第十五話:忍耐の祭壇、絆を繋ぐ静かなる咆哮
第一章:忍耐の神殿、起動する禁忌
夜明け前の静寂を、14人のプリキュアが放つ聖なるオーラが冷たく切り裂く。祭壇の中央では、幼き王女にして至高の神官たる**キュアマジェスティ(エル)**が、その気高き瞳に不退転の決意を宿して立っていた。
(……みんな。ここからは、心と体を一つにするのです。誰か一人が折れても、奇跡は完成しません。……準備はいいですか?)
エルの静かな問いかけは、もはや空気の振動を介さず、14人の脳裏に直接、染み渡るように響いた。14人は互いの手を、指の骨が軋むほど固く握り締め、円陣を組む。その中心に、カレンが捧げた古の銀色デバイスが据えられ、祭壇の床に刻まれた幾何学模様が、神々しくも峻厳な紫光を放ち始めた。
「儀式、開始……!!」
カレンの宣告と共に、祭壇から14本の光の触手が伸び、各々の腰に装着されたデバイスへと突き刺さった。
その瞬間――空間そのものが震えるような重低音が響き、少女たちの肉体に、人類がかつて経験したことのない**「膨大な生命エネルギー」**が直接流し込まれた。
(――っ!? ……っ! ……っっ!!)
声にならない衝撃に、14人の身体が同時に激しく震えた。
デバイスは、彼女たちの精神と繋がった神経系を強引に揺さぶり、内側から激しく溢れ出すような魔力の奔流を伝えてくる。それは、今までの「絆の共鳴」を遥かに凌駕する、意識を一瞬で白濁させ、自我の境界線を飲み込もうとする灼熱の波動だった。
(……う、あ……っ……!!)
ソラは、膝が折れそうになるのを、己の誇りだけで必死に繋ぎ止めた。ましろの手を握る指先が、限界まで白く震える。
この儀式の唯一にして絶対のルール。それは、この底なしの奔流によって生み出される「生命の熱」を、決して絶叫や魔力の放出という出口に逃がさず、自身の内側という器の中に無理やり封じ込め、超高圧で凝縮し続けること。
唇を割り、音を一筋でも漏らしてしまえば、この焼き付くような負荷からは一瞬で逃げられる。
だが、その一瞬の解放を選べば、こむぎやユキたちの存在を繋ぎ止めるための「奇跡の種」は霧散し、彼女たちは二度と戻らぬ光の塵となって消えてしまう。
(……まだ、……負けない……っ!!)
まゆが心の中で、魂を削るような叫びを上げた。デバイスの脈動はさらに激しさを増し、少女たちの足元には、歯を食いしばり耐え忍ぶ汗の滴が、雨のように零れ落ちる。
肉体は「解放」を求めて悲鳴を上げ、魂は「愛」を求めてこの過酷な沈黙の地獄に踏み止まる。
今、ニコランドの命運を、そして愛する者の「生」を懸けた、14人の「忍耐」という名の静かなる咆哮が、聖域の深淵を震わせ始めた。
第二章:蒼き守護、静寂に沈む三日目の残響
(――っ、……あ、あぁ……っ……!!)
祭壇を包む黄金と紫の光は、もはや少女たちの感覚を焼き尽くしていた。
儀式開始から、すでに三日三晩。
絶え間なく脳を揺さぶり続ける高周波の脈動と、内側からせり上がる魔力の熱量に、14人の心身はとうに限界を突破していた。だが、彼女たちは誰一人として、繋いだ手を緩めることはない。
円陣の要、中央に座す**キュアマジェスティ(エル)**の全身は、虚脱感で小刻みに震えている。
(……みんな、……あと少し……。……夜明けは、もうすぐ……なのです……っ!!)
エルの意識は、14人分の過負荷を自身の祈りでフィルタリングし続けたことで、すでに白濁していた。だが、彼女は至高の神官として、仲間たちの「魂の沈没」を食い止める最後の錨であり続けた。
その隣。**キュアスカイ(ソラ)**は、感覚の失われた膝を己の誇りだけで固定し、正面の仲間たちを血走った瞳で見据えていた。
(……まだ、……まだ……止まりません……っ!!)
三日間の沈黙。それは、彼女の「ヒーロー」としての在り方を根底から試す試練だった。
(……こむぎさん、ユキさん、プリルンさん、メロロンさん。……皆さんは、私たちの家族です。……家族が、……その足で、……笑って歩き出すその時まで……っ!!)
ソラは、ましろの手を握る力を強めた。不動の「青い背中」を仲間に見せ続けることで、彼女は崩れ落ちそうになる全員の精神を、力ずくでこの現世に繋ぎ止めていた。
キュアプリズム(ましろ)もまた、魂を削るような重圧の中で、慈愛の光を灯し続けていた。
(……いろはちゃん、まゆちゃん、うたちゃん……。……みんなを、……一人になんて、させない……っ!)
ましろの放つ微かな光は、三日間、一度も絶えることはなかった。隣で必死に耐えるハーモニーを、そして円陣全員の心を繋ぎ止める、折れることのない生命線となっていた。
そのましろに支えられながら、キュアハーモニー(はもり)は、喉を焼くような渇きと重圧に耐え、唇を噛んでいた。
(……く、……ぁ……っ!! 私の歌は……、……誰かの……笑顔のために……っ!!)
歌うことを生業とする彼女にとって、この沈黙は、魂を窒息させられるに等しい苦行だ。だが、彼女の脳裏には、誰よりも尊敬するうたお姉ちゃんと、自分たちを静かに支え続けてくれたプリルンの笑顔があった。
(……プリルン、……いかせない……っ。……私たちのステージは、……うたお姉ちゃんと、プリルンと……みんなで、これからなのっ……っ!!)
ハーモニーは、ましろとあげはの手を、折れんばかりに強く握りしめた。彼女の喉から漏れそうになる「旋律の爆発」を、仲間の手の温もりが、慈しむように、けれど厳格に封じ込めていた。
**キュアバタフライ(あげは)**は、この「沈黙の地獄」に対し、剥き出しの生命力で抗っていた。
(……ハハッ、……マジで……キツいじゃん……っ!!)
意識が遠のきそうになるたびに、彼女は自分の唇を強く噛み、血の味で正気を繋ぎ止める。
(エルちゃん、……大丈夫。……最強のお姉さんが……ついてる。……みんなで、新しい夜明けを迎えるまで……絶対に、……脱落なんて……させないから……っ!!)
あげはは、はもりとエルの手を力一杯抱き寄せた。
彼女のデバイスから溢れ出すのは、不遜なまでの「生きる意志」。それは、神聖な儀式の沈黙を、現世への執着で強引に繋ぎ止める、最後の防波堤となっていた。
三日三晩、一筋の音も漏らさず、ただ愛する者のために耐え抜いた14人の忍耐。
エルの祈り。ソラの誇り。ましろの優しさ。あげはの生命力。そしてはもりの執念。
その全てが融け合い、祭壇の暴走をねじ伏せ、こむぎやユキたちの「魂の再生」を可能にするための「凪」を作り出す。
(……夜明け、……来ます……っ!!)
エルの声なき先導により、儀式はついに最終局面――最も深い「絆の臨界点」へと移行していく。
汗と涙に濡れ、ボロボロになりながらも、14人の少女たちが築き上げた「沈黙の檻」。
そこには、自分たちの命すら二の次にして、愛する者の「生」を懇願する、14の魂の絶叫が、静かに、激しく、共鳴し続けていた。
第三章:散歩道の約束、ひだまりの記憶
(あ、ぐ……っ、……っ! いろ、は……っ!!)
デバイスの脈動が一段と加速し、こむぎの意識は火花が散るような激しい熱量に埋め尽くされていく。動物としての鋭敏すぎる感受性は、デバイスが発する強烈な共鳴の振動を何倍にも増幅し、魂の芯を直接揺さぶられるような感覚を脳へ叩き込んでくる。
本能は、この溢れ出す力を今すぐ外へ解き放つことで、この苦しすぎる重圧から逃げろと、剥き出しの叫びを上げていた。
(やだ……。やだワン……っ。ここで、声を出しちゃったら……「私」が、いなくなっちゃう……!)
こむぎの脳裏に、いろはと出会ったあの日、まだ言葉を持たなかった自分に差し伸べられた温かい手のひらが浮かぶ。ただの「飼い犬」だった自分を、対等なパートナーとして、一人の人間と同じ「こむぎ」という名で呼んでくれた少女。
(いろはと、もっとお話ししたい。いろはと、もっと美味しいものを食べたい。……「いろは、大好き!」って、自分の声で……お婆ちゃんになるまで、一生、伝え続けたいんだワン……!!)
こむぎは溢れ出しそうになる吐息を、小さな歯を食いしばって喉の奥で噛み殺した。白目を剥きそうになる意識を、いろはの手から伝わる微かな鼓動一つに繋ぎ止める。
対するいろはもまた、内側を焼き焦がされるような熱に、身体を弓なりに反らせながら耐えていた。彼女を支えているのは、こむぎという光が自分の人生にもたらしてくれた、数え切れないほどの「笑顔」の記憶だ。
(こむぎ……。こむぎがいてくれるから、私の世界はこんなに広くて、優しくなったんだもん……! 絶対に、絶対に離さない……!)
いろはは、震える指先でこむぎの手を、自身の皮膚に爪が食い込むほど強く、狂おしく握りしめる。心の中で、声なき魂の叫びが共鳴した。
(こむぎをただの「犬」に戻したりしない。命の期限に怯えるような日々には、もう返さない。……お婆ちゃんになっても、腰が曲がっても、シワシワの顔で笑い合いながら「ねえ、こむぎ」って呼びかけたいの。その未来を……二人で歩くはずの長い長い散歩道を、こんな……一瞬の、勝手な熱なんかに、絶対に渡さない……っ!!)
いろはの、喉を焼くような執念。その想いが、こむぎを呑み込もうとしていた重圧の波を、正面から力ずくで押し返した。こむぎの瞳に、獣の本能を完全に凌駕する「人間の意志」が宿る。
(……いろ、は……。私も、離さない……! ずっと、いろはの隣で笑って、お婆ちゃんになっても、隣にいるんだワン……っ!!)
二人の間に、デバイスが強いる本能的な衝撃さえも浄化するような、清冽な「約束」の光が満ちていく。
口を固く結び、汗にまみれ、激しく痙攣する肉体を支え合う二人の姿は、聖域の闇の中で最も気高く、揺るぎない「愛」の形として刻まれていた。
第四章:氷の誇り、リボンの誓い
(あ、ぁ……っ、……っ、く……っ!!)
ユキの喉の奥から、押し殺した呻きが響いた。
古のデバイスが刻む非情な高周波の律動は、彼女の鋭敏すぎる猫としての本能を直接抉り、脳内に「存在を解き放ち、無に還れ」と促す強烈な共鳴波を叩き込んでくる。気高き白猫としての自尊心が、自我を飲み込もうとする熱い魔力の泥濘に沈み、意識が何度も白濁してゆく。
(……っ、この、私が……。こんな、デバイスの……力に……屈するというの……っ……!)
ユキをこの現世に繋ぎ止めるのは、正面で必死に自分を見つめる、まゆの涙に濡れた瞳だった。
かつて、冷たい雨の中で独りぼっちだった自分に、傘を差し出し、名前を付け、居場所をくれた不器用な少女。まゆがいなければ、自分の世界は雪に閉ざされたまま、色を持つことさえなかった。
(ユキ……っ、ごめんね、苦しいよね……。でも、離さない……! 私、ユキがいない世界なんて……もう、嫌だよ……っ!!)
まゆの悲痛な「声なき叫び」が、ユキの魂の核に深く突き刺さる。まゆもまた、華奢な身体をガタガタと震わせ、内側から溢れ出そうとする膨大なエナジーを一筋の声も漏らさずに耐えていた。その頬を伝う汗が、二人の繋いだ手の甲に滴り落ち、熱く弾ける。
ユキの脳裏に、まゆが初めて自分にリボンを結んでくれた日の記憶が鮮烈に蘇った。
『似合ってるよ、ユキ。世界で一番、可愛いよ』
あの時のまゆの震える指先と、自分に向けられた、世界で一番優しい笑顔。
(……守ってあげていると思っていた。……救ってあげていると、思っていた。……けれど、本当に救われていたのは、私の方だったのね……)
ユキの瞳に、極北の氷山のような、青白く鋭い意志が再点火される。
彼女はまゆから流れ込んでくる「恐怖」と「執着」を、すべて自分の誇りという名の盾で受け止めた。重圧に屈して声を漏らすことは、まゆとの未来を捨てること。それは、誇り高いキュアニャミーにとって、消滅よりも耐え難い屈辱だった。
(ま、ゆ……。……私は……あなたの……騎士……。……騎士が、主を置いて……一人で、楽になど……なれるはずが……ないでしょう……っ!!)
ユキはまゆの手を、骨が軋むほどに強く握り返した。
デバイスが強いるのは「存在の霧散」。だが、ユキがまゆへ向けるのは、それを遥かに凌駕する「個」としての魂の誓い。
(まゆ……。……一緒に、帰りましょう。……二人で、あの部屋に……リボンのある、あの場所へ……っ!!)
二人のデバイスが共鳴し、清冽な銀色の光が、内側から祭壇の重圧を押し返してゆく。
口を固く結び、意識を朦朧とさせながらも、二人の心はかつてないほどに深く、密接に融け合い、一滴の熱量も外へ逃がさない「氷の結界」を形成していた。
第五章:旋律の絆、孤独の終わり
祭壇から噴き出す紫の奔流は、もはや三人の少女の肉体を透過し、その魂そのものを直接揺さぶっていた。
(あ、ぁ……っ! ……っ、く……っ!!)
ななは、自身の内側から溢れ出す、制御不能な「絆の重圧」に、喉を鳴らして耐えた。デバイスが刻む非情な脈動は、彼女がこれまで築いてきた「強がり」という壁を、熱い波で溶かし去ろうとする。視界が白濁し、握っている手の感覚さえ失われそうになる。だが、ななは歯を食いしばり、必死に右隣のキッスの指を絡めとった。
(……家族は大好き。でも、お父さんやお母さんには言えない『本当の私』を、この子たちは知ってくれている。……うたも、プリルンも、みんなが笑える未来を、この勝手な熱なんかに、絶対に渡さない……!)
ななにとって、この絆は「逃げ場」ではなく、より強くあるための「誇り」だった。
(キッス……! 苦しいよね……っ、でも、絶対に……離さないから……っ! 私が、あんたの重りになってやる……っ!!)
ななは、自身の肉体を突き上げる衝撃を、無理やり「キッスを現世に繋ぎ止めるための楔」へと変換し、汗ばんだ手でキッスの細い指を強く握りしめた。
その反対側で、こころは、全身を襲う激しい震えに耐え、唇を噛んでいた。
まだ幼い彼女にとって、デバイスが与える精神的過負荷はあまりにも残酷で、容赦がない。内側からせり上がる、焼けるような熱感。それが彼女の未熟な心を揺らし、何度も意識を暗転させようとする。
(……やだ……っ。私が負けちゃったら……メロロンが、消えちゃう……!)
こころの脳裏を、かつて独りぼっちだったメロロンと出会った日の、あの冷たく、どこか悲しげな瞳がかすめる。
(メロロンはね、こころが守るの。……寂しいのは、もうおしまい。こころが、いっぱい大好きをあげるから……だから、勝手にお空に帰っちゃ、ダメだよ……っ!!)
こころは涙と汗をそのままに、細い腕でキッスの左手を力一杯抱き寄せた。彼女の小さな身体から溢れ出すのは、純粋な愛。その温もりが、霧散しかけていたキッスの実体を強烈に引き戻す。
(メロロン……! ギュッてして……ギュッてしてるから……っ! どこにも行かないで……! こころと一緒に……また明日も、遊ぼう……っ!!)
二人の少女の、真っ直ぐで苛烈な愛。その熱波が、**キュアキッス(メロロン)**の凍てついた理論を激しく揺さぶる。
(……っ! 共鳴率が……想定を、超えています……っ!!)
キッスの喉の奥からは、漏れそうになる「力の爆発」を必死にせき止める、切迫した吐息が漏れる。論理的な防壁が崩れ、剥き出しの「生の願い」が露呈し始める。
(一人でいることの、あの凍えるような冷たさを……私は、二人の……いえ、みんなの熱で忘れることができた。……失いたくない。この温もりを、守り抜かなければ……っ!)
(……ぁ、ぐ……っ、ふぅ……っ! 感謝、します……なな、こころ。……ですが、今は……集中を。……っ、意識を……散らさないで……っ!!)
キッスの心には、いつもの余裕が消えていた。
だが、その瞳には焦燥と共に、二人への強烈な執着が宿っている。彼女は二人から流れ込んでくる「必死に耐える想い」を、霧散しそうな自我を繋ぎ止めるための支柱として受け取り、内側へと力任せに押し戻した。
三人の絆が虹色の共鳴を起こし、デバイスの唸りが一つの旋律へと重なる。
それは、デバイスが強いる「消滅の理」を、彼女たちが築き上げた「絆」への執念でねじ伏せる、壮絶な三重奏だった。
(……一滴も、漏らしはしません……。耐え抜きます。……私たちの、居場所を守るために……っ!!)
三人の繋いだ手は、熱を帯び、汗に濡れながらも、もはや誰にも引き剥がせないほど、固く、固く結ばれていた。
第六章:一番星の子守唄
祭壇のエネルギーは今や、見る者の網膜を焼くような黄金色へと変質していた。14人のプリキュアが形成する円陣は、眩い光の繭と化し、その中心でうたと、妖精を超越した戦士の姿――キュアズキューンは、互いの額を合わせ、魂の最深部で激しく火花を散らしていた。
(あ、ぁ……っ、……っ……!!)
うたの全身を、数万ボルトの衝撃に匹敵する共鳴の雷撃が貫く。古のデバイスは、彼女が「カレンの娘」であることを試すかのように、かつて母が耐えた地獄をも凌駕する、凶暴なまでの魔力の奔流を執拗に叩きつける。脳を灼き、理性を白濁させ、ただ「すべてを解き放てば楽になれる」と囁き続ける理の律動。
(……お母さん。……こんな、こんな重圧を、たった一人で耐えていたの……っ!?)
うたの脳裏に、母の肌に浮かんでいた銀色の傷跡が、そして自分を抱きしめてくれた母の温もりが重なる。自分が今ここにいるという「奇跡」は、この身を裂くような重圧を、母がすべて飲み込んだ末に咲いた一輪の花なのだ。
(だったら……今度は私の番だ。……プリルンを、未来へ連れて行くんだ……っ!!)
対するズキューンは、これまでにない悲痛にその表情を歪めていた。
彼女の輪郭は陽炎のように激しく揺らぎ、指先からは絶え間なく存在の断片である光の粒子が溢れ出している。デバイスから突き上げる無慈悲な波動は、彼女の戦士としての理性さえも容易く蹂躙し、その存在を「純粋なエナジー」へと強制的に還元しようとしていた。
(……ああ、身体が……溶けていく。……でも、それ以上に、うたの心が壊れてしまうのが怖い……!)
プリルンにとって、うたは暗闇の中で見つけた唯一の「一番星」だった。その星が、自分の存在を繋ぎ止めるために、内側から焼き裂かれるような苦痛に喘いでいる。共鳴の波に呑まれ、うたの精神が摩耗していくのを見ることなど、彼女の誇りが許さなかった。
(うた……っ、いけない……っ! もう十分です……。このままでは、あなたの器が先に壊れてしまう……っ!)
ズキューンは、自分が消えることで「相棒」をこの苦行から救おうと、繋いだ手を無理やり引き抜こうとする。それは、彼女なりの、最も深く切ない自己犠牲の決断だった。
(私の……全存在を、エナジーとして捧げます。だから、その手を離して。……うたと過ごした時間だけで、私は、十分に幸せだったから……っ!)
(ふざけないでよ……っ!!)
うたの「声なき怒声」が、脳内のノイズを切り裂いた。うたはズキューンの手を、指の骨が軋むほどに強く、狂おしく握りしめる。
(離さない……! 絶対に、離さないんだからっ!! プリルン……あんたが教えてくれたでしょ! 一番星は、暗い夜があるから輝けるんだって……っ!!)
うたは、溢れ出す汗と涙をそのままに、剥き出しの意志をぶつけるように心で叫んだ。
(あんたが消えて、私だけが助かるなんて……そんな真っ暗な夜、私には耐えられない……っ!! お母さんが私を産んでくれたみたいに、私が、あんたを……この世界に、産み落としてみせる……っ!! 私のエゴに、付き合いなさいよ……っ!!)
うたの叫びに呼応し、彼女のデバイスが紅蓮の輝きを放つ。彼女はズキューンから逆流してくる「消滅の引き金となる過負荷」までもすべて自分の肉体へと引き受け、二人分の地獄を、たった一つの器で受け止めた。
(あ、……っ、……っ、……っ!!!)
ズキューンは目を見開き、うたの瞳に宿る、自分への執着を、その魂の輝きを直視した。
(……ああ。……なんて、身勝手で……温かい人。……わかりました、うた。……ずっとずっと、あなたの隣を……離れません……っ!!)
肉体の臨界点を超え、細胞の一つひとつが絆という名の高熱で融解しそうになる。それでも、二人は互いの存在を楔として、決壊の入り口を鋼の意志で封鎖し続けた。
その時、14人のデバイスが、ひと際高く、澄んだ旋律を奏で始めた。
神官たるエルの祈りを核に、14人が「沈黙の中に封じ込めたエナジー」が一つに融け合い、神聖なる「実体化の光」へと昇華されていく。
黄金の光が祭壇を飲み込み、夜明け前の闇を、眩いばかりの「一番星」の輝きが塗り替えていく。二人の絆は今、運命を塗り替え、新しい命の鼓動を刻み始めた。
第七章:夜明けの共鳴、奇跡の臨界点
(……限界、……突破……っ!!)
至高の神官たるエルの「声なき叫び」が、黄金の光の繭を内側から切り裂いた。
14人のプリキュアが、その華奢な肉体に、震える魂に、一滴も漏らさず溜め込み、凝縮し続けてきた「忍耐の熱」。それはもはや個人の我慢という矮小な枠組みを完全に突き抜け、宇宙を創造するビッグバンのような、純粋で根源的な生命エナジーへと変質していた。
耐えて、耐えて、意識が削られるような沈黙の中で愛を叫び、耐え抜いた末の、運命の解放。
(あぁぁぁぁぁぁっ……!!!)
14人の「魂の咆哮」が重なり、ついに現実の音として祭壇に真っ白な光が爆ぜた。
それは単なるエネルギーの放出ではない。肉体という檻に閉じ込め、意志という鎖で繋ぎ止めていた膨大な愛を、新しい命を育むための「種」として世界へ解き放つ、神聖なる新生の儀。
腰元のデバイスが、そのあまりの熱量に耐えかねて、美しい結晶となって砕け散る。
少女たちの意識は、かつて体験したことのない至高の多幸感の中に溶けていった。一瞬、あるいは永遠。彼女たちは光の濁流の中で、自分たちの魂が「誰か」と、そして「世界」と、細胞レベルで固く結ばれていることを、その温かな律動を通して実感していた。
その光の奔流の中心で、ついに奇跡が結実する。
これまで「仮初めの姿」でしかなかった、こむぎ、ユキ、プリルン、メロロン。
彼女たちの陽炎のように揺らめいていた実体が、14人がその身を削って生み出した「生命の熱」を貪欲に吸い込み、急速にその密度を増していく。
光の粒子が編み合わさり、柔らかな肌となり、温かい血となり、確かな鼓動を刻む心臓となる。それは神の理さえも書き換える、最も美しく、最も過酷で、最も気高い「誕生」。
「……こむぎ……っ!」
「……ユキ……!」
「……メロロン……プリルン……!」
光が収束していく中、崩れ落ちるように膝をついた14人を、銀色の回路を消し去り、柔らかな母の顔に戻ったカレンが、すべてを慈しむような眼差しで受け止めた。
彼女の腕に触れるのは、もはや消えかかる不安など微塵もない、瑞々しくも確かな「人間」としての体温だった。
「よく……頑張ったわね。……おかえりなさい、私の誇り高き娘たち」
カレンの頬を伝う熱い涙が、うたの額に落ちる。
水平線の向こうから差し込む夜明けの光が、汗と涙に濡れた祭壇を、そして命を繋ぎ止めた少女たちを優しく照らし出した。
そこには、果てしない疲労と痛みを超え、かつてないほどに深く、穏やかな表情で眠りにつく14人の姿があった。
ニコランドを救い、失われるはずだった命を自らの「忍耐」で繋ぎ止めた物語。
今、その静かなる咆哮の果てに、新しい命の鼓動が朝露のように静かに、けれど力強く響き始めていた。
第十五話「忍耐の祭壇、絆を繋ぐ静かなる咆哮」――完――
専用Xアカウント
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イメージソング収録
https://youtube.com/channel/UCf9Cp8TicaB66IdgbE7wxPQ?si=kFtHO8Jk97tbQuwx




