【短編】回廊
昔、「FC2小説」というサイトに投稿させていただいていた作品を少々改訂し、上げなおしました。
お気に召されれば幸いです。それではどうぞ。
鳥が囀る、緑の中。
私と君は走る。
振り返らず、ずっと走る。
なんのために?
何かのために。
そろそろ疲れただろう?
君は言う。
私は足を止めた。
君は私を追い越して、
小さく笑って、ゆっくりと歩く。
君が見ていないうちに、
私も優しく、微笑んだ。
ほら、見てみなよ。
君は言う。
そこにあるのは霧。
真っ白で、真っ黒な霧。
怖い。
私は君の腕をつかんだ。
大丈夫だよ。
君は言った。
君は私の頭を撫でた。
幸せかい?
君は聞いた。
私は、ただただ頷いた。
遥か向こうの、遠い空。
あそこにあるのは、
哀。
私は言う。
あれは私?
君は答える。
いや、違う。
あれは僕。
君は悲しそうな顔をした。
怖い目。
遠い眼。
私は泣きそうになった。
君はそれに気づいて、
あわてて私を慰めてくれた。
その手は、とても優しかった。
もうすぐだね。
君は言う。
私は、首を横に振る。
どうして?
君は言う。
私は答える。
嫌だから。
君はまた、言う。
いつか、君は一人になるんだよ。
そういって、あの遠い空を、
白黒の霧を見上げる。
行かなきゃいけないの?
私は言った。
君は、空を見たまま、言う。
うん。
君は私の手を握る。
あの霧は、待ってくれないよ。
私は泣いた。
君は、そんな私を、
じっと見つめるだけだった。
もう、終わり?
私は言う。
ううん、まだだよ。
きっと、ね。
君は答えた。
それじゃあ、がんばって。
君は手を振る。
どうするの?
私は君に聞く。
どうしようもないね。
君は、力なく笑う。
でも、君が無事ならそれでいい。
私も、笑う。
ほんと?
うん。
私と君は、泣いた。
霧が近づく。
じゃあね。
ばいばい。
私と君は、その道の中を、
また会える?
誰かが言った。
私は振り向き、
そこには、一面の霧。
うん。
誰かが、頷いた?
白黒の霧が、佇む。
鳥が囀る、緑の中。
私は走る。
振り返らず、ずっと走る。
なんのために?
誰かのために。
そろそろ疲れただろう?
私は言う。
私は足を止めた。
目の前には、霧。
一面の霧。
また会える。
私は笑う。
私は泣く。
君がいるなら、それでもいい。
私は霧に、
そのまま一人で、
ただ、
幸せかい?
誰かが言う。
私は頷いて、君の声を。