リーマ争奪戦、未遂
――カイテルとリーマが帰った後。
「バーバラ、急にリーマと仲良くなったな。どうしたんだ?」
使用人のいない居間で、マーティスがバーバラに問いかけた。
「リーマはいい子ですよ。いい子と仲良くなるのがダメなのですか?」
「いや……カイテルは?」
「カイテル様とリーマは美男美女で、とてもお似合いだと思いますよ。ただ……」
「ただ?」
「ふふふっ。リーマは少々鈍感ですから、カイテル様はこれから大変でしょうね。
まあ、それくらい大変になってくれれば、清々しいですが」
「……カイテルのことは、もういいのか?」
「どうせ叶わないのですから、もういいです。
私は社交界の人気ご令嬢です。
カイテル様がいなくても、何も困りません。でも――」
バーバラは一瞬だけ間を置き、にこりと微笑んだ。
「カイテル様が振られたら、私は嬉しいですけど」
そう言ってから、何かを思いついたようにポンと手を打つ。
「あっ!そうだ!いい方法を思いつきました!」
バーバラは満面の笑みでマーティスを見る。
「カイテル様が振られたら、お兄様がリーマと結婚したらどうですか?
そうすれば、私とリーマは姉妹になります。そうよね、ナディア?」
「……あ?」
マーティスは間の抜けた声を上げた。
「確かに!そうですね!」
ナディアが目を輝かせる。
「リーマお姉様と本当の姉妹になれたら嬉しいです。
お兄様、リーマお姉様をカイテル様から奪ってみたらどうですか?」
「奪うって……」
「今のリーマお姉様、カイテル様のことを全然意識していないみたいですから、
今はチャンスですよ!今からリーマお姉様にアプローチしてください!」
「「「……」」」
バロウズ、マーガレット、マーティスは顔を見合わせた。
(あっ……なるほど。分かったぞ)
マーティスは、ふと気づく。
(リーマのやつ、動物だけじゃなくて、人間にも好かれる性質か……)
「カイテルがまったく意識されていないのか……なんだか可哀想だな……」
バロウズがぽつりと呟いた。
「可哀想というなら、私のほうが可哀想じゃないですか?」
バーバラは肩をすくめる。
「お父様がアーロン小父様に圧力でもかけてみたらどうですか?
そうすれば、リーマが私たちの家族になりますよ。
お兄様も、リーマが魅力的だと思っているでしょう?」
「確かに魅力的なんだが……親友の想い人を奪うのはな……」
――その前に、俺はカイテルに殺される気がするが?
それでいいのか?
「これはリーマが決めることです。
リーマがお兄様に気があれば、カイテル様がどう思おうと関係ありませんよ」
「そうですよ!」
ナディアが勢いよく頷く。
「お兄様、リーマお姉様との結婚を考えてみてください!
とても魅力的ですし、頭もいいし、植物も動物も詳しいです。
すごく有能じゃないですか!」
「そうね。他にこれといった魅力のない令嬢より、リーマのほうがずっといいわ」
バーバラは、にやりと笑う。
「あんなにきれいな子を抱きしめたり、口づけしたり、したくないですか?
さっき腕を組んだとき、リーマの体はとても柔らかくて、甘い香りがしましたよ」
「バーバラ、そんな言い方はやめろ……」
「ねぇ~」
ナディアまで乗っかる。
「リーマお姉様の唇も柔らかそうですよ~。
まさかお兄様、何とも思わないんですか?
嘘ですよね?
カイテル様がいなかったら、リーマお姉様と結婚したいって思うでしょう?」
「……な、ナディア、やめろ……!」
「お兄様とリーマお姉様の子ども、絶対に美しいでしょうね~」
「平民という点は気になるけれど、とてもきれいな子だし、特別な力も持っている」
マーガレットが静かに言う。
「マーティス、あなたが本気でリーマと結婚したいなら、私は許してもいいわよ?」
「そうだな」
バロウズも腕を組む。
「どうだ?いっそメイソン家に話をつけて、リーマをこの屋敷に――」
「みんな、もうやめてください!」
マーティスは思わず声を荒げた。
「そんなことをしたら、俺はカイテルに殺されます!
親友の恋を奪うなんてダメでしょう!?
そんな、いやらしいことを俺に吹き込まないでください!」
そう言いながらも、マーティスは一瞬だけ――
リーマを抱きしめ、口づける自分の姿を想像してしまい、内心で激しく反省した。
(くそっ……!)
(リーマのやつ……動物だけじゃなく、人間までこんな簡単に手懐けるなんて……!)




