深更にサヨナラを
ーー取引場所ーー
その男は一切表情を崩さず中性長石の瞳で、地面にふすケイトを見下ろしてくる
「挨拶も無しかよ、人の事見下ろしやがって、いいご身分じゃねぇか」
「あのさ」
ケイトが立ち上がる途中で、ようやく男が声を発した
「誰?お前」
「あ?」
ケイトは思わず動きを止めた
コイツふざけてるのか
しかし男の表情は本気で分かって居ない表情をしていた
いや違う本当に覚えてない?
こいつの記憶に俺は居ない
「覚えとく価値もないってか」
ボソリとケイトは呟いた
「チッ、あぁそうかよ、構いやしねぇよ、クソッタレが!」
ケイトはすかさず蹴りを男の顔に向かって入れた
それを男はケイトの足を掴み止めた
「はぁ……さっきから何暑くなってんのか知らねぇけど、なんだよその態度、初対面の相手にする態度じゃねぇだろ」
そういうと、男は少し眉間にシワを寄せ、今度はケイトの頭を鷲掴みにし地面に叩き付けようとする
「おっと」
しかしその直前で動きが止まった
「そういや、この前の任務でも怒られてたんだった、失敗失敗……」
男は足を持っている手を離したかと思えば今度は首を掴まれギリギリと締められた
「てッ……めッ…えぇ!」
負けじと腕を握り返し抵抗する
力を入れていくと、男の顔が痛みで少し歪んだ
「チッ…流石にサービス悪くね?本人連れてくるだけって、それなりに大枚はたいたと思ってたんだけど?」
苛立たしげに男は何も居ない空間に言う
「あら?本人に引き合わせて人払いをし、そこから先に連合は干渉しないってことで、契約は成立していたと思うけど?」
男のぼやきにどこからともなく、ケイトをここに落とした女の声がした
少し目線をずらすと空間に裂け目ができていて、そこから上半身だけをだし、頬杖をついていた
「人身売買、それも日本七法の職員だなんて、リスクが大き過ぎるもの、わかって欲しいものね、これでもお得意様相手に骨を折っているのよ?」
男の様相にひるむことなく自身の髪を撫で付け、人払いをしながら女は言う
「いいご身分じゃねぇか?よそ見とかッ!」
女の相手に意識を取られている男に対して体を振り子のように振り、顔に蹴りを入れた
男は思わず手を離し、垂れてきた鼻血を拭った
「チッ…あのさぁ……今俺ちょうど機嫌悪い時なんだけど、空気読んでくれねぇかなぁ?」
貧乏揺すりをしながら男は言う
「はッ、残念だが空気は吸うもんだ」
「学もねぇと来るか……」
ケイトの態度に痺れを切らし、男は直進し腹を目掛け張り手をしようとしてくる
ケイトはそれを屈んで避け、男の懐に入り込んで、腹に拳を沈み込ませた
男は大きく後ろによろめき尻もちを着く
行ける、勝てる!
「ウッザ……」
座り込んだままの男に追撃をしようとする
男は手を前に出した
「ガッ…!?……ゴボッ」
背後の壁に貼り付けられ、腹を押しつぶされるような圧迫感がケイトを襲った
「チッ……あーぁ、素直についてくりゃぁ別に痛い思いしなかったのに……って、あぁ」
ケイトに近づくと男は妙に納得したような声を出した
「お前、あの時の雑魚か……通りで、実力もないくせに口だけはでかいと思った」
薄ら笑を浮かべ嘲笑する
あぁなんて憎い顔だろう
ケイトは顔を伏せた
「まぁいいや、んじゃあ、続きはお前が用済みになってからだな」
男が少し近づくと、ケイトにかかる圧力も大きくなって行った
「だっから……」
「あ?」
「だから失敗すんだよ」
ケイトの口角は上がっていた
ケイトがそう呟くと男はらしくもなく、表情を強ばらせ圧力を強くする
するとけいとのポッケから何かが割れる音が聞こえた
「おまっ……イカれてる」
ケイトのポッケからガラスの破片と共にどろどろとした液体が出てくる
しかし男が呟いたのはそれに対してでは無い
ケイトの体から生えた金属が男の四肢を貫いたことに対してだ
「さぁ……本番…リベンジマッチだ」
瓶の中に入っていたのは黄金の少女、カレラの血液であった
禁錮病の適合者、その血液に触れたなら、皮膚感染触れた者も禁錮病の患者となる
当然ケイトも禁錮病にかかった
その行為は、適合者であるならある程度の抵抗力はあれど、常人にはとてもリスキーな行為である
しかしケイトならばどうだろう
ケイトはキャパを超えなければ、奇病を殆ど完璧に封じ込められる
ならば逆に必要なだけ効果を発動させることも可能であるという事だ
しかし、感染したばかりの奇病を十全に扱うなど簡単にできるはずがない
「の癖にこれかよッ!」
地面が隆起し、鋼が皮膚を割いていく
男は自身の異能で、鋼を潰して事なきを得ているが潰した傍から男に向かい鋼は伸びる
行ける、このまま!
隆起する鋼は確かに男の退路を塞ぎ、追い詰めていく
最後の最後逃げ場が無くなりあとひと突き、鋼を伸ばせば男の喉に手が届く
ケイトの思惑通りに鋼は男に迫って行く
「焦ったか?雑魚?ほら、もう時間切れだろ」
全て見透かしていたと言わんばかりの男の蔑むような表情
その目と鼻の先
鋼はぴくりとも動かなかった
ケイトは奇病を使い潰したのだ
奇病患者の血液に救う奇病虫は基本的に幼体である
血液感染の場合新たな感染者の体内でメインとなる奇病虫が育って行くことで症状を進行させていく
それを幼体のまま奇病を無理やり使えば擦り切れて使い物にならなくなる
その法則に忠実に従い、ケイトは禁錮病の異能を扱えなくなる
男は眼前に迫った鋼をへし折り、ケイトの間合いに入った
「じゃぁなクソ雑魚」
短くそういい、ケイトの腹に手を添えた
「人のことはキチンとした名前で呼べよ?」
男の思惑とは外れケイトが吹き飛ぶことはなかった
痛み
手のひらに走ったソレに意識を向けた
ナイフが刺さっていた
鮮血は男の手から少年の足に落ち、ズボンに染みていく
「ッ!?」
「そうだろ?あ〜……テル?」
先程黒服が言っていた名前を思い起こし、口に出す
テルは背後に吹き飛び、先程出された鋼にヒビが入り、そこに座り込む
テルは壁に手を着き、よろよろと立ち上がった、自身の爪が食込む程拳を握り、血が流れていく
「重力波……いや重力を操るみたいな…当たりだろ?」
勝ち誇るようにケイトはテルを見据える
「……お前、誰の」
「あ?聞こえねぇよ、もっとデケェ声出せや」
「誰の許可得て……人の事呼んでやがる!!!!」
明らかな敵意と殺意を隠しもせず叫ぶ
テルは体を軽くし、ケイトの間合いで、拳を握り込み、腹に拳を突き出す
「ガボッ」
ケイトが血を吹き出し吹き飛ぶーーーー
ことは無く、ケイトはテルの腕に掴まり
ケイトは左右から別の方向へ圧力を加えることでテルの腕を捻じ曲げる
「クソ雑魚がッ!!!」
「ケイトってんだろうが!!!」
ケイトは拳でテルの顔を殴り飛ばす
鼻血が飛び出て顔を汚して行く
それすら気にせず、テルは顔を殴り返す
ケイトは手を離し、殴り飛ばされた頬を手で抑える
もう一度両者拳を振り上げる
拳と拳がぶつかり合う
重力と重力がぶつかり合う
部屋が崩壊していく
ジリジリと拳が押し勝っていくのはケイトの方だ
強大な重力波が部屋ごとケイトを押し潰した
「はっ……どこまでイキがっても所詮雑魚は雑魚だ、いい加減認めろよ!」
眉間に皺をこれでもかと寄せ、地面に這い蹲るケイトをテルは睨んだ
「その雑魚に何度もぶん殴られてる癖によく吠えるじゃねぇか、舐めプする余裕もなくなっちまったなぁ?、笑えるぜお前の今の顔」
よろよろと腕を抑えながら立ち上がる
悔しそうなテルの顔を指さし、ケイトは嗤う
再び体制を整えた
「……よくわかったよ」
「あ?」
テルはわけの分からないことをつぶやきながら踵を落とす
それを寸でで躱し、ケイトは足払いをする
体制を崩したテルは、転びきる前に地に手をつき上段蹴をする、それが掠めると、今度は手を出し重力波を起こしケイトを地面に叩きつけようとする
しかし重力を操る前に手を取られ狙いを外され、手を掴まれたままぶん殴られる
やむおえずに腕を振り払い上空へ逃げる、しかしケイトは逃がさない
「あぁクッソ……」
あまりにも深い夜だった、今でもなお、日が昇るこの光景が信じられなかった
それでも待ちわびていた
「これだから天才は」
テルは地面に叩きつけられた
「……」
沈黙が部屋に響く
「勝…った……!!」
息を切らし、身体中の痛みに耐えながらケイトは言い放った
あまりにも深く暗くケイトを抉ったあの夜
消して明けることがないとケイトに思わせたあの夜
深更にサヨナラを
しばらく座り込み、傷をできる限り処置し
動かなくなったテルをじっと眺めていた
浅い呼吸を繰り返し、傷が地面に掠める度に眉を顰めている
背後で音がする
「あら?、本当に助けるのね」
「ッ…何してやがる」
女は手に持っていた傘をテルに振りかぶっていた、おそらく殺す気で
それを止めたのは他でもないケイトであった
女の傘を、先程の攻防でぐちゃぐちゃになった両腕が何とか受ける
しかしこれ以上は
女が思考を読んだ様に笑みを深め、もう一度傘を振り上げる
ケイトは目を瞑った
冷気、それを感じ、反射で目を開く、視界に光が届く0.数秒にも満たない時間が、何故かゆっくりとすぎその少女の瞳を眺めさせる
「お前!なんなのだその体たらく!」
ボロボロになったケイトを指さし叫んだ
「ツムギ!」
お疲れ様です七月です
桜祭りに行ってきましたが、桜は咲いていませんでした
でも屋台は出てたので思う存分楽しんできました
やはり花より団子
ということで七月でした