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第五話:久遠の絆と、はじまりの五人

第一章:孤高のリーダーと、親愛なる眼差し

ニコランドへの黄金の扉を抜け、十三人の戦士たちは一時的な休息の中にいた。しかし、その静寂の中で一人、休まる暇もなく神経を尖らせている者がいた。


「……次のライブでのエナジー定着率は、ハーモニーの合流で底上げされる。でも、ひろプリ組の習熟度がまだ足りないわ。もっとデバイスの同調率を上げさせないと……」


控室の隅で、モニターに映し出される各種の数値を凝視しながら、アイドル(うた)は独り言を漏らす。その横顔は、かつてのキラキラとした輝きよりも、悲壮な使命感によって削り取られたような鋭さが目立っていた。


実の妹であるはもりを戦士として覚醒させてしまったあの日から、彼女の中の「姉」としての罪悪感は、それを上回るほどの「リーダーとしての完璧主義」へと変質していた。


「アイドル、少し休んだら? 唇が白くなっているよ」


背後からかけられた優しい声。ウィンクとキュンキュンが、心配そうな表情で歩み寄ってきた。


「……ウィンク、キュンキュン。大丈夫よ、私は平気。それより、あの子たちのサポートに回ってあげて」


アイドルは二人と視線を合わせようともせず、再び作業に戻ろうとする。その強張った肩、小刻みに震える指先。誰よりも近くで彼女を見てきた二人には、アイドルの心が限界まで張り詰めていることが痛いほどに分かった。


「……アイドル、ダメだよ。そんな顔でステージに立っても、本当のキラキラは届けられない」


キュンキュンが、アイドルの冷たくなった手をそっと握りしめる。


「あなたは今、一人で戦おうとしすぎている。……私たちが、三人で『Trio Dreams』を始めた時のことを忘れたの?」


アイドルの動きが、ピタリと止まった。


「……忘れてないわ。でも、今はあの時とは違う。守らなきゃいけない仲間が増えて、救わなきゃいけない世界が目の前にある。私がしっかりしなきゃ、全部壊れてしまう……っ」


「だからこそだよ」


ウィンクが、アイドルの背中に寄り添うように声を落とした。


「あなたが笑っていなきゃ、私たちがついていく場所がなくなっちゃう。……ねえ、一度原点に戻りましょう」


ウィンクとキュンキュンの瞳には、強い決意の光が宿っていた。

アイドルに「信じる心」を取り戻させる。そのためには、自分たちがさらなる過酷な共鳴を受け入れ、彼女の重荷を肩代わりできる「絆の強度」を証明しなければならない。


「ズキューン、キッス。……準備はいいかな?」


控室の影で待機していた二人に、ウィンクが呼びかける。


「もちろん! アイドルは、ズキューンのいつだって一番の憧れなんだから! アイドルの笑顔のためなら、ズキューン、なんだって頑張っちゃうんだぞ!」


ズキューンが、弾けるような笑顔で一歩踏み出す。


「……ええ。お姉さまの仰る通りです。アイドル、あなたに居場所をもらった恩、ここで返させてもらいます」


キッスもまた、静かに、しかし熱く応じた。

アイドルの返事を待たず、四人は彼女を連れ出すようにして、誰もいない秘密のレッスンスタジオへと足を踏み入れた。


第二章:深淵の回想――キラキラのための代償

無機質なレッスンスタジオ。鏡に映る五人の姿は、どこか張り詰めた空気を纏っていた。アイドルを中央に座らせ、ウィンクたちは静かに語り始める。それは、彼女たちがさらなる「力」を求めて、禁断の運命を受け入れた日の記憶だった。


「覚えている? 私たちがプリキュアとして活動し始めて……それでも、自分の無力さに打ちひしがれていた時。カレンさんにあの『銀色のデバイス』を見せられた日のこと」


ウィンクの言葉に、アイドルの意識が過去へと引き戻される。


当時の彼女たちは、すでにプリキュアとして懸命に戦っていた。しかし、はなみちタウンを侵食する闇の勢力に対し、平和を守り切れない現実。人々の笑顔が消えていく絶望の中に現れたカレンが提示したのは、聖なる力を極限まで引き出す代償として、**「世界中の人々の悲しみや祈りという膨大なノイズを、自らの神経系に直接流し込み、浄化し続ける」**という、精神を削り取るような過酷な契約だった。


(……こんな、重いものを背負わなきゃ救えないなんて。……そんなの、耐えられるはずがない!)


最初は、全員が強い恐怖と拒否感を示した。平和を願う少女としての心が、そのあまりにも巨大な精神的負荷に、本能的な拒絶反応を起こしていた。そんな沈黙を破ったのが、誰あろうアイドル(うた)だった。


『……やるわ。私たちが守りたい世界は、私のプライドよりも、私の安らぎよりも、ずっと大切だもの。私が、最初にやる!』


アイドルは震える手で、デバイスを自らの首筋へと装着した。初めて流れ込んできたのは、脳を焼き切るような強烈な「他者の悲痛」と、意識が白濁するほどの膨大な情報の奔流。彼女は鏡の前で、全身を痙攣させるほどの精神的オーバーロードに晒されながらも、必死に「救済の旋律」を口ずさみ続けた。


その凄絶な献身を目の当たりにしたからこそ、仲間たちは自らの運命を受け入れる覚悟が決まったのだ。


「アイドル、あの時のあなたの姿があったから、今のズキューンたちがいるんだよ。アイドルが真っ先に勇気を出してくれたから、世界にキラキラが戻ったんだ!」


ズキューンが、アイドルの瞳を真っ直ぐに見つめて言った。その瞳には、アイドルを絶対的に信頼し、応援する「プリルン」としての純粋な光が宿っている。


「アイドルはすごいんだよ! いつだって、ズキューンの自慢なんだから! だから……ズキューン、アイドルのために頑張る! アイドルがまた笑えるように、全力でデバイスと向き合って、もっともっと力を引き出して……!」


キッスも、ズキューンの純真な言葉に深く頷き、慈しむような視線を送る。


「……ええ。お姉さまの仰る通りですわ。アイドル、あなたがこの場所を、私たちが戦うための『聖域』にしてくれた。だから、そんなに一人で責任を感じないでください。……見ていて、アイドル。私たちの絆は、もうこんなに強くなっているのよ」


アイドルが驚きに目を見開く中、四人は彼女を取り囲むようにして立ち上がった。


「え……? みんな、何を……」


「私たちが、アイドルを元気づけるための特別な共鳴を見せてあげる」


ウィンクの合図と共に、四人のデバイスが、かつてないほど高く、鋭い駆動音を響かせ始めた。


第三章:共鳴の証明――見本となる法悦

「さあ、見ていて。アイドル、これが私たちの『今』だよ!」


ウィンクの声が鋭くスタジオに響き、それが開戦の合図となった。まずはズキューンとキッスがスタジオの中央で向き合う。二人のデバイスが銀色のケーブルで直結された瞬間、空気を物理的に押し出すほどの重低音が、鏡張りの壁を震わせた。


「アイドル、見ててね! ズキューン、アイドルがもっと元気になるように、いーっぱい『大好き』を響かせちゃうんだから! 頑張るからね!」


ズキューンは天真爛漫な笑みを絶やさぬまま、自らのデバイスの出力を一気に臨界点まで引き上げた。


キィィィィィィィィィィィィン――ッ!!!


「あ、はぁぁぁぁぁぁっ! すごい、すごいよぉっ! ズキューン、なんだか身体がポカポカして、キラキラが溢れ出してきちゃう……っ!」


脳内へ直接流れ込む膨大な「世界の祈り」。その精神的圧力に、ズキューンの身体は弓なりに跳ね、瞳は白光に染まる。凄まじい衝撃に翻弄されながらも、彼女は懸命にアイドルへ向かって手を振った。その純粋すぎる献身の形に、アイドルは息を呑む。


「……っ、……お姉さま……っ! なんて素晴らしい輝き……! 私も、お姉さまに遅れずについていきますわ。アイドル、これがあなたの作ってくれた『居場所』の熱さです!」


キッスが崩れそうになるズキューンを抱きしめるように支え、二人のデバイスが激しく干渉し合う。キッスもまた、喉を焼くような熱い吐息を漏らし、敬愛するズキューンと共に、意識が消失するほどの極限の共鳴へと突き進んでいく。


二人の肉体が、制御不能の振動に晒され、白濁したニコエナジーがスタジオを満たしていく。その「見本」としての凄絶な共鳴を目の当たりにして、ウィンクとキュンキュンの瞳にも、かつてない情熱が宿った。


「……負けてられないね、キュンキュン」


「うん、ウィンク。アイドルに、私たちの絆がどれだけ深まったか……思い知らせてあげよう!」


二人はアイドルの左右に陣取ると、互いのデバイスを直結した。ズキューンたちが放った熱量をガソリンにするかのように、ウィンクとキュンキュンの共鳴速度が跳ね上がる。


「あ、ああああああああっ!! 違う……、昔のとは、密度が全然っ……!」


ウィンクが、自身の内側を抉るような未体験の共鳴圧に、アイドルの肩に縋り付いた。銀色の鎖を通じて、仲間の、そして世界のあらゆる感情が心臓へと直接叩きつけられる。


「っ、はぁ、はぁっ……! 繋がってる、ウィンクと……アイドルと……みんなの心が、全部ここに……っ、あああああぁぁぁっ!!」


キュンキュンもまた、目尻に涙を浮かべながら、抗いがたい共鳴の渦に身を投じる。


二人はかつての訓練時を遥かに凌駕する負荷を同時に共有し、精神の鼓動を完全に同調シンクロさせた。それは、アイドルの重圧を半分どころか、すべて包み込んで溶かしてしまうほどに強大で、温かい奔流だった。


「「「「あ、ああああああああああああああああああああああああっ!!!!」」」」


四人同時の、極限を超えた共鳴。

アイドルの目の前で、仲間たちの意識が光の中に融解し、けれどその魂はかつてないほど「自由」に輝いている。


一人が苦しむためのデバイスではない。全員で支え合い、一人の痛みを十三人で分かち合うための「絆」。その光景に、アイドルの頬を熱い涙が伝った。


「……みんな……。私、……私は……」


仲間たちが自分を信じ、この過酷な道さえも「幸せ」だと笑って進んでいる。その揺るぎない事実が、アイドルの頑なだった心を根底から解きほぐしていった。


第四章:新生の旋律メロディ――輝きの進軍

スタジオを埋め尽くした濃厚なニコエナジーの残響。四人の凄絶な共鳴が収束していく中、床に伏したキッスが、震える手で隣のズキューンの腕を強く掴んだ。


「……あ、はぁっ、……お姉さま……っ。私たち、やりましたね……」


「ズキュ……ッ、……うんっ! やったね、キッス! アイドル、見てくれたかな……。ズキューン、今、世界で一番キラキラしてる気がするよ!」


精神的オーバーロードによる激しい眩暈に身を震わせながらも、ズキューンは天真爛漫な笑顔をアイドルへ向けた。それを見たキッスも、誇らしげに、そして深い信頼を湛えた瞳で「お姉さまの仰る通りですわ」と微笑む。二人の迷いのない共鳴の姿に、アイドルは堪えきれず、その場に膝をついて泣き崩れた。


「……ごめん、なさい……。私、みんなをこんなに追い詰めてるって……勝手に一人で背負い込んで……っ」


そんなアイドルの背中に、ウィンクとキュンキュンが優しく触れる。


「謝らないで。私たちは、あなたの後ろを歩いてるんじゃない。隣を歩いてるの。……ほら、顔を上げて?」


アイドルが顔を上げると、そこにはキミプリ組の四人だけでなく、騒ぎを聞きつけて集まっていたスカイ、プリズム、バタフライ、ハーモニー、そしてわんぷり組の面々が、それぞれのデバイスを誇らしく輝かせて立っていた。


「アイドルさん。私たちは、あなたに救われたんです。だから、今度は私たちが、あなたの『楽しい』を支えます!」


スカイ(ソラ)が力強く宣言する。その隣で、はもり――ハーモニーも、元気よく手を挙げた。


「そうだよ、お姉ちゃん! アタシたち、みんなで心を一つにして、世界を助けるんだもん! 楽しくなくっちゃ、キラキラじゃないよ!」


「……そうだよね。……みんな、ありがとう。私、ようやく分かったわ。もっと信じて、もっと分かち合って……みんなと一緒に、笑いながら進んでいかなきゃいけないんだよね!」


アイドルの顔から、悲壮な影が完全に消え去った。かつての、そしてそれ以上に眩しい「本当の笑顔」が戻った瞬間、十三人のデバイスが祝福するように、優しく、けれど力強く共鳴した。


「よし、みんな! 肩の荷はもう捨てたわ! 私たちの最高の『キラキラ』を、ニコランドの果てまで届けに行きましょう!」


「「「「「「「「「「「「「オーッ!!!」」」」」」」」」」」」」


結束を一段と強めたキミプリ組を先頭に、十三人の戦士たちは迷いのない足取りで、黄金の扉の向こう側――枯れ果てたニコランドの深部へと一歩を踏み出した。


彼女たちの身体の奥では、常にデバイスが脈打ち、世界中の祈りをエネルギーへと変換し続けている。だが今の彼女たちにとって、それは苦悶の鎖ではなく、世界を救うための「至福の証」だった。


迷いなき十三重奏サーティーン・レゾナンスが、淀んだ世界へと響き渡る。


第五話「久遠の絆と、はじまりの五人」 ――完

専用Xアカウント

https://x.com/gin_no_sakura_y?s=21


イメージソング収録

https://youtube.com/channel/UCf9Cp8TicaB66IdgbE7wxPQ?si=kFtHO8Jk97tbQuwx

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