虹の立つ時に雑音を
「グッドなモーニングだなケイト君よ、よく寝られたようでミズキさんはとっても嬉しいぞー」
起き抜け視界に飛び込んできたのは
びっくりするくらいの棒読みで陽気なセリフを発するのは、灯籠院の医院長様だ
「お前が部屋にいるだけでグッドなモーニングではなくなるから、その辺よろしく」
嫌味でミズキの動きを制し、先日の文句を垂れる
ーー昨夜ーー
「なぁツムギ一つ聞きたいんだけどさ」
「おっ…おう……なんでも聞くと良いぞ」
ツムギの肌には冷や汗がダラダラと垂れ、目が泳ぎまくっている
「俺縮んでね?」
そう、ケイトは今五歳程度の身長しかないのだ、しかも心做しか肌ツヤもよく全体的に柔らかいまさに子供、気持ち、目つきの悪さも和らいでる気さえする
「おっ…おう!ケイトは実年齢より若く見えるのだな!とても羨ましいと思うぞ!」
汗が止まらない
「そうかそうか、いやぁそう言われると照れるなぁ〜………………で、説明は?」
「イチャイチャしてる所申し訳ないんだが」
「「イチャイチャしてない!!」」
「やっぱ仲良いな、それは最初にお前に入れた奇病のせいだな」
「やっぱお前のせいか」
「奇病のせいと言ってくれたまえ」
予想通りすぎて逆に苛立ちを忘れてしまう
「まぁ最初に入れた奇病が老若病だったからだな、本来宿主の意図しないタイミングで体が若くなったり、逆に年老いたりする奇病なんだが、お前の場合奇病の影響が奇病を新しく取り続ける限り最小限で抑えられるらしい」
「なるほど、つまり俺の場合普通の人にない蓋がある、的な感じでいいのか?」
「あぁ、その認識で問題ない、まるで最初から入れることを目的として作られたみたいな…」
ミズキが何かをぼそっと呟いた?
「?…なんて?」
「いや気にんすな、それより最小限に影響を抑えても、影響自体はある、お前の場合、体力が限界に近づくと五歳くらいまで若返るってとこか?」
「そんなピンポイントな……」
ツムギのつぶやきに頷いているとミズキがまた口を開いた
「そう言うなよ、他に何か変化は?」
「そういや、やけに体が軽かったな」
「そっちに関してはよくある事だな」
「と言うと?」
「奇病に長い間かかってるっつぅのは、重り全身に付けて生活するのと大差ねぇんだよ、そんなのが十数年続いて、それがなくなった瞬間体が軽くなるのは当然だろ?」
なるほど何はともあれ、身体能力が高いというのは朗報だ、病み上がりで動けないなど死活問題である
「ところで、お前なんか忘れてない?」
ミズキはビルを指差した
「あっ、そうだ奇病狩りに来たんだったな」
「当事者が忘れているなんて、なかなか笑えない話ではないか」
「はいはい、俺が悪ぅございました〜」
ツムギに悪態をつきミズキの方へ向き直る
「まぁそんなうっかり屋さんで、鈍臭いケイト君に朗報だ」
「前者の可愛らしい表現で後者の悪口は正当化されないからな」
ミズキは懐を漁り、瓶をひとつ取りだした
「じゃっじゃじゃーん、軟体病虫〜」
その瓶の中のナメクジを掲げ、ミズキの顔がドヤ顔に変わる
「それさっきの!ツムギが液状病虫つってた気がするんだけど?」
「ほーん……まっ及第点だな」
何を偉そうに、と背後でツムギが口をとがらせていた
「液状病と軟体病は同じ奇病虫が引き起こす奇病だし…奇病虫が成長しすぎると軟体病から液状病に変わるんだよ、軟体病は言っちまえば、液状病の初期症状だよ、今回お前の体に入れるのはできるだけ害のない方がいいから、運良く弱ってくれてラッキーだったな」
「これだけの惨状をラッキーで済ますのか、このダメな大人は……」
ツムギの呆れた声とともに、倒壊した建設途中のビルが横目に見見えた
「まぁということでケイト君よ」
ミズキ瓶を差し出して来たので、勢いに押され受け取った
「食え」
ーー現在ーー
「オエッ!また思い出して吐き気が、ていうか、たった一日でガキになって、ナメクジ食わされるって」
結局目をつぶっている間にミズキが無理やり喉の奥に押し込んで無事延命完了した訳だが
「せめてもうちょっとパサっとしたヤツなら…寄りにもよってナメクジて」
「いやぁまぁ感染経路のわかんない奇病よりずっとマシかもしれないぜ?」
「何その意味わからんフォロー」
ため息をつき、生きるためにあれを続けないと行けない事実に目を背けたくなる
「まぁそんな君に新しいお仕事だ、めっちゃ喜べ」
「喜ばねぇよ、なんで当たり前の用に部外者こき使ってんだ」
「いやぁ〜俺からの気遣いですってばやだぁ、どーせお前ここでて行く先とかないだろ?」
ギクッ
「一人で奇病狩るとかリスク高すぎんだろ?」
ギクギクッ
「オマケに奇病を複数体内に保持とか、対奇課案件すぎて逮捕待ったナシ!それから」
「セイイッパイオテツダイサセテイタダキマス」
「分かれば宜しい」
ーー駅、改札前ーー
「俺切符の買い方とかわかんねぇぞ……?なんだこのボタン……」
ケイトはまだ見ぬ謎の機械で足止めを食らっていた
「今どき切符か、珍しいものだね」
「あーなんかみんなMELON?ていうんだったか?カードでピで入るよな」
うる覚えの交通ICを思い出す、残念ながらケイトにはあのようなものを作る金も知識も理由もないため、無縁だったが、これを機に作ってみてもいいかもしれないと、お小遣いとしてミズキから持たされた財布を覗いた
「あ?誰」
「おっと、まだ顔をあげないでくれ」
知らない声に驚き後ろを振り向こうとすると、頭を鷲掴みにされ、強制的に下を向かされる
「ん……藍鉄色の髪…髪質は針金みたいに硬いね、あまり手入れは行き届いてはいらしい、まだ汚れが残ってる、先生が適当に洗ったんだろう、あっ白髪みっけ」
「みっけんな!?」
思わず顔を上げた
「目付きがすごく悪い!」
「まだ言うか!?」
いきなり髪の毛を隅々まで観察されたかと思ったら白髪を抜かれ、顔を上げれば少し気にしている目付きを指摘される
なんだコイツは
「……あぁ、失礼した、少し人間関係が不得手でね、不快にさせてしまったなら謝罪するよ」
「不得手にも程があると思うんだけど…」
「おかしいな…本には相手をよく観察するのが良いと書いていたんだが……」
「多分本の作者もここまで過剰なの想定してねぇよ」
少年はケイトと同じ程度の年齢に見えるが、ケイトよりもふた周りほど大人びた喋り方をする、冥色の髪を律儀に揃え、灰簾石を埋め込んだような瞳は人が良さそうに細められ、見るものに悪印象を抱かせない、柔らかい印象が特徴的だ
だが行動でそれら全てが台無しにされる
「自己紹介が遅れたね、僕は灯籠院の一職員
どうぞミナトと呼んでくれ」
自己紹介され思わずケイトの表情が、ワントーン暗くなる
「?、どうしたんだい?そんな人を数人殺めて居そうな目をさらに細めると誰も寄り付かなくなってしまわないかい?」
「そういうとこじゃないかなぁ!?いやまぁ自己紹介されてこんな顔する俺も悪いと思うけどさ!?灯籠院って変人しかいないわけ?」
院長がスットコドッコイなため、仕方ないとも思うが
傲慢で言葉足らずで、オタンコナスなミズキを初めとし、単細胞なツムギ、
新キャラのミナトは人間関係不得手Lv100だ、言いたくもなる
「まぁ否定はしないさ、残りの三人も大なり小なり愉快なものたちさ」
「胃が痛くなってきた」
「灯籠院に戻るかい?」
「その灯籠院が胃痛の原因なんだよ」
ダメだ、こいつと話すとすごい疲れる、多分わざとでも皮肉でもないところが特にケイトを疲れさせる
「まぁいいや、ケイトだ、よろしく」
「あぁよろしく頼む、ところでケイト、今日がどんな要件で僕と君が駆り出されたか、先生に聞いているかい?」
「いや、何も」
どうせまた説明を面倒くさがったのだろう
ミズキのせいで、ケイトの体がどんどん面白人間になっていったのは、記憶に新しい
「なるほど…さすが先生だ」
「流石要素あったか?」
いやない、ケイトはそう断言できる
「ズバリ、君と僕とで親睦を深めろと、暗に先生は言っているんだよ」
「まて、その言い方だとお前も何も聞いてないみたいな…」
「あぁその通りさ」
「その通りなの!?」
本当にあのトンチンカンは何を考えている
「いや!先生のことだ!君と親睦を深めて今後のコンビネーションを磨いて欲しいとか、見識を広めて欲しいとか、何か僕たちには図り切れない、崇高なお考えがあるはずさ!いや、もしかしたら僕たちが自分で考える力を身につけさせようとしているのかもしれない!あぁ流石先生!」
マシンガントークがケイトを撃ち抜く
「なぁ、一個聞いていいか?お前にとってミズキって……」
「無論!あの人が僕の行動指針であり、僕があの人の指先であり、あの人の命令が僕にとっての史上の福音さ!」
絶句、絶句である
ミナトは異常なまでのミズキ信者だった
いや確かに、傲慢だったり、皮肉屋だったりする口を塞いでしまえばそれくらい心酔出来るのも、有り得なくはないのだろう、一応あれで優秀な男だ
だがミズキが誰かのために口を噤むような男とは到底思えない
つまるところミナトが頭パッパラパーであるのがいちばん自然であるという結論に至った
「さぁそうと決まれば早速何処かへ行こう!」
首根っこを掴まれ、手早くケイトの分の切符を買うと、改札を通り抜けた
「何処かって、どこ行くんだよッ!?」
「任せたまえ!先生の期待に必ず答えて見せるよ!」
「その前に俺の疑問に答えて!?」
ーーカフェーー
最悪だ
なぜ野郎二人でこんなカフェになんて来なければならないのか
「ここのパンケーキが絶品でね」
「おぉ……そうか」
「あぁ君の分も頼んだから安心してくれ」
「俺がそっちの心配してるように見えるか?」
「パンケーキが食べれない心配じゃないなら、なんの心配だい?」
「どう見てもここがメイド喫茶なことが心配」
「……それのどこが心配なんだい?」
ミナトは訝しげに眉をひそめた
「どう考えてもおかしいだろ!?」
「なるほど確かに君のパンケーキが遅いね」
「ほんとに同じ言語話してる!?」
恥ずかしくて食えるか、と吐き捨てる
どうにも言動が噛み合わない、まだ昨夜の怪人の方が話が通じていた気もする、いやそれは言い過ぎた、トントンである
「そういうな、せっかく来たんだ、パンケーキの他にも好きなものを頼めばいい、僕が奢ろう」
「へッ…!?奢り!?」
「あぁ奢りだ」
ケイトは元々孤児であることは知っての通りだろう、そのためケイトは、普通の人より意地汚い自覚がある
そんな彼に、奢りだなんて言葉を使えば、ぐらぐらに揺らぐのは、想像にかたくない
しかし、ケイトにもプライドというものがある、食えるわけが無いと吐き捨てた手前、がっつく訳には行かない
それを察したのかミナトは少し意地悪く口角を上げた
「本当にいいのかい?ここのパンケーキはふわふわしてて、焼きたてを提供してくれるんだ」
「焼き…たて…だと!?」
「あぁ焼きたてさ、もう一度聞こうか、本当にいいのかい?」
「いッ…………………らない!」
よし振り切った!プライドは死守したぞ!
「そうか残念だ、ハチミツかけ放題だったんだが」
「くぁw背drftgyふじこlp;@:!!」
意味の分からない言語を発し、ケイトはハチミツに屈した
それからミナトと街を目的もなくぶらついた
ゲームセンターでクレーンゲームをさせられ、その下手さをミナトに笑われた
映画館に入り、何となく指を刺した映画が続編で、周りが感動の涙を流す中微妙な空気に二人で顔を見合わせた
本屋により、ミナトが買った本について尋ねると、体感数時間の力説をされた
「うん、なかなか充実した一日だったよ!」
「そうか?俺はどっと疲れたんだが」
ショッピングモールないのベンチに座り、水を飲みながら話す
「なら君は楽しくなかったかい?」
「いやそうは言ってねぇよ」
楽しかったし、水準はかなり違うが、ナナミとの日々を思い出した
だが、何となく、素直な感想を言うのが癪に感じた
「そうかい、精一杯背伸びしてみたが、君が楽しめたなら良かった」
それでは、ケイトを楽しませる為だけに、今日一日行動していたみたいではないか
「……そういうお前こそ、楽しくなかったのかよ?」
「?、僕かい?」
「一方的に接待したみたいな言い方しやがって、腹立つ…俺も別に今まで普通の生き方してきたとは思ってねぇけどよ、今日みてぇな日って、普通の俺らくらいの歳の奴らの充実した過ごし方じゃね?友達同士のさ」
ミナトは目を見開いた
「……考えたことも無かった」
そのつぶやきを巻き込んで、館内の人々が往来する雑音が二人の間を無機質に通り過ぎていく
突然ミナトから笑みが零れた
「つまり…君は僕の友になってくれると言う事かい?」
その瞬間自分が何を言ったのか理解し、ケイトの頬が真っ赤になる
「は!?いや!違う!いや違くない!その!」
テンパって、素っ頓狂な声をケイトが発し、答えを探そうと、頭を回転させる
突如、不愉快なハウリングが館内に響き渡った
《あ〜あ〜マイクテスト〜マイクテスト〜、聞こえてる〜?聞こえてるよね〜?聞こえてるってことにしま〜す》
女の声だった、館内放送に突如不愉快な声が乗って、館内をざわめかせる
声の主は、咳払いをして続ける
《え〜こちらモンステラのもので〜す、現在モンステラが館内に爆弾を仕掛けちゃった!わー大変!ノノたんもびっくり仰天しちゃった!みんな早く逃げて〜!まぁ閉まってるんだけどね!》
館内の騒音がさらに大きくなる
「今なんて…モンステラって」
ケイトのセリフに割って入るように館内の広場に爆音が鳴り響く
爆弾が爆破したのだ
それを皮切りに、館内は阿鼻叫喚、周りにいた人々は、出口に向かい走っていったしかし出口にはいつの間にかシャッターが閉まっている
《ん〜これでわかったかな〜、モンステラは本当に爆弾を仕掛けたんだ〜、でも安心して、あの威嚇用の爆弾は一つ!残りはノノたんと、テルちーが持ってる二つだけ!安心してね〜》
館内放送は鳴り響きく
「一体、何が目的なんだよ」
ケイトは回りくどい放送に苛立ちを隠せずにいた
《さてさてそろそろ本題に入ろうかな〜?今回は灯籠院の二人に用があってきたんだよね〜、おっとこっちもちょうど二人!オソロっちだね!ね〜?そうでしょ?灯籠院のミナトくんとケイトくん》
「なるほど、目的は僕らか」
「しかも、名前まで割れてるのかよ……」
ミナトは冷静に呟く、それを聞いてケイトも、放送の続きに耳を傾ける
《よ〜し!二人とも聞く体勢になったかな〜?ノノたんたちモンステラは、君たち灯籠院に宣戦布告しま〜す、君たちは爆弾を解除しないと出られません!でも解除するにはノノたん達を倒さなければなりません!おっと絶対絶命!早く何とかしないとお客様ごとぜ〜んぶ吹っ飛んじゃう》
不愉快な声はおちゃらけたまま続ける
《そんな君たちに大チャ〜ンス!君たち灯籠院の医院長、ミズキくんをこの場に呼んで、彼がモンステラに降ってくれれば、傷ゼロでお家に帰して上げちゃいま〜す!なんて美味しいお話なんでしょ〜、ね〜?みんなも早く帰りたいもんね〜?なら灯籠院には犠牲になって貰わなくちゃ!》
〝灯籠院だって!?〟〝早く出してくれぇ!?〟
〝早く降伏してよォ!〟〝嫌だ嫌だ死にたくない!〟
あちらこちらから、野次が飛んでくる
「まずいね、早く手を打たなければ、民衆の不安が爆発してしまう…」
「どうする、ミズキ呼ぶか?」
「いや、先生が降伏すれば組織図が大きく変わってしまう、当然反感も大きいだろう、最悪の場合ほか陣営との全面戦争まで有り得る」
それを聞き、最悪な記憶が脳をよぎった
「なぁ、モンステラってよ」
「想像の通り、モンステラは日本七法が一角
現在の日本の絶対支配者の一つだ」
お疲れ様です七月です
ようやく他陣営が出てきました、頭が痛い
友達って難しいですよね、ちっこい頃からの疑問です、どっから友達って呼んでいいのかな、正直おはようって言ってくれただけで友達判定したい
ということで4話でした