・僕の股間が強奪されたようです。
蝉が鳴く八月。旧八丈島に僕は来ていた。
旧八丈島は一年程前に、魔法少女育成学園島へと変わり果てていた。
魔法少女が現れてから数年。魔法少女とは、性行為をしておらず、極めて妄想癖が強い女性に特性があると言われている。妄想により発動される魔法は至極危険であり、それを保護・あるいは攻撃をする為に使用できるとも言われている。
ちなみに、この魔法少女の主な就職先は、警察官や消防士など、かつては男が活躍していた舞台が主流である。
僕の妹、小石川 桜子もまた、魔法少女を目指す一人だ。全十三校もあるこの魔法学園島の内の一つ。桜子は一番レベルが高い高校の中央魔法女子大付属校に通っている。
通常は男子禁制のこの学園島。だが、僕はとある事情の為、ここに来る事ができた。
理由としては、寮生活の調子。または生活用品の支給などだ。ちなみに、フェリーでこの島に来る途中に入念な検査を受けているので、僕に問題はない。
ただ、先ほどからある『猛女注意』の看板が少し気になった。
中央魔法女子大は歩いて三十分の、丁度島の中心部にある学園。ここには魔法科を卒業した者が目指す場所でもある。
汗をタオルで拭きながら、着いた先は大きな門。とてもじゃないが、こんな田舎みたいな場所には不釣り合いな豪華さである。
着いた事を報告しようと、携帯でメールを送信する。
だが、桜子の事だから、きっとすぐには出てこないと思っていた。
「君、そこで何をしてるんだ」
「え、あ、ごめんなさい。妹に生活用品を支給しようと思って、ここで待ってたんです」
「あ、そうなのか。すまんすまん。ただの変質者だと思ったのだが、悪かった。もし良かったら入ってくれ」
「え、いいんですか?」
「もちろん、私はこの中央魔法女子大付属の生徒会長だからな。私が入校を許可する!」
「あ、ありがとうございます!」
腰まである長い濃紺な髪の毛をした美人さんに、僕はこの学園の敷地を踏む事を許可された。この人が生徒会長らしく、美人で頭が良さそうである。着用しているのは白のワンピースで育ちが良さそうだった。
僕は生徒会長の後につき、共に学園の中に入った。
学園の庭には沢山の花が咲いている。その花を見ているとなんだか、この学園は平和なんだなと感じる。いや、日本列島も平和だけど、それ以上の平和的な?
「それで、君の名前は?」
「あ、僕は小石川 海斗です。もしかして、小石川 桜子ってご存知じゃないですか?」
「ああ、知っているぞ。桜子は優秀だからな」
「へぇー桜子も頑張ってるんですね」
「ああ。桜子はこの魔法少女学園島で六人のトップランカー達がいてな。彼らの事を皆、『レベル9』って呼んでるんだ。その中でも桜子は第三位の実力者だ」
「そうとう凄いんですね……」
「私達も同じ学校の人間として鼻が高い」
嬉しそうに話す生徒会長。今言われても桜子がそれほど凄い魔法使いになれるとは思っていなかった。確かに妄想癖や思い込みは強かったと思う。一番ビックリしたのは「私の使用済みパンツの匂いを嗅いでたんじゃないですか? お兄さん」って疑惑かけられた時は、どうしようかと思った。
それも今じゃ懐かしい。桜子がいなくなってから、今じゃ家族は少し静かだ。帰ってきて欲しいとは思っていない。桜子が自ら選んだ道なのだから、しっかりと歩んでほしいと皆願っている筈だ。
「そういえば、私の名前を言っていなかったな」
「え、あ……そうですね」
「私の名前は昴 優奈だ。よろしくな」
「はい」
いきなり自己紹介をしたと思ったら、優奈はそのまま握手を求めてきた。
僕もそれに応えようと思い、手を差し出した。
その時。
「……これが……」
「……あの、どこ触ってるんですか?」
本来優奈が「どこ触ってるんですか?」って言う筈だ。しかし、このセリフは僕が発したものだ。
原因は、優奈が握ったモノにある。彼女が握っているのは……僕の大切な勲章である。
「……ッ!?」
「おっと、いかんいかん。強く握り過ぎたな」
「な、何をやってるんですか! 痛いですし、ここ学校ですし、色々生徒会長としてまずくないですか!?」
「フフ、何を言っている。私は今も、こうして魔法少女として強くなる事を目指している」
いや、人のナニ握っといて、そんなにドヤ顔されると反応に困る。いや、早く離してもらいたい。
だが、そう思っていると、突然淡く僕の下腹部にある○○○が光り出す。
「え!? 何これ!?」
「これはナニだ!」
「そういう意味じゃないですって! 何で僕の……が光ってるんだ!?」
「おい! 今何で言うのを躊躇った! 恥ずかしいのか!?」
「当たり前でしょう! って何で? へ、僕なんか病気に――――」
「安心するが良い。これからは、君のナニは私の右腕として活躍する。心配はいらん」
「いるでしょう!? どう考えても、僕の物なんですけど!」
「案ずるな! 決して君のように無様に使い古したりしない! 私は正しく扱って見せる!」
「正しく扱っちゃダメでしょ!」
ドヤ顔で僕を見つめる優奈。その手は未だに僕の下腹部から離れていない。
そして、より握る力を込めた優奈は、まるで綱引きでもするかのように、僕のアームストロング砲を引っ張る。
「痛ッ! ちょ、昴さん!?」
「あなたならできるわ!」
「無茶言わないでください!」
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!」
光は強くなり、学園全体を包んだ。
あまりの眩しさに、視界が白一色になり、僕は倒れた。
◇
「お兄さん! お兄さん!」
「……え」
目を覚ました僕は、何故か部屋にいた。そこかしこに置かれている小物はピンク一色。まるで女の子の部屋。ベットの掛け布団もファンシーなデザインだった。
ここは、桜子の部屋……なのか?
視線を起こした人物――桜子へと移すと心配していたのか、顔を歪めていた。
「良かった……。お兄さんが一生このままだったら、どうしようかと思いました……」
「あ、ごめん……」
「謝らないでください。それよりも、何であんな所で寝てたんですか?」
思い出してみると、昴 優奈とかいう生徒会長に僕は股間を引っ張られて、光って意識を失った筈だ。
……それを正しく伝えられるのか、微妙だけど、とりあえず桜子に話してみるか。
「いや、それが、生徒会長の昴 優奈? っていう人にいきなり股間掴まれて、そしたら辺り一帯が光って、それで意識を失ったんだよ」
それを聞いた桜子は目を見開いて、驚愕の表情を浮かべていた。
「そ、それって……お兄さんは昴さんに股間引っ張られて感じて、白いのを出してイッちゃったんですか!?」
「相変わらず元気そうだね、桜子。話が最初しかあってないよ」
「あ、ごめんなさい。お兄さんは引っ張られたんじゃなくてピストン運動をさせられてたんですね。わかります!」
「分からなくてよろしい! それにピストン運動とか言うな!」
下ネタが大好きな桜子。昔っからそうだったけど、結局僕ら家族の元を離れてもそれは変わらないらしい。良かったんだか、良くないんだか……である。
一先ずボケた桜子は、深呼吸した。
「……まぁ冗談は置いといて、お兄さんはその……生徒会長の昴さんに股間を引っ張られて意識を失ったって事で良いんですよね?」
「ああ……、なんかすっごく不本意だけど、そういう事」
それだけ告げると、桜子は顎に手を置いてブツブツと呟きだした。
そんな桜子を怪訝に思い、首を傾げると、僕に瞳を輝かせて睨みつけてくる桜子。完全に狩る者の目である。
「ちょっと待て! 桜子! 僕は今頭が痛いんだ!」
「そうは言っても、確認しなきゃ始まりませんよ?」
「いや、自分でする!」
「オカズ抜きで、ですか?」
「今そんな話はしてない! 良いからこっちに近づいてくるな!」
「ダメです! これは、由々しき事態なのですよ、お兄さん! 私は今後のお兄さんの人生の為に、とっても嫌ですが、お兄さんの股間を確認しなければなりません! 妹として!」
「はいはい、分かったから鼻血拭こうな」
鼻血を出しながら興奮する桜子。こういった部分がなければ最高に美人で可愛い妹なんだけど……全く残念極まりない。
こんな桜子と付き合っていたら日が暮れると思い、僕は桜子がティッシュを探している間にトイレへと向かう。
「桜子、トイレ借りるよ」
「あ、はい。使用済みティッシュを流しちゃダメですよ! あ、あとオカズは私で決――――」
「借りるからな!」
トイレの扉を思いっきり閉める。
ズボンを脱いで、パンツを脱ぐ。
僕の股間が無事かどうか確認しなければならない為、しっかりと目視しようとした。いや、変態じゃないよ。
だが……。
「……ない」
僕の股間に男としての勲章がない。そこにあるべきフランクフルトが無かったのだ!
これは、確かに由々しき事態である。
僕は早速トイレの扉を開けた。
「僕の○○○がないんだけど!」
「あら、お兄さん恥ずかしい事を大声で言わないでくださいな」
「さ、桜子……どうしよう……。ぼ、僕の勲章が……」
そんな僕に桜子は笑顔で肩に手を置いた。
「お兄さん、あなたのフランクフルトもとい、勲章はその生徒会長昴 優奈とかいう人に完全に盗まれましたね!」
そ、それじゃあ……僕は○○○がないと、女の子っていう事になるのだろうか……。
お婿に行けない……。