶を交わしてくれた優しい方々だ。縁あって骨董屋『ろまん』を任され、不安もあった志摩にとても良くしてくれた。
そんな二人が家を建て替えるついでに庭にある蔵を壊すから業者に頼む前に好きなものを持っていかないか、と話しかけてきた。ありがたい申し出に感謝しつつ、自分で良いのか聞くと、
「なぁに、古いというだけで価値のわからんもんばかりでな、ちゃんと価値をわかってもらえるもんに渡せるならそれが一番だろうてばぁさんと決めたからの」
「えぇ、息子たちも興味ないみたいでねぇ。志摩ちゃんの気に入るのがあればいいけど」
と言ってくれた。
「ありがとうございます、ですが志摩ちゃんはやめてくださいよ」
苦笑しながら言ったが本当に二人にはお世話になりっぱなしだ。感謝しきれない思いがある。
さっそく蔵を見せてもらうと、状態は良くないが十分目にとまるものはある。
志摩は気に入った古美術を手に入れると、商品と考える前に必ず身近に置いてじっくりと眺める。満足したら商品価値を考える。骨董屋を初めてから今まで、ずっと事務室に置いて飽きずに鑑賞しているものもある。そうしなければもったいないからというのは本人談だ。
(これらを売ったお金も建て替えの足しにするのだろうし、どれか気に入ったものを一つ事務室において眺めよう)
フラッシュライトを持って色々散策しているうちに一つの黒い板に目が止まり、自然と引き寄せられた。何故なら、その板の右真ん中より下に鍵穴がついていたからだ。暗いせいでただの板に見えたが、よく見ると凹凸があり鍵穴の周りがドアノブの丸座のようになってフラッシュライトの光を反射してそこだけ良く見える。
(これは・・・扉だ)
志摩の中であの鍵が頭をよぎった。
はやる気持ちを抑え、二人に礼を言うと扉(仮)を勝手口兼住居人用玄関から居間に運び込む。居間には二階へ続く階段があり、階段の下は倉庫も何もない壁だけだ。そこに扉(仮)を立てかけ、急いで鍵を探し出し今に至る。
(世界中探してもなかったが、まさかこんな近くにあるなんてな)
まだこの鍵だと決まったわけではないのだが不思議とこれで間違いないと確信していた。緊張しながらも鍵穴に鍵を差し込む。入口はぴったりだったが鍵山のあるところが入ると止まってしまった。まだ鍵は半分ある。怪訝に思いながら手首を回してみると時計回りに四分の一回転するとまた止まったのでまた押し込む、今度は全部入った。そしてまた時計回りに四分の一回すと
ガチャ
と、音がした。
普通の扉と同じようにドアノブを捻るとギギギ・・と外向きに開いていく。
「っ・・・」
志摩は息をのんだ。階段の下は何もないはずだ。そもそも扉の向こうは壁のはず、外側に開くはずがない。少しだけ空いた扉の隙間から光が漏れている。
(向こうに何かがある・・・)
不思議と怖くはなかった、自分の中の好奇心が不安や恐怖にに勝ったのだろうか。ただ脳がついていけないのか。だが、少しとはいえ開けてしまったのだ、なにがあるのか確かめたい。息を大きく吐く
バンッ
といっきに開けるのと
「わきゃっ!!?」
と扉の向こうで白衣を着た女性が悲鳴を上げて尻餅をついたのはほぼ同時だった。