第15話 恋は盲目
仕事に行ったクレアが帰ってこないと王都が騒ぎだしたのは、クレアが王都を出発してから1日経った時だった。
そのとき、俺は自室でうたた寝をかましていた。
聞いた瞬間に跳ね起きて、クレアのことが心配で心配で大急ぎで軍主体の調査団に加わった。
やはり恋は盲目である。
調査団はラシードが指揮を取っていて、俺は副隊長に任命された。
今すぐに助けに行きたい気持ちが溢れ出ていたが、そもそも今どこにいるのかが分からず、もどかしく思っていたら、王にラシードと共に呼び出された。
王の部屋に行くと、極秘の内容らしく小さい声で喋られた。
加齢臭がすげぇから離れろ。
内容は、田舎の辺境の村が、資金援助を増やせと訴えるためにクレアを誘拐した、正直飲みたくない条件だから、軍で無理やり突破してしまおうという命令だった。
両者自己中という最悪のマッチアップだ。
終わっとる。
マジで一ミリも関わりたくない。
だがしかし、今回は好きな人が人質に取られているという条件付きだ。
まず俺は、少し嫌がるラシードを説得して、軍の出撃準備を整えさせた。
そして整い終わったことを確認すると、ラシードと共にその村に向かった。
王の計画を成功させるための前提として、最初に少人数でコッソリ行ってクレアを取り返す必要があったからだ。
ラシードはまあ、囮だ。
そして今、村の入り口についたという訳だ・・。
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「で、ココからどうするつもりだい、レックス?」
村の民家の屋根の上でコソコソしながらラシードがコソコソ話しかけてきた。
俺達はゴキブリか。
もう暗くなってきたとは言っても、さすがに堂々と村の中を歩くことは危険だった。
「まあ、別れて屋根の上を走り回って調査するのが妥当だろうな。」
いつもより冷静な口調で語る。
やっぱり頭の冴え方が違う。
「了解さ!」
そう言ってとっととラシードは駆け出していった。
アイツ簡単に人のこと信じすぎでは・・・
「まあ、俺も調査するか。」
呟いて動こうとしたとき、頭に直接声を感じた。
(助けて・・!)
この声は・・クレア!!?
感づいて全方位を見渡す。
・・こんなこと言うのは少し気が引けるが、アッチからクレアの匂いがするんじゃボケェ!!
と、キモい捜索方法でおおよその位置を特定し、そちらへ急行する。
(いや!・・いやぁ!)
クレアの悲鳴が頭に響くたび、どんどん感情の力が溢れ出してくる。
どこの誰じゃ、俺の女に手をだしたのは!! (別に俺のではない)
走って行くと前方に倉庫がある。
ここだろゴラァ!!!、と屋根に踵落としをくらわせて、上から登場する。
「王女様、間に合いましたでしょうか。」
クレアを落ち着かせるために、声をかける。
「・・!!」
恐怖で喋れないらしく、俺を見てただ涙をこぼした。
本当に女の涙はずるい。
「もう大丈夫ですよ。」
言って前を見る。
クレアの上に覆い被さっていた男はドアの前まで後退していた。
このまま逃げるつもりだろう。
「逃がすか死んでけ!!!」
「ま・・まて‼」
「またんわ‼」
ザンッ
と、怒りをのせた一刀のもとに斬り伏せた。
話くらい聞いたれよと一方で思いつつも、我慢できなかった。
「クレア、大丈夫ですか!?」
すぐに踵を返してクレアに近寄る。
そろそろ喋れるようになってきたのか、
「う・・うん・・・」
と、返された。
・・・いやおい格好スゲーエロいな。
ほぼ全裸やんけ。
これはマズイ。
「クレア、これを・・・」
と目線をそらして紳士的に上着を渡す。
クレアは受け取り、その流れで下を見て、赤面した。
「キャー!!!!み・・見ないで・・・」
クレアは慌てて上着を着て、顔を埋めた。
「何、その、・・申し訳ない。」
謝る。
「いや、気にしてないから・・その、た、助けてくれて、ありがとう。」
クレアはこっちを向かずに小さく言った。
「まあ、何もなくて良かったです。」
冷静に答える。
しばしの沈黙が訪れた。
「レックス!見つかったかい?」
静寂を切り裂いたのは、まさかのラシードだった。
空気読めね~、コイツ。
ラシードは中には入ってきて、王女を見つけた。
「いたなら速く帰ろう、ここは敵の陣地のど真ん中だ。」
冷静に言った。
「クレア、もう動けますか?」
一応聞く。
「大丈夫。」
やっぱりこっちを向いてくれない。
レックス、悲しい。
「では、失礼しますね。」
ちょっとびっくりさせてやろうと、急にお姫様抱っこをする。
体がすごい揺れる。
「きゃあ!」
「揺れますのでご注意〜。」
倉庫から飛び出す。
薄暗い街の上を、駆け抜ける。
村の入り口に、来たときとめた馬がいた。
飛び乗って出発し、早々に撤退させてもらう。
クレアは、自分の馬の後ろに乗せた。
「それにしても、ずいぶんあっさりいったね」
活躍の場がなかったラシードは少し退屈そうに言った。
「そうだな。・・村を見て、何か思わなかったか?」
若干気がかりな部分を、ラシードに問いかける。
コイツなら、多分同じ考えだろう。
「明らかに資金が足りていなそうだった。土地が悪いのかな?」
やっぱり気づいていた。
「ああ。とった行動自体はどうかと思うが、資金援助が必要なのは明らかだ。」
「なぜ王は要求はのめないと言ったんだろうね。」
ラシードは考える。
「俺達は明日から、あの村を攻めるかもしれないのか。・・本当に正しいんだろうか。」
ほぼ独り言のようなことを呟いて、お互い黙った。
寒い夜だった。
クレアが不安からか、ずっと俺に強く抱きついていたから暖かかった。
正義感の強い横の男は、寒さの中1人で、何を考えていたのだろう。
どうも、桂移作です。
最近執筆に行き詰まりだして、気分転換に流行りの追放系とかの設定考えたりしています。
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