守るための任務
王宮の国防省に到着し、カイテルさんは私の肩を抱いたまま、ゆっくりとお父様の執務室へ向かった。
『コンコン』
「入れ」
扉を開けると、お父様とウィリアムズが、真剣な表情で何かを話していた。
「リーマ、もう終わったのか。早速来てくれてありがとう……」
お父様は私の顔を見るなり、眉をひそめる。
「顔色があまりよくないな。先に休んでもよかったんだぞ。
カイテル、リーマを医療室に連れていけ。話はあとでいい」
カイテルさんはすぐ私に向ける。
「お父様の言う通りだよ。俺が連れて行く」
「だ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます。
今分かったことを、お父様にお伝えしたいです」
カイテルさんはちらりとお父様を見て、小さくため息をついた。
「……じゃあ、聞かせてくれ」
私は深く息を吸い、分かったことを順に話し始めた。
今生きている七人は、すでに体内に毒が蓄積している可能性が高いこと。
もし再びコニファの毒を摂取すれば、命を落とす危険があること。
病院の調理場に置かれているディルの葉の麻袋は、丸ごと処分する必要があること。
その麻袋の中に、毒のある葉が混ざっていたこと。
あの十一人の症状は、昨日や今日に急に出たものではなく、
もっと前から少しずつ現れていたはずだということ。
それなのに、医師がまったく異変に気づかなかったのは、不自然だという点。
そして――コニファが毒花だと知っているのは、
植物に相当詳しい人物でなければ難しいということ。
お父様が、無言で頷きながら、私の報告を聞いてくれた。
口封じの可能性もある……と考えてしまうけれど、
平民の私が十大大臣に指図することではない。
この話を聞けば、お父様もきっと同じ結論に至るはずだ。
そもそも、私の話を聞かなくても、すでに気づいている可能性も高い。
カレル森の小屋で見つかった植物の数々を考えると、
裏にいるのは――おじいちゃん並みの植物博士だ。
(……植物愛好会の仲間になりたかったな……悪い人で残念)
私は心の中で、こっそりため息をついた。
すべて話し終えると、しばらく沈黙したまま、深く息を吐く。
「毒の葉がディルの麻袋に混ざっていた……。
しかも、かなり前から毒を摂取していた可能性が高い……」
「七人がまだ生きていたのは幸運だな。
それにしても、症状にまったく気づかなかったとなると……」
お父様はそう呟き、ウィリアムズへちらりと視線を送った。
ウィリアムズは、無言のまま真剣な顔で頷く。
……今の視線、どういう意味だろう。
「私たち騎士は、麻薬依存症の治療による症状だと思い込み、
あの十一人の異変をそこまで重大だとは考えませんでした……申し訳ございません」
カイテルさんは俯き、声を落としてお父様に謝罪した。
お医者様は、あの十一人は順調だと騎士たちに伝えていたらしい。
だから仕方がない……
これはカイテルさんも騎士たちも、特に悪いわけではないだろう。
「七人の体内には、コニファの毒がまだたくさん残っています。
今の体調はかなり深刻です。
麻薬依存症の治療は一旦やめて、
まず毒を体内から排出することに専念したほうがいいでしょう。
十分に水分を取らせれば回復できるはずです」
「分かった」
お父様は一瞬、言葉を迷ったように止めたが、すぐに付け加えた。
「リーマも気付いていると思うが、
あの十一人の様子にまったく気付かなかった医者と看護師は信用できない。
リーマは医療室で試験勉強をしているが、これからあの七人の看病はリーマにお願いしたい」
お父様がまっすぐ私を見て言った。
私は、ぎゅっと手を握りしめる。
お父様の頼みなら。
メイソン家の人たちの頼みなら。
拒む理由なんて、あるはずがない。
居候として、毎日メイソン家の人たちの優しさを受けている身として――誠心誠意、力を尽くすだけだ。
「わか――」
「お父様っ!あんな危険な仕事をリーマにさせないでください!リーマは一般市民ですよ!」
カイテルさんが、慌ててお父様に訴えた。
「リーマまで毒を盛られたらどうするんですかっ!
治癒騎士もいますし、私たち騎士がやります!
だから、リーマにあんな危険な役目を負わせないでください!」」
カイテルさんが慌ててお父様に訴えた。
「私たち騎士が、今まで以上に責任を持って、あの七人を見ます。
どうか、リーマを行かせないでください」
「かい、カイテルさん、大丈夫です。私にできることがあるなら、やります。
心配してくれて、ありがとうございます」
「これは、リーマがやる必要のないことだ。
騎士でも、医師でも、看護師でもないのに、無理をする理由はない」
カイテルさんは、必死な表情で続ける。
「あの人たちが狙われていると分かっているのに、どれだけ危険か分かるでしょう?……絶対に、だめだ」
「えーと、ほん、本当に大丈夫です。私が――」
「カイテル、落ち着け」
お父様がカイテルさんを制した。
「ならこうしよう。リーマの護衛におまえを付ける。
飼育場にいるホワイトウルフも連れて行っていい」
お父様はため息をつき、続けた。
「私もあまりリーマに行ってほしくない。でもリーマは薬も毒も詳しい。
看病も信頼できるから、リーマの力を借りたい」
そして、言葉を添える。
「リーマのことはもちろん大事だ。しかし、あの七人の命も大事だ。分かってくれ」
「で……でもお父様……」
「カイテルさん、本当に大丈夫です。
カイテルさんもリオも護衛についてくれれば安心です。
他の騎士もいますし、病院にいる間、ずっとカイテルさんと一緒なら安全です」
私はカイテルさんをそっと宥める。
「……お父様、リーマはいつまでやるんですか?
毒から回復するまでですか?それとも麻薬依存症が治るまでですか?」
「麻薬依存症の治療が終わるまでだ」
「依存症の治療は、だいたい三ヶ月もかかるんじゃないですか?
リーマには勉強もあるし、試験もありますよ」
「だ、大丈夫です。病院でも勉強できます。
ロラン小父様からいただいた問題集で試験の方向と範囲は把握済みです。あとは復習するだけです」
「………………はぁ……わかった……」
カイテルさんは諦めたようにため息をついた。
「俺はリーマを守るから、俺から離れないでね」
「ありがとうございます。カイテルさんが一緒なら心強いです」
カイテルさんは難しい顔で私の頭を撫でた。
とりあえず納得してもらえた。
それより――
「あの人たちは、コニファという花の葉っぱにある毒を盛られたんです。
コニファは一般的な花でどこでも咲いています。
屋敷の庭にも多く咲いていますし、見た目が可愛いので飾り花としてもよく使われます。
そんな可愛らしい花の花茎や葉っぱに毒があるとは普通思わない。
裏のボスは植物の知識が豊富で、応用力も高い人だと思います……」
はぁ……普段なら、仲良くなって植物のことを朝まで語り合って、
いろいろ教えてもらいたい相手です……非常に残念です……
ボスが誰なのかわかったら教えてほしいですね。
ぜひ仲良くなりたいです。
いろいろ教えてもらいたいです、
と私は心の中で懇願した。
私には植物のことを朝まで語り合えるのはおじいちゃんしかいない。
王都にも、もう一人の植物仲間がいたら嬉しいなと思ったり……
「……」
(あれ?皆さん、どうしたのですか、急に黙ったりして?)
(コニファの話には興味がないのでしょうか?)
私はきょろきょろお三方を見回す。
お父様とウィリアムズさんは顔を引き攣らせ、私をじろり見る。
頭を撫でているカイテルさんの手も、急に止まった。
……ふむ?
あっ、もしかして、さっき私、心の呟きを口に出しちゃったとか?
(あちゃ~)
お父様が何とも言えぬ顔で、私とカイテルさんを下がらせた。
カイテルさんはそのまま私を屋敷まで送り、自分は王城の騎士団本部に戻る。
四人が亡くなり、犯人がすぐに行動を示さないだろうとお父様が判断し、
私の病院での任務は翌日に延期された。
不謹慎かもしれないが、病院で働けるのは何だかドキドキして、少しワクワクする。
メイソン家の人たちはいつも優しくしてくれる。恩返しのつもりで、
あの七人が無事に治るまで全力を尽くそう。




