その後のスチャラカOL達(お題小説FINAL)
お借りしたお題は「保険天国。保障が服を来て歩く。」です。
律子はスチャラカなOLであった。
しかし、ある事が切っ掛けで心を入れ替え、見違えるような優良社員になった。
(ざまあみろ、平井! お前の時よりずっと成績がいいぞ!)
平井卓三の後押しで次長になれたはずの梶部は、律子を始めとするOL達の類い稀なるサポートで、業績を前年比二百パーセントにしたのを誇っていた。
「どうしたの、急にニヤついて?」
一緒に飲んでいるかつての思い人の弓子が梶部の顔を覗き込む。
「いや、何でもないよ、弓子」
梶部はとうとう妻と離婚をし、弓子と第二の人生を歩む事を決断した。
部長に離婚を報告した時、叱責されるかと思ったが、何も言われなかった。
「くれぐれも仕事に支障を来たさないようにな」
それだけ言われ、むしろゾッとしてしまった。
(だが我が営業部は順風満帆だ。このまま東京五輪まで突っ走るぞ!)
部長室を出てガッツポーズをしたところを律子と香に見られたのを知らない梶部は幸せ者であろう。
「梶部君、本当に私とでいいの? 営業部の次長にまでなった人が、バツイチの女と再婚なんて……」
弓子はどうした事か、最近ネガティブであった。自身の仕事がうまくいっていないせいだろうと梶部は考えた。
「今、どんな商品を勧めているの?」
梶部は弓子が保険のセールスレディをしているのを知り、心配していた。
(ユーミンほどの美人だと、おかしな誘いも多いだろう)
幾度か仕事を辞めて専業主婦になって欲しいと頼んだ事がある。
「ダメよ、梶部君。私から仕事を取ったら、何も残らなくなっちゃうから」
微笑んで拒否する弓子があまりにも可愛かったので、そのまま抱きしめてしまい、
(これではあの平井と思考回路が一緒じゃないか)
何とかそこで思い止まった。
「なるほど」
妄想から現実に戻り、梶部はパンフレットを読んだ。
「保険天国。保障が服を来て歩く。あからさまに怪しそうな商品名だね。契約してくれた人、いるの?」
梶部は苦笑いして弓子を見た。弓子も苦笑いして、
「いないわ。商品名もそうなんだけど、条件が厳しくて、加入できない人が多いのよ」
「そうなんだ」
力になってあげたかったが、梶部自身も条件に引っかかっており、契約できそうにない。
どちらかと言うと、若い年代をターゲットにしているようだ。
「私の部下に勧めてみようか?」
「そこまでしなくていいよ。いよいよダメだったら……」
弓子は意味ありげに梶部を見て照れ臭そうに微笑んだ。
(専業主婦になってくれるのか?)
梶部は弓子との新しい生活を妄想し、またニヤけてしまった。
それでも梶部は弓子を説得し、パンフレットを何部かもらい、律子達に勧めてみる事にした。
「えええ!?」
翌日、梶部は衝撃的な報告をされた。
「寿退社!?」
以前はあれほど願っていた律子の寿退社を告げられ、その間の悪さに顎も外れんばかりに驚いた。
「出島君も退社して、香君も近々退社しますから、人員の募集をしていただかないといけません」
課長の米山米雄が報告書を見ながら告げる。
「か、香君は仕事を続けてくれるんじゃなかったのか?」
梶部は涙目で米山に尋ねた。すると米山は、
「夫になる力丸拓海の栄転が決まりまして、富山に行くんです。富山は香君の故郷ですから、同行する事になったそうです」
力丸が米山の義理の弟なのは梶部も知っている。だから彼が嬉しそうなのは仕方がないと思った。
(東京五輪まで突っ走る計画が……。それにこの状態ではユーミンの保険も勧誘できない……)
梶部は項垂れてしまった。
「藤崎を呼んでくれ。結婚をしばらく延期できないか、話してみる」
すると米山は頭を掻きながら、
「それは無理だと思います。律子君がその、妊娠しているそうで……」
「な、な、何だと!?」
梶部は人生で一番驚愕した。
妊娠は律子の策略で、藤崎もすっかり嵌められたのは誰も知らない。
(終わった……。俺のサラリーマン人生は終わった……)
某ボクシング漫画のような台詞を思い浮かべながら、梶部は椅子から転げ落ちた。
「次長、どうされましたか?」
米山が驚いた顔で梶部に近づいた。梶部は笑って立ち上がり、
「いや、何でもないよ。そうか、では送別会を開かなくてはならないな」
梶部は一から始めようと決意した。
(係長の時は、仕事をしない律子君と平井と不倫している真弓君と一人で頑張る香君という組み合わせだったんだ。元に戻っただけだと思えばいい)
梶部は、弓子に仕事を頑張って欲しいと言う事にした。そして、同時に正式にプロポーズもしようと。
皆の人生が新たなスタートを切ろうとしていた。
これにて完全終了です。ありがとうございました。