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愛があると思っていた  作者: みのみさ


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13/14

番外編 『永遠に誓います』

お読みくださった皆様に感謝の気持ちを込めて番外編を二話お送りいたします。一話目はスタンリーとパトリシアの結婚式のお話です。

実はランキング一桁も一日に1000ptも初めての快挙でして。恐れ慄くと共に大喜びして、ちょっと調子にのりました。

喜んでいただけたら、光栄です。

 シャルルは母親と一緒に花嫁の控室を訪れた。

 今日は養子になったフェリシアと友人のスタンリーとの結婚式だ。

 ノックに応じたのはセザンヌ家から派遣したメイドで、花嫁の準備が終わったらしく、化粧道具が片付け中だった。

 鏡の前の椅子に腰掛けていたフェリシアが立ち上がると、メイドが甲斐甲斐しくドレスの裾を整える。

 母が気合いを入れて選んだプリンセスラインのドレスはふんわりとした雰囲気のフェリシアによく似合っていた。スタンリーが拘った総レースを重ねたスカートが綺麗に広がって、本当にお姫様みたいだった。


「まあ、フェリシア。とても、綺麗よ。よく似合っているわ。本当に良かったこと」

 母が感激して涙目になっていた。女の子を欲しがっていて、『フェリシア』の名前を用意していたのに、セザンヌ家に生まれたのは二人の男の子だけだ。

 養子を引き取る際にずっと胸に秘めていた名前をつけられて満足げだったが、さらに念願の娘の花嫁姿を目にできて感無量だろう。


「おば・・・、いえ、お養母様。ありがとうございます。今日の良き日を迎えられたのは、お養母様のおかげです」

「泣いたら、お化粧が崩れてまずいんじゃない?」

 フェリシアも感極まっていたから、シャルルが冷静に指摘する。すぐにメイドがハンカチをフェリシアの眦にあてていた。さすがに仕事が早い。伯爵家のできるメイドである。

「まあ、シャルルったら、お祝いの言葉もまだなのに、そんな意地悪を言うものではなくてよ」

「お祝いを述べたら、拍車をかけるようなものですよ。花嫁の目を真っ赤にはらせてスタンに怒られたくない。ただでさえ、先に花嫁姿を見たと恨まれそうなんだから」

「あらあら、花婿殿はベタ惚れねえ〜」

 母が嬉しそうにニヤニヤと笑った。フェリシアは恥ずかしそうに赤くなって目をうろうろとさせている。


 シャルルはフェリシアやスタンリーより一つ年上だ。フェリシアには義兄として接していても悔しがるのだから、スタンリーのヤキモチには困ったものだ。

 尤も、高位貴族の横槍で一度は引き裂かれた恋人同士だから、執着心が強いのかもしれない。政略結婚で五歳も下の婚約者を持つ身としては想像はつくが、実感はしがたい。

 スタンリーは男爵家の嫡男だったが、フェリシアのために全てを投げ打った男だ。男爵家の後継の座を姉に譲ってしまって、平民の身分になる。

 本来ならば養子でも伯爵令嬢のフェリシアとは身分差があるのだが、義兄であるシャルルの友人で、セザンヌ家主導の事業に深く関わっている重要人物だから、と政略的な繋がりを周囲に匂わせていた。恋愛結婚なのだが、また変な横槍を入れられないための用心だ。


 親しい身内だけの挙式でシトリン家は全員出席だが、セザンヌ家では伯爵夫人の母とシャルルだけだ。父は療養中だし、兄嫁はつわりがひどくて外出は無理だった。兄は念の為に二人に付き添うから、後で披露宴にだけ顔をだすと言っていた。


「今日はおめでとう。従兄として、義兄として、君の幸せを言祝ぐよ。スタンと末長く仲良くするんだよ」

「はい、シャルル兄さま」

 シャルルは小さい頃に一度だけオーデン家を訪れたことがある。従妹のパトリシアの笑顔に今のフェリシアを重ねて祝福を贈ると、フェリシアは子供のように顔を綻ばせた。


 シャルルは先に控室をでると、廊下でうろうろする挙動不審人物を発見した。

「こら、今日の主役の一人がこんなところで何をしているんだ?」

「え、あ、シャルル? いや、これは、そのう・・・」

 見つかったスタンリーはすでに正装姿でびしっとキメているのに、情けなさが漂っていて残念感が半端ない。

「花婿は挙式まで花嫁と顔を合わせてはダメだろう?」

「うっ、だって、パティの麗しくて美しくて綺麗な姿を早く見たいのに・・・」

 スタンリーが恨めしげな顔になる。

 挙式前に支度済みの花嫁と顔を合わせるのは親族のみだ。花婿は式が始まってようやく目にすることができるのだ。


「シャルルはもう見たんだろう?」

「兄だからな、当然だろう。めんどくさいから、式の前に拗ねたりするなよ?」

「めんどくさいとか、ひどいなあ」

「めんどくさいだろ。兄相手に嫉妬するなよ。今は母と娘の時間を過ごしているんだから、親子の語らいの邪魔はするな」

「夫人には頭が上がらないからなあ、邪魔なんてしないよ」

 スタンリーが苦笑して頬をかく。伯爵夫人が音頭を取らなかったら、今日の幸せはなかったのだ。


「恩を感じてるなら、身体で返してくれ」

「ええ! か、からだって、ぼ、僕には最愛の人がいるんだ。悪いけど、君の想いには「阿呆か! 真顔で冗談にのるなよ」

「あー、冗談だったのか。よかったあ」

 シャルルは本気でほっとしている花婿をどつきたくなった。

「休暇後の話だ。しっかり働いて返してもらうからな。愛しい奥さんのためにもしっかりと稼げよ、旦那様?」

「だ、旦那様かあ〜。うん、いい響きだねえ」

 早すぎる新婚ボケに釘をさしたつもりだったのに、もう惚気られるとか。

 つい、こいつで大丈夫なのか、とシャルルは心底から母と義妹に問いただしたくなってきた。


 スタンリーは自国語の他に三カ国語をマスターしていた。一つは大陸共通語で貴族ならば必須教養だから特別なものではない。残りの二カ国語は義兄のアシュリーに教わったという。

 S級冒険者のアシュリーの両親もまた冒険者でS級の下のA級だった。二人は大陸の北と南の主要国出身者で、アシュリーにそれぞれの母国語を教えていた。大陸各地を旅する生活で両親の母国語と大陸共通語があれば、どこでも意思疎通は可能だったらしい。

 スタンリーの語学力はサナトリウムの発展を任されたセザンヌ家には大歓迎だった。


 サナトリウムを訪れる患者には他国の者も多く、富裕層ならば大陸共通語が片言でもできるが、中には全くできずに通訳を雇う者もいた。だが、通訳の都合がつかなくて全員が通訳を連れているわけではない。サナトリウムで通訳のスタッフを求められても困るのだ。

 スタンリーは実家の薬草の卸業と通訳を兼業していた。サナトリウムの経営を軌道に乗せるために通訳のスタッフを増やそうと会話教室を開いて講師役もしている。

 新婚休暇が終わり次第、こき使ってやる、と決意して、シャルルはもうすぐ義弟になる友人を花婿の控室に連行した。




「婚姻は人生の終幕ではありません。これから始まる序章なのです。

 夫は妻を守り支えていかねばなりません。妻は夫に寄り添い、力にならねばなりません。

 夫婦はお互いを尊重し、大切にして絆を紡いでいくのです。

 どのような困難があっても変わらず永遠の愛を添い遂げると誓いますか?」

「はい、誓います」

「ええ、誓います」

 神父様の誓いの言葉にスタンリーとフェリシアが返事をした。


 婚姻届に署名して、指輪の交換だ。

 二人はお互いの瞳の色の宝石を小さく砕いて埋めた結婚指輪を用意していた。花婿にはアクアマリン、花嫁にはアンバーで宝石の価値はほとんどない。金銭価値よりも愛を追求したのよねえ♡と、女性陣には大受けしている。

 花婿が花嫁のベールをそっとあげた。お互いに頬に軽くキスを交わし合って、一組の夫婦の誕生である。

 二人揃って参列者に向かって優美な礼を披露して、祝福の拍手を受ける。

 シャルルは拍手の合間に隣の母にハンカチを手渡した。母のレースのハンカチはすでにぐっしょりで役に立たない。


「ああ、なんて素晴らしいのかしら。愛娘の姿をあの子も見たかったでしょうに・・・」

 母が仲が良かった末妹を思いだして嘆いている。フェリシアは母親に似ているから、余計に感慨深いのかもしれない。

 感情を露わにするのは貴族として褒められたものではないが、身内だけの挙式だ。二人の幸せのために共謀した共犯者同士でもある。今更、遠慮も配慮もする仲ではない。

 祝福の拍手とパイプオルガンでお祝いの曲が奏でられて見送られる中、新夫婦は退出していった。

 この後は隣接する庭園で披露宴が行われる。参加者はサナトリウムの仲間たちで、特にシトリン家とセザンヌ家の偽装工作に参加してくれた面々だ。


「母上、さあいつまでも泣いていないで。ガーデンパーティに遅れてしまいますよ」

「まあ、シャルルったら、このままの顔で行けというの? 本当に女心がわからない鈍感男ねえ。育て方を間違えたかしら? 

 控室に一度戻るわよ、メイドにお化粧を直してもらうから」

 母に呆れたように言われてシャルルが肩をすくめた。母のエスコート役を任せられているのだから、仰せのままに従うしかない。


「おめでとう」

「お幸せにねえ」

「おめでとうございます。本当にこの日を迎えられて良かった」

 サナトリウムの仲間たちに祝福されて、スタンリーとフェリシアは照れくさそうにしながらも笑顔で応じていた。パトリシアが療養中にお世話になった面々も多かった。特に悲恋話に同情して、噂をばら撒いた人々は実に良い笑顔である。


 フェリシアはクリフォードが王命で婿入りをしたと聞いたが、相手が没落寸前だとか、立て直しを命じられたのは建前で本音は王族の傲慢さを理解しない息子に国王がキレた、などの詳しい事情は知らなかった。スタンリーが知らせないように配慮していた。

『僕たちは幸せになるから、殿下もそうなるといいね』とスタンリーはしれっと言い放っていた。裏事情を知るシャルルがドン引いていたが、素知らぬふりだ。


「留学当時はまだ素朴な感じがしてたのに、今ではすっかり面影がないな」

「あら、フェリシアを守ってもらわねば困るもの。腹黒さは貴族当主の必須技能でしょう」

 シャルルの呟きに扇子で口元を隠した母が応じる。さすがに他者の目に入る外では伯爵夫人らしく取り繕っていた。

「それよりも、シャルル。あちらをご覧なさい」

 母に指摘されて義妹夫婦と挨拶を交わす少女にシャルルの目が瞬いた。

 とてもよおく見覚えがある赤毛は婚約者のメロディだ。ランドロー伯爵家の一人娘で、シャルルの婿入り先だった。いつの間にかに兄が付き添っていて、義妹たちに紹介していた。


「え、なんで、どうして? メロディがここにいるの? 誰が招待したの?」

「わたくしよ。貴方、婚約者を妹夫婦に紹介しないなんて、いくらなんでも薄情ではなくて?」

「は、母上! ここには事情を知る者しか招待しないはずでしょう?」

 シャルルが素早く周囲を見渡した。メロディを巻き込むつもりはなかったから、パトリシアの偽装死を教えていない。どこからか耳に入ったらと気が気ではなかった。

「あら、大丈夫よ。メロディちゃんは例の悲恋話を気に入っているから口外はしないわ」


 それではすでに事情を暴露済みなのか? とシャルルは頭を抱えたくなった。


 挨拶が終わったメロディが兄に連れられてきた。

「母上、シャルル。ここにいたのか」

「シャルル様、今日はおめでとうございます。おば様、招待してくださって、ありがとうございます!」

「ふふっ、いいのよ。モデルの二人に会いたがっていたものねえ」

 弾んだ声をあげる少女に母は鷹揚な笑みを浮かべる。


 サナトリウムから広まった男爵令息と侯爵令嬢の悲恋話は小説になっていた。サナトリウム内での娯楽作品のはずが密かに市井に出回っていて、ご令嬢たちの間でも流行っているのだ。

 仕掛け人はもちろん母だ。

 実家を継いだ姉とは折り合いが悪い上に、代替わりしてから取引関係でも色々と揉めて苦々しく思っていたところにパトリシアに対する仕打ちだ。

 母は姉に一矢報いねば気が済まないと悲恋話を利用した。実名はだしていないのだから、名誉毀損などで訴えられることはない。あくまでサナトリウム内の娯楽という形をとっているから、バートレット家では抗議のしようがないのである。

 ついでに隣国の王家も静観するしかない立場である。


「うふふ、未だに人気があるから、今度は舞台化を企画中なのよ。楽しみにしていてちょうだいね」

「まあ、素敵! お友達に話しても構いませんか? 皆、喜ぶと思いますわ」

 メロディが目をキラキラと輝かせるが、シャルルには初耳だった。兄を見ると、遠くを見る目をしていた。

 もしかして、兄は了承済みか、いや、押し切られたのだろうな、とつい兄に同化してしまう。

「お話だからこそ、悲恋を楽しめるのですもの。実際のお二人がすごくお幸せそうで、見ているだけでわたくしも幸せになれそうです。

 できれば、来世や生まれ変わりでのハッピーエンドを見てみたいですわ」

「まあ、それはいいアイディアね。続編をハッピーエンドで出してもいいかもしれないわ。ちょうど、その通りのモデルがいるのですもの。考えてみるわね」

 母とメロディがきゃっきゃっと仲良くはしゃぎ始めた。シャルルは兄と視線を交わしてから、義妹夫婦を見やった。


「・・・兄上、モデルの許可は取らなくても、大丈夫なのですか?」

「・・・・・・サナトリウムの発展につながるならと、快諾されそうだが?」

「そうですね。・・・では、モデル料をいくらか包んではいかがですか」

「特別装丁の初版を進呈したほうが喜ばれると思う」

「・・・家宝にされそうですよ」

「ああ、それは・・・。うん、ありそうだな」

「ふふふ、ふう〜。・・・兄上、平和ですねえ」

「そうだなあ。・・・何よりも平和が一番だよ」

 兄弟は顔を見合わせて、はははっと朗らかに笑い合った。若干頬がひくついていたが、お互いに気のせいだろ、うん、見間違えだよな、と流すことにした。


 披露宴の参加者から、セザンヌ伯爵家と花嫁は養子でも仲のよい家族で、良好な関係なのだな〜と、微笑ましい噂が流れたそうだ。

お読みいただきありがとうございます。

評価やブクマ、いいねなどありがたいです。誤字報告も助かります。


今話で『養母を母、義兄を兄』と表記している場面がありますが、これはわざとです。

『養子だけど本当の家族と思っているんだよ』ということで。私の心情的なものですが、誤字扱いされたくないので、誤字報告は停止します。

腑に落ちない方もおられるかもしれませんが、ご了承くださいませ。

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