わたしのかたち、音のかたち
この世界では、13歳になると「魂のかたち診断」が行われる。
最新のAIが、性格、思考、記憶、感情のゆらぎまでを分析して、
「あなたの魂のかたちはこうです」と、図形や色、音、そして未来の職業を提示する。
*
中学2年生の澪は、音楽が苦手だった。
ピアノ教室では指がもつれ、音楽の授業でみんなが合唱するのも、心が浮かなかった。
「音って、他人と一緒にやると苦しくなる」
そう感じていた。
けれど、「魂のかたち診断」でAIが示した結果は――
魂のかたち:きらめく光の渦(周波数:A4=440Hz基準)
推奨職業:シンガーソングライター、声のミディアム、音の旅人
「いやいやいや、絶対ムリでしょ!」
澪は母に、診断結果のエラーじゃないかと詰め寄った。
「音が合わないの。私と、音は反発してる」
でも母は少し笑って言った。
「音楽って、“合う”から始めるんじゃなくて、“合おうとする”ものかもよ」
*
ある日、AIが次に勧めてきたのは、無名のネットミュージシャン「空詠」の楽曲だった。
気乗りしないまま再生すると、不思議な音が流れてきた。
まるで、誰にも聴かせるつもりのない、日記のような曲。
不安定で、正直うまくはなかった。でも――
「わかる……この、落ちる感じ」
音が合わないと思っていた澪の胸の奥に、そのメロディだけはすっと入り込んできた。
気づけば、澪はその曲に合わせて、自分なりの歌詞を口ずさんでいた。
声にすると、まるで自分の心が音になったようだった。
「これが、“わたしのかたち”……?」
*
それから澪は、放課後の音楽室で一人、歌を録音するようになった。
誰にも聞かせず、鍵をかけて、ただ「音に触れる」時間を作った。
ある日、AIがまた話しかけてきた。
新しい提案:あなたの声の共鳴パターンと類似性が高いのは、「空詠」です。
一緒に音を重ねてみることをおすすめします。
重ねる? あの不安定な音と?
――でも、澪は思った。
「たぶん、あの人も、合わないって思いながら音を選んでたんだ」
*
その夜、澪は勇気を出して、自分の歌を空詠のアカウントに投稿した。
翌日、返事が届いた。
『君の声、すごく不思議だった。僕も音と“合ってない”と思ってたけど、
君となら合うかもって、初めて思ったよ。』
その瞬間、澪の中で何かがパチンと鳴った。
「“音と合わない”私だから、見つけられる音がある」
そう気づいたとき、彼女の魂のかたちは、光から音へと変わりはじめた。
*
やがて澪は、誰にも似ていない音で、誰かの心に触れるようになる。
その歌声には、音と“合わなかった”すべての人たちへの、優しい共鳴が宿っていた。