二話 赤ちゃん魔法使い
朝になり目を覚ます、視線の先にあるのはいつもの汚れ一つない白い天井ではなく、木で出来た古びた天井だ。
…………ああそうだ、忘れていた。俺、転生したんだったな。
寝起きが悪い方ではないのですぐに頭は覚醒していく、今日は魔法について勉強するんだったな。
さてどうしたものか――――。
だがしかし、そんな俺の冷静な思考は一瞬で吹き飛ぶことになった。
突然泣き出したのだ、他でもないこの俺が。
「(えっ、ちょっ、何!? この身体俺の意思とか無視して動くこともあんの!?)」
声が、あーとかうーになるのは知ってたけどまさか勝手に泣き出すとは思わなかった。
自分の意思で動けなくなるとかやだ、怖い。
そんなことを考えているうちに俺の泣き声を聞きつけてやってきた母親が、胸をだして俺に咥えさせてくる。
おおう、元気よく吸ってるなあ俺。こんなに強く吸うのは俺の潜在意識の所為じゃないだろうな。
そうして授乳タイムが終わると今度は眠くなってきた。
ちょっと待て俺にはやること……が……ZZZZzzz…………
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おはようございます俺、現在は昼の三時ごろです。
結局寝てしまった俺は先程起きてまた朝の1コマを繰り返した後、魔法を見ることに成功した。
使ったのは俺の母だ。
どうやらこの世界では生活に役立つ程度の魔法でも使える人はそう多くないようで、俺を見にうちに訪れた人たちが母の魔法を目にすると、口々に相変わらず凄いなと母に言っていたのだ。
ちなみに俺は生まれてから3ヶ月経っているらしい。どんだけ名前考えてたんだよ。
話を戻そう。
とにかく、それだけでは確証にはならないが、とりあえずこの村には母以外で魔法を使える人間はそうはいないのは確かだろう。
そう考えると俺はこの母の子として生まれてきたのは非常にラッキーだったみたいだ。
美人だしね!!
さて、そんな母が使った魔法だが、どうやら地球で言うところの念力のようなものらしい。
遠く離れた位置にあるものを手で触れずに持ち上げたり引き寄せたりしていたので間違いはないだろう。
魔法の発動についてだが母は使う際には特に何も言わずに無言で発動していた、ドラ○エベースの世界だから詠唱が必要、というわけではないらしい。
だったら今の俺でもいけるんじゃね!? と思いとりあえず試してみることにした。
父は仕事で外出中、母は洗濯をしていて近くにはいない。
目標は1メートル先にある空の木製コップ、念じるは浮遊の魔法!!
イメージしろ、コップが空中に浮かぶその姿を!!
うおおおおぉぉぉぉっ!! 上がれえぇぇぇッ!!
俺の意思に答えるようにコップがピクピクと揺れる。
いける、もう少しだ!!
徐々に揺れが激しくなっていくコップは、やがて、数秒の間だけだったがわずかに空中に浮遊していた。
途端に体に強い脱力感が訪れる、意識を失うようなものではないが直感的にこれが魔力を消費するということだと理解する。
だがそんなことより重要なことがある、出来てしまったのだ、俺は。
えっ、まじか、俺赤ん坊だぞ。しかもやり方がわからないからとにかく浮かべと念じただけだ。
と、とにかくもう一回、と先程と同じように試してみるが今度はピクリとも動かない。
ええい、もう一回だ!!…………。
くそっ!!もう一回!!…………。
まだまだぁ!!…………。
もういっちょ!!…………。
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ZZZZZZZZzzz……。
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そうして二日目の夜がやってきた。
結果から言わせてもらえば魔法は使うことが出来た。
あの一回の後、起きた後に再度試してみたらまた同じように発動したのだ。
一度目と同じくそれ以降は持ち上がることはなかったので今の魔力ではあれが限界ということだろう。
しかしこれは大きな一歩だ。まったく理論はわからないが発動することが出来るのなら練習は出来る。
幸いなことにこの体は長時間起きていられる訳ではないので魔術の練習だけで暇を潰すことは可能だ。
起きている間は魔法を練習して時間を潰し、後の時間は寝る。
やがて成長して動けるようになったら体を鍛えつつ、本や人との会話から常識や知識を付けていく。
我ながら完璧な作戦と言わざるおえない。
明日からはこのメニューで日々を過ごして行こう。