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記憶を失くした少女は、それでも生きていく。  作者: あまね


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余裕余裕の調薬試験

セシルさんが先頭を歩いて一階に降り、試験会場に向かった。

今朝の試験会場とは違う会場だった。

私はセシルさんに軽くお辞儀をし、何とか辺境伯の息子とその執事をちらっと見て、ぷいっとそっぽを向く。

そして試験会場の反対側へ向かった。

すでに受験者たちが会場に集まっている。

壁際の椅子に座って喋ったり、本を読んだりする人もいれば、立ったまま黙々と本を読む人もいる。

百人もいる試験会場の中は、少しだけお喋りの声が聞こえる程度で、意外と静かだった。

この試験会場は、今朝のように椅子と机が列に並べられた形式ではなく、壁三面に椅子と机のセットが配置されていた。

会場の真ん中には大きくて丸い机が十脚置かれ、それぞれの机の間には人が二人同時に通れる広さの間隔がある。

その丸い机の上には、数十種類以上の薬の材料、焜炉、水、薬の容器、酒、木べらなど、調薬に使えるものがぎっしり置かれていた。

受験者たちがセシルさんに気づくと、ざわつきが止まる。

会場はさらに静かになった。


「皆さん、お待たせしました。これより午後の部の試験を始めます。

皆さんには一人一枚の問題用紙と解答用紙が必要です。

こちらの机にある問題用紙と解答用紙を一枚ずつ取ってください。

必要であれば、トレイも自由に使ってください」

セシルさんの声に、受験者たちの小さなざわめきが戻る。


「自分の取った問題用に書かれた薬を調薬してください。

調薬問題は五種類ありますが、合格には最低でも四種類の薬を完成させる必要があります。

四種類以下は不合格。調薬試験が不合格の場合、午前の部も不合格となりますので、お忘れなく。

材料や分量は解答用紙に必ず書いてください。書かない場合は減点です」


受験者たちのざわつく声が聞こえる。

過去問題集では、四種類の調薬と一問の看病に関する問題があったけれど、今年は看病の問題がなくなって、すべて調薬になったらしい。

つまり試験の難易度がさらに上がったということね。

受験者たちの顔に動揺が走る。


「丸い机の材料と道具は自由に使ってください。

机にあるもので足りなければ、足りるように工夫してください。

机の指定はありません。好きなところでどうぞ。

壁際の机や椅子も自由に使えます」

セシルさんは続ける。


「調薬方法や材料を知らなければ、本を調べたり、友達に聞いたりしても構いません。

ですが、二時間制限の試験ですので、二時間以内に四種類以上の薬を調薬してください」

みんなが顔を見合わせ、気まずそうに小さくぶつぶつとつぶやく。

なるほど、友達に聞くこともできるけど、時間が足りなくなるかもね〜。


「焜炉の数が限られていますので、焜炉を使う時間は一人で十分のみ。

十分すぎると、各机にいる試験官が強制的にその調薬を終わらせます。

十分あれば調薬できる薬ばかりです。

それ以上時間がかかる場合は、実力と知識が足りないということ。

他の受験者の時間を奪うことは許しません。

足手まといはこの保健省に要りませんからね」


厳しいぃ〜。

セシルさんは優しい微笑みを浮かべながら、すごく厳しいことを言っている。

言っていることは当たり前だけどね!

みんなは試験の厳しいルールを聞いて、顔をさらに引き締めた。

一方で、顔色を蒼白にする人もいる。

これは合格しそうな人と不合格になりそうな人の違いなのかな〜?

こんなに余裕があるのは、百人の受験者の中で、やっぱりリーマちゃんだけだね。


「では、試験開始!」


セシルさんの声と同時に、受験者たちは一斉に問題用紙と解答用紙を取りに行く。

会場の真ん中の丸い机に駆け寄り、自分の問題用紙と材料を確認し始める。

調薬が他の人より遅いと、材料が足りなくなるかもしれない。

生き残り試験みたいだね〜。

私は平和主義だから、こういうのはちょっと苦手。

でも、四種類以下の調薬しかできなくても仕事は保証されているから、気楽に行こうかな〜。

私は問題用紙と解答用紙、トレイを取って、自分の問題用紙を確認。

ふむふむ。

調薬する薬は鎮痛剤、軟膏、頭痛薬、消毒剤、下剤ね。

ふーん、ひっくり返すほどの嘔吐剤や、二度と目覚めない薬などはないのね〜。

残念。

馴染みのある薬ばかりで楽勝だね、楽勝楽勝。

受験者たちは真ん中の机を囲み、自分の問題用紙と机の上の材料を交互に見ながら、ぶつぶつ独り言を言っている。

私は壁際の机に鞄を置き、自分に一番近い丸い机で調薬開始。

さっさと必要な材料を一人分ずつトレイに置き、先に軟膏と消毒剤を調薬する。

必要な材料は知っているから、他の受験者がまだ探したり迷ったりしている間に、焜炉を確保して調薬を始めたい。

「これ……どれだ?」

「酒はどこだ?」

そんな声があちこちから聞こえてくる。


……うん、今のうちだね。


焜炉に火をつけ、鍋を置く。

鍋が温まったところで、軟膏の材料を順番に入れる。

手を止めずに混ぜる。

とろり、と色が変わる。

匂いも変わった。

……うん、いい感じ。

粘りが出た瞬間に火を止める。

一瞬遅れると固くなってしまうから、油断できない。

……ふむふむ、いつものように完璧だ。

よし〜、まずは軟膏完了。

数分しかかからなかったから、時間はたっぷり。

楽勝だね、楽勝楽勝。

軟膏を見て満足し、自分のトレイに置く。

次は消毒剤、行こうっと。

私は今使った鍋を綺麗に拭き、焜炉に火をつけ、再び鍋を置いて温める。

その間に、四種の材料を切り刻んで準備しておく。

ちょうど材料の準備が終わった頃、鍋がちょうどいい感じに温まっていた。

切り刻んだ材料と酒を鍋に入れ、材料がくっつかないようにゆっくり混ぜ続ける。

酒が沸騰したら火を止め、透明な瓶に酒と切り刻まれた材料を入れてふたを閉める。

消毒薬は匂いが強くて、正直私の苦手な薬だ。

鼻にツンとくる匂いに顔をしかめる。

……うぇ。

村の人たちも、この匂いだけは嫌がってたんだよね。

私は鼻を顰めながら、トレイに置く。

本当はもっと時間があれば、もっと効果の高い消毒薬を作れるのに。

でも、焜炉の使用可能時間ではそこまで時間がない。

とりあえず簡易的な消毒薬を作ることにした。

減点されちゃうかな……?

問題用紙には「消毒薬」としか書かれていない。

もし減点されたら、その時は異議申し立てしてやるんだからね。

……そのとき、どこに異議申し立てすればいいのかしら。

……まあ、いいか。

そのときは、そのときの私に任せよう。


次は鎮痛薬と頭痛薬、そして下剤。

これらはもう火がいらない。

私はまな板、ナイフ、器と薬の容器を自分のトレイに置き、さっき鞄を置いた机に戻る。

ずっと立ちっぱなしだと疲れちゃうもんね。

私は椅子に座り、鎮痛剤の三種類の材料を切り刻み、小さな器に入れる。

水を少しずつ足しながらスプーンでかき混ぜ、その作業を数回繰り返すと、黄緑色のドロドロとした、ちょっと不味そうな薬ができあがった。

よし、薬容器に移してふたを閉める。

見た目は不味そうだし、実際に不味い。

村の人たちはこれを飲むの嫌がってたんだよね〜。

次は頭痛薬。

二種類の材料を切り刻み、スプーンでさっくり混ぜて容器に入れる。

最後に下剤。

下剤の材料は一種類だけで簡単。

ひたすら細かく切り刻み、液体がたっぷり出たら、そのまま容器に入れてふたを閉める。

ふぅぅ、調薬完了!


やっぱり今日の私は余裕だね〜。

リーマちゃん、素敵!かっこいい!天才かよ!

……うんうん!知ってた知ってた!

私はほくそ笑みながら、お母様からもらったペンを、カイテルさんが買ってくれた鞄から取り出す。

それぞれの薬に必要な材料と分量を、解答用紙に丁寧に書き込む。

もちろん、自分の名前も忘れずに。

もう一度解答用紙を読み直し、調薬した薬を確認する。

ふむふむ、完璧。満点だね〜。

私は席を立ち、会場を見回す。

各丸い机の周りには受験者たちがたくさん集まり、必死に材料を取ろうとしている。

焜炉の前には行列ができていた。

「まだ終わらないのか?」

「もう十分だろ」

小声の文句があちこちから聞こえる。

先に焜炉を使って大正解だったよ、私!

焜炉の数がもっとあれば、合格者がかなり増えるだろうな。

わずかな使用可能時間を設定するより、数を増やしたほうがいいと思うのに。

――と、心の中で小さく文句を言いながら、セシルさんのところへ向かう。

「セシルさん、調薬が終わりましたので、こちらお願いします」

私は笑顔で言いながら、トレイを差し出す。

「……本当に終わったんですか?」

セシルさんは信じられない顔。

「はい、終わりました。もう試験会場を出ても大丈夫ですよね?

この試験が終わったら、あの男に虐められて暴言を吐かれ、素敵な昼休みを台無しにされた件について話さなきゃいけませんよね?

どこで待てばいいんですか?さっきの部屋ですか?」

私は無事に終わったことに満足して、笑顔で話す。


「……自己主張が強い子ですね、あなたは」

セシルさんは呆れた目で私を見る。

「まあ、この試験が終了したら、さっきの部屋に来てくれますか?終了時間はわかりますか?」

「はい。その時間に行きますね。では失礼します」

思いついたことを付け加える。

「セシルさん、午前の試験のとき、起こしてくれてありがとうございました。おかげで目が覚めて、美味しい昼ごはんを食べることができましたよ」

「……あなたが美味しい昼ごはんを食べるために起こしたわけじゃないですからね」

セシルさんはさらに呆れた顔で私を見る。

私は笑顔で平民風のお辞儀をして、カイテルさんが買ってくれた鞄を取りに行く。

周りの受験者にジロジロ見られながら、試験会場を出た。

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