内部に潜む影
アーロンはカイテルとリーマを見送りながら、
今回の事件についていくつかの可能性を頭の中で整理していた。
「医者と看護師の身元調査は何かわかったか?」
「この三人の看護師は、騎士に尾行してもらいましたが、特に怪しい点はありませんでした。
三人とも家族を持ち、十年も病院で真面目に働いています。
同僚や患者からも厚く信頼されており、優秀です。
密会や不審な行動の痕跡も見つかりませんでした」
「ふむふむ。シロだろうな」
「経歴も付き合いも家族も潔白のように見えます。しかし医者のほうですが…」
ウィリアムズは一呼吸置き、慎重に言葉を続けた。
「怪しい人間との密会の痕跡がありました。
自宅には手紙を燃やした跡があり、
特殊魔法の復元魔法を持つ騎士に復元してもらったところ、
興味深い内容がいくつも出てきました。
確かにリーマお嬢様が話していたコニファ毒の件も含まれていました。
あの医者は、リーマお嬢様がぜひ仲良くなりたいと思っているボスからの指示を受けていた可能性があります」
アーロンは一瞬、眉間に皺を寄せた。
「……リーマ、案外危険に突っ込んでいくタイプなんだな。
あの子が羽目を外さないように、カイテルにしっかり見てもらわなきゃ」
リーマは得体の知れないディル薬をためらわず味見したらしい。
あの好奇心の強さは、時に危険を招く。
油断すれば、どんどん悪い方向に進んでしまうかもしれない……。
近い将来、メイソン伯爵家の長男の妻になる身だ。
もっと言動に注意させないと……
アーロンはため息をつき、少し肩の力を抜いた。
「リーマのマナー講座と貴族教育は、試験後にと思っていたが、早めに始めたほうがいいのかもしれん」
「ふふっ。しかし、今は七人の看病に勉強、試験もありますから、少し待ったほうがよろしいかと」
「危険な行動をしないように、後でカイテルに言っておこう」
「それは賛成ですね~」
アーロンは呆れたように首を横に振る。
「あの医者は、十一人の様子を発見した人間だろう?」
「えぇ、そうです。
騎士以外でディルの葉の麻袋に近づけるのは医者か看護師ですが、
看護師の捜査結果を見る限り、恐らくシロです。
となると残るは医者……ということになります」
「そうだな。あの医者は、発見した時、全員が動かず死んだと思い込んでいただろうな。
全員死んだと信じて応援を呼んだ。
しかし、もう一度診たら四人だけ死んでいて、七人が生きていた。
おそらく、騎士や看護師がすでに病室にいて、生き残りの七人の始末が間に合わなかったのだろう」
アーロンは目を細め、頭の中で状況を整理する。
「あいつにとっては悲惨だろうが、残り七人と私たちにとっては幸運なことだ」
「だから、あの十一人の症状はディル薬の副作用だと思わせようとしたんでしょうね」
「理由は分かったのか?」
「あの医者は勤勉で優秀ですが、二か月前から急に様子がおかしくなったそうです。
近所の人によれば、同僚との付き合いも悪くなり、奥さんや子どももまったく見かけなくなったとか。
恐らく誘拐か人質に取られた可能性があります」
「なるほどな……」
「燃やされた手紙以外には何も見つかりませんが、指示を出したのは同一人物の可能性が高いです」
「家族も危険にさらされるかもしれん。手紙の痕跡は?」
「魔法で調べたところ、廃街区域から出された手紙だと分かりました。
騎士を廃街区域に向かわせています」
「あの医者の安全確保も必要だ。後で口封じされるかもしれん。家族の居場所も探すように」
「承知いたしました」
「……あの裏の人間、俺たちの知る情報をほとんど把握している。
十一人が入院した病院、麻薬依存症の治療開始時期……完全に内部の仕業だな」
「えぇ、その可能性が高いですね」
「王宮の誰かか……十大大臣の調査は?」
「新しい情報はありません。四名の大臣は爵位取得や家名の実績で就任しています」
「薬に関係する大臣は?」
「申し訳ございません、その点は未調査でした。再度確認いたします」
「頼む。裏の人間が植物に詳しい可能性も調べなければ」
アーロンは眉間に皺を寄せた。
「引き続き調査を。
十大大臣も要注意……ロランとバロウズは関係ないと思うが……
関係ないと願いたい」
「リーマお嬢様のおかげで麻薬工場を発見しましたが、
逆に言えば、リーマお嬢様が気付かずに敵を作った可能性もあります。
危険に遭うかもしれません」
「屋敷の外ではカイテルが常についているから、心配ないだろう」
「今回リーマお嬢様がいて本当によかったです。
動物の支配能力のおかげで麻薬拠点の発見、麻薬依存症の治療法の確認、植物と薬の知識……
まだお若いのに素晴らしいですね」
「育て親のクレスさんのおかげだろうが、元々真面目で頭のいい子なんだな」
アーロンはリーマのことを思い出し、自然に柔らかな笑みが零れた。
「カイテル、なかなか女を見る目はあるな。メイソン家の未来は安泰だ。何だか安心した」
何かを思い出して、言葉を付け加える。
「あの小屋の警備は女性騎士も手配してくれ。男だけだと面倒なことになりそうだ」
「ふふふっ。承知いたしました~」




