一話 異世界ライフ
異世界での生活一日目が始まる。
朝飯は薬剤、その後に実験、研究、夕飯は薬剤の生活とはわけが違う。
これからの生活はそりゃあもう幸せだろう、友達だって沢山できるし結婚だって出来ちゃうんだ。
もう友達が新井さん一人なんて言わせないもん!!
さてそんな俺は今、異世界での初めてのお食事タイム中だ。
ステーキか、ハンバーグか、鮎の塩焼きか、はたまた異世界なんだしドラゴンステーキみたいなファンタジーな料理か。
その答えがこれだーーー!!
「うふふ、まだ吸ってるわ。あなたに似て元気な子ね、ダルニア」
「おお、そうか!! 顔はパルメそっくりで性格は俺にそっくりか!! 可愛いなあ!!」
…………はい、正解はお母さんの母乳です。
いやね、そりゃあそうですよね、転生って言ったら赤ん坊からに決まってますよね……。
不満は無いんですよ、俺の母親めちゃくちゃ美人ですもん。いくら新しい母親って言っても俺からすれば知らない美人のおっぱい吸えてるんですもん。
でも違うんですよ!! 今俺が期待していたのはエッチなイベントじゃなくて食よ「わっはは!! 本当に可愛いなあ!!」うるせえよ!! 今俺が話してるだろうが!!
いかん、落ち着け俺……リラックスだ……。
……………………ふう、冷静に今の状況を整理しよう。
俺の目の前には2人の人物がいる。俺にお乳をあげおえて服を下ろしている女性、非常に小柄で可愛らしい容姿をしているパルメさん。
そしてもう一方、何で服を着ているのかわからないような原始的な顔のおっさんがダルニア。
そんな不釣合いな2人が俺の新しい両親だ。
家の中はいたって普通……端的に言ってしまえば『ゲームにでてくる平凡な村』の平凡な家といった感じだ。
父も勇者どころか村長ですらない只の村人Aだ、神様が言っていた通り本当に普通の家に俺は生まれてたようだ。
俺が怒涛の展開を冷静に整理している間に両親は色々話をしていた、今は俺の名前についての話のようだ。
「そうだ聞いてくれパルメ、この子の名前が決まったんだ!!」
「あら、決まったの。あなたこの子が生まれてからずっと考えていたものね」
そうか、名前がわからないと思ったらまだ決まってなかったのか。ぜひ良い名前を付けて欲しいな。
いや、高望みはしない少なくとも前世の『検体13号』よりはマシな名前にしてくれ。
「それがな、今日の昼、木を切っているときに頭の中に神様の声が聞こえてきたんだ!!」
「あら、何て??」
ッ!! プレッシャー!!
「『汝の息子、名をナイアとしろ。さすればその子には永遠の祝福が約束されるだろう』と聞こえたんだ!! どうだ、いい名前だろう!?」
あんの糞神がーーー!! 俺はその名前覚えてるぞ、あいつ自信が名乗った名前がナイアルラト何とかだった!! 何を考えて自分の略称を俺に付けさせようとしてんだあいつは。
「そうねえ……」
ちらっと母がこちらを見てくる。チャンスだ、嫌だアピールをして麗しい母君に新しい名前を考えてもらおう!!
俺は必死に手足を動かして声をあげる、うおおおおおおお!! その名前だけは嫌だああああ!!
俺の訴えが通じたのか、母は微笑を浮かべながら口を開く。
「この子も喜んでいるし、私も素敵な名前だと思うわ!!」
あ、駄目だ、終わった。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
名前がナイヤに決まってしまったその日の夜、両親が隣で眠りに付く中俺は一人考え事をしていた。
今の俺は生活パターンは赤ん坊そのものだ、口から出る言葉は全て泣き声になるし、直ぐに眠くもなってしまう。
これは成長には欠かせないことなので、下手に抗わない方がいいだろう。
だが起きている時間は実際暇だ、この時間に何か出来ることはないだろうか??
真っ先に浮かぶのが体を鍛えることだ、だが神様は俺の年齢に合わせて徐々に身体能力を前世のようにしていくと言っていたな。
試しに腹筋をしてみる。
……うん、駄目だ上がる気配がない。流石に幼児に腹筋が出来るほどの力は与えてくれていない。
実際、俺も前世の赤ん坊の頃は一般的な子供だったしな。
では次に思い浮かぶのは知識だ。モンスターの事や異世界特有の常識などを覚えるのはどうだろうか。
……これも難しい、一人で動けないのだから誰かが話してくれるのを待たなければならない、駄目だ。
ちなみに両親が話している言葉は理解できるし、近くにあった新聞らしきものも読めたので読み書き等は大丈夫なようだ。
ではそれ以外に何かあるだろうか。
数分間考えた俺にある1つの考えが浮かんだ。
魔法はどうだろうか、今まで俺は使ったことがないし、赤ん坊でも使えるのかもわからないが。
うーむ、でも魔法がどういうものかもわからないしなあ。とにかく明日誰かが使っているところを見てみることにしよう。
とりあえずの方針が決まったところで襲い掛かかってきた強烈な睡魔に負け、俺は異世界生活一日目を終えた。