覚悟の夜、激マズ薬
夜。
またお父様に呼ばれた。
王様がディル薬の使用を許可した――そう聞かされた。
「王様は、この薬にかなり期待しておられるんだよ」
お父様がそう前置きして、続ける。
「もし、その十一人を麻薬から解放できれば、本格的な麻薬依存症の治療施設を作り、同じように苦しんでいる国民を救えるかもしれない、とね」
……責任重大だ。
もし……もし、その十一人が、ルネおばちゃんみたいに治らなかったら――私は、どうなるのだろう。
王様も、もうこの話を知っている。
失敗したら……死刑、なんてことも、あり得るのかもしれない。
不安は、もちろんある。
それでも、これは私が言い出したことだ。絶対に成功させたいわ。
いつも優しくしてくれるお父様のためにも、カイテルさんのためにも。
「はい。王様にも、お父様にも、その期待に応えられるよう、全力を尽くします」
「よろしい。早速、明日だ。あの十一人が入院している病院で、ディル薬を作ってもらいたい」
お父様は淡々と言う。
「カイテルも同行する。他にも数名の騎士、それから保健省の者も立ち会う予定だ。
薬の作り方や、治療中に起きる症状を確認したいそうだ」
「わかりました」
少し間を置いて、お父様が私を見る。
「この治療に必要なものを、改めて教えてほしい」
「必要なものは――大量のディルの葉っぱ、です」
「それだけか?」
お父様は鋭いまなざしで私を見据える。
はい、本当に、それだけです、お父様……。
「えーと、後は……必ずとまではいきませんが、ディル薬を飲むと吐いてしまうことが多いです。
だから、他の患者さんに迷惑がかからないよう、病室ではない方がいいと思います」
「確かにな」
「病院の小屋とか、別の建物がいいです。
それから、調理場の近くの方が助かります。たくさんの薬を運ぶのが大変でしょうから……」
「うむ」
お父様は相槌を打ちながら、静かに聞いてくれた。
「わかった。細かいところまで含めて、明日までに準備しておこう」
そう言って、お父様は頷く。
「治療期間中に不足していることがあったら、それも含めて対応しよう。
もし将来、治療施設を建てることになったら、あの十一人の治療は大いに参考になるはずだ」
お父様は少し考え込み、そして私に微笑んだ。
「明日、朝早くから病院に行くから、今日はしっかり休みなさい。もう下がっていいよ」
「はい。では、失礼します」
翌日。
私はカイテルさんと一緒に、十一人の麻薬団員が入院している病院へ向かった。
激マズ薬の調薬と、その調薬方法を、保健省の職員と騎士たちに教えなければならないのだ。
病院に着くと、病院の職員が、十一人の麻薬団員がいる小屋へと案内してくれた。
小屋の中には、すでに騎士が五名、保健省の職員が三名いた。
その人たちは、私を見ると、なぜか一斉に黙り込んだ。
そして、そわそわと落ち着かない様子になり、顔を染めながら挨拶をして、それぞれ名前を名乗ってくれる。
……どうしたのだろうか。
「皆さん、おはようございます。リーマです。今日、よろしくお願いしますね」
私は、ニッコリと、いつものありきたりな挨拶を返した。
村の外の文化に、こうして自然に溶け込んでいく自分を見ると、我ながら大人になったなあと、少し感動してしまう。
おじいちゃん!私、大人になったよ!
こんな立派な私を、おじいちゃんに見せたいよ!
「リーマちゃんだね〜。可愛い〜。今日、一緒に頑張ろうね〜」
騎士たちと保健省の職員は、相変わらず頬を染めている。
「おまえら、さっさと準備しろ。リーマを待たせるつもりか」
カイテルさんが、騎士たちと保健省職員をギョッと睨みつけながら、低い声で言った。
「なんだよ……カイテルのヤロウ……」
騎士の一人が、小さく呟く。
この騎士団って、仲がいいのか悪いのか、相変わらず判断がつかない。
十一人の麻薬団員は、薬を飲むと暴れたり、吐いたりする。
そのため、騎士たちは、おそらく麻薬団員たちを管理する目的で配置されているのだろう。
これから麻薬団員たちも大変だけれど、騎士さんたちも、かなり大変そうだ。
皆さん、頑張ってくださいね。
病院の離れの近くで、ディル薬を作ることになった。
調理場には、一袋分の葉っぱが準備されている。
私はその葉っぱを手に取り、確認する。
ふむふむ、確かにディルの葉っぱだ。間違いない。
ディルは珍しい植物じゃなくて、本当によかった。どこにでも植えられるし、繁殖も簡単。環境にもよくて、しかも役に立つ。
超便利植物と言っても、過言ではないと思う。
その十一人の麻薬団員も、すでに病院の離れへと移動させられていた。
薬を飲むと、暴れたり、吐いたり、叫んだりするから、他の患者さんに迷惑をかけてしまう。
さすがに、この治療は病室の中ではできないよね。
これからの治療は、この十一人にとって、きっとプチ地獄になるのだろうな……。
「あのう、水を、たくさん持ってきてくれますか?」
「は、はいっ!何なりと!」
再び五人の騎士が口をそろえ、さっさと準備に向かう。
真面目だねぇ。
「あと、大きな鍋も……」
「はい!ただいま!」
五人の騎士が、再び口をそろえ、さっさと準備しにいく。
本当に真面目だなぁ。
水を待っている間、私はディルの葉っぱを、できるだけたくさん潰しておく。
「て、て、手伝いますよ。リーマちゃん」
三人の保健省職員が、また頬を染める。
優しい人たちだねぇ。
「ありがとうございます。朝の分だけ、ディルの葉っぱを潰しますから、あとはこれだけです。お願いします」
私は、そう言ってニッコリと笑いかけた。
すると、「うぅぅっ……かわ……」
保健省職員が唸る。
……どうしたのだろうか?
保健省職員がディルの葉っぱを潰している間に、私は火を熾そうとした。
すると、保健省職員の一人に止められる。
「リーマちゃん、火を熾すの?じゃあ、私がやるよ。見て。私、火の魔法を持っているから」
ここにも、魔法が出てくる。
いいなぁ……
「すごいですね~。じゃあ、お願いします」
「リーマちゃんの頼みなら、何でもするよ。何でも言っていいからね」
「黙れ!さっさとしろ!」
カイテルさんが、不満を隠そうともせず、保健省職員に荒げた口調で命じた。
こわっ!
い、いきなりどうしたの、カイテルさん!?
今朝、機嫌がまだよかったのに……。
保健省職員は、カイテルさんにビクビクしながらも、火を熾してくれた。
ディルの葉っぱの準備が、そろそろ終わる頃。
ちょうどいいタイミングで、騎士たちが声をかけてくる。
「リーマちゃ〜〜ん、水きたよ〜」
大きな十個の鍋に、水がたっぷり入っていた。
ふむふむ。これぐらいの水なら、今日の分として、あの十一人には十分足りると思う。
私は、まず一食分のディル薬を作ることにした。
水が沸騰したら、ディルの葉っぱをお湯に入れて、さっと茹でる。それで完成だ。
……超簡単でしょう?
「うぅぅぅぅ……これ、ヤバい……」
後ろにいた騎士たちと保健省職員が、そう呟いた。
私が振り向くと、みんな眉をひそめている。
「どうしたんですか?」
「リーマちゃん、この匂い、なかなかだね……」
「あぁ、心配しないでください。すぐ慣れますよ」
私はそう答えながら、出来上がったディル薬を、次々とバケツに移していく。
「これが……薬の匂い……」
誰かが、小さく呟いた。
その間に、隣にいたカイテルさんが無言で窓に近づき、すっと開ける。
新しい空気が入り込み、「ふぅぅぅ……」と、騎士たちと保健省職員が小さく息を吐いた。
少し、息がしやすくなったみたい。
「ありがとうございます」
カイテルさんは微笑んで、私が持っていた、薬の入ったバケツを持ち上げた。
「あ……カイテルさん、大丈夫ですよ」
「リーマは運ばなくていいよ」
即答だった。
「このための、こいつらだからね」
カイテルさんが、チラッと騎士たちと保健省職員を見る。
「おまえら、リーマに重いものを持たせる気か?さっさと運べ!」
周囲を見ると、みんなカイテルさんを睨みながら、ぶつぶつと何かを言っている。
それでも結局、言われた通りに、私が用意したディル薬のバケツを運んでくれた。
本当に、この人たちは仲がいいのか、悪いのか。
簡単には判断できないわね。




