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第二話:友情の産声、黄金の咆哮

第一章:曇天の慈愛、蹂躙される純粋

アニマルタウンの朝を支配していたのは、清々しい太陽の光ではなく、すべてを灰色に塗り潰す「ダークネス・ミスト」の不気味な静寂だった。大気は湿り、鉄錆のような臭いが鼻腔を突く。


「……キャン、キャンッ!!」


犬飼いろはの足元で、パピヨンのこむぎが鋭い声を上げた。それは散歩を強請る甘えた鳴き声ではない。喉を震わせ、獲物を前にした獣のような、切迫した警告。

いろはが視線を向けた公園の広場では、悪夢のような光景が展開されていた。


いつもは日向ぼっこをしていた野良猫たちが、背中の毛を針のように逆立て、目からは濁った泥のような魔力が溢れ出している。彼らは互いを喰らい合うかのように激しく威嚇し、その喉からは「グルル……」と、この世の生物とは思えぬ不気味な重低音が漏れていた。


「どうしたの……? みんな、喧嘩しちゃダメだよっ!」


いろはは、恐怖を「愛情」で塗り潰すように駆け寄った。

全世界の動物たちと仲良くなりたい。言葉の通じない彼らと、心で繋がることが彼女の生きる理由だった。だが、彼女が震える手を差し出した瞬間、最も小さかった三毛猫が、獣のそれとは思えぬ膂力で跳躍した。


「――っ!? あ……っ!」


鋭利な爪が、いろはの白い手の甲を深く裂く。

灼熱の痛みが走るが、彼女を絶望させたのは痛みではなかった。自分を信じて喉を鳴らしてくれたはずの瞳の中に、今はただ、彼女を「排除すべき肉塊」としか見ていない、冷酷な破壊衝動だけが宿っていたことだ。


「ワンッ、ワンワンッ!!」


こむぎがいろはを庇い、剥き出しの牙で猫たちを退けようとする。

その時、霧の向こうから、聞き慣れた、けれど今までよりずっと硬く鋭い声が響いた。


「いろはちゃん、下がって……! 今のあの子たちに、その優しさは毒になるわ」


「……えっ、まゆちゃん!?」


霧の中から現れたのは、クラスメイトの猫屋敷まゆだった。しかし、その隣に立つ見知らぬ銀髪の少女の、射貫くような眼差しにいろはは息を呑む。


「まゆちゃん、あの人は……? それに、何なの、あの猫たちは……っ」


「……この子は、ユキよ。私の、大切な家族」


「えっ……ユキって、あの白猫の……?」


困惑するいろはを置き去りにするように、まゆは震える手で首元に鎮座する「銀色のデバイス」を握りしめた。


「説明している暇はないわ。……いろはちゃん、見ていて。これが、この街を救うための……唯一の、残酷なやり方なの」


まゆの覚悟に呼応し、デバイスが銀色の放電を開始する。


「プリキュア! マイエボリューション!!」


激痛と光の奔流がまゆを飲み込み、一瞬にして彼女の姿を深緑の戦士へと変貌させた。同時に隣の少女も、銀色の輝きを纏うキュアニャミーへと姿を変える。


「うそ……まゆちゃんが、……プリキュアに?」


いろはが呆然と立ち尽くす中、ニャミーが怪物へと膨れ上がる猫たちを見据え、氷のように冷たい声を投げかけた。


「愛だけじゃ、何も守れない。……その犬も、放置すればいずれ、あなたを噛み殺す獣に成り果てるわ。……それが、この『闇』がもたらす結末よ」


いろはは息を呑んだ。足元で必死に自分を守ろうとするこむぎの背中を見つめ、彼女の心は、得体の知れない「銀色の運命」への恐怖と、こむぎを失うことへの絶望で、激しく掻き乱されていった。


第二章:銀の宣告、死のカウントダウン

「……っ!? そんなの、嘘だよ! こむぎは、そんなことしないっ!!」


いろはは悲鳴に近い声を上げ、こむぎを折れそうなほど強く抱き寄せた。だが、腕の中の温もりは、今や異常なまでの熱を帯び、白い毛並みの奥底ではどす黒い紋様が血管のように脈打っている。ミストの侵食は、無慈悲にその幼き生命を蝕んでいた。


「嘘じゃないわ、いろはちゃん……」


リリアンが、悲痛な面持ちで一歩踏み出した。その首元のデバイスが、警告のように赤黒い光を放つ。


「この街の動物たちを救うには、私たちと同じ『覚悟』を決めるしかないの。……でも、それはただの協力じゃない。……この『銀色のデバイス』に魂を繋ぎ、人ならざる力を得るということ。……それは、己の命を燃料に変える、永劫の契約なのよ」


「契約……? 命を、削る……?」


「そうよ。……でも、いろは。あなたも心の深淵で、ずっと怯えていたはずよ」


ニャミーの声が、剃刀のように鋭くいろはの鼓動を刻む。


「人間と犬。……残酷なまでに乖離かいりした、生命の刻限の差を。あなたが大人になる頃、その犬はもう、動かぬ肉塊でしかない。……いずれ来る永遠の別れを、ただ泣いて待つだけの無力な飼い主で、本当にいいの?」


「――ッ!!」


いろはの心臓が、劇烈な衝撃に跳ねた。それは、彼女が「全世界の動物と仲良くなりたい」と願う一方で、最も身近な親友であるこむぎに対して抱き続けていた、喉の奥に刺さった棘のような恐怖。


(いつか、私だけが取り残される。……私がお婆ちゃんになる時、こむぎはもう、隣にいない)


その生物学的絶望を、ニャミーは容赦なく引き摺り出したのだ。


「ガウッ、ガウゥゥ……ッ!!」


こむぎが、混濁する意識の中で必死にいろはを見上げた。その瞳が、ミストの闇に塗り潰される寸前、二人の間に二つの「銀色のデバイス」が流星の如き速度で着弾した。


デバイスから放たれた銀色の神経糸が、いろはとこむぎの精神を強引にバイパス(直結)する。その刹那、いろはの脳内に、濁流のような「こむぎの思念」が流れ込んだ。


(……いろは。……大好き、いろは。……置いていかないで……!)


「え……? こむぎの声……?」


(……私、いろはと一緒にいたいの。お婆ちゃんになっても、ずっと……隣で笑っていたい。……そのために、人間になりたい……っ!!)


「こむぎ……っ。あなたも、私と同じことを……私と一緒にいたいって、思ってくれていたんだね……っ!」


寿命の壁、種族の境界。そんな絶望を焼き尽くすほどの「執着」と「愛」が、デバイスという過酷な器を媒介に、今、一つの特異点へと収束した。


『……見つけました。……死の運命を呪い、永遠の絆を求めた、愚かで愛しき二つの魂を』


虚空から響くカレンの宣告と共に、銀色の雷鳴が二人を貫く。

いろはは、首元に突き刺さる凄絶な衝撃――魂が装置へとプラグインされる激痛――を、歓喜すら混じった覚悟で受け止めた。


この闇を払い、こむぎを救い、そして共に歩める「長い未来」の可能性が、この禁忌の契約の先に僅かでもあるのなら。

彼女は、迷わずその銀色の深淵へと身を投げた。


第三章:黄金の再編、ワンダフル・エボリューション

「――ッ!? あ、ああああああああああああああッ!!!」


いろはとこむぎ、二人の絶叫が一つに重なり、アニマルタウンの曇天を切り裂いた。

首元にプラグインされた「銀色のデバイス」が臨界駆動を開始し、二人の魂を、細胞のひとつひとつに至るまで強引に融解・再構築していく。


いろはの身体を襲ったのは、内側から骨を削り、神経を焼き切るような「進化の熱」だった。デバイスが彼女の生命力を吸い上げ、それを「異能」へと変換する凄絶なる等価交換。

だが、それ以上に劇的な変容は、いろはの腕の中にいた「こむぎ」に起きていた。


「ワン……、わ、……あ、あ、あああああっ!!」


こむぎの小さな獣の肉体が、銀色の放電の中で激しく脈動し、膨れ上がる。

四肢が引き伸ばされ、体毛が消え、透き通るような少女の肌へと変質していく。骨格が軋む不気味な音が響くたび、こむぎは「犬」としての生を剥ぎ取られ、いろはと同じ「人間」という高次存在へと強引に押し上げられていった。


それは生命への冒涜ぼうとくでありながら、二人の「ずっと一緒にいたい」という執念が呼び寄せた、残酷なまでの奇跡。


(……いろは。いろは、いろは……っ!)

(こむぎ……! 離さない、絶対に離さないから……っ!!)


白濁する意識の奔流の中で、二人の精神はデバイスを通じて完全に溶け合った。

こむぎの純粋な野生の力が、いろはの博愛という器を満たしていく。


二人の間に、魔力の結晶体――ワンダフルパクトが顕現した。いろははその熱く火照ったパクトを掴み、こむぎの手を――今はもう、自分と同じ柔らかな「少女の手」となったそれを、力強く重ね合わせた。


「「プリキュア! マイエボリューション!!」」


轟音と共に、黄金の光柱が天を突いた。

光の繭の中で、二人の衣装が瞬く間に編み上げられていく。


こむぎには「野生の躍動」を象徴する桃色のドレスが、いろはには「すべてを包み込む慈愛」を象徴する紫色のドレスが纏わされていく。


「――っ、はぁ、……っ、はぁ、……っ!!」


光が弾け、地面に降り立ったのは、かつての平凡な少女と飼い犬ではない。


いろはは、自らの内に眠る爆発的な力をぎょし、隣に立つ「少女」となったこむぎを見つめた。

こむぎは、慣れない二本足でふらつきながらも、いろはを振り返り、その瞳に「ずっと伝えたかった想い」を宿して微笑む。


「……いろは。私、……いろはと、同じになれたワン……っ!」


その言葉こそが、何よりの覚醒の合図だった。

二人は同時に天を仰ぎ、新生した魂の声をアニマルタウンに響かせる。


「みんな大好き素敵な世界! キュアワンダフル!!」


「みんなの笑顔で彩る世界! キュアフレンディ!!」


一人で二人。二人で一対。

寿命も種族も、すべての境界線をデバイスの炎で焼き払い、彼女たちは「守護者」という名の修羅へと足を踏み入れた。


第四章:銀の静寂と、黄金の咆哮

「ガアアアアアアアアッ!!」


狂乱する三毛猫の成れの果て――巨大な影の獣が、その鋭利な闇の爪を振り下ろす。

しかし、その一撃が届くよりも早く、桃色の閃光が地を駆けた。


「……ダメだよ。そんなに悲しい声で鳴いちゃ、ダメ……っ!」


キュアワンダフルが、人間としての不慣れな肢体を「野生の直感」だけで制御し、怪物の懐へと飛び込んだ。その動きはしなやかな獣そのもの。彼女は攻撃を避けるのではなく、猛り狂う怪物の胸元へ、吸い込まれるようにその身を寄せた。


「ワンダフル、危ないっ! ……『フレンドリータクト』、お願い……みんなを、包み込んで!」


後方から叫ぶキュアフレンディが、手にしたタクトを鮮やかに振るう。

彼女から放たれたのは、ニャミーのような鋭利な銀光ではない。それは、春の陽だまりを溶かし込んだような、柔らかで、かつ有無を言わせぬ温もりを湛えた「抱擁の魔力」だった。

フレンディの放つ光のヴェールが怪物を優しく拘束し、その荒れ狂う殺意を凪がせていく。


「……ごめんね。痛かったよね。怖かったよね……。でも、もう大丈夫。……私たちが、あなたを独りにしないから」


ワンダフルが怪物の巨体を力いっぱい抱きしめた。

デバイスが二人の魂を削り、激痛を伴う魔力を供給し続ける中、二人はその「痛み」を「慈愛」へと変換し、怪物へと注ぎ込む。

闇に染まっていた怪物の瞳に、一瞬だけ、かつての無垢な光が宿った。


「――っ、はぁああああああッ!!」


二人のデバイスが共鳴し、極限の浄化波動が爆ぜる。

怪物は霧散した。だがそれは、ニャミーの「強制的な消去」とは明らかに異なる、魂を眠りへと誘うような、穏やかな「還付」だった。


「なっ……何、あの浄化……。あんなに温かい光、見たことない……」


ステージの上で戦いを見守っていたキュアアイドルが、驚愕に目を見開く。

デバイスという「兵器」を手にしながら、なおも「愛」という脆い感情を武器に変え、怪物を「救済」してみせた二人。その異質な輝きに、冷徹を貫いていたキュアニャミーの瞳にも、微かな動揺が走った。


「……馬鹿げた甘さね。……けれど、その甘さが、この閉塞した戦場を壊すというの?」


ニャミーは、首元のデバイスを強く握りしめた。

自分たちが失いかけていた「何か」を、この新参の二人は、その身を灼く激痛の先で未だに握りしめている。


アニマルタウンの夜空に、黄金と紫の光が満ち、絶望に沈んでいた広場に、奇跡のような「安心」が伝播していく。

だが、デバイスの過負荷は容赦なく二人の少女を苛む。


「……っ、いろは……、身体が、……っ」


「大丈夫、こむぎ。……みんな、見ていて。……これが、私たちの……本当の『仲良し』の形だよ!!」


ボロボロになりながらも、二人は互いの手を離さず、広場を埋め尽くす残りの影たちを見据えた。

それは、戦士としての「冷酷」ではなく、守護者としての「覚悟」を宿した、美しくも苛烈な黄金の咆哮であった。


第五章:九人のレゾナンス、光の円環

「な、何これ……身体が、勝手に動いちゃうワン……っ!?」


「こむぎ、手を離しちゃダメ! でも……この光、熱すぎて、抑えきれない……っ!」


キュアワンダフルとキュアフレンディは、自身のデバイスから噴き出す、制御不能な黄金の魔力に翻弄されていた。二人の「救いたい」という剥き出しの執着が、銀色のデバイスという冷徹な増幅器を通して、周囲の空間を物理的に歪ませるほどの暴風となって荒れ狂う。その光はあまりに純粋で、かつ破壊的。このままでは、浄化の前に二人の魂そのものが焼き切れてしまう。


その「未完成な激情」の奔流を、五つの鋭利な光の旋律が、天から降り注ぐようにして縫い止めた。


「――落ち着いて、新人さん。そのままだと、その『想い』の強さに自分たちが呑まれてしまうよ!」


キュアアイドルの、凛として、かつ慈愛に満ちた声が、混乱する二人の脳裏に直接「接続」された。

見上げれば、ステージの上で五人の戦士が、幾何学的な陣を敷き、デバイスを共鳴させていた。彼女たちの磨き上げられた整然たる魔力が、ワンダフルたちの暴走する光を、柔らかな円環へと導いていく。


「まゆちゃん……!? あの人たち、誰なの……っ」


「……大丈夫、いろはちゃん。……信じて。彼女たちは、私たちと同じ『痛み』と『誇り』を背負う仲間だから!」


リリアンの指先から放たれた光の糸が、戸惑うワンダフルとフレンディの手首に、優しく、けれど強固に絡みついた。


それは束縛ではない。五人のアイドルの「完成されたリズム」と、ニャミーの「冷徹な出力」を、二人の「剥き出しの慈愛」に同期させるための合奏のチューニング・ライン


「な、なんだか……身体が軽くなって……。みんなの、歌が聞こえる……。……ううん、みんなの『心』が、私の中に入ってくる……っ!」


フレンディが目を見開く。

デバイスという冷酷なプラグを通じて、初対面であるはずの五人の、そして親友であるまゆとユキの、数多の死線を越えてきた悲哀と覚悟が、濁流となって流れ込んでくる。

言葉による自己紹介など、この戦場では不要だった。首元の銀色の感触が、彼女たち九人を、逃れられぬ「一つの巨大な生命体」へと強制的に繋ぎ合わせていた。


「さあ、合わせるわよ! 彼女たちの『無垢』を、絶望を貫く一撃のくさびに変えるのっ!!」


ニャミーの峻烈な号令と共に、九人のデバイスが臨界共鳴を開始した。

ワンダフルたちの放つ「愛」の波動が、アイドルたちの「歌」を燃料に、空を穿つ巨大な白銀の砲身へと成型されていく。


「「プリキュア! ワンダフル・エターナル・アンサンブルッ!!」」


九人の絶叫と旋律が、アニマルタウンの夜空を白銀に塗り替えた。

それは、暴走を乗り越え、不器用な魂たちが初めて手にした、奇跡のような「調和ハーモニー」。


広場を埋め尽くしていたダークネス・ミストは、その圧倒的な肯定の質量に耐えかね、叫びを上げる間もなく、聖なる雪のような光の粒子へと還っていった。

光の余韻の中で、ワンダフルは自分の「新しく得た少女の手」を見つめ、それから隣のフレンディを見上げた。


「……いろは。私たち、……みんなと、繋がったワン」


銀色の呪いがもたらした、孤独な魂たちの不器用で、かつ劇的な邂逅。

彼女たちはまだ知らない。この「繋がり」が、やがて世界を救う唯一の鍵であり、同時に彼女たちを逃れられぬ運命の深淵へと引きずり込む鎖であることを。


第六章:黄金の初舞台、明日へのステップ

戦いの熱気が霧散した無人の広場に、奇跡のような旋律が流れ出した。


アイドル五人、ニャミー、リリアン。そして、今この瞬間に産声を上げたばかりのキュアワンダフルとキュアフレンディ。

九人のデバイスが、戦闘モードから「共演モード」へと、その拍動を美しく同期シンクロさせていく。


「こむぎ、見て……。ライトが、私たちを照らしてる……っ!」


フレンディが震える声で呟いた。無人の客席、けれど街中のモニターには、今まさに誕生した二人の姿が、希望の象徴として映し出されている。


ワンダフル――人間となったこむぎは、まだ慣れない二本の足で、地面の感触を確かめるように一歩を踏み出した。その足取りは危ういが、フレンディが差し出した手を握りしめた瞬間、彼女の魂に「野生の躍動」を越えた「共生の喜び」が爆発した。


「……いろは。私、歌えるワン。……いろはと同じ言葉で、同じ歌を……っ!」


イントロの鼓動に合わせて、九人が一斉にステップを刻む。

それは、完璧に調教されたダンスではない。デバイスを介して流れ込む「九人の命の響き」が、互いの筋肉を、神経を、一つの巨大な生命体のように連動させているのだ。

ワンダフルは、隣で舞うフレンディの弾けるような笑顔を見て、涙が溢れるのを止められなかった。


(……ずっと、追いかけていた背中。……ずっと、見上げていた大好きな顔)


今、自分は四本足の「ペット」としてではなく、対等な「パートナー」として、いろはの隣で風を切っている。

寿命の違いに怯え、いつか来る別れに震えていた犬の魂は、この「銀色のデバイス」という名の残酷な恩寵によって、今、永遠にも等しい一瞬の輝きを手に入れた。


「「みんな大好き素敵な世界! みんなの笑顔で彩る世界!!」」


九人の声が重なり、アニマルタウンの夜空を黄金の粒子が埋め尽くす。

それは、デバイスが少女たちの「生の昂揚」を吸い上げ、物理的な希望へと変換する、美しき等価交換。


先輩であるアイドルたちが、新参の二人の輝きに触発され、さらにその歌声を研ぎ澄ませていく。ニャミーとリリアンもまた、自分たちがかつて抱いた「誰かを守りたい」という純粋な原点を、ワンダフルたちの熱量の中に再確認していた。


ライブの終焉と共に、広場には聖なる静寂が戻った。

デバイスの過負荷で膝をつきながらも、いろはとこむぎは、互いの額を寄せ合い、同じ熱量を共有している。


「……こむぎ。私たち、明日からも……ずっと一緒だよ」


「ワンッ! ……あ、はいっ、いろは! ずっと、ずっと一緒だワン!」


二人の誓いを、月光が静かに祝福する。

寿命も種族も、すべての境界線をデバイスの炎で焼き払い、二人の絆は、この過酷な戦場において最も純粋な黄金の輝きを放っていた。


その多幸感に満ちた二人の姿を見守りながら、リーダーであるアイドルは、自身のデバイスが刻む「不完全な共鳴」にそっと指を触れた。


「……まゆちゃん、いろはちゃん。あなたたちの『光』が、この街の闇を押し返してくれたわ。……でも、まだ足りない」


アイドルの瞳に、使命感と一抹の悲哀が宿る。ニコランドの扉を開き、この世界の淀みを根底から消し去るために必要な、完全なる合奏。


「あと、四人。……十三人のプリキュアが揃わなければ、ニコ様は目醒めない。……本当の救済は、まだ始まってすらいないのよ」


アイドルの呟きは、夜風に溶けて消えた。

今はただ、新しく加わった二人の勇気を称えよう。

けれど、彼女たちの首元で冷たく拍動を続ける銀色の感触は、次なる運命――より深く、より鋭い「絶望」を抱えた少女たちが、この聖域へと導かれる予兆を刻んでいた。


第二話「友情の産声、黄金の咆哮」――完。

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