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田舎娘、王城デビューしました。

そして、カイテルさんが私を王城に連れていってくれる日がついにやってきた。



その前日に、

「リーマ、遅くなってごめんね。明日俺が休みだから、王城に連れていこうと思うけど、大丈夫?」


「はい。私はいつでも暇ですから、全然大丈夫ですよ」


「よかった。ずっと図書室に引きこもると体に悪いからね。飼育場に連れていくよ」


「……飼育場だけですか?騎士団にはいけないんですか……?」



しょんぼり……



「勝手に騎士団にも行くと思って……行きたかったです……残念……」


「……騎、、騎士団に行きたいのか?」


「はい、カイテルさんの職場を見てみたいです。やはり部外者は騎士団に行けないんですか?」


「そう、そうなのか?でも……特に何もないよ」


カイテルさんが目を泳がせている。



「騎士は訓練ばかりして、汗臭いし、特に見る物がないよ。行かないほうが……」



「そう、なんですか……普段カイテルさんがどんな場所で働いているのか知りたくて……」



私は思わず肩を落とした。



「ずっと想像しかできませんから、実際に見てみたかったです……行ってみたかったです……」


飼育場に行けるなら、騎士団にも行けると勝手に思い込んでいた。


楽しみにもしていた。


まあ……保健省の採用試験に合格できたら――その時見にいけるかも。


もうちょっと我慢しよう。



「……うぅぅぅぅ……わざとかな……かわいすぎ……反則だろ……」



カイテルさんが顔を赤らめ、口に手を当て、何かを呟いた。


「??どうしましたか?」


「い、いや……わ、わかった……騎士団にも連れて行くよ……」


「……えっ?いいですか?大丈夫ですか?」


「う、うん……だ、大丈夫だ。リーマが騎士団に行きたいなら、騎士団も連れて行くよ……」


「ありがとうございます!」



(さすがカイテルさんだ〜~~やっさしいぃ~~〜っ!)




翌朝。


朝ご飯が終わった後、王城に向かうことになった。


昨日まではあまり気にしていなかったけれど、いざとなると、心臓がちょっと速くなる。


ゆらゆら揺れる馬車の中で、私はおずおずとカイテルさんに聞いてみた。


「カイテルさん、あのう……王城って、平民が気分転換で行けるような場所なんですか?」


「普段は入れないけど、許可をもらっているから大丈夫だよ」


カイテルさんはちょっと笑った。


「じゃあ……野良ホワイトウルフのリオとリアも、一緒に入れるんですか?」


「もちろん、ちゃんと許可をもらっているよ」


「ほ、本当にほーーっんとうに、平民と野良ホワイトウルフが入れるんですか?」


手を握りしめて、不安とワクワクを押さえる。


「も、もし王城で追い出されたら……」


「ははは、安心して。ほら、これが許可証だよ」


カイテルさんが差し出したのは、本物の王城立入許可証。


思わず目を見開く。王城なのに、こんなに簡単に入れるんだ……!?


王城に到着すると、田舎娘と野良ホワイトウルフの私たちは、衛兵に止められることもなくスッと中へ入れた。


王城なのに、警備は意外と甘いのかも。


ふぅ、と一呼吸。ようやく少し安心できた。


これから、カイテルさんの働く場所を、実際に見るんだ――。


まずは、動物の飼育場の見学から。




リオとリアが飼育場に入るや否や、飼育員たちは思わず後ずさった。


「き、きゃあ!ホワイトウルフ……!?」


二匹の白銀の毛並みに、思わず声をあげる。


「大丈夫です!リオとリアです!」


私は慌てて説明し、全力で二匹の魅力をアピールする。


「とてもいい子ですよ!どうぞ触ってみてください。毛並みは本当に柔らかいんです!」


しかしリオとリアは、まるで飼育場が自分たちの庭であるかのように、優雅に歩き回る。



チラリと飼育員を見て、(ウザイ)と唸り、そっぽを向く。



この子たちめ……!



それでも私の必死の努力のおかげか、飼育員たちはおそるおそる手を伸ばし、初めてホワイトウルフに触れる喜びに歓声を上げた。


「は、初めてだ……触れるなんて!」


リオとリアは相変わらず地面に座り、頬杖をついて不満そうに唸る。


(ウザイッ!どっか行けッ!)


(サワるなッ!)


こんな誇り高いホワイトウルフたちだが、飼育場内ではすっかり人気者になっていた。


もし彼らの心の声が飼育員たちに知られたら……幻滅されるかもしれない。


だから、黙っておくことにした。




次にカイテルさんが、動物たちの小屋へ案内してくれる。


「小屋」といっても、長屋のように奥一面に並んでおり、各小屋はつながって扉がある。


中を覗くと、馬や鳥、虎、ライオン、牛など、多種多様な動物がいる。


みんな、餌を食べたり戯れたり、のんびりと寝そべったりしている。


可愛い……。


さらに奥には、長屋よりも圧倒的に大きく、高い小屋がぽつんと立っていた。


「カイテルさん、あの建物は……小屋ですか?倉庫?」


「あれはドラゴンの小屋だ」


なるほど、ドラゴンちゃんは確かに大きいもんね。



カイテルさんが先に鳥たちの檻へ案内すると、鳥たちは『チュッチュッ!』と声を上げ、歓迎してくれた。


「みんな、お利口さんだね!」


カイテルさんに目を向ける。


「この子たちは、何に使うんですか?」


ドラゴンや馬はわかるけど、鳥や牛、虎はどう使うのか想像できない。


「鳥は通信用だ。遠方任務中に騎士団本部に連絡を送りたい時は、鳥を使って書状を届けさせるんだ」


「へぇ〜、そんなことに使うんですね。面白い〜。鳥ちゃん、すごいね!」


鳥たちは小さく羽を震わせ、チュッチュッと鳴いて喜んでいる。


「もしかして……喜んでるの?」


カイテルさんは微笑む。


「さすがリーマだね」


「ふふふっ、鳥ちゃん可愛いです!」



私は鳥たちの頭を撫でつつ、次の檻へ視線を向ける。


「その虎ちゃんたちは、どんな任務をするんですか?」


カイテルさんが虎の檻まで案内してくれる。


私は一匹一匹の頭を撫でながら、しばらくじゃれ合った。


「虎は戦闘用だ。危険な任務では、騎士だけでは危ない場合、虎も随行する。

森の任務なら、虎がいるとかなり順調に進む」


さらに奥の檻を指さす。


「そっちのライオンも同じだ」



「へぇ〜、虎ちゃんも、ライオンちゃんも、頼もしいね!」



虎ちゃんとライオンちゃんは長い尻尾を振って、地面に『パン!』と音を響かせる。


ああ、この子たち、ちょっと照れてるのかな。




牛の檻に目を移す。


「牛ちゃんの任務は?」


「牛は王族や来賓の食料、栽培所の力仕事に使うんだ。王城の裏に王族専用の栽培所があるからね」


食料か……ちょっと私には面白くないな。


悲しみを抑えつつ、牛ちゃんの頭を撫でる。


すると牛ちゃんは『モア~~』と喜んで鳴いた。



「王城にも栽培所があるんですか?」


私は首を傾げた。


「さすが王城ですね。劇場があると聞いても、もう驚きませんよ」


「王族専用の劇場なら、飼育場の反対側にあるよ」


カイテルさんが遠くを指さす。


「……マジか……」


飼育場の動物たちを見回すと、案の定、みんな私に懐いてくれた。


飼育員たちは驚きながらも、「ここで働かない?」と誘ってくれた。


確かに動物たちは可愛い。


ファビアンさんの言う通り、ここは素敵な職場かもしれない。


保健省の試験に落ちたら、ここで働くのもいいなぁ、と私は思った。





飼育場の見学を終え、そろそろ騎士団本部へ向かおうとしたとき、ファビアンさんに呼ばれた。


「リーマ、ちょっといいか?」


「はい、どうしました?」


「もし、リーマとリオとリアがよければなんだが、この動物の訓練場でリオとリアを預かってもいいか?」


ファビアンさんは私とリオ、リアを順に見回しながら話す。


「この訓練場では、今までホワイトウルフを預かったことがない。

どんなふうに訓練できるか、ほかの動物のように活用できるかも知っておきたい」


話を一旦止めて、ゆっくり続ける。


「もちろん、リオとリアに悪いことは絶対にしない。

リーマも、リオも、リアも嫌なら断ってくれていい。強要はしない。少し考えてくれないか?」


私はリオとリアに目を向けた。


「リオ、リア、どうする?私は二人次第だけど……でも、リアはやめたほうがいいかな」


「カイテルから聞いたよ。赤ちゃんができたんだって?いいことだな。

ホワイトウルフの赤ちゃんなんて、そう簡単に見られるものじゃないからな。

楽しみだ」


ファビアンさんはリオに視線を向ける。


「じゃあ、リオだけでもいいんだが」


「リオ、どうする?」


私はリオに問いかける。働くのはリオだから、私が口出しすることはできない。



リオは、頷いた……ように見える。


「うん?本当にいいの?」もう一度頷く。


意外だ。てっきり、


(ニンゲンどもと、ハタラくもんか!)とか


(ホワイトウルフにシゴトなんていらん!)とか、



そんなふうに偉そうに唸ると思ったのに……。



「リオは問題なさそうですね。いつからですか?」


「明日からでもいいか?」


ファビアンさんは少し考えてから続ける。


「毎日カイテルの屋敷から通ってもらってもいいし、ここに動物の小屋があるから、そこに泊まっても構わない」


さらに加えて言った。


「でもリオはリーマとリアから離れたくないだろう。毎日通ってもらうのがいいかもな」


確かに。


私もリアも、毎日リオに会いたい。飼育場の小屋に置いておくのは、ちょっと嫌だ。


でも問題は……


「屋敷から通うほうがいいと思います。でも、毎日リオを連れて来るのは……私には難しいです」


「それなら大丈夫だ」


カイテルさんが話に割って入る。


「俺と一緒に城に来ればいい。俺が休む日は、屋敷の人に送ってもらえばいいよ」


「えっ……?カイテルさんが休みなのに、わざわざ屋敷の人にリオを……」


「全然大丈夫だ。リーマは毎日リオと一緒にいたいだろ?心配いらない」


カイテルさんは優しい笑みを浮かべ、私の頭を撫でた。


「ありがとうございます……」


「最近の大事件で大活躍してるんだろ?期待してるぞ、リオ」


ファビアンさんがリオに話しかけると、リオは相変わらず偉そうに唸った。



(オレはやりたいようにやる。ボンボンがダマれ)



「ふっ」


その一唸りで、私はつい笑い出してしまう。確かにファビアンさんはボンボンだ。



「……今、俺、ホワイトウルフに悪口言われたよな?」


「……えっ!?ま、まさか、ファビアンさん、ホワイトウルフ語が理解でき――っ!?」


バレた!?まさかリオが死刑に……!?ホワイトウルフでも死刑!?


「……るわけねぇだろ!本当に悪口言われたのか?」


ああ、もう……焦っちゃったよ。びっくりしたじゃないか。


第二王子のファビアンさんはぷんぷん怒っている。


一方、カイテルさんは腹を抱えて笑い転げていた。



(ボンボンめ、ウザい)とリオがまた唸る。


もうやめて、笑っちゃうよ……。


リアは近くに座り、前足でファビアンさんを指さして笑っている。


王族をバカにしたら死刑だよ……。


「……お風呂に入れてやる」


ファビアンさんは歯を噛みしめ、悔しそうに言った。


「おっ!いいですね!毎日でもいいですよ!というか毎日洗ってあげてください!」



(ボンボンめッ!オレはホワイトウルフだぞ!)とリオは反射的に唸った。



これは、因果応報というものか。


それとも、自業自得というのか。


「リオはホワイトウルフだから、お風呂くらいで逃げないでしょ。怖くないもんね、だってホワイトウルフだもんね〜」


私がそう言うと、強き誇り高きリオはすぐに黙った。


「リア、リオを笑わないであげて。夫婦なんだから」


リアは、自分は関係ないと思っているのか、楽しそうにリオを爆笑している。



――全く、この夫婦は。

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