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記憶を失くした少女は、それでも生きていく。  作者: あまね


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『新型ディル薬』

「ああ、その通りだ」

ショーン大臣は、落ち着いた声で頷いた。

「我々も時間がかかることは理解している。焦らず、確実に進めてくれればいい」

そして、少し間を置いて続ける。

「実験に協力する人についても、心配はいらん。我々は報酬を出して、麻薬依存者を募集するつもりだ」

……報酬?

「麻薬依存者の多くは貧しい。治療を受けながら金ももらえるとなれば、生活を立て直すきっかけになる。

治療が終わった後、新しい人生を始める資金になると考える者も多いだろう」

なるほど……。

「報酬に興味を示さない者についても、通常のディル薬で治療を行う予定だ」

「王様も『新型ディル薬』には大賛成でな。多少費用がかかっても、成功させてほしいとのことだ~」

……王様。

その言葉を聞いた瞬間、背筋が伸びる。今までの十倍くらい、本気を出さないといけない気がしてきた。

(急に……プレッシャーが……)

「頑張ります」

そう答えたあと、ふと疑問が浮かんだ。

「でも……ここまでして『新型ディル薬』を作る必要があるのでしょうか?今のディル薬でも、治療はできますよね?」

時間も、お金も、たくさんかけて。

ただ、治療を受けやすくするため……だけ?

理由が思いつかない。

「それはな」

答えたのは、バロウズ小父様だった。

「この『新型ディル薬』が完成すれば、我が国の新しい産業薬品として、他国に売り出す」

私は目を瞬かせる。

……あぁ!

「麻薬で苦しんでいるのは、デリュキュース国だけじゃない。どの国にも同じ問題を抱えた者がいる。我々はその薬を売り、国の利益を増やすんだ」

バロウズ小父様は、にやりと笑った。

……なるほど。さすが産業省大臣。

その笑みは、どこかマーティスさんに似ていて――やっぱり親子だな、と感心した。

「ディルの葉っぱだけだと、他の国でも真似できてしまうだろう?それじゃ、我が国は損をするだけだからね。せっかくこんな素晴らしい薬を知っているんだ。もっと付加価値を付けて、高額で売るんだよ。

――ただでは譲らないからな」

お父様はニタッと笑った。いつも優しいお父様なのに、今はちょっと悪人に見える。

(……ご、ごめんなさい、お父様)

「お金をかけてもいいとは言ったけど、その三倍の額を、他の国からきちんと返してもらうんだよ〜」

ふむふむ。

ロラン小父様も、なかなかのやり手だ。さすが財務省大臣。

いつも飄々としている分、右腕のジョセフさんは常日頃大変そうだけど……。

(あ、今、ちゃんと褒めていますよ、ロラン小父様)

「王都の施設が落ち着いたら、他の街にも施設を建てるつもりなんだ。将来的には、今のディル薬の使用をやめて、この国でも『新型ディル薬』で依存症治療を行う。そのためにも、『新型ディル薬』が必要なんだよ」

なるほどね。

皆さん、さすが国の最高幹部である十大大臣だ。常に国の利益と国民のことを考えつつ、隙あらば利益も増やしていく。

だから、平民の私は、その理由を思いつかなかったのね。

今回は、せっかく施設を建て、そこに麻薬依存者を集めるのだから、

この機会に協力してもらいながら治療を進め、「新型ディル薬」も作り、

国のためにも、そして収益にもつなげる――というわけね。

「施設はね、廃街区域の近くにある廃墟や空き家を利用しようと考えているんだ。あの辺りは治安が悪くて、一般市民が少しずつ他の地域に引っ越してしまったから、空き家や廃墟がたくさん残っているんだよ」

ロラン小父様が、穏やかに説明した。

「それに、廃街区域には麻薬依存者も多いからね。彼らの近くに施設があれば、勇気を出して利用してくれるかもしれない。中央街からも、他の地域からも、そこまで遠くないし――他の地域に住む依存者も通いやすいと、私たちは期待しているんだ」

ロラン小父様が、穏やかに説明した。

なるほど。

空き家や廃墟を使えば、建物を一から建てる必要がない。施設の開始も早くできるし、予算も抑えられる。あるものを有効活用できる、というわけね。

――十大大臣、隙なし。

「そうなんですね。それでしたら、かなり大きな施設になるんですね。治療が終わるまで三、四ヶ月もかかりますし、依存者がたくさん来るかもしれませんから」

私がそう言うと、お父様は小さく肩をすくめた。

「あぁ、それが問題なんだ。治療に三、四ヶ月もかかる以上、一つの施設に多くの依存者は入れられない。

それに麻薬依存者が集まる場所だ。危険や混乱も避けられないし、警備騎士も必要になる。だが、警備騎士は通常任務もあるから、どうしても人数に限りがある」

なるほど……。

施設さえ作ればいい、という話ではないんだ……。

「だからね、最初は実験対象の依存者を含めても、十数人ほどに限定するつもりだよ」

ショーン大臣が穏やかに続ける。

「場所も、警備も、足りない状態で無理をすれば、かえって危険だからね」

「運用がわかってきたら、徐々に依存者を多く受け入れるつもりだ」

バロウズ小父様が続けて説明した。

「それに、リーマにも護衛が必要だ」

お父様がきっぱりと言った。

「依存者と関わりながら実験を進める以上、万が一のことがあってはならん」

護衛、と聞いて、私ははっとする。

確かに……。

自分の身のことは、あまり考えていなかった。

(……あっ、でも、大丈夫かも!)

「それでしたら、リオとリアに護衛で来てもらうのはどうでしょうか?二匹がいれば、安心して開発できます」

「ふむ、そうだな。では、そのホワイトウルフにも来てもらおう」

「……ほ、ホワイトウルフ?」

ショーン大臣が怪訝そうに首を傾げる。

「なぜここで、ホワイトウルフの話になるんだ?」

「リーマはホワイトウルフを二匹飼っているんだ」

お父様がさらりと言う。

――違います!

いえいえ、飼ってません、お父様!

あの誇り高い二匹に「飼われている」なんて言葉が伝わったら、絶対に怒られます!

「いえいえ、飼ってないです!仲良くしてもらっているだけです!」

「仲良くしてもらっている……?それはそれで、十分おかしいが?」

それでも「飼っている」よりは、ずっとマシです!

「まあまあ、そういうことだ、ショーン殿」

お父様は強引に話をまとめた。

「開発中は、そのホワイトウルフにも護衛として来てもらう」

「ありがとうございます。後でリオとリアに話しておきます」

「ホワイトウルフが護衛か……」

バロウズ小父様が顎に手を当て、面白そうに言う。

「子供たちもきちんと教育すれば、警備用として優秀そうだな」

(残念ながら、その子供たちのお父ちゃんとお母ちゃんが、全力で反対すると思います)

「ホワイトウルフの子供たち?……まあいい」

ショーン大臣は深く考えるのをやめたように肩をすくめた。

「今は聞かなかったことにしよう」

私のせいで、少し話が脱線してしまった。

私は軽く咳払いをして、話を元に戻す。

「ちなみに……『新型ディル薬』の開発は、どこで行う予定なんですか?」

これから始まる大きな計画の全貌を、私はまだ知らない。

けれど、国の最高幹部たちが本気で動いていることだけは、はっきりと伝わってきた。

「建物の修繕が終わったら、施設の近くに用意した開発用の建物で、リーマちゃんに開発を始めてもらいたいんだ。準備はあと四週間ほどで整うだろう。医療室の採用試験を受けると聞いているから、その後になるかな」

ショーン大臣が穏やかに説明する。

「それに、今までリーマは国に十分すぎるほど貢献している。王様も、王城の仕事を与えてくださるはずだ。

正直、試験のことは心配しなくてもいい。極端な話、受けなくても構わんのだぞ」

バロウズ小父様とショーン大臣が、口をそろえるように言った。

その言葉を聞いて、胸の奥が少し軽くなる。

――お二人がそう言うなら、私は無職にはならない。

王都での生活が、いきなり終わることはなさそうだ。

試験を受けなくてもいい……。

それはそれで楽だけれど、少しだけ、もったいない気もする。

今までおじいちゃんに教えてもらったことや、屋敷の図書室で学んできたことが、王都の正式な試験でどこまで通じるのか、正直知ってみたい。

それに、私はこれまで「試験」というものを一度も受けたことがない。

村では、一定の知識を身につけた後、おじいちゃんの監視のもとで実際に村人の健診や治療を行い、その結果で合否が判断されていた。

合格すれば、同じ症状が出た時は私が対応する。

不合格なら、最初から学び直し、合格するまで何度も繰り返す。

それが、私にとっての"試験"だった。


「その通りだ。医療室は私の管轄だからな」

ショーン大臣が胸を張る。

「私が推薦すれば、試験を受けずとも、開発が終わった後にそのまま医療室で働くこともできる。どうだ?保健省で働く気はないか?薬の開発もあるし、開発団に加わってもいいんだぞ」

「ありがとうございます。でも……」

私は少し考えてから、はっきり答えた。

「せっかくここまで勉強してきたので、自分がどこまでできるのか知りたいんです。試験も、開発も、どちらも頑張りたいです」

「そうか。分かった」

ショーン大臣は納得したように頷いた。

「ただ、試験に合格しても、すぐ医療室の仕事には就けないかもしれんな。王様は、おそらく開発を優先してほしいだろうから」

……確かに。

合格しても、私は『新型ディル薬』の開発に集中しなければならない。

そうなると、医療室の仕事は後回しになるのかしら?

それなら、この機会に保健省の薬の開発団に入れてもらうのも手かもしれない。

薬の開発は、おじいちゃんと一緒に何度かやったことがあるし、役に立てるかもしれない――。

「あっ、いや、すまんすまん。余計な心配をさせたな」

ショーン大臣が慌てて言った。

「医療室の席は、私が確保しておく。安心しなさい」

「ありがとうございます!」

思わず声が弾む。

「安心しました!」

保健省大臣が直々に保証してくれるなら、もう間違いない。

よし、私は無職にならない。

「では、施設の修繕が終わったら、また話をしよう。今日は来てくれてありがとう。もう屋敷に戻っていいぞ」

「はい。皆さま、本日はありがとうございました」

私はいつもの平民風のお辞儀をして退室した。

その後、お使いさんに付き添われ、メイソン家の屋敷へと戻った。

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