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わたしのかたち、音のかたち

作者: ごはん

この世界では、13歳になると「魂のかたち診断」が行われる。

最新のAIが、性格、思考、記憶、感情のゆらぎまでを分析して、

「あなたの魂のかたちはこうです」と、図形や色、音、そして未来の職業を提示する。



中学2年生のみおは、音楽が苦手だった。

ピアノ教室では指がもつれ、音楽の授業でみんなが合唱するのも、心が浮かなかった。

「音って、他人と一緒にやると苦しくなる」

そう感じていた。


けれど、「魂のかたち診断」でAIが示した結果は――


魂のかたち:きらめく光の渦(周波数:A4=440Hz基準)

推奨職業:シンガーソングライター、声のミディアム、音の旅人


「いやいやいや、絶対ムリでしょ!」


澪は母に、診断結果のエラーじゃないかと詰め寄った。

「音が合わないの。私と、音は反発してる」

でも母は少し笑って言った。

「音楽って、“合う”から始めるんじゃなくて、“合おうとする”ものかもよ」



ある日、AIが次に勧めてきたのは、無名のネットミュージシャン「空詠そらよみ」の楽曲だった。

気乗りしないまま再生すると、不思議な音が流れてきた。

まるで、誰にも聴かせるつもりのない、日記のような曲。

不安定で、正直うまくはなかった。でも――


「わかる……この、落ちる感じ」


音が合わないと思っていた澪の胸の奥に、そのメロディだけはすっと入り込んできた。


気づけば、澪はその曲に合わせて、自分なりの歌詞を口ずさんでいた。

声にすると、まるで自分の心が音になったようだった。

「これが、“わたしのかたち”……?」



それから澪は、放課後の音楽室で一人、歌を録音するようになった。

誰にも聞かせず、鍵をかけて、ただ「音に触れる」時間を作った。


ある日、AIがまた話しかけてきた。


新しい提案:あなたの声の共鳴パターンと類似性が高いのは、「空詠」です。

一緒に音を重ねてみることをおすすめします。


重ねる? あの不安定な音と?

――でも、澪は思った。

「たぶん、あの人も、合わないって思いながら音を選んでたんだ」



その夜、澪は勇気を出して、自分の歌を空詠のアカウントに投稿した。

翌日、返事が届いた。


『君の声、すごく不思議だった。僕も音と“合ってない”と思ってたけど、

君となら合うかもって、初めて思ったよ。』


その瞬間、澪の中で何かがパチンと鳴った。

「“音と合わない”私だから、見つけられる音がある」

そう気づいたとき、彼女の魂のかたちは、光から音へと変わりはじめた。



やがて澪は、誰にも似ていない音で、誰かの心に触れるようになる。

その歌声には、音と“合わなかった”すべての人たちへの、優しい共鳴が宿っていた。

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