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可惜夜にサヨナラを  作者: 七月 ナツキ
天穹は幾度と叩かれる
6/16

星行に再会を


目が覚め、見慣れた天井が視界に飛び込む

ここはケイトの病室だ

すぐ横で寝息が聞こえた

寝息の主はツムギであった

どうやら相当心配をかけてしまったらしい

ケイトはツムギを起こさないようゆっくりベットを降り、まだ薄暗い廊下を歩き出した

何となく屋上に出てみる

風が気持ち良いとは思うがどうもそれだけではケイトの気は晴れなかった

まだ夜は開けきらない星行の時間だ

ぼんやりしていると何度も思い出す

思い出す度に冷や汗が出てくる

男はケイトを連れていく気だった、だから殺さなかった、その気がなければとうの昔に殺されていた

少年の心にベッタリとへばりついたトラウマがケイトの胸のざわめきの正体だ

「こんな時間に一人で屋上とか、身投げかよ」

「ミズキ……」

「どうだ?俺の散歩に付き合わね?」

特に理由はないが何となく誘いに乗った

乗った後に聞きたいことが出てきたので、良い機会を得たとすら思った

しばらく歩き、湖がある公園まで着いた

昼間は家族連れに人気の公園だが、早朝にも差し掛からない時間だと、ランニングをする人すら見えない

「なんでこんな時間に起きてんだよ」

自分のことは棚に上げ問いかけた

「医者って案外忙しいんだぜ?てのは嘘、俺優秀だから残業とかしたことない」

「くだんねぇ嘘ついてんなよ」

ミズキは肩を竦めた

「なんで俺の事助けたんだ?」

前と全く同じ疑問だ、そこに呵責はない

何か違うとすれば、今ケイトがいるのは黎明ではなく深更であることだろう

まだ夜は長く肌寒い

「無論俺がそうゆう男だからだ、お前が生きたくても、死にたくても、逃げたくても、逃げたくなくても、善人でも、悪人でも、人を殺しても、人を生かしても、俺はお前が人間である限り、視界に映る限り、手が届く限り、無条件で生かし続ける、助けてやるんだ」

前と全く同じ、一言一句違わぬ言動をしてみせる

其れが少し羨ましく見えた

あの程度で簡単に折れてしまうケイトと

けして折れぬ傲慢とすら形容できるミズキと

才能というものが人にとってどれだけ大きいか分かる

突然ミズキに投げ飛ばされる

「は?ちょなんで」

尻もちをつきながらそう発した

「あ?見てられねぇからだよ」

「見てられねぇて……」

「経験則だ、こういう時凡人ってのは才能を言い訳にして、死んでくもんだ、実に身勝手で不愉快な話だろ?」

目を伏せ語るそれが、精神的なものか、肉体的なものかは分からない

「んじゃ何か?俺はお前の癇癪でぶん殴られろと?」

眉間に皺を寄せ、ミズキを睨む

「そうだな、医者らしく行こう矯正してやる」

そう言って、ミズキはらしくもなく拳を構えた

かかって来いということだろう

一歩踏み込み振りかぶる

一歩踏み込まれ狙いを外し、また尻もちをつかされる

おかしい、腕力も体格も、ケイトの方がずっと優れている、つまり腕力ではなく技術で、転ばされたということだ、それも相当高度な

「おしまいか?」

「ッ……」

敗北を強制されたあの場面が思考を掠める

「いやまだ!」

体制を立て直し再挑戦

しゃがみ懐一直線に拳を突き上げる

拳を手に取られひっくり返される

「終わりか?」

「まだ!」

体制を立て直し再挑戦

起き上がる勢いを使って、足払いをした

あたりはしないが、一歩後ろに引かれる

すかさず、逆立ちし顎に蹴りを入れる

逆立ち途中の足の関節を突かれ再び地面に伏す

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦

体制を立て直し再挑戦












………………………………………………………………………………

思いつく限りを使ってミズキに蹴りを、拳を今持ち得るありとあらゆる攻撃手段を使いダメージを与えようとする

しかしただの一度も変わらず、涼しい顔の男がそこにいた

「もう……いかっい……」

息を切らしながら再挑戦を宣言する

「いんや、もう終了だ」

「あ?もう……飽きたっ……てのかよ」

呼吸の合間を縫って声を出す

「いや、もう十分だっつってんだ、今の七四回全部を使っても、お前は敗北を期した男に勝てないのか」

……数えてやがったのか

「……」

「ルール無用のガキの喧嘩に最適解なんて存在しない、ならその場その場で次の一手を考え続けられる奴が勝つに決まってんだろ?」

至極当然だと言わんばかりに、そういった

ガキの喧嘩とさえ言い放った

「一回もお前に勝ててないのに、勝てんのか?お前は異能も武器も使ってない」

相手は掛かり稽古のように突っ立ってはくれない

「誰に聞いてやがる?世界で一番強い男が俺だ、その俺に勝てないなんて当たり前だろ?俺なら、さっきみたいに突っ立ってても、誰にも負けない」

めちゃくちゃな理論だ

なぜだかそれには、否定を許さない、否定する気も起こさない、説得力とも言い難い強制力があった

「だが、お前のはその世界最強に掛かり稽古してもらえんだ、誰にも負けるはずがないだろ?」

絶対の自信と言うより事実の羅列でしかないのだろう

天賦に恵まれた男の、めちゃくちゃで、理解不能でこれ以上ない最適解である

「お前は折れたことなんかねぇんだろうな」

「ああ…そうだな、折れた事は一度もない、人生でたった一度も」

あまりに予想通りすぎて、つまらない

だが

「だが間違えたことならある、ほんのちょっと、両手の指で足りるくらいな」

そう両手を突き出す

思わず目を見開いた

ミズキは仮にも間違ったとしても、それを口にすることはないと思った

思っていた

「天賦の才に恵まれ、確固たる理想があり、地位があり、名誉があり、富も…まぁそれなりにある、こんな完璧な俺でも間違うんだ、凡人なならきっともっと間違うだろ?」

ーーーー

「ならお前は、一回バキバキにおられたくらいで、泣きわめくな」

ーーーー

「お前は凡人だ、只人だ、無才だ、凡愚のうちの一人でしかない、だから」

ーーーー

「お前は一回折れてそのまま死ぬな」

ーーー

「ケイトはまだ何回でも折れることが出来る」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

思わず笑がこぼれる

天才には似つかわしくないあまりにも酷く不細工なフォローだ

この人は本当に俺を死なせてくれる気はないらしい

肉体的にも精神的にも

だからこそ何故

「傲慢だな」

「俺はそういう男だからな」

なんでそんな寂しそうに自分を定義するんだよ

突然思いついたそのセリフを喉が発してくれることは無かった

どうして

不意に手を伸ばしてしまった、何も掴めない

「んじゃ俺はコンビニ行くが、なんかいるか?」

そう振り向くミズキに、何となく見られたくなくて、手を下ろした

「……あぁ、コンポタがいい」

「買わねぇよ、そこの自販機にあるから自分で買え」

「なんで聞いたんだよ」

ミズキは鼻で笑いコンビニに向かって歩いて行った

ケイトは自販機でコンポタを書い、ベンチに座り、缶の温かさで暖をとる

暗い時間、まだ肌寒い

コンポタを傾け最後の一粒を何とか取り出そうとする

「こんな時間に一人ですか?なかなか危ないと思うんだけれど」

「え……あぁ…保護者?みたいな奴と一緒だから平気っす」

あれを保護者と言うにはだいぶはばかられる

それにしても、孤児時代は見るからに浮浪者という感じだったから誰も声をかけて来なかったが、見てくれを変えるだけで、人間の態度はこうもあっさりと変わるのかと、思わず渋い顔をしてしまう

「そっか……では、その保護者に着いて俺に教えてくれますか?赤毛の混じった彼の事」

「は?……いや」

馴れ馴れしく、ベンチの隣に座り足を組む

虐待の容疑がかけられてんのか?、パッと見こっちが年上だったはずだが

……いや?なんだこの男、パッと見でミズキが保護者だと確信するなんて無理だ

ケイトの方がうわ背があり、ケイトも大人びてるとは言い難い顔をしているが、ミズキはせいぜい十三歳程度にしか見えない程の童顔である

せいぜい兄弟、しかもケイトが兄と間違われる程度だろう

それをこの男は一切混乱や疑問符を付けずミズキが保護者だと言ったのだ

「……あんた灯籠院の関係者か?」

「おや、賢いんですね、無関係では無いと答えて起きましょうか」

肩に手を回される、そこには今まで感じたこともない圧がかかっていた

男の顔を見ることすらはばかられる

軽く触れられているだけなのに重くてひしゃげてしまいそうだ

「君は、灯籠ミズキをどう思っていますか?尊敬か?信仰か?嫌悪か?越えるべき障壁か?君はあの傲慢な男を何と評価するのか、とても興味があるんです」

答えを急かされる

ケイトにとってミズキとは

「普通の…ただの等身大の人間に見えたよ」

なんのつっかえも無かった、先程までの圧迫感も何もなしに

普通に人の命を尊び、

普通に不器用ながら他者を慰め

普通に強がり

普通に己の定義に心で疑問符を浮かべている

普通の少し恵まれた人間

「…………」

沈黙だ、男は何も言わなかったただ肩の手を外すだけだった

腕を振りかぶり

「癇癪で人を殺すのかよ?何処でそんな教育受けたんだか?」

金糸が男の振りかぶった腕を拘束し、ピクリとも動かせていない

「嫌だな、君と大差ない教育を受けてきましたよ、もっとも、何処でここまで大きく差がついたのかは分かりませんが……何はともあれ、再会を喜びましょう兄弟?」

瑠璃の瞳に混じる金色の瞳孔がミズキの一点に注がれる、漆のような髪と、先の青い髪に刈り上げがチラリと覗かせる

「ゾッとしねぇな、血もつながってねぇどころが喧嘩別れの野郎を兄弟とか、とち狂ってんのか?」

「それは申し訳ないね、だが君と同列であると騙るなど、良心が痛む、分かって欲しいものだよ」

周囲が煙幕で包まれた、ケイトの腕がミズキに離すまいと、がっしりと掴まれた

「また近いうちに会いに行きますよ、ケイト君」

それだけ言うと霧の中に男は消えて行った

「おい、逃がして良かったのかよ」

ミズキにそう問いかける

「……あぁ…いい、どうせ何も出来やしねぇよ」

「ミズキ、アイツは…」

「児童養護施設モンステラ学園、園長石南 ヒビキ、俺が世界で一番会いたくない男の名前だ」

朝にはまだ少し時間があるようだ

星行の中をミズキはジッと動かなかった


お疲れ様です七月です

出先での投稿になりました、車に乗りながら打ったので、ちょっと気持ち悪いです

吐きそう

スマホで打っているので少し画面が見ずらいですね

ともあれ6話でした

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