沈黙に火影を
「おっーと?避ける避ける!すんばらしい身のこなしダー!!」
パチパチと拍手が鳴り響く
ナオの投げナイフの嵐の中ツムギは右往左往としながら避ける、時々紛れ込むお手玉は地面に着けば即爆発
「あぁ!もう!しゃらくさい!」
そんなことを言っていると、足元をナイフがかすめる
舞台の雰囲気に合わず、一髪触発な状況に神経はどんどんとすり減っていく
そのツムギの様子とは打って変わって、行動を逐一大声で解説を入れる声に思わずうんざりしてしまう
「あんまりここで異能を使ってはいけんせんよ?」
「うるさいぞ!そんなこと言われなくてもわかってるのだ!」
ツムギは思わず食ってかかる
だが実際問題ここで異能を使う訳にはいかない、本命は地桜連合のボス、芝桜 ルイなのだ
それを履き違えてはいけない
「主さんは大丈夫でありんすか?」
「む…お前に心配されなくても平気なのだ!」
慌ててはかすり傷のできた方の足を隠した
するとミヤビは、少しため息をついた
「隠すのは感心しんせんね、もし仮に毒物の類が塗られていたらどうするでありんすか」
ミヤビはツムギの傷をハンカチで止血をする
「……」
不満そうに口を尖らせるツムギに溜息をつきミヤビは思案した
子供といえど流石においたが過ぎる
これをしでかしているのが大人なら、問答無用で捻り潰すところだが、相手は守るべき子供である
「まぁ、叱ってやるのも優しさでありんすか…」
「ひぇッ」
今コイツすげぇ怖いこと考えたな
「あれあれあれ〜?もしかしてもうネタ切れ?降参しちゃう?降参しちゃう?」
トランプの雨を降らせリクは勝ち誇った顔をする
「!?、コイツ!」
「ツムギ!」
ミヤビの鮮血が針で晒される
ツムギが挑発に乗り周りを見るのを怠った瞬間、背後から針が飛んできたのだ
「集中しなんし!」
「ッ!」
分かっている、早くここを片付けて、ケイトの元へ行かなければ行けないのだ
おそらくあちらも襲われていることだろう
集中しなければ
「主さん、少しいいでありんすか?」
「…?あぁ……なんなのだ」
確かな焦りに額を濡らしているツムギに、ミヤビが語り掛ける
「さっきの針、あの童らと別方向から飛んできんしたね」
「!……他のからの援護なのか?」
そうしてツムギは少し警戒する
「いや……あれだけいる従業員はただガヤを飛ばすだけで何もしてきんせん、本当にこれを遊戯としているなら、手出しは野暮でありんす、それに」
気配が増えている
クソ、なんで今まで気づかなかった
「……ドッペルゲンガー病」
「およよ?ダンチョー?気づいちゃった!気づかれちゃった!凄い凄い!」
「本当ださすが!全員拍手ー!」
リクが遊技場の観客達に拍手を促すと、歓声と共に耳をつんざく勢いで拍手が巻き起こった
「それじゃぁ!賢い挑戦者のお二人に!」
リクがハットを掲げ声を上げる
「なるほど、それだけ聞ければ十分でありんす」
「プレゼントーー!!!」
リクがハットを傾けると、大量のリオが雪崩のように出て来て、舞台の上を埋め尽くし、ミヤビとツムギは、その雪崩に飲み込まれ見えなくなった
「なんだ、案外呆気ない」
リクは、そうつまらなそうにぼやき、再びハットを被った
「そうでありんすか?ならもう少し頑張ってみんしょうか?」
「!……いいじゃん、まだまだ遊べる、そうじゃなくっちゃ、会場は湧かない!上がらない!賭けられない!」
リオの雪崩をなぎ飛ばし
女は会場に再び姿を見せる
「……おやァ?おやおや?ちっちゃい方がいないぞ〜?どこに行ったのぉ〜?」
リクの隣に残っていたリオがツムギの消失を指摘する
「あの子は先に行かせんした、恋する童の邪魔立てなど無粋も無粋の塩次郎でありんしょう?」
「なんだよ、萎えることするじゃんか……全く…それならお姉さんがこの会場さらに沸かせてくれる訳?」
心底残念そうに顔を歪め、リクは手を横にする
「まさか……、覚悟しなんし、主さんら二人まとめてお仕置するといたしんしょう」
懐から扇を取り出し口元を隠しながらミヤビはそう言い放った
ーー廊下ーー
ツムギはミヤビに促され急いでケイト達が連れていかれた廊下に飛び出した
しかし
「誰もいない…というより、誰かが踏み入った痕跡すらない」
カーペットも、飾られた花瓶と額縁
全てが完璧で皺のひとつもない
「……ッ?」
腹が熱い
いや
寒い?
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛
腹から生えてきた鉄を視界に捉えた瞬間
思い出したかのように痛みが脳に流れてくる
その原因を振り払おうと、薙刀を振るいながら後ろを向く
誰もいない
腹にナイフが刺さったままツムギだけが取り残されている
腹に刺さったナイフを固定するように上着を括り付ける
とにかく警戒、警戒、
けいかいを………………………………………………………
少女の生存確認をするために近く、片手にナイフを持って、少女の死角から音を立てずに
心臓に手を当て、鼓動を探る
「…………ふ」
少女は息を吐く
それまで潜めて、いたものを最小限で吐き出す
実に事務的に、機械的に、体を動かす
鼓動の無くなった体の視界に初めて少女は入った
黒い髪と赤瑪瑙の切れ長な瞳
線の細い美しい少女はそれをツムギを少し向けたあと、踵を返して廊下の奥に消えようとする
「……」
「チッ……闇討ちなんて、なかなかいい性格してるではないか」
氷の礫が少女の背に刺さる直前で、少女の手が礫を掴み、止めていた
少女は瞳にもう一度ツムギを捉えた
「……」
少女は手に残る感覚を思い出しながら、掌を開けたり閉めたりする
死んだばかりにしては冷たかったか……
ツムギは服か肉の間に氷の幕を作り、鼓動を誤魔化したのだ
「ッ!?問答無用なのだな!」
逆の掌に掴んだままだった礫を投げ捨て、身軽な様子でツムギに近ずき、どこから出したのか、ナイフで斬りかかる
ツムギはそれをふらつく足で何とか躱し、薙刀で反撃をする
「しまっ」
もう一度振り下ろされたナイフが肌を切り裂くことはなかった、しかし止血の為に巻いた上着が切り裂かれ刺さったままのナイフが晒される
反射的に少女に飛ばした氷の礫を側転、宙返りなどを駆使しながら避け、ツムギに近ずき、ナイフの歯を足で押し込んだ事でナイフが地に落ちる
一気に血が吹き出し、血溜まりを作って行く
何とか地に着いた膝を持ち上げると、それを許さないと言うように、少女はツムギを地面に張り付けにした
「……そのままなら、すぐに失血死ですね」
「なんだ、口が聞けるじゃないか」
「眉唾ですが、血の巡りと毒は本人に自覚させることで早く回るらしい」
ダメ押しだと、肩を軽くすくめながら少女は言った
どこまでも合理的で、最小限の動きしかしない少女だ、だからこそ……
「お前、私の事殺す気無いだろ」
殺す気があるならば、最初の一突きを心臓にすればおしまいだし、今もツムギの失血死を待つ理由がない、そして、これ程の手練がこんな初歩的な事を見逃すはずもない
「なかったとして?」
「いや、後悔するなよって話なのだ」
ツムギを中心に広がった血溜まりが凍り、その切っ先が少女に向かって真っ直ぐ伸びる
少女は何本かは足で蹴り折るが、すぐに埒が明かないと理解し後ろに下がる
「おっと、逃がさないぞ」
少女の背後に氷の壁が現れる
「ほら、死にたくなかったら、大人しくお前のボスのところに案内するのだ、お呼びじゃないはなしだぞ?」
「……新人の彼はボスの所にはいませんよ」
「なッ……ならケイトのところに早く連れて行くのだ!」
「お断りします」
ナイフを投げられツムギは氷の壁を作り防御する
腹の傷を凍らせ止血をしながら氷の壁から少女の様子をちらりと確認する
「いない!?」
思わず背後を警戒するために振り向いた
しかし予想とは裏腹に上からナイフが落ちて来る
それを薙刀で凌ぎ、上を見上げる
少女の姿は一向に見えない
視界から外し、隠れ蓑となる、氷塊を幾つも作った時点で後手に回ったのだ
氷の壁に背をつけ、背後を取られるのを防ぐ
五感を研ぎ澄ませる
自身の心臓の音
自分の血の匂い
ヒンヤリとした感覚
変化のない風景
冷たい空気の独特の風味
まるで自分しかいないような錯覚に陥り出す
空気を吸い込む
、
、
、
「ッ!?」
破裂音が突然耳をつんざいた
肺がいっぱいになった瞬間
風船か何かが破裂するだけならば別に特段驚くことでは無い
しかし、どこに敵がいるのか分からない緊迫感、警戒のために研ぎ澄まされた聴覚、深呼吸で空気を吐き出す直前、もっとも警戒が緩む瞬間であったこと
全ての要因がツムギを必要以上に動揺させた
たった五秒されど五秒
ツムギの頭が真っ白になったその瞬間
影は見逃すことなく心臓に一閃
「……なかなかいい性格と言うのは、自己紹介でしたか」
ツムギを中心に円状に凍りつき、少女の足を凍らせ、動きを封じていた
「はんッ!言っておくがいいぞ!大方、私のことを思い通り掌で転がせてるとでも勘違いしたのだろう?全くご苦労なことだ!」
事実半分以上は掌の上でコロコロされている
「…私が今度は確実に仕留める為に近ずいて攻撃する事に賭けた……ということでしょうか」
「急に口数が多くなったではないか?よっぽどプライドが傷ついたか?」
「それで構いません」
ムッ……扱いずらいやっちゃな
「ふん!逆だ、逆!お前は間違って私を殺さない為に近ずいて攻撃をすると思ったのだ」
「いいえ、最初と違い、あなたに利用価値が無いと判断し、私はあなたを確実に殺そうとしました」
「?いや、お前は私を殺さなかったぞ?」
以外にも、しっかりした口調でツムギは言った
「……理由を聞いても?」
「だってお前、人を殺すの嫌いだろ?」
ーーーーー
「というか…フツーなら人を殺すって簡単じゃ無いだろ?躊躇って当然だし、罪悪感とか」
「もう結構です」
突然少女が台詞を遮った
「……灯籠院特殊職員、八栗ツムギ」
「……」
「まだ氷を溶かすには時間稼ぎが必要だろう?相手をしてくれても良いのではないか?」
「重要とは思えませんね、やはり私とあなたは合いませんね」
それだけ言うと、氷が溶けるのを待たず突然砕け散るそれを合図に周りの氷塊のバランスが崩れ、少女に向かって倒れ込む
少女はそれらを全て避け、なぎ払いながらツムギに突進してくる
ツムギは薙刀を完璧に捨て去り、もう一度足を凍らせることに集中する
「!ダミー!?」
氷が少女に触れた瞬間、ソレは霧散してしまう
すると横から脇腹を蹴られツムギは壁に激突する
いや、一向にぶつからない
横に飛んで行っていたはずなのに、いつの間にか真っ逆さまに落ちているような浮遊感がツムギを襲った
落ちる、また落ちる
視界が真っ暗になる
何も無い
何も出来ない
ツムギの姿が見えなくなりヨルは廊下を歩き出す
「普通……」
麗人はポツリとツムギのセリフを反芻する
そして確かに灯った心中の烈火を心の奥底に押し込め忘れることに努めた
「チッ」
お疲れ様です七月です
ギリギリセーフですね
普段九時には寝てしまうのですが、今回はいい感じに深夜テンションが味方してくれたので間に合いました
もう眠いのでTwitterも活動報告もサボります
すいません!