勝者に天つ御空を
無機質な音が鳴り響く
ぴっぴっぴっぴーーーーーーーーーーーーー
それはまだその醜悪な肉体が息をしていることを指す機械の音
「カボッボギャビラッバボッ」
「わかんねぇから喋んなって」
意味を持っているのかすら怪しい音に対してバカ真面目に返答をする
肉を少しずつ切り開いて行く
一応麻酔を打ってみたが、ソレは眠らず
痛覚ももとよりあるのかすらよく分からない
ただそれは一切の抵抗なく、まるで命令を待つ犬のように、時々何か発する以外には、ただ呼吸のみを繰り返す
肉の中身、切り開いた先にその全貌が明かされた
「…………クソッタレ」
ぴっぴっぴっぴっぴーーーーーーーーーーー
手術室からブルーシートを被された何かが病棟に運ばれて行った、それとほぼ同時に、いつもの白衣に着替えたミズキが出てきて、結果を待っていたアサヒを見つけた
「なんだよわざわざ結果聞きに来てたのかよ」
「これも立場上の義務だ、そう嫌な顔をされる言われはない」
「クソ真面目」
ジト目でアサヒを見つめ、ミズキは嫌味を放った
「君と違って俺にはそれしかない、そんなことより、アレの結果を聞いても?」
首でブルーシートが持って行かれた方向を顎で示しながらアサヒが検死……
というのも適切ではないが、結果をミズキに問いかけた
ミズキはそれに対し、珍しく疲れた表情でため息をついた
「中身を切り開いたら人間が出てきたよ」
「……人間だと?」
「そ、人間、二十代後半の女だった、、そいつの筋肉やらなんやらが肥大化して浮き出て、あの気色悪い肉で覆われてた、そっちの隊長が切った傷口からも肉が出てきて切り離すのに苦労したんだぜ?」
ミズキは重苦しくなっていく雰囲気と肩をほぐしながら行った
「容態は」
「心配すんな、体の方は至って普通、肉を切り離したら、それ以上の肥大化はしなかった、ただ、まともな飯が食えてなかったららしいな、栄養失調だった、精神も行かれちまって、うわ言しか喋れねぇし、嚥下も難しそうだから、経口摂取は厳しいだろうな、一応精神病棟の方に送ったが、聞き込みは難しいぞ?」
一応は命に別状はないと知り、ひとまず安堵する
だが聞き込みが出来ないとなると、また別のことで頭を悩ませなければならない
「はッ……前から思っちゃいたが、随分辛い立場じゃねぇか」
鼻で笑い、眉をひそめて言った
「ふん、似合わないと?俺自身も人の上に経つのは向いていないと自覚している」
余計なお世話だと、暗にミズキに伝えるその口元は、少し笑っていた
「でも、辞めることはしねぇんだろ、慕ってくれる生徒もいることだし」
ミズキは窓を指さした
そこには中庭で、異能の使いすぎの反動で動かなくなった体のリハビリをフタバと行うカレラの姿があった
「いや…俺はもう」
沈黙、ミズキはそれを止めも受け入れもしない、ただ少女を眺めるのみだ
アサヒは口をつぐみ、話題を変える
「………それで原因は?」
原因を問いかけた
「未確認の薬品、奇病由来の奇薬が原因だな効果は、筋肉、体力の増強、適切な量を飲めば凡人を圧倒できるフィジカルが手に入る」
頭上で指をくるくると回しミズキは答える
「だが用法用量を誤ればあのような怪物になると?」
「多分な、詳しい検査はまだだけどよ…一体連中はどっからそんなもん手に入れやがったのか……どの道危険だ、今すぐ全面禁止にすべきだな」
その意見に賛成の意を示しアサヒは頷く
「まっ……その手の薬品の出処も大方予想が着いて来るが」
「地桜連合か…」
地桜連合、日本七法でも暗部を牛耳る、夜の街の絶対支配者
あらゆる後暗い話は地桜に繋がる、とはよく言ったもので
まともな神経をした人間が近づく組織では無い
「本件の責任は全て俺にある」
「だからお前自ら地桜連合に足を運ぶと」
「…………」
アサヒは黙った
危険が伴う、それ以上にアサヒは耐え難い現実と向き合わざるおえなくなる
ミズキはそれをきちんと理解していた
「灯籠院から俺含めた人員を出す、連れてけ」
「……灯籠院をそれもトップであるお前を巻き込み、問題を大きくすると?」
「知るかよ、元々首突っ込ませたのはそっちだろ、何より」
そのでミズキは一度言葉をきり、アサヒに向き直った
「ケイトの件、まだ疑いが晴れてねぇんだろ」
「……気付いていたか」
「当然、今回害した俺の気分をこの協力で手打ちにしてやる、お互い良好な関係築こうぜ?これからもな」
そうグーの手をアサヒの方に突き出す
アサヒは諦めたようにため息をついた
「はぁ……わかった、どうせ逃がしてくれる気はないんだろう、お前含め、三人までに絞ってくれ、あまり人数をかけられない」
そう言い、出された手を同じくグーで突き返した
ーー天空カジノーー
「すげぇ……空にこんなでけぇ建物が浮いてるなんて……」
「ふっ…ふふふ、なんだケイト?ビビっているのか?わわわ、私は全くもって平気だが!?」
「足ガタガタで言われても説得力ねぇよ?」
ドヤ顔で勝ち誇ろうとするツムギに対して呆れながらケイトは答えた
天空カジノ、地桜連合が運営する、最大級の事業であり、地桜連合のボスのいる可能性が最も高いとして、やって来た
「なかなか愛らしい言い合いでありんすが、ここは危険でありんす、きちんと警戒しなんし」
艶かしい廓詞を使う女が二人をたしなめた
「うげぇ……」
「お前失礼過ぎない?」
女を見つけたあと、あからさまな態度をとるツムギを見て、女は微笑んだ
「そんな顔されるとわっちも傷ついてしまうでありんしょぉ?さて、そっちの童は初めましてでありんすね」
「わっちは対奇課 五番隊隊長 日暮 ミヤビでありんす、隊服でのうて申し訳ありんせんが、どうぞよろしゅうお願いしんす」
ミヤビと名乗る女は漆のような髪を豪奢に飾り、艶やかな口紅が目を引き、杉石が美しさ極めつけている
「ケイト…あんまりこの女につかずいてはダメなのだぞ……このショタコン!ロリコン!」
「その理論だと、俺がショタ扱いになるんだが?」
どうやら対奇課からはミヤビとアサヒが派遣されて来たらしい
こちらが挨拶を済ませている一方で
「ダァーかぁーらァー!?俺は成人してるっつってんだろうが!?免許証だけじゃなくてマイナンバーまで全部見せたじゃねぇか!?まだ足りねぇのか!?」
「えぇ……とですがその…お客さま」
「人の事見た目で判断すんなって習わねぇのか?あ!?」
「ひッすみません!」
一同はミズキが成人していると信じて貰えず足止めを食らっていた
「君…とても信じられないのは分かるが、彼は確かに成人しているんだ……紛らわしくてすまないが」
「は……はぁ……申し訳ございません、上の者に確認を取らせていただいてもよろしいでしょうか」
「クッソ……なんでこんなとこばっか律儀なんだよ……」
ミズキのぼやきもそこそこに、ボーイは無線で確認を取り始めた
「はい……はい……わっ……かりました、大変お待たせいたしました、入場の許可が降りましたので、どうぞごゆっくりお楽しみください」
そう言われ、一同は何とか入場に成功したのであった
ーー天空カジノ 遊技場ーー
「やっぱ……ミズキ連れてくんのやめた方が良かったんじゃねぇか?」
「あ?いいじゃねぇか入れたんだからよ」
「不必要に目立ってる気が済んだけど?」
周りの目が刺さる、正に、えぇ……子供をこんな所に?と言わんばかりだ
「だが、事実ミズキがいた方が話が早いのは確かだ、俺では門前払いがいいところだが」
意外にもアサヒがミズキのフォローを入れた
「そういうこと、禿げんぞ?そんなことあんま考えてっと」
「余計なお世話だ!」
薄暗い廊下を抜けると、コインの擦れる音、機械の音、カードがめくられる音、BGM、それらが騒がしく重なり合う、カジノがそこにあった
「はぁ……想像通り騒がしい場所だな」
「意外、アサヒさんはこういうとこ、調査とかでよく来てそうだと思ったんだけど」
そうケイトが言うとアサヒは少し目を伏せた
「そうだな、ここは部下に任せきりだった、俺自身、避けている自覚はあるよ」
「?」
アサヒの言い回しに違和感を覚えていると、一風変わったバニーガールが一人こちらに歩んで来た
「お客さまの内、そちらの御二人をボスがお待ちで〜す」
気だるげに仕事をする少女は薔薇輝石の瞳と頭の上で複雑に編み込んだ薄色の髪が特徴的で、バニーガール衣装の上に中途半端にジャージを羽織った頓智な装いが、無駄に良く似合う少女である
「ほらな、俺がいた方が話が早く進んだ」
「知らねぇよ、つぅかこれ、警戒されてるってことだよな」
しかも分断までされかかっている
「ふむ……他の三人は連れて行っては行けないと?」
「……一人までならいいでしょ、知らんけど、なんでもいいからちゃっちゃと決めて」
そうそうに化けの皮が剥がれた少女に急かされ、ミズキとアサヒはこちらを振り返った
「んじゃケイト、こい」
「おい待て!?どうして私がこの幼女趣味と一緒に留守番なのだ!?」
「あぁー……うん悪い」
絶対思ってない
「子供好きと言って欲しい物でありんすが」
ミヤビはそうボヤきながら、ツムギの頭を撫でる、その手がはねのけられずにツムギは歯をギリギリとこすり合わせる
「でも良いのでありんすか?副総長、相手の口車にそんなに簡単にのりんして」
「だが、従う他ない、ここはもう相手の領域だ、軽率な反抗はするべきでは無い」
「ん、決まりましたか〜?じゃ着いて来てくださ〜い」
少女に連れられるまま、奥の廊下を進んだ
ーー天空カジノ 廊下ーー
先程の遊技場とは比べ物にならないほど静かな廊下が続いている
「あのー、なんでこいつら呼ばれてんですか」
「……」
返事がない
「君、まだ若いだろう、こんなところで仕事など、両親は何をしている」
「んな風俗説教まがいなこと聞くなよ……」
「……」
返事がない
「ヘイ君かわうぃーねぇーどこ住みぃーLimeやってるぅー?」
「スゲー棒読みでナンパすんのやめろ」
「……」
「返事がないただの屍のようだ」
「ちゃんと生きてるからな!?」
ミズキが足を止めため息をつく
「なぁ〜そろそろいいじゃねぇか?お前何が目的だよ」
ミズキがそういうと少女は足を止めた
「先程から同じところを繰り返し進んでいるのは気づいている、お前、我々を芝桜の元へ連れていく気は無いな」
「!……」
そう言われれば、確かにこの絵画はさっきと全く同じものであるし、この廊下の先が一向に見えない
であるなら、少女は何らかの目的を持って足止めをしていることになる
「上からの指示じゃねぇだろ?ルイはこんな回りくどい真似はしねぇ」
ミズキのそのセリフに諦めたのか、ため息をひとつ吐き出したあと少女はゆっくりと振り返った
「なんだ、バレてるし、萎えるわぁ……」
少女は手を横に伸ばした、すると、何も無かった空間が突然裂け、何かを取り出した
「斧……?」
「ボスには合わせない、もてなしもしない、 帰って」
「随分かってじゃねぇか?」
「別にいいでしょ?ここでは勝者が全てを決めるもの」
ーー天空カジノ 遊技場ーー
「なるほど……見事なパフォーマンスではありんせんか、こんな状況でなければ拍手を送りたいところでありんすが」
ツムギに向かって投げられたトランプを素手で掴み
ミヤビは舞台でマジックを見せていた少年を見据えた
「どうするのだ、……周りの連中、こっちを見て、楽しんでるみたいだぞ」
そう言われミヤビが軽く周りを見渡すと、周囲の客は金をだし、どちらに賭けるかと下卑た笑いを浮かべていた
「レディースアーンドジェントルマン!さぁ今宵も楽しい遊戯の時間だ!今回おもてなしさせていただくのは、皆様お馴染み、地桜魔術団の団長!世界一のマジシャン矢島 リク!」
「そしてそして!アシスタントのリオだぜぇ!」
道化じみた、大仰な動作で観客を沸き立たせる
二人組のよく似た男女は大きなハットから鳩を出したり、持っていたお手玉を花に変えたりしながら、まるでゲームをするかのような手軽さで人の命を弄んでいた
「さぁー今回の挑戦者はー?」
「なんとビックリ!対奇課三番隊隊長!日暮 ミヤビと灯籠院の職員八栗 ツムギだ!」
そういうと観客は一斉に沸き立ち、歓声で耳がちぎれそうだ
「別に隠していた訳ではござりんせんが、情報は筒抜けでありんすか……」
厄介な状況に少しため息をついているところに、少年はさらにまくし立てる
「さぁ!命を懸けた決闘がいま始まる!勝てば英雄!負ければ脇役!勝者は全てを手に入れるこの場所にて!誰が勝つ!?」
「さぁー賭けは始まってるぜ〜!?」
ステージの上と会場の外、誰もが沸き立つ危険なショーが今始まる
お疲れ様です七月です
早々に毎日投稿を投げ出しましたが、気にすることはないでしょう!
今回から地桜連合編です、よろしくお願いします!