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魔法少女は僕のエクスカリバーを求めない。  作者: 大岸 みのる
第一章:僕の股間は聖剣のようです。
9/15

・幼馴染と一緒にお風呂に入るそうです。

 

 まるで自分が過去に戻ったかのような感覚。事実、この部屋は昔を連想させるくらいに変わり映えしていない。かつて僕が学校からの帰りによく寄った場所に酷似している。今にも、おばさんがノックなしに入ってきて「海斗君お茶入ったわよ~」と言って開けてきても不思議じゃないだろう。

 桜子の留守中に、美花に連れられてきたのだが、全く驚くくらい変わっていなかった。ぬいぐるみの配置も変わってないし、なんなら鏡や小物の位置も変わっていない。どうやら、隣にいる幼馴染の美花は部屋まるごと島に持ってきたかのようだった。

 

「変わってないな……」

「まぁね。私は環境が変わるとすぐに体調崩しちゃうからさ」

「確かに、美花は中学初日に風邪をひいてたよね」

「そんな事もあったわね。でも、あの日は海君がずっと看病してくれたでしょ?」

「そうだよ。あの日は大変だったなぁ……。なんせ僕は入学式の次の日には『四月朔日さんと付き合ってるの!?』なんて質問攻めにあったからね」

「そうだったんだぁ。じゃあ、そういう事にしておけばよかったんじゃない?」

「あのなぁ、美花だって恋したい年頃だと思ったから、必死に僕は真実を語ったんだぞ? 関係ない人にまで話し込んで大変だったんだからな」

「……余計なお世話よ」

「なんか言ったか?」

「別に! ご飯作るから適当に座ってて!」


 美花は怒ってキッチンへと消えた。

 同い年の僕と美花は中学の入学式に、二人とも一緒に休んだ。体調を崩してしまった美花は、一人で寝込んでいるのだと僕は聞いた。ちなみに、美花の両親は共働きで、その日は両方とも留守であった。その為朝早く、僕に美花の両親がお願いをしにきたのだ。結局、僕達が通う中学は地元の小学校の集まりで何らメンバーは変わっていないので、わざわざ中学の入学式に出席する必要もないだろうと思って、美花の面倒を見る事にしたのだ。

 後日、誰が流したのか分からないが、美花と僕が付き合っているという話になり、必死に誤解を解こうとしたのだが、それが仇となり皆には付き合ってるもんだと思われた。

 人の噂も七十五日とはよく言ったモノで、それくらいした頃には、僕と同じ小学校の友達には『あいつらが中学で付き合うなんてないない!』と言ってくれたので事なきを得た。

 卒業式には、その友人から『四月朔日さんとはどうなった?』と聞かれたが、桜子と紅葉姉と雪那が口を揃えて『四月朔日さんと何か遭ったら、今頃海斗はここにいない』って言ってくれたので、友人も最終的な確認が取れたと思う。

 その友人だが、美花に告白して撃沈したらしい。

 

 っと、僕と美花には色々なエピソードがある。多分、桜子や紅葉姉や雪那との話よりも、美花との話のほうが年相応な気がする。

 まぁ、うちの姉妹共は全員思春期だから仕方ないか。

 

 過去を巡り巡って回想していると、鼻孔をくすぐる、ほのかにいい匂いが香ってくる。これは何だろうか。

 今度の思考は食べ物でいっぱいになった。僕の腹は都合が良い事に、ちょうど匂いが鼻の奥を通り抜けると『ぐぅ~』っという腹の虫の鳴き声が聞こえた。


「お待たせ! って言ってもそんなに待ってない?」

「いや、そういえば、今日何も食べてなかったの忘れてたよ」

「そうだったの? なら、いっぱい作って正解だったわ!」


 お盆に乗せられたのは、スタミナ丼。豚バラ肉に、にんにくの芽を軽くフライパンで炒めたものだ。夏バテしやすいこの季節。体力も大事だし時間がないのなら、うってつけの一品である。

 食べるとにんにく臭くなるが、それはまぁ幼馴染だから許してくれるだろう。

 簡素なテーブルに二人分のどんぶりが並べられ、適当に腰を下ろす。


「うまそうだなぁ」

「ごめんね、簡単なものしか作れなくて」

「ううん、作ってくれるだけで嬉しいよ!」

「そ、そぅ……。全く、不意打ちは卑怯じゃない……」

「何か言った?」

「何も! ほらお腹空いてるんでしょ!」

「うん! じゃあいただきます!」


 僕のいただきますの合図に続いて美花も「いただきます」と言ってから箸を進める。

 今日の疲れには、最高の料理だった。暑さにより体力も知らぬうちに減っていたし、何よりも塩味も絶妙だ。これを食べていると桜子の料理の事を思い出す。いや、僕の兄妹は全体的に料理がひどい。紅葉姉は絶対に焦がすし、桜子は変な創作心を働かせて味がパルプンテされるし、雪那は何故かフライパンで炒めているのにも関わらず、絶対的に料理が凍っている。

 やっぱり持つべきものは、料理が上手な幼馴染だなとシミジミ僕は感じた。

 

 やがて、食事を終え、美花は食器洗いに入る。

 その間、テレビでも見ようかなとも思ったが、この島での放送は本州より一週間遅れているらしく、今やってるのも前回やっていたものだからつまらないだろうと言われた。

 でも、美花とは会話がなくても、居心地が良い。そりゃあ自分の部屋が一番落ち着くのかもしれないけれど、美花の部屋はそれと同等の力がある。

 久々に美花の部屋で寝転がると、疲れと懐かしさにより、瞼が重くなってきた。


「コラ、海君! 寝るなら風呂に入ってから寝なさい!」

「んあ!? あ、ゴメン、風呂入っていいのか?」

「当たり前でしょ!? 汗臭いまま寝たら、布団が汚くなるでしょ!」

「確かにそうだね。悪い、今入るわ」


 案内された脱衣所は以外に広い。

 というか今更ながらに気付いたけど、桜子も美花も一人暮らしとは言うけどワンルームじゃない。絶対的に2DKはある。これが魔法科高校の寮なのだろうか。少し羨ましく思いながらも、僕は服を脱いで洗濯籠の中に放り込む。

 着替えとかは、どうするんだろうか。

 疑問に思いながらも、とりあえずは今着てたのを着るか、と内心で軽い決意をしてからバスルームに入った。


 風呂場はそこまで広くはないが、一人には何ら問題はなかった。それよりも、問題は多々ある。

 まず、風呂場にある道具の中でベスト一位に入るであろう、風呂場の椅子が異様な形をしている。通常は台形の椅子なのだが、この風呂場の椅子は何故か凹っという形をしている。

 ……何に使うんだろうか。

 疑問に思いながらも、身体を洗って髪の毛を洗っていく。

 ……。

 ローション? 何に使うんだろうか。いや、美花は桜子達のように変態さんではない筈だ。だとするならば、これはボディローション。肌艶をよくする的な? いやでも、このメーカー怪しいぞ。

 何気ないローションボトルを眺めていると、なんだか使いたくなってきた。興味本位的な感じで。

 蓋をあけて手に取ってみると、透明だった。

 僕は何も見なかった事にして、ローションを排水溝に流しました。

 結局、美花も変態さんの仲間なわけだ。桜子が言ってた。『魔法少女は妄想を魔力とする』っと。つまり、美花さんも変態さんなわけだ。


「ねぇ? 海君着替えあるの?」

 

 そんな事を考えていると、美花が外から声をかけてきた。


「いや、ないけど、同じ奴着るよ」

「ダメよ。洗濯するから」

「え!? じゃあ僕は一体何を着ろと?」

「……ば、バスローブあるから、それ使って」

「ば、バスローブ!? 良いのか? 誰かに見られたら、完全に僕不審者だけど!」

「だ、大丈夫よ! そ、その……見られたら、わ、私の彼氏って事にしておくから……」

「そこは普通に幼馴染でいんじゃないかな?」

「……な、なんでもいいわよ。それより、シャンプーの残りが少なかったと思うんだけど……」

「あ……」


 そういえば、シャンプーの出が悪かった気がする。確かに一回詰め替え用で入れた方がいいかもしれない。

 僕はもう全体的に洗っていたし、そろそろ出ようと考えていたところだ。


「大丈夫、そろそろ出るからさ」

「あ、ちょっと待ってね……」

 

 そう言うと、美花が全身にバスタオル一枚姿で現れた。ナイスバディとも形容できる美花の身体は我が姉、紅葉に匹敵するほどのスタイルだ。魅惑的ともいえるその姿に僕の心臓は、高鳴った。


「ちょ、もう出るから入ってくる事ないだろ!?」

「……海君、そんなに私と一緒にお風呂入るの嫌なの?」

「は!?」

「だって、そんなに拒まれたら、悲しくなるじゃない。昔はよく入ってたんだから、気にしないでよ」

「そ、そうは言っても……」


 チラっと美花を見ると、先ほどは隠されていた太ももなどが露わになる。照明に美花の四肢が照らされ、精錬された刀のように鋭い。入念なケアを怠っていない美花の肌は艶々に煌めいている。

 そんな中、美花は軽く頬を紅潮させながら、上目使いをしてくる。


「それとも私の成長した姿に、驚いちゃった?」

「んな、わけじゃないし……」

「そう? じゃあ一緒にお風呂、入りなおそうよ?」

「……きょ、今日だけだぞ」

 

 僕は背を向けながら湯船に浸かった。なんだか凄く恥ずかしかったけれど、美花にハメられたというか、もう仕方がない気がする。それに今晩泊めてもらえる以上は、やはり言う事には従うしかないし。

 ……って完全に、思考がおかしくなっている気がする。なんでだろう、僕ってこんなに変態な事考える人間だったっけ!? 聖剣が引き抜かれてから、色々と様子が変だ。いや、正確には戻ったときからか。

 また桜子に襲いかかった時みたいになったら、どうしようか。そう考えていると、背中に柔らかい感覚が触れる。

 気が付けば、僕の薄い胸元には華奢な腕が巻かれている。


「……どう? 久々の私は?」

「ひ、久々って言っても……お正月に会っただろう?」

「でも、二人っきりは久し振りでしょ?」

「う、うん……ま、まぁ……そうだけど……」

「……成長。したでしょ?」

「うぐっ……」


 やたら押し寄せる胸。この正体はもう分かっている。分かっているんだけど認識するのが怖くてできない。何せこの二つの膨らみは、男性が愛して止まないものだからだ。いや僕は違いますけどね!

 世の中の男性には、この二つの膨らみがでかいか小さいかで女の質を決める人間がいるけど、それはどうなのかなって思う。だけど、僕はどうやら大きい方が好きなのかもしれない。多分の話ね!


「……桜子ちゃんと何をしてたのか詳しくは知らないけど、海君は昔っから、そうやって私にだけ秘密を隠すよね?」

「……そ、それは家族の事だし……」

「そっか……。私は家族じゃないんだ……。当然だよね、ただの……幼馴染、だし……」


 残念そうに呟かれた言葉。

 僕には返す術がない。徐々に締め付けられる僕の身体。美花自身の香りが僕の鼻孔に香る。花の蜜を嗅いでいるかのような芳醇な匂いだった。


「じゃあ、どうしても言えないなら、私にも同じことしてよ。海君」

「は!?」


 顔だけ振り返ると、そこには悲しげに微笑む美花の姿。完全にいじけているし、心にダメージを受けた表情だった。僕的には、桜子に対する行為は事故だったわけだし、故意にするつもりは全くなかった。

 けれども、美花はやはりそれが気に食わないのだろう。幼馴染として、妹との秘密は許せない。確かなんかの漫画で見たことがある。

 そんなのは無理だ。

 無理だけど、口が思うように動かなかった。

 ――――いや、この場合は僕の気持ちが美花の行動に負けたのだろう。


「……分かった」


 その言葉を呟いたら、美花はより抱き締める力を強めた。

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