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可惜夜にサヨナラを  作者: 七月 ナツキ
賭け金は勝機になり得る
11/16

胡蝶の夢に契約を


少女は斧を振り上げアサヒの頭をかち割ろうとする

すんでのところでアサヒはそれを避け、斧は床にヒビを入れた

「危ねぇな問答無用無用ってか?」

「どうする?帰る?」

「断る」

アサヒはそう断じて少女の腹に蹴りを入れる

「動くな、速やかに武器を置き投降し、目的を話せ」

アサヒは拳銃を構え、少女に銃口を向ける

「さもなけば撃つって?やってみれば」

「チッ」

アサヒは舌打ちの後、数発を撃ち込む

しかしそれら全てを少女は躱し、距離を詰める、もう一度振り被る

「話は最後まで聞かんか」

突如少女の足元が赤く光ったと思えば煉獄が少女を包んだ

「おい!大丈夫なのかよ!?」

「周りを囲っただけだ、だがまぁ、これで諦めてくれた方が有難い」

「うん、邪魔だね」

少女は体を包む煉獄を斧で払い除け跳ぶようにまた距離を詰める

今度は一直線ではなく、壁を蹴り、地を蹴り、途中に置かれた花瓶を投げつけ、牽制も欠かさずに

「あんまり人の事忘れるもんじゃねぇぞ?」

しかしミズキの存在を思考から外していた、故にそこが起点となりーーー

「なわけないでしょ、お花畑」

「ありゃ……優秀」

ミズキが背後で編み込み、拘束しようと動かした金糸を完璧に避け、斧で叩きつける

「ケイト、このループする廊下の脱出を優先しろ」

「!…でもどうやって!?」

「この廊下の違和感を探せばいい、そこを当ててやれば、絶対に出てくる!」

攻撃を金糸でいなし、狭い廊下に四苦八苦しながらミズキはケイトに指示を出す

「それからッ!」

ミズキがポケットから何かを投げつけた

「これ…!」

手で隠れてしまうくらい小さいそれを見てケイトは目を見開いた

「……いつから?」

おそらく、ミズキがこの空間の対処法をいつ理解したかの話だろう

「最初からに決まってんだろ?何も情報通がそっちだけとは考えんなよ?」

「走れ少年、ここは気にするな」

アサヒはその顔に似合わず激励を飛ばす

「!…わ……かった、死ぬなよオッサン!」

ケイトはそういい、走り去って行った

「ハー……オッサンって……お前もそんな歳か」

「知っていると思うが同い歳だ」

少女の攻撃がやまない中、二人は場違いにも、程がある言葉を交わす

「そんなことより、まだもつな」

「当然、誰に聞いてんだ?」

「そうだったな」

アサヒは一歩踏み出し、足元に火の粉が舞う飛び回る少女に的確に蹴りを入れる

しかし少女は足と体の間に斧を置き、威力を最小限にする

構わずアサヒは拳銃で三発

リロード

ミズキはリロードの隙を埋めるように、金糸で少女の逃げ場を無くし、追い詰める

「残念、それじゃ捕まらない」

少女が斧を上に振るうと、その勢いにつられて、アサヒの出し、カーペットに燃え移った火が登る

そうすると、金糸に火が燃え移って行く

「熱っつ!?」

「神経が直接通ってるんだったな、良くもまぁそんな武器使おうと思う」

アサヒの言うとうり、奇蜘糸には使用者の視界に映る限りどこまでも伸び、何本でも出すことができ、ある程度使いこなせば手足のように使うことができる

しかしそれは武器に使用者の圧倒的天賦の才と本人の神経が通っているからこそなせる技である

金糸のダメージは直接体を傷つけることは無いが、脳のダメージはミズキに蓄積されていく

つまるところ、使いづらいのである

「どうする?結構キツイんだけど」

「それで済ますな、アンポンタン、全く……こんな作戦、頭がおかしくなければ実行できるか!」

「あーほら、バカと天才は紙一重っつうだろ?要するに、俺最高ってこと」

「言ってろ」

金糸は炎を纏ったままドーム状になり少女を取り囲む

金糸だけでは斧で払われたら終わる、かと言って炎だけで牢獄を作るのは無理がある

だから糸で骨組みを作ることで、誰も逃げられない火炎の牢獄が出来上がる

本来、奇蜘糸を使い、火を纏わせるなど、凡人、いやほぼ全人類には発狂もいい所である

しかしミズキは冷や汗ひとつかきはしない

「……熱い…」

少女は思考する

そしてもっとも合理的にその選択をした

少女は地面に斧を突き立て床を破壊する

そうすると自ずとこのループする空間はこの廊下からの脱出を阻止するべく、また廊下に繋ぐ

少女は天井から足を出し、油断するミズキの頭に一閃ーーー

「残念だが、思惑通りだ」

しかしその目論見はアサヒによって阻まれた

再び火炎に飲まれ、斧を手放したその瞬間を金糸は見逃さず少女を拘束した

少女は天井に吊るされる形で無力化された


ーー無限廊下 ケイトーー

「違和感っつても……初めて来る場所でそんなすぐに分かる物かよ」

ケイトはミズキに言われた通り、無限ループを終わらせるために、違和感を探す

しかし、どの扉に入っても戻ってもまた同じ廊下が広がって行くだけだ

「違う事っつったら…ミズキとアサヒさんが完璧に見えなくなっちまったことか?」

一度ケイトは不安にかられ、二人の元へ戻ることを試みたが、どれだけ戻っても二人は見えて来なかった

「つまり…ここはミズキ達がいた所とは、また別の所……?」

先程までループしていたところを一つの部屋と仮定するなら、ミズキ達が見えなくなった時点で、別の部屋に入ったということだ

しかし、それではいくつも部屋を用意する必要がある

「そこまで大掛かりなこと出来るもんなのか?」

おそらくこの不思議な空間は奇病由来の力が原因なのだろう、だがケイトが見てきた奇病の力はそこまでオーバーなものでは無い

制約も、制限もある

であるなら、無限などと考えるのは場違いな気がしてくる

そこまで思考し目を閉じる……

焦げ臭い匂いが微かにする、細い糸が風を切る音

あれだけ長い間走り回っていたのに疲れを感じさせない足

思い当たる節はある

……当然だ、まるっきり空間創り出すなんて無茶苦茶だ

勿論相手に無理と決まった訳では無いが、今のケイトにはそれしか考えられなかった

「なんだ、俺たち一歩も動いちゃいねぇじゃねぇか」

それに気づくと世界は糸のほつれを引っ張った布ように歪に見えだす

単純な話だ、自分たちが動いて居ないのだから目的地に着くはずがない

動いていたのはケイト達ではなく、見えている風景

二人が見えなくなったのはお互いを居ないと錯覚していたからだ

「ピンポーン、大正解」

澄んだそよ風のような声

その女は一体いつから立っていた?

「あんたが俺らの足止めしてたのか」

「そんなに睨まないで頂戴、嫌われるのって、何相手でも堪えるもの」

女は丈の長いワンピースに身を包み、黒い傘を差していた、その隙間から蛍石の緑が楽しげに細められる

木賊色の髪の毛を撫で付ける、その風貌はまるで妖精のような印象を残す

「お前ら何が目的だよ…呼ばれたと思えば急に攻撃してきやがって」

「私たちギャングは荒くれ者である前に商人なの」

「は?」

意図せぬ返答が帰ってきてケイトから思わず気の抜けた声が飛び出す

「だから、何かを聞きたい、何かをさせたい、それならそれ相応の代価を払って頂かないとね?」

女は傘を閉じ、今一度顔をはっきりと見せ、顔の横で指を丸の形にし、片目を閉じる

「あぁ…勘違いしないで?別にチップが全てって話じゃないわ、チップなら尚良だけど、要は価値を示せばいいのよ、商品の値と代価がお互い釣り合ったと思った時が交渉成立だもの、あの子たちにはボスに会うだけの価値を示して欲しいの」

女の美貌はそのままに、雰囲気が一変させ、悪魔の様に女は言った

「それでこの無限廊下って訳か?」

「ん〜、ちょっと違うかも?ほら、世の中遊び心がないと」

なんてことだ、相手の思惑を知るのにここまで苦労するなんて

「とりあえず、お前らの主張はよくわかった、ボスのところに行くには、お前らに従うしかないって所までな」

ケイトは髪をかきあげ、苛立たしげな表情が浮き出る

「俺たちに、いや」

勝手に仲間を掛け金にする訳にはいかない

「俺に何をして欲しい」

それを言うと女はニッコリと笑い、顎に手を置く

「物分りのいい子は嫌いじゃないわ」

「欲を言うなら、単に好みって理由だけで通してくれたりは?」

「いやね、欲をかけるのは、それこそ力あってこそよ」

やはり一筋ではいかないか

「まぁ、交渉は後できちんと灯籠くん達とするわ、君はなーんにも心配する必要はない、それだけ理解してればいいの」

蕩けるほど甘い声、指先の一挙手一投足に目が離せない

「何言って」

ゆっくりと女はこちらに近づく

「だってそうでしょう?商品と交渉なんて、狂言じゃないんだから」

「商品…?って」

言い終わる前に女に体を押された

強い力では無い、ならなぜ体は簡単に倒れる

暗い穴、ただ無力に落ちて行く

そこでようやくハッとした

まずい、まずい、まずい

どうして女の一挙手一投足に気を配らなかった、いや、女の動作は何一つ見逃さなかったなのに、どうして近づくのを許した、どうして素直に相手の口車に乗った

「あの女……?」

ふと原因の心当たりをようやく見つける

いや、当然あの女しかいないだろう?

思考が溶けている、酔いから覚めるように、どんどん脳が覚醒していく

不信感すら抱かせない何かがあった?

分からない

それすら

分からない

穴のそこ、深い気もするが浅い気もする

そして地面に着地する、元々そこにいたかの様に、衝撃の一切はない

「はぁ……やっとか、金払ってんだから、仕事はもうちょいチャッチャカやってくんねぇかな」

「もっ……申し訳ございません、テル様!」

なんだ……?

聞き馴染みのある声、初めて聞いたような声二度と聞きたくない声、すぐに聞きたかった声、自分の全てを否定した声、自分の本心を肯定した声

「お前……お前……お前!!」

言いしれない憤怒が、歓喜が、恐怖が、悲哀が、ケイトの全身を包み、逃がさない

あの日あの時、ケイトを踏みつけ罵り、深更まで一気に落としたあの男

名前も知らないこの男

ケイトはこの男を知っている

「あ?」

モンステラの悪夢が再びそこに立っていた

お疲れ様です七月です

モンステラ、再登場おめでとうございます

仲間同士、完璧に分断されていきましたが、まぁいい感じに頑張って貰うということで

以上、七月でした


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