聞き取りのあと
ラシェルは、リーマを保健省一階まで見送ったあと、ひとり執務室へ戻った。
歩きながら、先ほど起きた一件を反芻する。
リーマ嬢――
若く、聡明で、可憐で、どこか天然。
――だが。
容赦がなかった。
本人にその自覚は、おそらくない。
アンドレ・ゼダムに向けた言葉も、彼女にとっては「事実を述べただけ」なのだろう。
しかし、結果だけを見れば、
あれは――完膚なきまでの論破だった。
正直に言えば――あの聞き取りに、ラシェルの同席は必要なかった。
リーマ嬢ひとりで、すべて足りていたのだから。
純粋で、天然で、そして芯のある少女。
ショーン様が、ご自身のお孫様と結婚させたいと本気で考えている理由が、あの場面で腑に落ちた。
――だが。
ラシェルは、ふと先ほどの光景を思い出す。
リーマ嬢を正門まで送ろうと一階に降りたとき、すでにカイテル殿は待っていた。
試験が終わっても、なかなか姿を見せなかったのだろう。
彼は明らかに落ち着きを失っていて、視線は入口から離れなかった。
そして、リーマ嬢の姿を見つけた瞬間。
迷いなく駆け寄り、彼女の無事を確かめるその様子は、心底安堵しているのが見て取れた。
――あれは、疑いようのない愛情だった。
さらに、リーマ嬢の瞳も。
そこにあったのは、信頼、尊敬、安心。
そして――彼の姿を見つけた瞬間にほどけるような安堵。
揺るぎのない、帰る場所を見つけた者の眼差し。
これは――
ショーン様がどれほど手を尽くしても、
どれほど良縁を用意しても。
首を縦に振る未来は、ない。
ラシェルはそのまま、ショーン様の執務室へ向かった。
『コンコン』
ノックをして入室すると、すぐに声が飛んでくる。
「戻ったか。リーマちゃんの"喧嘩"はどうだった?」
「ご心配には及びません。もはや、私が同席する必要はありませんでした」
「ほう?何があった」
ラシェルは、記憶をなぞるように、
リーマ嬢の言葉を一つひとつ、そのまま伝えた。
――すると。
「はははははっ!」
ショーン様は腹を抱えて笑った。
「強いな、リーマちゃん。ただ可愛いだけじゃないとは思っていたが」
満足げに、さらに言葉を続ける。
「ますます、フィリップと結婚してほしくなった。メイソン家が、もう少し尖っていればよかったのにな」
「……ベック子爵家より尖っていても、難しいかと」
「なぜだ?」
ラシェルは一拍置いて、静かに答える。
「アーロン大臣のご子息は、それを決して許さないでしょう」
そして、少しだけ表情を引き締めた。
「先ほど、お会いしました。あの様子では――命を懸けても、リーマ嬢を誰にも渡さないでしょう」
はっきりと、断言する。
「ショーン様。リーマ嬢の件は、諦めたほうが――ずっと簡単です」
ショーン・ベックは、ラシェルの言葉を聞くと、
「ちぇ……」
と短く零し、
「ままならんものだな」
と、苦笑まじりに呟いた。




