民を虐げた報い
BLです。
苦手な方は読まないでください。
いつかはこうなるだろうと思ってた。
王宮の広間に集められた、他の王族に混ざって、フィンリー・ハメッシュは、自身の白金色の長髪を、落ち着きなく弄りながら、ため息をつく。
ハメッシュ王国は、隣国ガイアールに無血開城を迫られ、それを突っぱねたことで、血を流す羽目に陥った。
ガイアールにはこの国にない、強力な兵器と、それを扱うことができる、優秀な人材が大勢いる。
ハメッシュ王国は長年に渡って、民を虐げてきた。
正義を掲げて迫ってきたガイアール王国に、この国の民が寝返るのは当然のことだったんだ。
何もしてこなかった俺も悪いけど、王族だと言うだけで、何も考えず私利私欲を満たしてた、兄弟姉妹、両親に対して呆れて物も言えない。
これからどうなるんだろ。やっぱり処刑されるのかな。それとも、俺はまだ成人前だから奴隷落ちとか?
処刑されるのは痛そうで嫌だけど、奴隷になったらもっと苦しむことになるかも。
またも盛大にため息をついたフィンリーは、周りのざわめきに白金色の目を開け、広間の様子を伺う。
ガイアール軍の総司令官か、それに準ずる階級の軍人らしき男が、背後に複数人の伴を引き連れ、フィンリーたち王族の元にやってきたようだ。
姉妹たちがその男の端麗さに、色めき立つのが分かる。
男は黒髪黒目の典型的なガイアール人の姿をしていた。
十四歳で身長が伸び悩み、そのまま十六歳になってしまったフィンリーにとって、彼はとても大きな存在に見えてしまう。
「処刑か奴隷落ちか選びなさい」
もっと乱暴な言葉遣いをするのかと思ったのに。
フィンリーの予想を裏切り、かの男は低く落ち着いた声音で、こちらに言い聞かせるかのように命令してきた。
こんなの卑怯だ。そんな選択肢を与えられてしまったら、みんな奴隷落ちを選ぶだろ。
ハメッシュ王国の王族としての誇りを忘れ、敵国の奴隷として一生を送ることになる。
他の王族全員が奴隷になることを選び、広間から連れ出されて行った。
男とフィンリー、二人だけの空間になり、広間は静まり返る。
ふつふつと反骨精神が湧き上がり、フィンリーは口を開いた。
「奴隷として生きる? そんなのごめんだ! 俺はこの国最後の王族として、誇りある死を所望する!」
目前にいる軍人を睥睨し、嘲りの微笑を浮かべ、あたかも、わがまま放題に育った王族のごとく、居丈高に振舞う。
落ち着け……。震えそうになる手を握りしめる。
せめて、この冷静な男の意表を突いてから死にたい。
「誇りある死ですか? いいでしょう」
フィンリーの望みに反して、彼は一切の動揺を示すことなく、腰に差した剣をスラリと抜いた。
一矢を報いることもできないなんて!
さすがに自身に迫る死を直視しきれず、フィンリーはギュッと目を閉じる。
「気に入りました。貴方は今日からこの私、ルフトヴァン・ガイアールの物になります。この国の王族が、誇りある死を迎えられると、本当に思いましたか?」
残念でしたね。と耳元で囁かれ、ゆっくりと目を開く。
ルフトヴァン・ガイアール!
ガイアール王国の第二王子にして、戦場の覇者と名高い、勇猛な男の名だ。
どんなに血に塗れても、勝利を手にするまで突き進むと噂の?
ルフトヴァンの端正な顔からは想像もできず、フィンリーは眉根を寄せた。
「髪を斬られて腹立たしいのですか? これは貴方を処刑した証として、使わせていただきますので、諦めてください」
彼の手には、フィンリーの髪がひと房握られている。
さっき剣を抜いてきたのは、俺の髪を斬るためだったのか。
髪なんて、この命に比べたら大したことのない代償だ。
いくらでもくれてやる!
涼しくなった首元をさすり、唇を噛みしめた。
「俺をこれからどうするつもりだ? 秘密裏に生かしたとしても、厄介事の種になるだけだぞ」
この男の奴隷として生きるしかないのか?
髪を斬られた怒りか、ルフトヴァンに動揺を与えられなかった悔しさか、生き残った安堵感か、それとも他の感情からなのか、フィンリー自身でも把握できない混乱で、知らず一筋の雫が頬を伝い落ちる。
「大丈夫ですよ。貴方は大勢の王族の一人に過ぎませんから。貴方が存在したことなど、誰も覚えていません」
耳元で響く声は、甘やかで艶があったが、その内容は声に反して冷たく、冷徹だ。
ルフトヴァンの手がフィンリーの頬に触れ、ゆっくりと撫で下ろしてくる。終いには顎を掴まれ、顔を上向かされた。
「民を虐げた報いですよ」
体を強ばらせるフィンリーに、半ば強引な口づけをしながら、ルフトヴァンは冷笑した。
END
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