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可惜夜にサヨナラを  作者: 七月 ナツキ
賭け金は勝機になり得る
16/16

日陰草に無知の罪を


誰かがくる

あなたは誰かと問うてみた


表情の変化もありはしない

誰かも分からないその人だけを知っていた

その人しか知らなかった

だからこそ気づくのが遅すぎた

無知は罪である

冷たい棒が並ぶフローリングと灰色の壁に囲まれた空間

何も無い

毎回唯一何かと出会う時に運ばれてくるお盆に乗った温いお湯の中に入った野菜を無心で咀嚼し眠ると、いつの間にかそれは消えている

言葉は何で覚えたのか、物心着く前の轟音か胎児の頃からの刷り込みと言うやつか

初めて言葉を発した

舌足らず、実に不細工だろう

初めて首の角度が動いた

何も話さないし、何もしない、何も変わらない

ただ首の角度が変わる

なんとなく体温が上がった気がした

今考えれば彼と私はよく似ていたと思う


その人が出ていった時、体温が上がったせいか、やけに風が冷たく感じた

風?

初めて見る人工以外の照明

他の空間がある、この灰色の向こうに知らないものがある

それだけで当時私にとってはあまりにも新鮮で、衝撃的でとてもではないが我慢はできない

だから人生……生きていた中初めて唯一知っていたその人の持っていた小さな冷たいものに手を伸ばした

これを差し込めば棒が動くことは知っていた

その時初めてその人は知らない動きをした

喉を掴まれ壁に張り付けにされた

まだ短い足を必死に振るい、何とか意識を保ち、手を離さなければいけないと初めて必死になった


足が顎に当たった時、聞いたことが無い音がした


すると体は地面に叩きつけられた

それと同時にその人も寝てしまった

だがそれば重要では無い、聞いたことが無い音がしたのだ、初めてとは強烈なのだ

強烈過ぎたのだ

小さな手を何度も振り下ろした

同じ音が少しずつ雰囲気を変えて何度もする

棒と似た匂い、それをもっと濃くした匂い

知らない感覚が掌に溜まる

知らない色が出てくる

夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で夢中で




気がつけばいくら時間が経ったのだろう、開きっぱなしになった

冷たい棒の間を潜り、指に残った色を見つめ思いついたように壁にそれを塗りたくる

目に見えた限りのものを写しどる

新鮮でとても新鮮で

脳が焼ききれんばかりだった


一通り遊んだあとようやく外に出た

真っ暗で、黒くゴツゴツとした地面に素足が殴られる

自分からもあの色が出るのだ、そして初めて破顔した

足の裏の感覚さえ、快感な気さえした

明るい方へ歩く

丸い光が何個も連なる、愉快な音がする、大きな音がする

突然空が明るくなったあと、壁を思い切り叩いたような音がする

音のするほうを向けば、何色もの光が黒を彩った

それを目に焼き付けていたいばかりに周りを見るのを忘れ冷たい何かに突っ込む

水だった、どういう訳か上に向かって吹き出す水を、初めて浴びた

顔に水が張り付き、拭っても拭っても取れず真っ白なシャツの色が少し変わり動きずらくなる

しかしそれすら好奇心を刺激する

夢中で水を手にすくっていると、体に移った色が流されてしまい、少しポッカリと心に穴が空いている

それを埋めるべく、甲高い音の方へ走った

奇妙な動きをしながらクルクルと回る見たこともないほど大勢の人々

大きな柱の裏でそれを見ていた

一人、目が合った

唯一知っていたあの人よりずっと短い手足の人

その人は動きを止め目を見開いた

「いっ!……ちょっと!なんで止まるのよ!」

後ろから来た人がぶつかりその人に文句を垂れる

するとその人は指を刺した

他でもない私の方へ

「ーーーだっ!ーーだー!」

そううるさく騒ぐと周りの大きな人達が一斉に集まりさらに甲高い声を上げる

違和感と好奇心のままその集団に近寄ると

硬い何かが頭にぶつかった

大きな人の一人が私に何か投げたと気づくのにしばらくかかった

それに続くように色んなものが投げられる

「痛い」

初めて無意識に声が出た

「?どうして?痛いよ?」

最もここまでハッキリとした声は出なかったが

「いや!来ないで!!」

キャーキャーと喚くばかりで説明はされない

分からない、ことすら分からない

それはただただ無力で


















目が覚める

知らない人、髪はガチガチに固まっており、開いているのかもよく分からない目でこちらに視線を向けた

「なんや嬢ちゃん、そないな目でっつたって一切表情変わっとらんけどな」

ケラケラと笑うそいつは火のついた棒の、横の石に押し付け、嫌な匂いの着いたままこちらに寄って、ベットに腰掛けた

「誰って目やな」

「……」

首を縦に振った

「せやなぁ……なら僕と一つ約束してぇや?」

首を傾げ、指を一つ立てている人を見つめた

「君が知りたいこと、ぜんぶ僕がしえてあげる、その変わり僕の娘になってや」

「む…すめ?」

「そっどや?」

しばらく沈黙が続いた、私にはこの約束にどんな意味があるのか、理解するだけの情報がなかった

実の所娘の意味すら十全に理解していなかった

「なる」

たったその一言で悪魔に魂を売った




「本当に……そんなこと」

「まぁ、職業スパイの自分語りをまるっきり信じるのは愚かだと思いますよ……もう一度聞きましょうか、君は私の全てを理解して、受け入れてくれますか?……それから……」

「それから?」

「……いえ?なんでも?」

麗人は誤魔化した

自身の吐き気がするほど邪悪な記憶を臆面も無しに語ったのとは裏腹に、今更な後悔を滲ませて

分からない、どうしてそんな事を言うのか、悲惨な境遇を信じてくれないとわかっていながら打ち明ける

先程までの怒りも忘れ、思考に沈む

まるで諦める材料を欲しがるような口ぶり

知っていた

それでも今は分からない

絹のような真っ白な髪が視界を横切った気がした

それだけだった、でも理解など些細な問題だと思えてきてしまう


たった一つの理想論


ただ一つ


分かりたいで充分なはずだ


「なんでアンタらのボスを裏切った」

「……情報を漏らす情報官……というのはなんとも滑稽では?私情は押し殺し、目的を達成するのが私達の仕事です」

「でもアンタは確かな罪悪感がある、じゃなきゃアンタは俺と長話なんてしねぇ」

起き上がる途中で力が抜け、地面に叩きつけられる

「……道があるのは素敵でしょう、踏み外した先でなら私たちは踏み外さないで居れる、私たちは自分の道を守っているだけです、貴方だって、もう一度彼女に会えるなら、私たちと同じ決断をするはずです」

ナナミともう一度出会えたとしたら?

「……ナナミは……なんで死んで行ったんだ……お前は、それを……」

「ええ…知っていますよ」

表情を崩さず、誇らしげにすら見えない

まさに麗人

「何で」

悲痛さを隠しきれずに問いを漏らす

「彼女はあなたを守るために墓まで秘密を持って行った」

「……そうだろうな」

ケイトは彼女がどれだナナミを知っているか知らない

だが少なくとも、ケイトからみたナナミを、ケイトはこの麗人より知っている

きっとあの最後も彼女なりにケイトの事を考えたのだろう

「なら…どうして」

「……無知は罪だ、目を逸らすのは…耐えられねぇよ」

罪を犯し、その罪を知らず生き続けるのはあまりに辛い

「確かに……罪でしかありません、許されざる蛮行を引き起こしますから……けれど、子供に残酷な事実を隠すのは愛情に他ならないとも貴方は知っている、そしてソレを踏み付けにするのも確かに罪でしょう、貴方に……」

「あぁ……ようやくわかった」

あまりに時間がかかりすぎた

これだけのヒントを与えられ

これだけの時間があ

ここまで理解していたそれを飲み込むのに

たったこれだけの答えを得るのに、強欲に質問を重ね過ぎた



「お前は踏み付けた事を後悔したのか」

ようやく立ち上がった足の震えを叩いて矯正する

「…ようやく当たりだな」

麗人はヒールの踵を持ち上げた



無知は罪だが、優しい嘘は確かな愛情だ

愛情故に子供は無知になるのだろうか

知らなければ、焦がれるばかりの強欲に、心の臓を焼かれなくて済む

それでも


『あぁーーーー!!おがァざぁあんーーーーーー!!』

『イヤ………ッ娘に……近ずかないで!』

どうして

ケイトは横に転がりヒールの蹴りを何とか避ける

再び天井を仰いだ体制から、立ち上がり、顔に迫り来るナイフを自身のナイフで受け止める

『お願いします……殺さないで…』

『お前は……鬼だ……名実共にな』

わかってる

使っていない方のてから隠していたナイフを突き刺す

ケイトはそれを片手で受け止める

「満足したかよ」

「満足?満足させてくださいよ!満足させて見ろよ!!」

喉から血が出てくる様だった

二対のナイフで腕を払い、ケイトは大きく退いた

ナイフを二対とも投げ、それで視界が塞がれた好きに手榴弾からピンを取り外しケイトに向かって迷わず投げ捨てる

それが爆ぜようやく野次馬が全て逃げ出す

『どうして見せたの』

『あー……お友達ケンカしたから……かもしれへんな』

そんなくだらない事で

煙で視界が塞がれる

しかしそれは麗人の障害なり得ない

煙が動き、先程より鮮明に軌跡を表す

一瞬の隙、逃さず、蹴り殺す

『私の何が悪かったの』

『いや、君は悪くないさ、一つ君が悪だとするならば』

私はあまりに無知で

無知でいることを嫌い過ぎた


麗人の無表情が少女の怪訝な顔に変わる

煙が晴れ、その理由を示す

少女は足を受け止められていた

思わずため息が漏れた

「……もう満足したかよ」

「……」

「ダンマリかよ……それならッ!」

ナイフが振るわれる

それを何とか止めようと麗人の腕が動く

しかし躊躇った

麗人の顔は切り裂かれ

顔の皮が一枚剥がれ落ちる

赤瑪瑙の切れ長な瞳だけを残し、黒髪がこぼれ落ちると栗毛色の髪が存在を主張した

覆面の人相からは想像出来ないほど幼さが残る輪郭

それを誤差だと思えるほどの衝撃に頬を殴られる

額に一本、折れた角か生えていた


かの麗人は、ーーーー少女は奇人であった



お疲れ様です七月です

本格的にキャラの過去を描くのは初めてですね、構想は結構練っていたのに、いざ書き起こすと自然な流れで出すのに苦悩してしまいます

そんなわけで

七月でした

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