第10話 感情の力
赤と青が、向かい合った。
お互いに感情の力が覚醒して、他の人間にはもはや近づけない領域になっている。
デッグは空に浮いていて、俺は地上で剣を構える。
先に攻撃を仕掛けたのはデッグだった。
「消えろシュミット家!」
と叫んで手を振り下ろし、空中から無数の岩を落とす。
さらに続けて、
雷を落とし、重力を強くし、炎で囲み、氷で冷やし・・・。
「はぁ・・・はぁ・・。」
魔法の連続使用でデッグの体に疲労がたまる。
「さすがに闘気を纏っているとはいえ、ノーダメージともいかないだろう!」
魔法は直撃していた。
自信を持ってデッグは言い切れる。
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「レックス、大丈夫かしら・・・。」
少し離れたところで心配そうにクレアは見つめていた。
彼が異常な力を放っていたし、デッグもなにかおかしかった。
正直不安なのだ。
しかし最近分かってきたが、彼は意外と色々考えるタイプだ。
考えずに行動するタイプではない。
だから必ずなにか勝算があるはず・・・と頭では分かっている。
今すぐにでも自分も参戦したいが、多分聞いている限り二人は直接的ではなくとも因縁の間柄だ。
見つめるしかできない自分がもどかしかったが、彼ならきっと・・・。
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俺は上にのしかかった岩をどけて、出てくる。
「なぜダメージをくらっていない!」
デッグは叫ぶ。
「たしかに、ノーダメージではなかったね。」
俺は答える。
「最近肩が痛かったから、治ってその分プラスだ。」
ちょっとカッコつけた。
無論実際はくらった。
思ったより。
「こっからは、俺も攻めるぜ。」
宣言して構える。
調子は絶好調。
デッグは近距離攻撃に警戒してか、幾重もの物理シールドをつくる、つくる、・・・つくる。
さすがにやりすぎでは・・・。
落ち着いて力を貯め・・・。
そして、距離を・・・・詰めない。
「なに?」
デッグが驚いている。
集中する。
刀身に、怒りと、闘気と、何もない農村でこそ培われた剣の技術を乗せる。
「秘技、”かまいたち”」
シュッ ザンッ!
斬撃を飛ばした。
これならば物理シールドで防げない。
シールドをすり抜けて太刀筋はデッグに直撃し、血が噴き出した。
「安心しろ、峰打ちだ。」
後ろを向いて、刀を収める。
「いや、結構ザックリ切れてるわよ。」
クレアにつっこまれる。
「まあ、使った剣左右対称だし。」
と、返す。
「それじゃ、ただの斬撃じゃない!」
バレた。
人民軍の奴らはとうに避難してしまったらしく、訓練場にはクレアと呆気にとられたラシードしかいなかった。
お前らの隊長だろうが、暴れたのは。
とりあえず剣をラシードに返さなければと、近づく。
近づく・・・近づけ・・・・ちょっとずつ後ろに下がんのやめい。
「君は、・・・何者なんだ?」
聞かれる。
「俺は・・・お前とキャラ被りしている感じの人間だ。」
シリアスな空気感に耐えられなかった。
普通に。
「はっはっは!確かにな。ならオレも鍛錬すれば、いつかは・・・」
「いつかと言うよりは比較的すぐに俺くらい強くなれると思うぞ、お前は」
率直な感想を述べる。
「そうかい?」
信じられないという顔をする。
「だってお前、剣術を習っていただろう?それも相当なレベルだ。」
「バレたか。隠すつもりもなかったけどね。
オレは、魔法騎士なんだよ。」
聞いたらすんなり答えた。
「だから俺と戦わさせられた訳だ。最悪近距離でも戦えるお前は、俺相手に丁度いい。」
ちょっと納得した。
「けど、君とは2度と戦いたくないよ。」
魔法の残骸達の中で倒れているデッグを見てラシードは言った。
自分でもまさかこれほど力が出るとは思っていなかったので、他人から見たらただのバケモノだろう。
「とりあえず一度、報告のためにお父様に会いに行きましょう。」
クレアが言った。
「ではオレは、軍の高官に事情を伝えてくる。」
ラシードはそのままどっかにいってしまった。
おい、逃げるなよ。
「・・・。」
俺は、デッグが倒れているのを見つめていた。
俺自身がまさかここまでの力を持っていたとは、初めて知った。
”感情の力”の部分もあるだろう。
「先に行ってますよ。」
空気を読んでか、2人が気まずくなってか、クレアは先に訓練場を出た。
男心が分かっててえらいえらい。
後でよしよししてやろう。
しばらく見ていて、そろそろ行こうとしたとき、
「そこにいるのは誰だ・・・?」
とデッグが喋った。
「まだ息があったのか。」
正直死んでると思っていた。
少しムカついた。
「君か。
・・・最後に聞きたいことがある。」
「・・なんだ?」
淡白に聞く。
「わしは、どうするのが正解だったのだろう。一族の期待の中、母上の期待の中、貴族としての誇りを護ろうとして、しまいに人殺しまでやった人生ははたして正しかったのだろうか・・。
必要以上に長く生きながらえて、いつしか誇りすら失い、恨みに振り回されるようになって・・・。何が、間違いだったのだろう・・・。」
予想外なことを聞かれた。
彼は多分どこかで、強すぎる感情の力が自我を作り変えてしまったのだろう。
死の間際に、デッグはもとの彼に戻っているように見える。
「いいや、それがお前の正しい生き方だ。実際にお前は、利用目的は他にあったかもしれないが、人民軍をここまで発展させた。魔法部隊をつくりあげた。プラスとマイナスがちょうど0くらいだ。ちょうど0なら、良い方さ。」
深いんだか深くないんだか分からない言葉を投げかけてしまった。
いやだって、意外と死なないから怖いんだよ~~。
どーすんの、突然立ち上がったりしたら。
「ハッ!そうだな。」
デッグの目が遠目でもぼんやりしてきたのが分かる。
「・・・受けてみてやはり、剣術は田舎に勝てない。シュミット家に勝てない。
かまいたち、か。君の先代も同じ技を使ったよ。
私を殺したのが、君で、シュミット家の人間で、良かった・・・。」
呼吸が薄くなっていく。
「次の総大将は、ラシードにしてくれ・・・。彼は、・・変な偏見を持ち合わせていない彼なら、自分にできなかったことをしてくれる・・・。」
今のは、いわゆる遺言というやつだろうか。
「了解した。」
遺言は、叶えてやるべきだ。
(母上、今まいります・・・。厳しかったアナタはきっと怒るでしょうが、私は最後の最後に下級貴族を、シュミット家を、認められましたよーーーー)
デッグは、死んだ。
頬が、少し緩んでいた。
どうも、昨日”まだ頑張る”といっておきながら、書き終わらずに結局今日更新になってしまった桂移作です。
申し訳ないです。
その分というか、終わらなかった原因というか、少し長めになっています。
書き貯めてれば良いのに・・・。