深更に無力感を
耳障りな声がケイトの耳をつんざく、勝ち誇り、ケイトを侮辱し、煽り続ける男の声
ケイトの頭を踏みつけ、体重をかけ続ける
ケイトに無力を突きつける
ケイトの発言を後悔させる
ケイトの今までを否定する
意識がーーーー
ーー一時間前ーー
「モンステラってのは具体的になんなんだよ」
放送を聴きこちらの進退を決めるため、ケイトとミナトは話し合いをしていた
「そうだね、まずモンステラの正式名称は児童養護施設モンステラ学園」
「孤児院?ってことか?」
予想打にもしていなかった回答が飛んできた
孤児院がなぜこんなテロ行為を
「意外なことだか、正真正銘、モンステラは孤児院で、園長の石南 ヒビキが運営する社会福祉法人だよ」
さらに疑問符が浮かぶ、孤児院と、日本七法とテロリスト
どれも関連付いている言語に思えないからだ
「疑問に思うのも無理ない、だが事実だ、理由としてはあの孤児院は奇病になった子供を無条件で受け入れている」
「はぁ?でも治療はどうすんだよ?世界で唯一奇病を治療出来んのが灯籠院なんだろ?それなら灯籠院とは協力関係を結ぶべきだろ?」
「もっともな疑問だね、でも灯籠院とモンステラは昔から不仲でね、あちらから患者が送られてきたことは一度もないし、こちらも患者をモンステラに入れたことは無い、見殺しにしているのか、何か治療する手段があるのか、はたまた別の目的があるのか分からないが…」
「受け入れた癖に、意地で救える方法を使わないで見殺しかよ」
ふつふつとした怒りが湧き上がってきた
「真偽は確かではないさ、とにかく大事なのはモンステラは奇病の適合者がもっとも多く確認されている組織だということだよ」
「適合者って言うと……ツムギみたいな」
記憶を辿りに会話の内容を嚥下する
「あぁ、奇病の患者が治療を無しに、自ら奇病に適合し、その力を自分のものとして扱うことが出来る者を適合者と呼ぶんだ、適合者には人智を超えた異能が発現する代わりに、代償も大きかったりする」
代償はまちまちだがねと最後に少し補足をし、ミナトは言葉を切った
なるほど、確かに、灯籠院はあくまで奇病を治すことを目的としているから、治療無しで適合する適合者など、理論上は出現しない
対して、モンステラは奇病患者の子供を受け入れること自体を目的として、治療をしているかは謎なため、適合者が多いのも納得出来る、故に戦力が多く、ほかの六組織と拮抗した実力を持つのだ
《さてさて〜?お二人さ〜ん、結論は出ましたか〜?》
「律儀に待っていてくれるんだね」
近くの防犯カメラに向かってミナトは声を張り上げる
《まぁまぁ、ノノたん達も別にそ〜んな血の気の多い組織じゃないしね!さぁさぁ色良い返事プリーズ》
「残念だが灯籠院はモンステラに屈したりしない、少なくとも君たちの目的が分からない以上はね」
《あら残念、嫌だな〜、パパが怒っちゃう、なら折衷案と行こう〜?君たちの患者ケイトくんをモンステラにご招〜待、いえーいドンドンパフパフ!彼を引き渡してくれたら、もう爆弾なんて捨て置いちゃう!》
「君たち、今までの灯籠院とモンステラの関係を忘れたのかい?今まで患者をそちらの孤児院に引き渡したことなんて一度もなかっただろう?何より彼はもう我が医院で責任を持って治療すると約束しているものでね」
《やだ、ケイトくんってば思ったより人気者!仕方ないなぁ〜ならおいでよ、ノノたんのいる放送室に爆弾が一個、テルちーのところに爆弾が一個、それぞれの起動ボタンはそれぞれで持ってま〜す、止めたきゃ止めにおいでよ、たーだーし!》
突然ミナトとケイトの間を割るようにシャッターが降りてくる
二人は分断されてしまった
《ミナトくんの方はノノたんの方においで、ケイトくんはテルちーが相手にしてくれるよ〜、それじゃぁ、ドキドキキュンキュンしながら待ってるから!よろ〜!》
「ケイト!今何とかそっちに……」
「いや、時間が惜しい、変な動きをすればその瞬間ドカンなんてことも有り得る、ここは従って、それぞれで爆弾を解除した方がいいだろ」
「だが君はモンステラに狙われて居るんだ、軽率な行動は……」
ケイトは首を横に振った
その様子にミナトは頭を悩ませた、目を伏せ、思案する
「…………わかった、お願いだから、無茶はしないでくれ」
「あぁ悪い、ありがとう」
そう言ってお互い爆弾を解除しに走り出した
ーー音楽ホールーー
ミナトは放送室のある音楽ホールに来ていた幸いなことに客はここには居ないらしい
しかし困ったことに、爆弾を探すにしてもこのホールは大きすぎる、しかもノノたんと名乗る、放送の女が見当たらない、それどころか女の騒がしい印象とは裏腹に、ホール内はあまりにも静か過ぎた
「あれれ?避けれちゃう感じ?」
ミナトの突然背後から破裂音がした、しかしミナトはそれを寸でのところで躱してみせた
「なんだ、静かにできるんじゃないか、その調子であの放送も静かにやって欲しかったものだが」
「ご〜めんね〜、ほらノノたん達だって目的があるわけでさ〜、ま、とにかくだよ、言うこと聞いてくれない悪い子に、お仕置きしちゃいま〜す!」
放送と変わらない猫なで声をだしてを前に手を出すと、その手がパチパチと弾けた
女は足元に爆風を起こし五席離れたミナトの場所まで飛び込んで来た
えいっ、と掛け声をかけ、女が拳を落とすとその場に爆発がおきた、拳自体は避けれたが爆風を少しくらいよろけた
ミナトはよろけ後ろに倒れる勢いを使い、バク転し、距離を取り、腰に下げていた、二本の刀を抜いて女に近づく、そしてその前下から上に切り込み、それが空を切る結果を見る前に、もう片方の刀で追撃を入れる
女はまた足元に爆風を起こしてバク転しながら攻撃をよけ、距離を取る
二者の間には十五席分の隙間ができた
「おろろ、意外と手馴れてるんだね、ノノたんドキドキしちゃ〜う」
女は苺色と乙女色の二色の毛をツインテールでまとめた髪を揺らし、黄水晶を瞳をいたずらっぽく細め、ミナトに向き直る
「こちらこそ、相応の相手には名を名乗るべきだろう、気遣いができなくて申し訳ない、ミナトだ、どうぞよろしく」
そういうと、女は少し眉をひそめ、迷ったあと、困惑を隠すように元の表情に戻り、口を開いた
「ノノたんはね〜?木曽 ノノカっていうの、よろ〜」
「あぁよろしく、情けない話だが正々堂々とは、状況が許してはくれないんだ、少々手荒な手段を使わせてもらうよ」
「いちいちそうゆう報告要らないんだけどなぁ……まぁ、うん、わかった」
敵ながら、ミナトの噛み合わなさに、ノノカは少しペースを乱されているように見える
しかし、攻撃のペースは一切乱されない、
距離をつめ、空気が爆ぜた、ミナトはそれを避け、刀を振るう、ノノカが姿勢を低くし腹に向かって思い切り殴り掛かる、それをバク宙で躱し背後にたち後ろ手にノノカを刺す、しかし刀は掴まれ爆破の餌食となり一本がオジャンになった
「困るな…これ一本作るのにどれだけ時間がかかることか」
正確にはミナトの同僚がだが、不便には変わりない、その思考をすぐに投げ捨て、戦いに集中する
お互い、余裕を残した戦い、それはひとえにお互いの技能が拮抗しているからである
爆発の伴った蹴りがミナトの顔を襲う、顔を逸らしそれを避ける
ノノカはおそらく地雷病の適合者だろう、その奇病は患者が物に触れたり、触られたりする度に、自身や周囲を巻き込み爆破するという、なんともはた迷惑な病である
なのでおそらくノノカの体に直接打撃をいれば、爆発し、こちらのダメージの方が大きくなるだろう
そう思い、迷わず鳩尾に蹴りを入れる
爆風が巻き起こり足が弾き飛ばされ、肌に火傷やただれができる
やっぱりね
わかっててやるあたり、ケイトの灯籠院ヤバいやつしかいない説に拍車をかけるが、ここでひとつ良い案を思いつく
「もぉ〜、女の子に蹴り入れるとか〜、どういう神経してるわけ!?ぷんすこぷんすこ!」
「申し訳ないとおもっているよ、だが爆弾がある以上仕方ないことだと割り切って貰いたい」
そういい終わると突然ミナトは何処か別のところに走り出した
「どこ行くの〜って、まさか!?」
そうそのまさかである、ミナトは消化器を手に取り、まんまと、ミナトを追いかけてきたノノカの方に投げ飛ばすミナトは、異能を使わなければ、よけきれない
けれど仮に異能を使ったなら……
思考を中断しやむなくしてノノカは異能を使い消化器を巻き込む爆破を起こして避ける、その衝撃で消化器の中身が一斉に飛び出し視界が真白に覆われる
クッソしくじった
だが大丈夫、この視界は自分だけではない
ミナトもまた白い世界に取り残されているのだ
そんなノノカの思惑を裏切り刀は正確にノノカの服に突き刺さり、地面に張り付けにした、そして首元に刀を置かれ身動きを完璧に取れなくさせられる
「なんであんな視界で見えんだよ!?」
思わず素の口調に戻るノノカを見下ろしミナトは答える
「そうだね、確かに人間の視界なら見えるはずもないだろう、だから僭越ながら友人に手伝っていただいた」
そういうとミナトの懐から蝙蝠がひょこりと顔を出した
ミナトは蝙蝠にノノカの居場所を聞いて居たのだ
ミナトは共感病の適合者である、共感病は自他の境界を曖昧にし、常に視界に写る生物の思考が脳に流れ込んで来る、その思考は凡人には耐え難い情報量まで膨れ上がり、常人は発狂し、精神崩壊を引き起こす
それに適合し、共感する対象を思考が単純な動物にすることで、ミナトは動物との会話を可能にしているのである
「おっと…ありがとう、恩に着るよ」
そう言って爆発スイッチをネズミから受け取り固く握りしめる
「さて、今すぐケイトの応援に行きたいところだが、こちらも君に触れる事が出来ない、どうしたものか」
ミナトはケイトの無事を祈るしかできないことを口惜しく思いながら、呼び出した鳩に手紙を持たせ飛び立たせた
ーー中央広場ーー
見つけた、あの男だ、周りが混乱で逃げ惑う中
一人だけ足を組、鼻歌を歌っている
「お前だな、爆弾持ってんのは」
沈黙が続く、民衆の逃げ惑う声、泣き声なんてまるで存在しないように、二人の間には時間が進む
男がようやく口を開いた
「さぁ?知らな〜い、俺がモンステラの刺客だなんて」
中性長石の瞳を三日月型に細め、白髪を持つ男は明らかに自分と同年代であるのにも関わらず、それを感じさせない、圧があった
男が立ち上がり、警戒のため、一歩後ずさる
男が手慰めに弄っていたペットボトルのキャップをこちらに向かって指ではじき飛ばした
キャップがケイトの腹に直撃すると、その見てくれからは想像できないほどの重圧がケイトを襲った
「がぼっ!?」
柱に衝突し、民衆の絶叫が聞こえる
柱にヒビが入り歪んだ、その破壊力をもたらしたであろうキャップは先程とは打って変わって軽い音を立て転がり落ちた
重力に従い、圧力を無くした体が地面にへたり込む、
「なんだ、警戒して損した、弱弱じゃん?」
そう言って男は近づき、ケイトの髪を鷲掴みにして顔を寄せる
「何っ」
「ほら頑張りなよ〜、俺が待っててやるから、まぁ〜だぁ〜かぁ〜なぁ〜」
「ふざけ……」
よろよろと何とか己の足で立ち上がろうとした
「はい時間切れ!」
そう言われ裏拳で殴り飛ばされ、今度は噴水に激突し、壊れた噴水が水をちょろちょろと力無く垂れ流す
「なんだかなぁ…どうして親父はこんなの欲しがるかな……ねぇ?何とか言ってみたッら!」
そう言いながらケイトの後頭部を踏みつけ顔が水に浸かり呼吸が封じられる
「がぼっ…ハァハッ!?」
足を退けられ何とか酸素を取り込もうとするがまたすぐに後頭部を踏みつけ直される
「はいはい、ちゃあんと我慢しまちょうねぇー?どうする?大人しく着いて来てくれんなら、もう意地悪しないであげるけど?」
答えを促すように足の甲がケイトの顎を無理やり上げる
「ハァハァ……ッ!お断りだ…バァッーカ!」
酸素を取り込み咳き込みながらも悪態をつく
「あっそ、ならもういっぺん死にかけろ」
また足をあげ踏みつける体制をとる、ケイトはその隙を逃さず転がり、何とか立ち上がり、ナイフで片方上げ不安定な男の足を狙った
しかしそれを蹴りでいなされ腹に手を当てられ、謎の力で吹き飛ばされる
「そう何度も食らうかよ!」
腹に触られる前にケイトは手と腹の間にナイフを差し込み、威力を抑え、受身をとる
男は突然頬に赤い線が走ったことに気がついた
「はっ…ざまぁ、余裕ぶっこいてるからそうなるんだよ!」
「かすり傷一つで随分嬉しそうだな、いやまぁ?一患者にしてはよくやったんじゃない?もうわかったからさ、大人しく着いて来てくんない?ごめんなさい許してくださいって泣いて謝ったら、半殺ししたあとはなぁ〜んにも痛いことせずに連れてってやるから」
男は苛立たしげに、貧乏揺すりをしそう言った
一患者、そうだ、ケイトは一患者である、だが、灯籠院で少女と共に戦った、少年と友人になりたいと思った、男に生きたいと無理やりながら思わされた
だからケイトは堂々と宣言するのだ
「違う、一患者じゃない、俺は灯籠院のケイトだ、ーーーあいつらの仲間だ」
そう初めて彼らを仲間と呼んだのだ、彼らの前なら、言う気にはなれないが
「ふーん、へー、あっそ、じゃ、死なない程度にぶち殺す」
顔面に手を置かれ、地面にヒビが入るほど強くケイトの頭が激突する
そのまま蹴り飛ばされ体が二転三転する
また後頭部を踏みつけられる
「ほらほら、灯籠院の仲間なんだろ〜?なら立てよ?カッコわるぅーい」
耳障りな声がケイトの耳をつんざく
勝ち誇り、ケイトを侮辱し、煽り続ける男の声
ケイトの頭を踏みつけ、体重をかけ続ける
「なんも出来ねぇんだから、大人しく着いてくりゃ楽だったのにな?」
ケイトに無力を突きつける
「散々カッコつけといて、こんなん灯籠院も困んじゃない?こんなん情けねぇのが構成員とか」
ケイトの発言を後悔させる
「ダッセェのなお前、ほら負けました、自分は何も出来ない負け犬ですって言ってみろよ?上手けりゃ許してやるかもよ?いやッ!犬は喋んねぇか?」
ケイトの今までを否定する
意識がーーーー
「頭を下げないとダメですよォ〜」
突然頭の上をハンマーが掠める、ギリギリで避けたが当たっていれば骨が何本かやられていただろう
「おっとと……?大丈夫ですか?当たらなかった?」
ハンマーを振り回し、勢い余って体制が少し揺らぐ
しかし一切隙を感じさせない幼女がそこに立っていた
援軍か、ここらで潮時だろう、意識を失ったケイトに手を伸ばす
「させません」
鋼が先を尖らせ攻撃的に男に向かう、それと同時に黄金が鼻を擽るように視界を横切り、鋼を刃とかえ、襲って来る、それを何とか避け距離をとるとケイトの前に立ち塞がり、警戒を続ける金髪の少女がいた
ダメだな、全てを置いて逃げるしか
「ッ!?」
足に鮮血が走る、いやこれは鮮血が刺さったと言うべきだろう、異物が体内に入り、不快感が傷口から登ってくる
「観念しろ、逃げ場はない」
いつの間にか背後にたって痛い幸の薄そうな男がいた
「そうか、あんたらが灯籠院の……なるほど道理で」
思わず笑いが込み上げてきた
「どの攻撃も、殺す気のない、甘い攻撃だと思ったよ!!!!!」
「「「!?」」」
そう叫び周囲に重い重力波を発生させた
「大丈夫?カレラねぇね!」
「はい私は平気です、でも逃げられてしまいましたか……ううん、大丈夫、フタバちゃんは?」
「フタバは平気だよ?でもリンにぃにがいないの!」
「リンくんは多分ミナトくんの方へ応援に行ったのでしょう、それより彼の手当をしましょう」
ケイトは体力を使い果たし地面に倒れ込んでいた、体は五歳ほどに縮み、身体中血だらけである
「どうしよう……多分骨とかボキボキだよね?」
「……灯籠さんに見せるしかないでしょう、フタバちゃんは二人に先に灯籠院に彼を運んだと伝えてください」
「うんわかった、カレラねぇね、頑張ってね!そっちのお兄ちゃんも!」
少女の背中に揺られケイトは薄い思考がグルグルと回っていた
無力感と、焦燥感が支配し、意識を飛ばすことは出来なかった
深更はまだ空けない
お疲れ様です七月です
ホワイトデーですね、友人にあげたアポロのお返しは帰ってきていません
それどころか妹の友達へのお返しを作らされました、解せないですね
そんなこんなで、5話でした