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問いかけて、笑い合って

レンブラント家の夕食は美味しい。さすが侯爵家の夕食だ。


私がバーバラさんにじっと見られること以外、普通に夕食を楽しめた。


私は本当にバーバラさんに、何をしてしまったのだろう。


まったく心当たりがない。



「リーマ嬢は、どうやってルークとレオを手懐けたのですか?」


バーバラさんに話しかけられ、私はついビクッとした。


自分のことを嫌っているであろう人に話しかけられると、どうしても警戒してしまう。



(リーマ、落ち着いて)


(本当に嫌われてるかわからないよ)


(あんたの被害妄想かもしれないからね)



「……私はもともと動物たちと仲がいいので、

どうやってと言われると、よくわからないんです……」



「羨ましいです。私も動物が好きですが、猫や犬ぐらいしか懐いてくれません」


バーバラさんは口を尖らせた。


「レオとも、あまり仲良くなれないんです。

私が拾ってきたのに……まったく懐いてくれなくて……」


そして、じっと私を見る。



「何かアドバイスはありますか?」



……アドバイス。


……何か、アドバイス、思いついて!



「……うーん。動物は敏感ですから、優しくして、話を聞いてあげて……」


私はフォークとナイフを置き、必死にアドバイスを考える。


「えーと……あとは、褒めてあげるとかです」


「話を聞いてあげる、ですか?

私は動物の言葉を知りませんよ」



「えーと……言葉だけじゃなくて、顔色とか、様子を見ていれば、わかるかもしれません……」


「顔色……?さっきのレオの顔色は、何と言っていましたか?」


「レオちゃんは、外に出たいとか……

人を襲ったことを反省しているとか……

もう人を襲わない、とか言っていました」



バーバラさんは首を傾げる。


「……お兄様、わかっていましたか?」


「もちろん、まったくわからないよ」


マーティスさんは肩をすくめた。


「そんなことができるのは、リーマだけだと思う」


「まさか、ルークが片思いで寝込んでいるとはな」


バロウズ小父様がニヤニヤした。


「そんな病、どこかで聞いたことがあるぞ」


そう言って、カイテルさんに視線を向ける。


「なぁ、カイテル。どう思う?」


「ふふふ……」


マーガレット小母様が、品よく小さく笑った。


「まさか、そんなことが、あの人のドラゴンではなく、うちのドラゴンに起きるなんてね」


マーガレット小母様も、カイテルさんに目を向ける。


「ねぇ、カイテル。あなたはどう思う?」


カイテルさんは、品よく微笑んだまま、首を横に振った。



ノーコメントみたい。



さっきマーティスさんも、そんな話をしていた。


誰なんだろう。ちょっと興味ある。



涙作戦で強請ったら、教えてくれるかしら。



私はカイテルさんに視線を向ける。


カイテルさんはそれに気づいて、優しく微笑み、蒸し卵を取ってくれた。


……私、料理を強請ってないけど。



「そんな能力、聞いたこともありませんから、羨ましいです」


バーバラさんは、一拍置いて言い加える。


「もっとリーマ嬢と話したいです。


食事の後、庭で一緒に散歩しませんか?」




この誘い、ジョアンナお姉様の時にも経験した。



でも今回は、私のことを嫌っているであろう人からの誘いだ。


……私が何をしてしまったのか、確かめるには、ちょうどいい機会かもしれない。



「は……」


「ダメだ!行くなら俺も行く」


カイテルさんが、バーバラさんを睨み、私の言葉を遮った。


「女性同士の話ですよ、カイテル様?」


「それでもダメだ!」


こんなカイテルさん、珍しい……どうしたんだろう。



……も、もしかして。


私がバーバラさんによく思われていないことに、気づいている?


それとも……一緒に行きたいだけ?


「じゃあ、私も一緒に行きます」


ナディアさんが、可愛らしい笑みを浮かべた。


「一緒に行きたいです。カイテル様、ご安心ください」


……も、もしかして、ナディアさんも気づいている?



はぁぁぁ……完全に被害妄想だわ。



バーバラさんとナディアさんとのガールズトーク、


楽しもうじゃないの!


「カイテルさん、大丈夫ですよ。


私も、バーバラさんとナディアさんと話したいです」


私は、カイテルさんに微笑んだ。


「……わかった」


カイテルさんが、しぶしぶそう言った。




夕食が終わると、バーバラさん、ナディアさんと私は庭で散歩する。


ここはメイソン家の庭と同じくらい、広くてきれいな庭だった。


レオちゃんは私が庭にいることに気付き、裏庭のほうから走ってきて、私たちと一緒に庭の散歩をする。


「リーマ嬢はカイテル様のことをどう思いますか?」


ナディアさんが私の腕を組んで話しかける。


「カイテルさんは、いつも田舎者の私に気にかけてくれて、いつも優しくしてくれる人です」


「それで?」



―――それで?は何?



私は首を傾げて、ナディアさんを見る。


「カイテル様のことが好きですか?」


あぁ、もちろん!



「はい、好きです。カイテルさんは大事なお兄さんです」



「……お兄さん、ですか?」


バーバラさんは一瞬、ぴたりと動きを止めた。


「はい。マーティスさんも大事なお兄さんですよ」


マーティスさんも大事だと、

マーティスさんの妹さんたちにちゃんと言っておかないと、悪く思われるかもしれないからね。



「……そ、うなんですか?」


バーバラさんは、どこか引きつったような苦笑いを浮かべた。


ナディアさんも、なぜか笑いを堪えるように口元を押さえている。


どうしたのだろうか。


「バーバラさんに聞きたいことがありますが、いいですか?」



「はい、何でしょうか?」


「バーバラさんは、あまり私のことをよく思っていないようですが、どうしてですか?」


私は微笑んで、バーバラさんに質問をぶつけた。


内心はかなり不安。


「……えっ?」


バーバラさんは、完全に固まった。


「私が何か失礼なことをしてしまったら、ごめんなさい」


俯きながら、バーバラさんに伝える。


「田舎者ですから、貴族のマナーとか言葉遣いとか、よくわからないんです……」


「……あっ、いえ……その……」


バーバラさんは焦ったように視線を彷徨わせ、言葉を探している。


「ほ、本当ですか!?ただの私の被害妄想ですか!?

よかった〜。

は本当に貴族のマナーとかよくわかりませんから、

気付かないうちにバーバラさんを不快にさせてしまったんじゃないかと、不安でした」



「……いいえ。リーマ嬢は、何も悪いことをしていませんので、安心してください」


「はい、安心しました!

バーバラさんもナディアさんも、

マーティスさんの大事な家族ですから、仲良くなれたら嬉しいです!」


私は両手を組み、二人に安心したように微笑んだ。


今度は、心からの微笑みだ。



(やっぱり被害妄想だったんだ!)



「……えぇ、私もです」


バーバラさんは一瞬固まり、それから、ふっと力の抜けたように微笑んだ。



そして、私の頭をそっと撫で、両手で私の頬に触れる。


お姉ちゃんができた気分だ。


それから私たちは芝生の上に腰を下ろし、レオちゃんが私の太ももに頭を乗せる。


今までレオちゃんは、

バーバラさんとナディアさんには襲わなかったけど、

体を触らせてくれなかったと、バーバラさんが話していた。



だから私は、この二人と一匹を仲良くさせようと思った。


「バーバラさん、ナディアさん、手をください。レオちゃん、手を出して」


私は三人分の手を、そっと包む。


「わぁ、初めてレオに触りましたっ!思ったよりふわふわですね〜」


ナディアさんは、目を輝かせて笑った。


「もう……こんなに大人しいレオは初めてです。可愛い……」


バーバラさんの頬も、自然と緩んでいた。


「レオちゃん、これからいい子にしてね。人を襲わないでね」


(ワカッタ)


と唸り、首を縦に振る。


「あっ、でも悪い人には死なない程度に襲ってもいいかも……


でも、この屋敷の人を守ってね」


そう言うと、レオちゃんは嬉しそうに何度も頷き、尻尾で『パン!』と地面を叩いた。



……襲ってもいいと言われたからか。



……ライオンちゃんだからなのか、誰かを襲いたがっているのね。



――まったく、正直者め。


バーバラさんとナディアさんは、

レオちゃんと遊びながら、

私の村暮らしのことや動物のことをいろいろ聞いてきた。



ついでに、森でマーティスさんに首根っこを掴まれた事件を話すと、二人はぶるぶると肩を震わせた。



大貴族のお嬢様だから、爆笑はできないのね……。



私も、バーバラさんとナディアさんのことをいろいろ聞いた。


バーバラさんは十九歳、ナディアさんは十六歳。


バーバラさんは学園を卒業して、

今はマーガレット小母様と一緒に屋敷の管理の仕事をしているらしい。


でも、バロウズ小父様のように王城で働きたいそうで、

現在は産業省の採用試験に向けて猛勉強中とのことだった。



ナディアさんは今年学園を卒業したばかりで、まだ進路は決めていないそうだ。


私も、今は保健省の採用試験の勉強をしていると話すと、

「うーん、じゃあ、私も採用試験の勉強をしてみようかな」


と、ナディアさんはとても軽い調子で言った。



……その余裕ぶりを見ると、



やっぱり大貴族のお嬢様ってすごいな、と思ってしまう。





「……今日は、楽しかったわ」


バーバラさんが、ぽつりと言った。


その声は優しく、耳に心地よく残る。


バーバラさんは、はにかんだように微笑んで、


「また来てくれるかしら?」と誘ってくれた。


「はい!またバーバラさんとナディアさんに会いたいです!」


「ふふっ。じゃあ、いつでも来てちょうだい」


「そうですね!今度はお茶会でもしましょう!」


ナディアさんは、明るく微笑んだ。


「もうけっこうここにいたし、戻りましょう?

お父様たち、きっと待っているわ」


バーバラさんは立ち上がり、私の手を引いてくれる。


そのまま、バーバラさんとナディアさんは、私の腕を組み、


三人で一緒に屋敷へ向かった。



(……お姉ちゃんと、妹ができたみたい)



私はこっそり、心の中で微笑んだ。


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