第4話 スタートダッシュのきり方が分からない。
起きたら、そこは見知らぬ部屋の中だった。
それも、嫌に豪華な部屋だった。
はっきりしない意識の中、そういえば自分は王都に連れてこられたのだと気づく。
それとともに、謎の技で年下に見える女に負けてしまった、という事実も思い出し軽く悶絶する。
クソがぁぁ~・・・
ヤツのあの技は何だったのだろう。
人間が水を操っていた。
ふつう逆だ。
人は水に操られる。
シュミット家は農業をしているので、そのことが強く分かる。
とりあえず、こんな変なところに長居はしたくないと思い、変に大きいベッドから起き上がる。
そして変な部屋のドアまで歩いていき、変なドアノブに手をかける。
「自信を失った!帰る!」
と叫んでドアを開け・・・開け・・・開けよ!
・・・案の定ドアは閉まっており引っ張っただけでは開かなかった。
そしてガチャガチャ一人でやっていると誰かがいるのか外から声がした。
「おい、内側から音がするぞ。」
「嘘をつけ、中の奴は王女の魔法を昨日、正面から食らったんだぜ。ポンコツポンコツ言われながらも正面の威力だけはヤバいからな(笑)」
「そうだな(笑)」
どうやら男たちが話しているらしかった。
何を話しているのかは知ったことではない。
「おい、とっとと開けろや」
言いながら唐突にドアを蹴り破ってみた。
「ひ・・・ひぃいいいいい!」
「うわぁああああああああ!」
二人とも良いリアクションをしてくれた。
90点はやろう。
ただ、・・・騒ぎすぎるのは、良くない。
騎士団の男がやってきて怒られ、ちょっと悲しくなった。
別にいいじゃんか、これくらいは。
そして騒ぎと共に起きていたことがバレて、そのまま王の部屋まで連行された。
このまま王に会うのか俺!
絶対に失礼にあたるので、せめて正装にと、そこら辺の人から服を貸してもらった。
多分失礼だったと思う。
~王の部屋~
「お前が、シュミット家の長男、レックス・シュミットか。」
王は、頭頂部が怪しい感じの人だった。
「そうです。以後お見知りおきを。」
一応目上に礼儀をもって接することは大切だ。
そこに頭頂部は関係ない。
いや別にどこにも関係ないが。
「実はな・・・」
そこから王の話が始まった。
__________________________________
~次の日~
俺は自分に与えられた、王都の端の宿屋の一室で、昨日のことを考えていた。
王との会話は、実にあっさりしていた。
髪のように。
要件は、宮殿の執事見習いになってほしいとのことだった。
絶対俺への依頼じゃない。
俺は戦いには非凡な才能があると自負しつつも、執事などという職業に適正はない。
何か裏の目的があるのか、親が何かミスったか・・・。
後者の可能性が捨てきれないのが最大の問題点だ。
うちの両親ならやりかねない。
だがまあ、王都で仕事を手に入れたのだ。
しかも王宮での仕事だ。
とりあえずよしとしよう。
そして、親に報告の手紙を書いてやろう。
農村で息子のことを心配しているだろうから。
そこまで考えてやっと、重大なことを思い出した。
「今週エミーと会ってない!風呂にも入ってない!!」
ショックすぎて大声で叫んでしまった。
なぜこんな重大事項を今まで忘れていたのだろうか。
親などより今はエミーだ。
彼女は俺がいないとダメなタイプの子だった。
俺に依存していた。
きっと俺のことを心配して、今では夜も眠れなくなって、一人で悲しんでいるに・・
「あの女のことでしょう?それなら大丈夫ですよ。」
急に自分の世界に割り込まれた。
少しいらついて声のした方を見ると、宿屋の入り口にあの不愛想女がいた。
「あなたは気づいてないかもしれないけれど、さっきからずっと声にでてましたよ。」
薄く笑いながら彼女は言った。
「そうですか。で、王女様ともあろう方がこんなところになんのようで?(笑えてない笑顔)」
わざとちょっと嫌味っぽく返す。
そう、彼女は王女だった。
本人の隠すとか隠さないとかでなく、昨日王が紹介してきた。
流石に驚いたが、王の妻とそっくりだった。
「わざわざ敬語でなくて結構ですよ?前のように。(笑えてない笑顔返し)」
二人の間を、絶妙な空気が駆け抜けていった。
一日二話は大変。ヤバい。
ちょっと短いのは、察していただけると幸いなかんじ。