おまけ「あぁ、彼女を愛していいのは俺だけだよ」
「この子は俺のだよ」
そうこの子は俺のものでずっと昔から大切に守ってきた子なのだ。そっと口には出さずに彼は微笑む。
甘いキスを彼奴らに見せつける。この可愛くて愛おしい彼女を狙っていた彼奴らに見せつけるんだ。彼女は大切に守ってきた子なのだと。
昼休み。本音を言うと彼女と離れたくはないが、彼女を狙う不届き者を始末するには丁度いい。そう思いながらも彼は彼女に優しく触れる。
そんな時、一人の男子生徒から声をかけられる。
あぁ、来たか。そんなこと思いながらも「待っていたよ」と笑顔で言い放った。
人があまり来ない裏庭まで行くと男子生徒は彼女の名前を呟く。彼女の名は神聖なものでこんな男が呼んでいいような名前ではない。そんな気持ちを隠しながら彼はそっと笑みを浮かべた。
「で、君は彼女のことが好きなんだね」
問い掛けなんかではない。これは確認だ。ただ、彼女が本当に好きなのは自分だと彼は確認しているだけなのだ。
この男子生徒は知らない。いかに彼が彼女のことを愛しているのか。
部屋一面に飾られた彼女の様々な写真。彼女が鼻を噛んだテッシュに、小さくて使えなくなった消しゴム。折れたシャー芯。
様々な物を彼が持ってるなんて想像付くわけがなかったのだ。
この男子生徒が彼と同じくらい整った顔立ちをしていても、所詮はただのそこら辺にいる男子生徒なだけ。
「あぁ、俺はあの子が好きだ」
「好き?」
彼は笑う。声に出してクスクスと笑った。
そこら辺にいる男子生徒の一人は彼女のことを「好き」なだけ。彼みたいな激情は持ってないんだ。
そんだけの「好き」で愛が語れる訳がない。なのに人は「好き」なだけで愛を語る。
そして、彼みたいな激情を持ち合わせている人を気持ち悪いと言う。
「何が可笑しい、お前もあの子が好きなのだろ?」
「君が言うような好きと俺が言う好きを一緒にしないで欲しいね。俺は彼女を愛しているんだ」
君は舐めたことがあるのかな?あの甘い彼女の汗を唾液を。どんなに美味しい料理を並べても彼女以上に美味しいものはない。
彼は語る。本当の愛とは何かと。
語る度に男子生徒の顔は強張っていくのが分かる。それでも彼は話を止めることはない。
「お前……気持ち悪すぎだろ」
「君には分からないよ、永遠にね」
どんなに気持ち悪いと言われようが、彼にはそんなこと些細なことにしか過ぎない。大切なのはいかに彼女を愛するかだけだ。
男子生徒が去っていた方向を見つめながら、彼は懐からそっと一つの小瓶を取り出す。この小瓶の中身は今朝から彼女の耳かきをした際にゲットした耳垢だ。
彼女の耳の中で蓄積された垢は大切な宝物だ。そっと優しく小瓶の蓋を開け、匂いを嗅ぐ為に鼻を近付ける。
「はぁ……これだけでもヤバイな」
耳垢には匂い自体あまりないが、微かに匂う香りに彼の理性は飛びそうだった。
今すぐにでも彼女の耳垢を使って息を乱れさせ、己自身を慰めてしまいたい。彼女の甘い体を想像しながら、食べてしまいたい。
あぁ、彼女に逢いたい。彼女に逢って、全てを愛したいと彼は願う。
「耳垢だけでは、もう我慢出来ない。早く君の全てを愛したい」
うっとりとした顔で彼は彼女を想う。
狂おしいほどに彼女を愛した彼は彼女からも愛されたいという欲を願い、叶えた。
愛おしくて止まない彼女の視線にはいつも彼がいた。そのことを彼は運命だと信じている。
「早く君を抱き締めて、その甘い匂いが漂う体を舐めてしまいたい。君の体液を舐めたり、小瓶に保存したいんだよ」
はぁと彼が吐く息は甘くて、彼の本当の性格を知らない女子が見たら惚れそうなほど色気を含んでいた。
だが、無意識に色気を出す彼が愛しているのは彼女だけだ。
「君を愛しているよ、いつまでもずっとね」
大切に持っていた小瓶に唇を寄せ、キスをした。