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鉄屑達の生き方  作者: ヤスナー


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12/31

新人

翌朝。 世界はまだ、薄暗い水槽の中に沈んでいるようだった。 昨夜の狂乱と慟哭が嘘のように、僕たち『鉄屑』の四人は、幽霊のような足取りでギルドに向かっていた。

リズは二日酔いで顔色が土気色になり、目の下には濃いクマを作っている。 ニルスは無言で、爪の先を噛む癖が止まらない。 エマは腫れ上がった目を隠すように深くフードを被り、僕の影に隠れて歩いている。 そして僕は、まだズキズキと痛む左手をポケットに突っ込み、ガインの命の欠片を弄んでいた。

ギルドの重い扉を開ける。 熱気と腐臭。 昨日までと同じ光景なのに、ガインがいないだけで、そこは全く別の敵地のように感じられた。

「……お待ちしていました、レンさん」

カウンターの向こうで、受付嬢のミリアが立ち上がった。 彼女の表情は硬い。同情と、畏怖と、そして少しの戸惑いが混ざっている。

「昨日の『募集』の件ですが……その、一名、適合者が見つかりました」

「……早いな」

僕は乾いた声で答えた。 あんな血文字の、狂ったような募集要項だ。「自殺志願者」と書いたはずだ。 まともな神経の冒険者なら鼻で笑って通り過ぎる。

「ええ。実は……他のパーティからの『引き抜き』に近い形になりまして。本人が、是非にと」

「引き抜き? 僕たちのような底辺にか?」

「はい。……あちらにいらっしゃいます」

ミリアが示したのは、ギルドの喧騒から切り離されたような、壁際の一席だった。

そこに、「異物」がいた。

この薄汚いギルドには似つかわしくない、鮮烈な色彩。 深い湖の底のような、青緑の長髪。 それを後頭部で束ねた、すらりと背の高い人物。

男……だろうか。それとも女だろうか。 立ち上がったその肢体は、モデルのように細く、しなやかだ。 顔立ちは陶器のように白く整っており、切れ長の瞳は宝石のように冷ややか。 「可愛い」と「美しい」と「冷酷」をミキサーにかけて固めたような、中性的な美貌。

何より異様なのは、その服装だ。 泥と油にまみれた僕たちとは対照的に、彼の着ている濃紺のロングコートには、染み一つない。 白いスカーフ。磨き上げられた革のブーツ。 まるで舞踏会にでも行くかのような身なり。

だが、その背中には、凶悪な矛盾が背負われていた。

彼の身長ほどもある、巨大な戦斧。 装飾は一切なく、ただ「首を断つ」ことだけに特化した、処刑人の道具のような刃。 その重量は、細身の彼が持つには物理法則を無視しているように見えた。

「……君が、依頼主かい?」

その人物が、僕たちに気づいて近づいてきた。 声は、鈴を転がすように澄んでいるが、温度を感じさせない。

「……ああ。リーダーのレンだ」

「僕はシリル。職種はタンク兼アタッカー。ミリアさんから話は聞いているよ」

シリルと名乗ったその男は、値踏みするように僕たち一人一人の顔を見た。 死にそうな顔のリズ。挙動不審なニルス。怯えるエマ。 そして、左手が折れた僕。

「……ふうん。噂通りの『鉄屑』だね。メンテナンス不足の廃品置き場みたいだ」

口元に薄い笑みを浮かべて、彼は言い放った。 その言葉に、リズがピクリと反応する。

「……何よ、あんた。その綺麗な服……泥遊びしに来たんじゃないなら、帰ってママのおっぱいでも吸ってなさいよ」

リズが精一杯の虚勢で噛みつく。 だが、シリルは表情一つ変えずに、リズを一瞥した。

「泥遊び? まさか。僕は仕事をしに来たんだよ。お嬢さん」 「なっ……」 「前のパーティは退屈でね。安全すぎて、稼ぎが悪かった。……君たちは『ランクD』を狩るほどのリスクテイカーだと聞いた。しかも、前衛が死んで席が空いた。需要と供給が一致しただけさ」

彼は事も無げに言った。 ガインの死を「席が空いた」と表現した。 ニルスが殺気立った目で睨むが、シリルはどこ吹く風だ。

「……腕に自信があるようだな」 僕は彼の間合いに入り、下からその美貌を睨みつけた。

「前のタンクは、筋肉の塊だった。それでも死んだ。君のような優男に、僕たちの盾が務まるのか?」 「筋肉?」

シリルは鼻で笑った。

「肉の厚さで攻撃を受けるのは、三流のやることだよ。……『受け流し』と『遠心力』。それが僕のやり方だ」

彼は背中の巨大な斧を、片手で――まるで指揮棒のように軽く――引き抜いた。 ブンッ! 風を切り、切っ先が僕の鼻先数ミリで止まる。 あまりの速さに、僕は瞬きすらできなかった。

「当たらなければ、折れない。殺される前に首を落とせば、守る必要もない。……違うかい? 合理的なリーダーさん」

冷たい汗が背中を伝う。 強い。 間違いなく、ガインとは別ベクトルの強さだ。 ガインが「重戦車」なら、こいつは「処刑機械」だ。 感情も、熱血も、泥臭さもない。ただ、入力された命令を完璧に遂行するだけの、冷徹な刃。

「……条件は?」

「報酬は山分け。ただし、僕の武器のメンテナンス費用はパーティ持ち。それと……」

シリルは青緑の瞳を細め、僕の折れた左手を見た。

「無茶な命令は歓迎するけど、無能な命令で僕を殺さないこと。……前の彼みたいにね」

その一言は、心臓に氷柱を突き刺されるような痛みをもたらした。 リズが激昂して殴りかかろうとするのを、ニルスが羽交い締めで止める。エマが「ひっ」と息を呑む。

こいつは、僕たちの傷口を躊躇なく踏みつけてくる。 ガインのような「家族」にはなれない。絶対に。 だが。

「……採用だ」

僕は言った。

「レン!? 正気!? こんな奴……!」 「リズ、黙れ」

僕はシリルを見据えたまま、ポケットから銀貨袋を取り出した。 昨日の報酬の残り。ガインが遺した金だ。

「手付金だ。……死ぬなよ、新入り」 「契約成立だね。ボス」

シリルは金貨を受け取ると、優雅に指で弾き、懐に入れた。 そして、ニッコリと――しかし目の奥は氷のように冷たいまま――微笑んだ。

「安心して。僕は君たちの『友達』にはなれないけど……『優秀な部品』にはなれるから」

その瞬間、僕たち『鉄屑』に、新しい異物が混ざり込んだ。 錆びついた歯車の中に、鋭利すぎて周囲を傷つける新品の刃が。

「さあ、行こうか。……今日はどこの泥沼だい?」

シリルが綺麗なコートを翻し、出口へと歩き出す。 その背中は、ガインのように大きくも、温かくもなかった。 冷たく、鋭く、そして頼もしいほどに強そうだった。

僕は振り返り、仲間たちを見た。 全員、絶望と不信感を隠せていない。 それでも、僕たちは歩き出さなければならない。 ガインがいない穴を、この美しい処刑人で埋めて。

「……行くぞ」

僕の号令は、かつてないほど低く、重く響いた。

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